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5巻

5-3

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「あぁ、クルト様、怪我は、怪我はないのですか?」
「はい。大丈夫です……あの、リーゼさん、少し離れてください。苦しいです。あ、スカートの中に手を入れないでください」
「リーゼ様、落ち着いてください。先ほども申し上げたように、クルト様は威圧に当てられて気絶しただけですから、外傷はありません」

 リーゼさんはユライルさんに引きはがされた。
 そうか、リーゼさん、僕が気絶したと聞いて心配していたのか。
 スカートの中に手を入れていたのは、僕がお尻から倒れて気絶したから、あざができていないか触診しょくしんしていたのだろう。

「すみません、心配をおかけしまして。あと、ユライルさん。試合、残念でしたね」
「……はい。抗議はしたのですが、反則負けだと言われました」
「私もなんとか彼女達の参加の継続を望んだのですが、男女ペアでないと試合は続けられないと……ユライルさんが男だったら問題なかったのにと言われました……非常に残念です」

 リーゼさんはそう言って僕の手を取る。
 全然残念そうな顔をしていない気がする――というより喜んでいるように見える。それに、ユライルさんも、試合が負けになっているのに辛そうには見えない。
 きっと、僕の試合に影響が出ないようにという配慮だろう。

「それで、リーゼさん。僕はなにをすればいいのですか? あ、とりあえず紅茶をれましょうか?」
「それはとても魅力的な提案です。泥水にも飽きましたので」
「泥水?」

 この町では泥水を飲む習慣でもあるのだろうか?
 あんまり体にいいイメージはないけれど。

「いえ、なんでもありません。紅茶を淹れていただくのも魅力的で、是非お願いしたいのですが、クルト様をお呼びしたのは仕事ではありません。もっと特別な理由です」

 リーゼさんは急に真剣な目をして、僕に言った。

「クルト様、次の試合、棄権なさってください」


   ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「クルト様、次の試合、棄権なさってください」

 私、リーゼロッテはクルト様を呼び出し、そうお願いをしました。
 懇願こんがんといってもいいお願いです。
 私は、クルト様と戦う可能性がある全ての参加者の試合をこの目で見て、その実力を確かめていました。
 本当ならばクルト様が運び込まれた医務室に、いの一番に駆けつけたかったのをこらえ、試合の観戦をしていたのもそのためです。
 その中でも、次の試合の対戦相手、特にメイド仮面という女は非常に危険です。
 試合中の動きには一切の無駄むだがなく、それでいて気配というものをまるで感じさせない。どれだけ動いても息を乱すどころか、まるで呼吸そのものを必要としていないように見えました。
 普通の人間とは思えません。
 魔族や悪魔が人間に化けていると言われた方がまだ納得できます。
 しかも、拳の一撃による破壊力は、おそらくオークロードどころか、クルト様の斧の一撃を凌駕りょうがするかもしれません。
 前の試合での対戦相手の男性はなんとか一命をとりとめましたが、今も意識を失っているようです。しばらくの間、まともな食事はできないでしょう。
 もしもあの一撃がクルト様に向かっていたらと思うと、私は恐ろしいです。
 ですから、クルト様には棄権を促すことにしたのです。
 しかし――

「すみませんが、それはできません」

 クルト様から出た言葉は、拒否でした。
 それは想定の範囲内です。

「一緒に試合に出るユーラさんのことを思っていらっしゃるのですね。でも、もし、クルト様が男であるとバレた場合、一番迷惑がかかるのはユーラさんですよ? 試合のことなら安心してください。特例ですが、ユーラさんのパートナーとして、ユライルさんが代理で出場できる許可を取りました。ユライルさんはパートナーが性別を偽っていたということで反則負けになりましたが、彼女に落ち度がないことは審判団にも観客にも伝わっています。ユーリさんのことは、ユライルさんに探してもらいましょう。名前も似ていますから、いいパートナーになれますわ」

