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第六章
授爵式の時(その2)
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王宮に入った僕は、右手と右足が同時に前に出てしまうくらい緊張していた。
このような晴れ舞台、生まれて初めてだから。
もちろん、士爵位の僕はおまけであり、もっと上の爵位を授与されたり、陞爵なさる方がメインの叙勲式なのは理解している。
「タイコーン辺境伯とリーゼ様、こちらへどうぞ」
「ロックハンス様はこちらにどうぞ」
どうやら叙勲式に出る僕と、参列者として並ぶリーゼさん、タイコーン辺境伯は別の場所に行くらしい。
リーゼさんたちと別れ、侍女さんに案内されて廊下を進む。
「ロックハンス様はこちらの部屋でお待ちください。何かございましたら、遠慮なくお申し付けください」
授爵式前は、授爵する貴族も陞爵する貴族も爵位で呼ばないのが慣例となっているらしい。
別に気にしないので、「わかりました」と返事をする。
通されたのは工房の客間くらいの広さの半分くらいの小さな部屋だった。
椅子も一脚しかないし、おそらく僕専用の個室なのだろう。
緊張で少し喉が渇いてきた。
飲み物の用意もしてあるそうだけれど、授爵式の時にトイレに行きたくなったら困るので遠慮することにする。
部屋に入って何分経っただろうか?
時間が経つのが遅い。
このまま待ち続けていたら、心臓がどうにかなってしまいそうだ。
「ロックハンス様、緊張しているのでしたら、少し雑談でもして気を紛らわしませんか?」
「え? いいんですか?」
「はい。お客様を退屈させないのも侍女の役目ですから」
「申し訳ないのですが、お願いします――」
「では、ロックハンス様は敬愛する殿方から、呼び捨てされたいですか? それともちゃん付けで呼ばれたいですか?」
え? なに、その二択。
敬愛する殿方って、えっと、尊敬する男性からってことかな? ゴルノヴァさんのような?
ちゃん付けって、貴族の間ではそれが普通なのだろうか? 貴族に一番近いミミコさんも僕のことをちゃん付けで呼んでるし。
でも、ゴルノヴァさんからはいつも通り呼ばれたいな。
「呼び捨ての方がいいです」
「――えっ!?」
何故か侍女さんはとても驚いた顔をした。
変なことを言ったかな?
「そうですか……クル……ロックハンス士爵は呼び捨ての方が好きと……では、デートに行くなら静かな湖畔と、おしゃれなカフェ、どちらがいいですか?」
「デートですか!? えっと……おしゃれなカフェ……かな」
湖の側って魔物が出る場所も多いから、デートにはあんまり行きたくない。
僕がもっと強くなれば別なんだろうけど。
「なるほど、そうですか。これは少し変更を加える必要がありますね……同志と情報を共有しなくては」
「同志ってなんですか?」
「いえ、こちらのことです」
あ、そうだ、こういう質問って、相手にも同じ質問をして会話を繋げないといけないよね。
「侍女さんは、デートに行くときはどっちの方がいいですか?」
「私のことはどうでもいいです」
話が全く繋がらなかった。
「では、クル……ロックハンス士爵が好きな――」
その後、雑談という名の聞き取り調査は続き、
「ロックハンス士爵、準備が整ったようです」
気付けば時間になっていた。
あっという間に三十分が経過していたようだ。
その間、ずっと質問攻めにあっていたので、緊張する暇もなかった。
凄い、これがプロの接客なんだと感心させられた。
そして、僕は玉座の間へと案内される。
巨大なシャンデリアが吊るされている天井には星空が描かれ、床には草花の模様が施されている。
壁や柱には純金のメッキが貼られ、豪奢で厳かな雰囲気を作り出していた。
そして、大きな玉座は人だが、座るには高すぎる。
元々、天から降りてきた初代の国王陛下が降り立ち、座った椅子というイメージで設計されていて、本当にそこで座って何かをするというものではないそうだ。
従来の陛下の謁見や執務は別の部屋で行われるそうだから、この玉座も儀式的な意味合いしかないのだろう。
部屋には、既に見届け人として呼ばれた貴族が集まっていた。
授爵する貴族も、僕が最後らしい。
爵位の上の人から順番に入室したようだ。
後ろの扉が閉じた。
暫くした後、前方横の扉が開き、近衛兵と思われる男の人が部屋に入ってきた。
全員がその方向を見る。
そして、近衛兵に続き、その人は入ってきた。
カルロス・ホムーロス陛下。
それは――タイコーン辺境伯以上にやつれた表情のやせ細った男性だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
遅くなってすみません
というのも、勘違いの工房主、本来8巻で終わる予定だったのですが、9巻以降も書いていいことになりまして
その準備に追われておりました
9巻は今年中に出せたらいいなって感じで、完全書き下ろしの内容になります。
コミカライズ31話公開中です、古川先生の描く怒涛のバトル展開は見事です!
