勘違いの工房主~英雄パーティの元雑用係が、実は戦闘以外がSSSランクだったというよくある話~

時野洋輔

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8巻

8-3

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 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「……ミスリルゴーレムねぇ」

 リーゼからの依頼で、私とクルトはミスリルゴーレムが現れたという洞窟へと向かっていた。
 なんでも、騎士の一人がたまたま洞窟を発見し、中を調べたところミスリルゴーレムが現れたのだとか。
 シーン山脈は、ファントムたちが徹底的に調査をした過去があるが、その時はそんな洞窟があるという報告が上がっていない。
 おそらく、ハスト村と同じように、結界で隠されていたのだろう。

「なんだか、リーゼのやつにいいように利用されているような気がするよ」

 そう言って私はため息をついた。

「そんなことありませんよ。そもそも、依頼主はミミコさんですし、そのミミコさんだって、僕たちを信用してくれているんですから! 一緒に頑張りましょう。ユーリシアさん……じゃなくて、ユーナさん!」

 クルトが私の名前を呼び間違えたことに気付いて、すぐに訂正してくれた。
 どちらかといえば、ユーリシアの名前で呼んでほしいんだけど、さすがにそれは紛らわしいか。
 私は、本物のユーリシアではない。その魂の複製品が、メイドゴーレムであるエレナの肉体に入っているだけの存在なのだから。
 本当は、魔神王の戦いの後、私は魂の記憶を封印してもらう予定だったのだが、本物のユーリシアから反対された。

『いや、まぁクルトの護衛はこの先もっと必要になるだろうし、あんたが私だって言うのなら、これほど安心できる相手もいないからな。これからも頼むよ』

 それで結局、こうして記憶を保持し続けることになった。
 アクリにいまだに懐いてもらえないのはこたえるが……まぁ、アクリは魂の気配というものがわかるらしいからな。
 ユーリシアの魂を持つ、しかし見た目が違う人を気持ち悪く思うのは仕方がないだろう。

「それにしても、野生のミスリルゴーレムって珍しいですね」

 クルトはツルハシを構えてそう言った。


 ミスリルゴーレムという脅威度Sランクの魔物――クルトが尊敬してやまない「ほのお竜牙りゅうが」が倒した最高脅威の魔物、フェンリルにも匹敵する魔物を相手に、かなり余裕の表情だ。
 それも無理はない。
 なにしろこいつにとって、今回の仕事は――

「ミスリルゴーレムのなんて久しぶりです」

 魔物退治じゃないんだよなぁ。
 クルトにとって、ゴーレム討伐は、戦闘ではなく採掘なのだ。
 実際、こいつはアイアンドラゴンゴーレムという強敵をいとも簡単に倒した過去がある。
 戦闘が苦手と言っているのに、なぜかゴーレムやトレントを相手にする時は無敵の力を発揮する。

「ていうか、お前、ミスリルゴーレムをたい……採掘したことがあるのか?」
「はい。うちの村の近所だと、野生のミスリルゴーレムとかアダマンタイトゴーレムとかヒヒイロカネゴーレムとかよく見かけましたから。さすがにオリハルコンゴーレムは滅多に見ませんでしたが」

 どんな魔窟まくつだよ――いや、確かに千二百年前に会ったハスト村の住民全員、ミスリルゴーレム以上の化け物だったけれど。

「うわっ!」

 すると突然、後ろを歩いていたクルトが声を上げた。
 敵かっ!? と振り返ると、クルトの足にスライムが纏わりついていた。

「クルト……自分でやってみるか?」
「ちょ……挑戦してみます」
「気を付けろよな」

 私はそう言ってクルトの様子を見た。
 ツルハシは危ないから、短剣で倒すようにとツルハシは取り上げておく。
 そして、クルトは愛用の短剣で――自分の足を突いた。
 本当に、こいつは成長しているようで成長していないな。
 確か、前にも似たようなことをしていたって、シーナから聞いた気がする。

「ほら、私が退治してやるよ」
「うぅ、ごめんなさい」

 そう言って私はクルトから短剣を借りようかと思ったが、なんか面倒になったので、目から破壊光線(威力九割九分減)を出した。
 クルトに纏わりついていたスライムの核は一瞬にして蒸発した。
 目から光線、手首から火炎放射器、そして衣服は丈夫なメイド服。