 話を聞いたところによると、クルト様が試合に参加している理由は、最初はゴルノヴァに似た男を見つけたから。そして現在は、ユーリシアさんを見つけることと、ユーラさんのパートナーであるという責務だけ。
 全てをクリアにした場合、きっとクルト様は大会に出る理由がなくなる。いえ、自分から試合の参加を辞退する。
 そう思っていました。
 しかし、それは間違いでした。

「リーゼさん、僕はきっと我儘わがままなんです」
「我儘……ですか?」

 あまりにもクルト様と縁遠い言葉に、私は思わず鸚鵡おうむがえしで尋ねます。

「はい。リーゼさんの話を聞くと、ユーラさんのために、僕は出場を辞退した方がいいんだと思います。でも、それはしたくないんです」

 クルト様はそう言って拳を握りしめました。

「僕は戦闘では役に立たない。だから大人しくしていよう。いつもそう思っていました。『炎の竜牙』にいた時も、そして『サクラ』のみんなと一緒に冒険した時も。でも、決勝トーナメントに残って一回戦で戦って、二回戦の作戦を考えて、僕は思ったんです。なんの取り柄もない僕だけど、それでも考えることが僕の力になるんじゃないかって。それで、みんなの戦いの役に立てるんじゃないかって。だから、僕は試合に出たいんです。きっと、ここでユライルさんの方が強いからっていう理由で交代したら、きっと僕はなにもできない人間のままだと思うんです」

 そう言うクルト様の目は真剣でした。
 なんの取り柄もない云々うんぬんはこの際聞かなかったことにしますが。

「確かに我儘ですね」
「……やっぱりそうですよね」
「ですが、我儘でいいではありませんか。我儘とは、自分の道を決めて進むことなのですから。頑張ってください、クルト様。もしクルト様が男だとバレても、私が全力でフォローします。その代わり」

 私はクルト様の手をつかんで言います。

「絶対に無茶だけはしないでくださいね」
「はい、精いっぱい頑張ります!」


 クルト様の二回戦が始まるまであと少し。私は貴賓席で、平静を保つのに必死でした。
 あの時のクルト様の目を思い出すだけで、もう顔のニヤケが止まりません。
 まだ、貴賓席からその御姿を確認することはできませんが、今頃は入念な準備をなさっていることでしょう。

「よろしかったのですか? 行かせてしまって」

 ユライルさんが今更のことをおっしゃいました。

「よろしかったかよろしくなかったかで言えば、絶対によろしくありません。しかし、クルト様の男らしいあの目を見れば、私に止めることができるわけがありません」
「外見だけなら姫様以上に女らしかったですけれどね」
「……ユライルさん」
「失礼、言葉が過ぎました。お許しください」

 まったく。
 ユライルさんとカカロアさんが所属するファントムは、第三席宮廷魔術師であるミミコ様直属の諜報ちょうほう部隊です。そのため王家とは独立した組織という名目ではありますけれど、現在は私の護衛として動いているのですから、言動には気を付けていただきませんと。
 もっとも、その程度の些事さじで動く感情など、クルト様との先ほどのやり取りを思い出せば、強風の前のきりのように散ってしまいます。

「ユライルさん、カカロアさん。申し訳ありませんね。わざわざあなた達を失格にしての説得でしたが、無駄に終わってしまいました」

 私が謝罪すると、二人は苦笑して首を横に振りました。
 当然、クルト様は気付いていないでしょうけれど、ユライルさんのパートナー、ココラの正体はカカロアさんであり、彼女の男装を指摘して失格させたのは私です。
 クルト様に、女装の危険性を教えるつもりだったのですが……その必要はなかったようです。
 もっとも、は気付いているのでしょうか?
 女装ではなく、男装の危険性を。
 と、その時、会場の歓声が一際大きくなりました。
 舞台の上に、クルト様と、そのパートナーのユーラさんが上がったのです。
 私はクルト様ではなく、その横にいるユーラさんを見据え呟きました。