ぜひ、読んで「いいね」をよろしくお願いします
このような晴れ舞台、生まれて初めてだから。
もちろん、士爵位の僕はおまけであり、もっと上の爵位を授与されたり、陞爵なさる方がメインの叙勲式なのは理解している。
「タイコーン辺境伯とリーゼ様、こちらへどうぞ」
「ロックハンス様はこちらにどうぞ」
どうやら叙勲式に出る僕と、参列者として並ぶリーゼさん、タイコーン辺境伯は別の場所に行くらしい。
リーゼさんたちと別れ、侍女さんに案内されて廊下を進む。
「ロックハンス様はこちらの部屋でお待ちください。何かございましたら、遠慮なくお申し付けください」
授爵式前は、授爵する貴族も陞爵する貴族も爵位で呼ばないのが慣例となっているらしい。
別に気にしないので、「わかりました」と返事をする。
通されたのは工房の客間くらいの広さの半分くらいの小さな部屋だった。
椅子も一脚しかないし、おそらく僕専用の個室なのだろう。
緊張で少し喉が渇いてきた。
飲み物の用意もしてあるそうだけれど、授爵式の時にトイレに行きたくなったら困るので遠慮することにする。
部屋に入って何分経っただろうか?
時間が経つのが遅い。
このまま待ち続けていたら、心臓がどうにかなってしまいそうだ。
「ロックハンス様、緊張しているのでしたら、少し雑談でもして気を紛らわしませんか?」
「え? いいんですか?」
「はい。お客様を退屈させないのも侍女の役目ですから」
「申し訳ないのですが、お願いします――」
「では、ロックハンス様は敬愛する殿方から、呼び捨てされたいですか? それともちゃん付けで呼ばれたいですか?」
え? なに、その二択。
敬愛する殿方って、えっと、尊敬する男性からってことかな? ゴルノヴァさんのような?
ちゃん付けって、貴族の間ではそれが普通なのだろうか? 貴族に一番近いミミコさんも僕のことをちゃん付けで呼んでるし。
でも、ゴルノヴァさんからはいつも通り呼ばれたいな。
「呼び捨ての方がいいです」
「――えっ!?」
何故か侍女さんはとても驚いた顔をした。
変なことを言ったかな?
「そうですか……クル……ロックハンス士爵は呼び捨ての方が好きと……では、デートに行くなら静かな湖畔と、おしゃれなカフェ、どちらがいいですか?」
「デートですか!? えっと……おしゃれなカフェ……かな」
湖の側って魔物が出る場所も多いから、デートにはあんまり行きたくない。
僕がもっと強くなれば別なんだろうけど。
「なるほど、そうですか。これは少し変更を加える必要がありますね……同志と情報を共有しなくては」
「同志ってなんですか?」
「いえ、こちらのことです」
あ、そうだ、こういう質問って、相手にも同じ質問をして会話を繋げないといけないよね。
「侍女さんは、デートに行くときはどっちの方がいいですか?」
「私のことはどうでもいいです」
話が全く繋がらなかった。
「では、クル……ロックハンス士爵が好きな――」
その後、雑談という名の聞き取り調査は続き、
「ロックハンス士爵、準備が整ったようです」
気付けば時間になっていた。
あっという間に三十分が経過していたようだ。
その間、ずっと質問攻めにあっていたので、緊張する暇もなかった。
凄い、これがプロの接客なんだと感心させられた。
そして、僕は玉座の間へと案内される。
巨大なシャンデリアが吊るされている天井には星空が描かれ、床には草花の模様が施されている。
壁や柱には純金のメッキが貼られ、豪奢で厳かな雰囲気を作り出していた。
そして、大きな玉座は人だが、座るには高すぎる。
元々、天から降りてきた初代の国王陛下が降り立ち、座った椅子というイメージで設計されていて、本当にそこで座って何かをするというものではないそうだ。
従来の陛下の謁見や執務は別の部屋で行われるそうだから、この玉座も儀式的な意味合いしかないのだろう。
部屋には、既に見届け人として呼ばれた貴族が集まっていた。
授爵する貴族も、僕が最後らしい。
爵位の上の人から順番に入室したようだ。
後ろの扉が閉じた。
暫くした後、前方横の扉が開き、近衛兵と思われる男の人が部屋に入ってきた。
全員がその方向を見る。
そして、近衛兵に続き、その人は入ってきた。
カルロス・ホムーロス陛下。
それは――タイコーン辺境伯以上にやつれた表情のやせ細った男性だった。
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遅くなってすみません
というのも、勘違いの工房主、本来8巻で終わる予定だったのですが、9巻以降も書いていいことになりまして
その準備に追われておりました
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