「……私も本当に人間やめてるな……いや、この体は最初から人間じゃないんだが」

 私はため息をついた。
 ちなみに、クルトの足の怪我は、薬草汁を飲んで一瞬で治っていた。


 山の中腹を歩き、リーゼから聞いた洞窟の前に辿たどり着く。
 入り口の前を見張るように、ミスリルゴーレムが巡回していた。

「やっぱり守護者か。まぁ、完全に野生の魔物に比べたらマシだがな」

 野生の魔物は、自分が危ないと思えば逃げ出すことがあるが、守護者と呼ばれる魔物は、死んでもその場所を守ろうとする。
 大きさは二メートル半と、ゴーレムとしては平均的だ。
 さしずめ、この洞窟を発見した騎士が中に入ったことで起動したってところか。
 それにしても、数が多いな。聞いていた話の三倍はいる。
 こんなの、Sランク冒険者パーティでも――

「じゃあ、採掘してきますね」

 クルトはそう言うと――姿を消した。
 そう思いきや、いつの間にかミスリルゴーレムの懐に入り込んでいて、脚の付け根をツルハシで切り落としていた。
 なんだ、今の動き――録画していた記録を確認して解析かいせきする。
 しかし改めて見てみても、決して速くはない。
 いつものクルトの動きなんだが……動きが最適すぎるのだ。まるでゴーレムの動きを先読みしているかのようで、最低限の動きでゴーレムを倒していやがる。
 こんなの見せられたら、シーナがトラウマを抱えるのも無理ないな。
 そう思っている間に、クルトが次のミスリルゴーレムを倒していた。
 本当に手際が良すぎる。
 ゴーレム相手だと無敵なんだよな、こいつは。
 そこで、ふと気になった。
 私は、現在、ゴーレムである。果たして、クルトは私も採掘できるのだろうか?
 ……自分で考えて悲しくなった。
 採掘はダメだな、うん。

「ユーナさん、ミスリルゴーレムの採掘が終わりました。どうしましょう? これで足りないなら、地下で集めてきますよ」
「いや、これで十分だ」

 そう言って、私はバラバラになったミスリルゴーレムを縄で結んで持ち上げる。
 今の私なら、五百キロくらいのミスリルゴーレムを持ち上げることも容易たやすい。
 そして、横ではクルトも三百キロくらいのミスリルゴーレムを持ち上げていた。
 あの女の子のような細い体で、なんであんなに持ち上げられるのだろうか? と考えるが、私のゴーレム性能の洞察眼でも、そのなぞは解けない。
 いや、むしろ、あれだけの力があって、なぜ戦闘力が皆無なのか?
 それがわからない。
 きっと、この世界を管理してるとかいう大賢者か、クルトの前のパーティの一員で大賢者の弟子であるバンダナあたりは、その秘密を知っているんだろうな。

「なぁ、クルト。もしも私が暴走してしまった時、私の動きを止めることはできるのか?」
「え? あぁ、どうなんでしょうか。エレナたんの時でしたら、その動きを僕が設定したので簡単に攻撃を避けることができましたけれど、今は違いますからね。やってみないとわかりません」

 やってみないとわからない……ね。
 勝てないとは言わないのか。
 私はミスリルゴーレムをその場に下ろした。

「よし、クルト。ちょっと試してみるか……」

 私はそう言うと、メイド服のスカーフを外して、腕に巻いた。
 そして、腰に差していた刀を、さやに納めたまま構える。
 クルトが作ってくれた愛刀、雪華せっかほどではないが一級品の刀なので、手には馴染んでいる。

「クルト、模擬戦をするぞ。お前が私のスカーフを切ったら勝ちでどうだ?」
「わかりました。胸を借りるつもりで頑張ります」

 クルトはそう言って、ミスリルゴーレムを下ろす。

「あぁ。といっても、私の胸も作りものだけどな」

 本物より少しだけ大きく、本物より少しだけ張りのある胸を触って私は言った。
 ……ってあれ? 私を作ったのはクルトとウラノ君なんだよな?
 ってことはあれか?
 私の胸とか全部知り尽くしてるってことかっ!?
 クルトに裸を見られたことは何度かあるが、それとは比べものにならないくらい恥ずかしいぞ。