「……クルト様に怪我をさせたらタダではすみませんよ、ユーラさん……いいえ――」

 第一試合、クルト様が気を失った後、彼女が抜いた雪華を見てようやく確信が持てました。
 まったく、あの程度の変装、すぐに見破れないとは私もまだまだですね。

「タダではすみませんよ、ユーリさん。本当に」

 私はそう言って、微笑みました。


   ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 舞台に上がった私、ユーリシアの背中を、悪寒が走り抜けた。
 なんだ、今のは?
 対戦相手の出入口からの敵意ではない。
 もっと違う方向から、恐ろしい相手に殺気を向けられた気がする。
 いや、今考えても仕方ないか。
 私は思考を切り替えて、対戦相手であるパープルとメイド仮面が出てくるであろう出入口に目を向ける。
 二回戦は定時より一時間遅れで始まろうとしていた。
 私とクルミのファンは一回戦より増えているようで、ちまたでオタ芸と呼ばれるらしい、妙に統一された動きとともに声援を送ってきていた。
 クルミの奴、相変わらず不安そうにもしているし、緊張もしている。それでも、一回戦の頃に比べると、どこかものが落ちたように見える。
 きっと、さっきの知り合いにいいことを言われたのだろう。
 だからこそ、私は申し訳なく思う。
 もしも私が女だとバレたら、クルミにまで迷惑をかけてしまう。
 彼女のことを思うのなら、ここで棄権した方がいいかもしれない。そう思ってしまった。
 そんな時、私を突き動かすのはあいつの言葉だ。

『――ユーリシアさん』

 無邪気な顔で私の名前を呼ぶクルト――あいつに、これからもそう呼んでほしい。
 クルトの隣で歩いていきたい。
 だから、私はこの試合で負けるわけにはいかない。
 ――なんてな。
 そんなことばかり考えているせいで、目を閉じればクルトの声が聞こえてくるようだ。

「ユーラさん」
「なんだい、クル……ミ」

 危ない危ない、いま、クルミのことをクルトと呼びそうになった。
 クルトと同じ村の出身で、声質や性格がそっくりなクルミがいっつも重なってしまう。
 性別が違うというのに。

「僕、審判さんに事情を説明して、サングラスを渡してきますね」
「あぁ、そうだな」

 今回の試合では、閃光弾――光の爆弾みたいなものを使う。
 殺傷能力はないが、数秒から数十秒、なにも見えなくなってしまう。それを防ぐにはクルミが作ったサングラスを着用する必要がある。
 理想でいえば、相手の視力が戻る前に決着をつけたいが、その時に審判の視力が戻っていないと困る。
 ルールでは、対戦相手が気絶したり場外に落ちたりすれば勝ちになると書かれているが、正確には少し違う。
 対戦相手が気絶、または場外に落ちたことを審判が確認し、私達に勝利判定を下した時に勝ちになるのだ。
 クルミが審判にサングラスを渡しながら、作戦を説明しているようだ。
 審判はクルミの話を素直に聞き、サングラスをかけた。
 審判は太陽を見てから、笑顔でクルミになにか言っている。きっとサングラスの性能を褒めているのだろう。
 クルミが手を叩いてなにか言っている。たぶん、似合っていると褒めているのかな。
 そして、クルミが戻ってきた。

「ちょうど相手も来たようだな」

 舞台の反対側に現れた、仮面を被ったメイドと紫髪の男。
 パープルの方は、気配だけでもそこそこの剣士であることがうかがえる。
 それより、問題はメイド仮面の方だ。
 気配を読むどころか、気配を感じることすら困難なのだ。
 隠形おんぎょうけているのだろう。気配の読み合いを得意とする私にとっては厄介やっかいな相手だと言える。
 本当にクルミの光の爆弾がうまくいくことを願いたい。

「会場の皆様、長らくお待たせしました! 間もなく、二回戦、ユーラ・クルミペア対パープル・メイド仮面ペアの試合をはじめます!」

 審判がそう言うと同時に、私は右手を雪華の柄にかけ、後ろ手でサングラスを持つ。
 クルミも鞄の中に手を入れた。
 観客達から熱気を帯びた歓声が沸き上がる。
 こりゃ、試合が開始直後に終わり、しかもその瞬間が光の爆弾のせいで見えなかったとなれば、ブーイングは免れないだろうな。
 でも、私は観客を楽しませるためではなく、勝つために戦う。
 観客のことまで考えていられない。

「メイド仮面の言う通り、本当に上がってきやがったな。死にたくなければとっとと降参しな、優男やさおとこに嬢ちゃん」

 パープルが挑発するように私達に言う。
 自分達が負けるなんて全く思っていないようだ。
 ていうか、試合開始の合図を待つだけなのに、構えもしないあの男はいったいなんなんだ?
 自分は戦わないつもりなのだろうか?
 まぁ、一対一になれば負けないだろう。今はメイド仮面に注意するんだ。

「試合、開始っ!」

 サングラスをかけた審判がそう言った直後、私もサングラスをかけ、剣を抜いて前に出た。
 直後、光が全てを呑み込んだ。

「ぐあぁぁぁぁっ!」

 パープルの情けない声が聞こえてきた。
 太陽よりも眩しい光で、世界が白く染まる。サングラスをかけていてこれだ。
 光の対策をしていなかった相手は、まともに目を開けていることができないだろう。
 この隙に、一気にメイド仮面を場外に――
 だが、私の思惑に反し、動けないはずのメイド仮面が一気にこちらに詰め寄ってきた。
 嘘だろっ!?
 私の動きを予想して迎え撃ってきたのか?
 私は咄嗟とっさに横に飛ぶ――が、メイド仮面も私の飛んだ方に飛んだ。
 気配を読んでいるのか?
 それとも足音で?
 いや、違う――信じられないことだが、あのメイド仮面、視力を失っていない。
 メイド仮面が拳を振るってきた。
 私は剣で迎え撃つ。
 ……なっ!
 私の剣はメイド仮面の拳を弾き返した。
 ――そう、んだ。
 斬れなかった。
 無意識に手加減していたわけではない。
 いや、手加減していたとしても、斬れないわけがない。
 メイド仮面の拳が、雪華と互角の強度ってどういうことだ?
 光の爆弾が通用せず、剣でも斬れない。
 そんな人間が本当にいるのか?



   ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 ユーラさんとメイド仮面さんの戦いが激化している。
 なぜか、メイド仮面さんは閃光弾にも耐えたようだ。
 僕、クルトの渾身こんしんの作戦は失敗した。

「……あ」

 僕はあることを思い出した。
 このままでは大変だ!
 僕は急いで、パープルさんのところへ走った。
 パープルさんは目を押さえてうめいている。

「パープルさんっ!」
「その声は、クルかっ! なんでてめぇがここにいやがるっ!」

 パープルさんがそう叫び、剣をぶんぶん振った。
 視力が戻っていないようで、僕に剣が当たることはない。
 間合いにいれば僕には避けることはできなかったけど、今は間合いの外にいて助かった。
 それでも、僕はドキッとした。
 パープルさんが僕の名前を呼んだその声が、まるでゴルノヴァさんが僕の名前を呼ぶ声のようだったから。
 でもそれは、ミのクルだと気付いて納得する。
 って、それどころじゃない。

「パープルさん、よく聞いてください。さっきの凄い光。メイド仮面さんは平気のようだし、離れた観客席の人は大丈夫ですけど、あなたはその影響を強く受けています。このままでは、視力がいちじるしく低下する恐れがあるので、一度目薬をさしてください」
「うるせぇっ! 俺様がこんな目にってるのは全部お前のせいだろうが!」