「では、行きますよ」
「え? なにが?」

 私が一瞬ほうけている間に、クルトがツルハシを持って迫ってきた。
 ったく、私はこんな時に何を考えているんだ。
 とりあえず後ろに跳んだ――が、クルトはさらに強く踏み込み、私との距離を詰め、ツルハシを振るってくる。
 自分の技量に自信があるのか、私が相手だから怪我をさせる心配がないと思っているのか、先ほどスライム相手に短剣を振り下ろした時と違い、躊躇ちゅうちょというものが全く見られない。
 やばいっ!?
 気付いた時、私に傷一つつけることなく、腕に巻かれていたスカーフは綺麗きれいに真っ二つになっていたのだった。
 嘘だろ、この私がこんなに簡単に?
 自分が天才だなんて思ったことはない。ローレッタ姉さんという目に見えた天才が傍にいたこともあり、クルトほどではないが、自分への評価は高くない。
 それでも、元王家直属冒険者としての自負はある。それに、ゴーレムの身体を手に入れたことにより、私の実力はもはや人類最高峰(人類じゃないけど)のレベルになっている……と思っていた。
 いくら最初の油断があったとはいえ、そんな私が、こうもあっさりと負けるなんて。

「ごめんなさい、ユーナさん。やっぱりその身体だと調子が出ないみたいですね。まぁ、エレナたんは元々ゴブリンにも勝てないメイドゴーレムですし、今回はスカーフを切ればいいっていうだけのハンデ戦ですから」

 クルトはそう言うけど、相手に傷一つつけずにスカーフを切るって、相手を殺すよりも難しいんだが。
 そんなことを考えていると、私がクルトに負けて落ち込んでいると思ったのか、クルトは慌てて取り繕った。

「そ、そうだ! ユーナさんのパーツの一部をオリハルコンにしませんか? 今は装甲部分の大半がミスリルなので、それをオリハルコンに置き換えたら、少しは動きやすくなりますよ」
「オリハルコン……そういや、前にクルトが採取して、結局使ってなかったな。でも、あれだけで足りるのか?」
「全然足りません。それに、あれはミミコさんに売ったものですから、僕が勝手に使えませんし」

 だよな。
 いくらクルトといえど、オリハルコンを増やすことはできない。
 自分の体だからわかるが、クルトの言う通り私の装甲をオリハルコンに作り替えようとすれば、最低でも五十キロくらいは必要になる。
 前回採掘できたのが、せいぜい三百グラムくらいだから全然足りない。
 クルトが本気で一カ月くらい採掘すればようやく集まるんじゃないだろうか?
 さっき話に出たようなオリハルコンゴーレムなるものがいたら、簡単に量をそろえることができるだろうけど、そんな伝説の魔物、簡単に見つかるはずがない。

「でも、さっきの洞窟にオリハルコンゴーレムがいましたから、あれを使いましょう」
「いるのかよっ!」
「いましたよ。今回の仕事はミスリルの採掘ですから放っておきましたが」

 しまった! そりゃそうだ。
 クルトにはミスリルの採掘だって説明したんだから、ミスリルゴーレム以外無視されるわけだ。

「クルト、ちなみに、他にゴーレムは?」
「アダマンタイトゴーレムが五体、ヒヒイロカネゴーレムが十体いましたね」

 なんだよ、その伝説の金属の大売り出しはっ!
 ミスリルゴーレムにしてもそうだが、そんな強力な魔物がこんなにいるなんておかしい。この洞窟の奥に、そこまでして守るなにか貴重なものがあるのか?
 ダメだ、これはきっと私一人で手に負える案件じゃない。
 というか手に負えるとしても負いたくない。

「あぁ……クルト。ちょっと人を連れてくるから、先にそのゴーレムを全部倒し……採掘しておいてもらっていいか?」
「はい、わかりました」

 よし、ミミコを巻き込もう。
 どうせあいつに買い取ってもらわないといけないんだし。
 私はそう決意した。


「いや、無理だからね、ユーナちゃん! 私一人でこれだけの金属買い取るのは。というかそもそも国庫を空にしても無理だから!」

 洞窟にやってきたミミコは、ゴーレムの破片――という名の伝説の金属を見て、そう大声を上げた。

「なら、一部ボンボール工房主アトリエマイスターに買わせるか。あいつ、飛空艇の利権でかなりもうかってるそうだからな」
「その利権収入も、八割はクルトちゃんの隠し口座に振り込まれてるんだけどね」