 確かに、閃光弾を作ったのは僕だ。
 そんな僕の言葉を信用しろっていうのはムシがよすぎる。
 でも、いくら試合に勝つためとはいえ、相手の今後の人生にまで影響が出るようなことをしたくない。
 ユーラさんには、万が一メイド仮面さんを倒せなかった時は、この薬を使うと説明しておいたので、問題ない。
 さらに、その時にユーラさんが言っていた。

『一番の問題は、その薬を使う時、パープルがクルミの言葉を信じてくれるかってところだな』

 その通りだった。
 でも、僕には必死に説得するしかない。

「お願いです! 薬を使ってください」

 僕の必死の説得に、パープルさんはため息をつき、

「……わかったよ。ただし、俺様に近付くな。おい、審判! こいつが俺様に薬を渡そうとしているのだが、それはルール上問題ないのか? ていうか、部外者がこんなところまで来てもいいのかよ」

 パープルさんは審判がいるところとは全く別の方向に向かって叫んだ。

「え? 部外者? はい、ルール上は何も問題ありません」
「ずいぶん甘いルールだな――クル、目薬を投げろ!」

 審判が戸惑いながら答えると、パープルさんはそう言って、左手を上げた。
 どうやらわかってくれたようだ。
 僕は言われたまま、目薬の入ったびんを投げる。


 カランカラン。


 ……目薬はパープルさんの手前に落ちた。

「あぁ、ごめんなさい、ごめんなさい。物を投げるのが苦手で」
「……ったく、お前はいつもそうだ」

 え? いつも?
 よくわからないけれど、パープルさんは諦めたような感じで僕が投げた薬瓶を手探りで手に取ると、瓶のふたをあけて豪快に顔にかけた。ゴルノヴァさんがよくやる目薬の使い方だった。

「……クルの目薬を使うのは久しぶりだな……効果もいつも通り……ん? 給仕?」

 パープルさんが僕を見て怪訝な表情を浮かべた。

「……クルの声だと思ったが、いや、でもこの薬……」

 パープルさんは僕と薬瓶を見た。
 すると、途端に機嫌が悪くなっていった。

「そうか……そういうことかよ、ふざけやがって」

 荒い口調のパープルさんは、剣を抜いて僕に突き付けた。

「最後までふざけたことしやがって。やっぱりお前はここでぶっ殺しておかないといけないようだな」

 よくわからないけれど、パープルさんは本気だ。
 殺すのは反則にもかかわらず、パープルさんは本気で僕を殺そうとしている。
 その迫力に、僕は一歩も動けなくなってしまった。



   ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 なにか弱点はないのか。
 私、ユーリシアはメイド仮面の動きを観察した。
 これだけ激しい死闘を繰り広げていても、メイド仮面の息は全く乱れていない。
 スタミナも私より上に違いない。
 まるでゴーレムとでも戦っているかのようだ。
 ……その時、私の頭の中にある疑念がよぎった。
 それが隙となり、メイド仮面の掌底が私の鳩尾みぞおちに当たった。

「がはっ」

 吐血し、吹き飛ばされてしまう。
 後頭部を守ろうと体をひねって受け身を取ったが、舞台の端まで転がっていく。
 頭から血が流れ、少し冷静になれた。
 無限のスタミナ、気配のない動き、頑丈な体。
 普通の人間ではありえない。
 もう考えるのはやめた。
 あのメイド仮面は普通の人間ではないと断定する。
 そういえば、ゴーレムとの戦い方を、クルトから聞いた覚えがあるな。
 正確には、クルトがシーナに話して、その又聞きだけど。

『アイアンゴーレムの関節とか付け根は、魔力でつながっているだけってことが多いんです。だから、ちょっと短剣を突き入れて魔力の繋がりを絶てば、簡単に破壊できるんですよ』

 短剣を突き入れるだけで魔力の繋がりを絶つ――普通、そんなことはクルトにしかできない。
 しかし、私にはあの技がある。

「一か八か……」

 顔を上げると、メイド仮面が迫ってくるのが見えた。
 ここしかないっ!
 私は起き上がりざまに剣を振った。


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