 これまで、クルトの資産はすべてハロハロワークステーションの口座に入金されていたが、現在は商会の口座に振り込まれている。
 本来、商会の口座を管理するのは商業ギルドなのだけれども、クルトが持っているような大金を預けることができないと言われてしまったのだ。ということで、現在は王族が保有する隠し口座の一部を利用して、そこに入金している。
 国庫を空にするほどの財産があって、王族の口座に振り込まれて、その口座の持ち主がクルト個人だとか、大国を牛耳ぎゅうじっていると思われてもおかしくない話だ。
 ただし、本人はどれだけ資金があるかわかっていない。
 一度、クルトに保有資産の確認をさせたことがあるのだが、結果、自分の才能に気付いてしまい、丸一日意識を失って、さらに資産を確認した記憶がきれいさっぱり無くなっていた。そのせいで、いまやクルトの資産はほぼほぼ手付かずの状態になっている。
 それからひそひそと話し合った結果、この金属類は換金せず、工房の地下二階倉庫に保管することになった。

「あ、ミミコさん。すみません、お手数をおかけして」
「ううん、大丈夫、クルトちゃん。えっと、それがオリハルコンゴーレム? なんか随分物騒に見えるけど」

 オリハルコンゴーレムの巨大な大剣――当然オリハルコン製で、これ一本売れば王宮が建ちそうだ――を見てミミコが言う。

「はい、確かに武装しているゴーレムって珍しいですね。ここでもゴブリン退治の研究をしていたんでしょうか?」
「そうかもしれないね……ところで、これって、やっぱりラプラス文明の遺跡だよね」

 ミミコが周囲を見て言った。
 洞窟の奥に行くと、明らかに人工物の壁や床、扉があり、どこかで見たような古代文字が壁に書かれている。
 まぁ、ゴーレムが大量に発生したということで勘付いていたんだが、やっぱりそうか。
 ラプラス文明――その正体は、禁忌の怪物を生み出してしまい、己の世界を封印するとともに新しくこの世界を生み出した古代人の文明だ。

「きっとそうでしょうね。ヴァルハの西の遺跡や、サマエル市の近くの洞窟の奥と同時期に造られた遺跡とみて間違いないと思います」

 クルトも認めた。
 ただ、一つ気になったことがある。

「クルト、千二百年前のこの場所には洞窟はなかったのか? 村からかなり近いが」
「聞いたことがありません。あ、でも、そういえば、村で作っていた地図に不自然な空白地帯があった記憶があって……たしか、この辺りだったかと」

 いや、気付けよ!
 もしかして、ハスト村の住民が退治したっていうミスリルゴーレムとかオリハルコンゴーレムも、ここのゴーレムじゃないよな?
 しかし、だとしたら、この奥には何があるんだ?
 こんな恐ろしいゴーレムに守られた遺跡、きっと重要なものがあるに違いない……と思うのだが、なんだろう、嫌な予感しかしない。
 扉には小さなのぞあながあったので、私はそこから中を覗き見て――

「なんだ……これは――」

 私は思わず扉を開けて言った。

「え? なにこれ?」

 ミミコが言うのも無理はない。
 クルトが以前、リクルトの町に造った動く大通り――それに似た台の上を、白く丸い球が流れているのだ。その玉は、なにか黒い液体のようなものを吹き付けられて、奥に流れていった。

「ユーナさん、いろんな種類のパンフレットがありますよ」
「パンフレット?」

 クルトが、パンフレットという名の紙束を見つけた。
 少なくとも千二百年以上、まったく風化せずに残っている紙というだけで、ただの紙ではないのは明らかだが、そこには、イラストと古代文字で何か書かれている。
 ただし、やけに子供向けのイラストで。

「一体、何が書いてあるんだ?」
「あ、ユーナさん。これを使ってください」

 クルトがそう言って、魔法晶石をくれた。
 一瞬混乱したが、すぐに私のアップデートツールであることが理解できた。
 何の効果があるかはわからないが、説明を聞くより使った方が早い。
 私は腹の部分を開いて、それを体内に組み込む。

「古代言語認識ツールを認識、アップデートを開始、成功しました」
「ユーナちゃん、どうしたの? 突然変なことを言い出して」

 ミミコが半眼で尋ねた。

「これはシステム言語だ。私の意思じゃない。だが、おかげで古代言語がわかるようになった」

 ゴーレムの身体、めっちゃ便利。
 おかげでパンフレットに何が書いてあるか理解できた。

「ユーナちゃん、何が書いているの?」
「ニコニコ工場見学案内」
「え?」
「ここは、工場と呼ばれる効率的に道具を作るための作業場で、このパンフレットは子供向けの工場案内の資料のようだな」
「子供向け? ここに子供が来てたの?」
「古代文明の時代には、来てたみたいだぞ」

 どうやら、この動く大通りもどきはベルトコンベアと呼ばれるもので、これにより効率的に物を運んでいるらしい。

「それで、ユーナちゃん。ここでは何を作ってるの?」
「ダンジョンコア」
「……え?」
「あの吹きかけている液体は濃縮された特殊な魔素で、何千回と吹きかけることで一つのダンジョンコアを生み出しているみたいだな。今は省エネモード? とかいう状態で動いているから、一個のダンジョンコアを作るのに数百年の時間が必要だけど、全盛期は一日一個のペースで作っていたらしいぞ」

 ご丁寧なことに、パンフレットにはダンジョンコアができるまでの工程が、事細かに記されていた。
 こんなもん、世に出回ったら大変なことになる。

「いや、待ってよ、ユーナちゃん! え? なんでダンジョンコアを――ていうか、ダンジョンコアって人間が造った物だったのっ!?」
「ああ、ミミコはこの世界がどのようにしてできたか、説明されてたよな?」
「うん、別次元にいた古代人が禁忌の怪物から逃げるために造った新しい世界なんだよね」
「そうだ。でも、新しい世界を創るには、いろいろと厄介なことがあったんだ。まず、圧倒的に物資が足りない。古代人は、次元の間のプレートを作るために卑金属ひきんぞくを貴金属に加工して使ってしまって、資源が少なくなったそうだ」
「貴金属に加工って、そんなことできるの?」
「できるみたいだ。本物の錬金術なんて夢物語だと思ってみたんだが……中には海水からオリハルコンを生み出す方法まで研究されていたらしい」
「海水からオリハルコンって、凄いわね。でも、そんな技術があるせいで逆に資源が枯渇こかつしたって、本当に酷いわ……あ、その解決法がダンジョンコアってわけ!?」
「そう。空気中の魔力――魔素を吸収して、物質を作り出すダンジョンコア。資源を生み出すにはこれほど最適なものはないよな?」
「海水からオリハルコンを作るくらいだし、魔素から物質を創り出すことくらいわけない……ってことね。もっとも、その技術が最終的には禁忌の怪物に繋がったのか」

 ミミコはそう言って、ベルトコンベアを流れていく作りかけのダンジョンコアを見た。

「でも、なんでそんなものが現代まで残ってるの? ていうか、なんで工場は稼働停止してないの?」
「さぁな。しかも、魔素から物質を作る技術を、わざわざ魔物を生み出す危険な代物として確立しているのかもわからん」

 きっと、古代人なりの考えがあるんだろうが。
 ん? でも、ダンジョンコアから自由に資源を創り出すなんて、簡単にできるものなのか? 少なくとも、ダンジョンコアは魔物を生み出し、管理できるなら便利な資源だが、下手をすれば脅威となる……というのが人類の共通の認識だ。
 そんなことを考えながら、私たちはダンジョンコアが保管されている部屋へと向かう。
 そこには、五十個くらいのダンジョンコアが保管されていた。
 それを見て、ふとあることに思い至る。
 そうだ、クルト――いや、ハスト村の住民だけは例外だった。
 クルトはダンジョンコアの力を使ってゴーレムを生み出し、一晩で街を完成させた。
 それに、ウラノ君はダンジョンコアそのものを使い、アクリが生まれてくる卵を生み出し、私――じゃなくて、ユーリシアとリーゼを元の時代に送り届けた。
 ハスト村の住民だけは、ダンジョンコアを有効利用できる。

「……ってあれ? クルトは?」

 いつの間にか、クルトがいなくなっていた。

「ユーナさん! ミミコさん! こっちに来てください!」

 クルトの声が聞こえた。
 私たちは保管庫を出て声のした方に向かっていく。
 パンフレットによると、この先は『ノアの箱庭』という名前の部屋のようだが。

「クルト、お前、一体ここで何を……ってこれはなんだっ!?」
「巨大な魔法晶石――って、なにこれ」

 そこに置かれていたのは長さ二メートルくらいある水晶の魔法晶石だったが、特筆するべきはそこではない。

「なんで、こんなものが魔法晶石の中に?」


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