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幕間話3
閑話 工房の木の実と野菜
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今日もいつもと変わらない一日だ。
この日も、私はクルトと一緒に、工房の果樹園で採れた木の実を運んでいる。
「ありがとうございます、ユーリシアさん。手伝ってもらって」
「いいんだよ。私が行かないと信じてもらえないだろうからさ」
「信じてもらえない?」
「いや、こっちのことだ」
そして、私は衛兵の詰め所に向かった。
ちょうど、アルレイドが新兵たちの訓練をしていた。
先日、リクルドの町ができたとき、この町の衛兵の半分がリクルドに派遣された。その後補充された新兵たちだろう。
「アルレイドさん、こんにちは」
「おぉ、クルトか。お前らは訓練を続けろ!」
アルレイドは新兵たちに素振りを続けるように命じて私たちのところにやってきた。
「今日はどうしたんだ?」
「果樹園で木の実が採れたので持ってきました。皆さんでお召し上がりください」
「おぉ、ありがとう。クルトの果樹園の木の実は美味しいからみんなよろこ……悪い。聞き間違えたようだ。もう一度言ってくれ
「果樹園で木の実が採れたので持ってきました。皆さんでお召し上がりください」
そう言われ、アルレイドは頭を抱えた。
気持ちは私もよくわかる。
そして、アルレイドは確信の一言を放つ。
「いや、これ、木の実じゃないだろ」
「木の実ですよ?」
「じゃあ、これは木に生っていたっていうのか?」
「はい、木に生っていました」
「…………」
アルレイドが無言で私を見てくる。
彼がそうなるのも当然だ。
「悪いけど、クルトの言っていることは本当だよ。よかったら見に来るかい?」
「…………あぁ、そうさせてもらってもいいか? さすがに信じられない」
こうしてアルレイドは畑を見に来ることになった。
三十頭くらいの金色の羊が、クルトが育てていると思われる野菜を食べていた。
「クルト、お前の野菜が食べられているけど、大丈夫か?」
「はい、あれは餌として用意しているものなので大丈夫ですよ」
金色の羊は、「んめー」と美味しそうにニンジンを食べている。
羊毛が金色なのは珍しいが、しかし問題はそこではない。
その金色の羊は、地面から生えていたのだ。
「……なんで地面から羊が生えているんだ?」
「うん、気持ちはわかるが……あれは木の実だよ。現実を認めろ」
先ほど、クルトが運んだ木の実と同じ形をしている。
「バロメッツという名前のな。いや、実在すると言われている伝説の植物なんだよ。最初はでっかいが普通の木の実だったんだけどな。そこから羊の顔が出てきて一斉に鳴きだしたときは、世界の終焉かと思ったよ」
「それは……想像すると怖いな」
かつて単身でオークを二百匹相手に無双したと言われるアルレイドも戦慄した。
生きている羊が生えてくるなんて聞いたことがない。
アルレイドは頭を抱えながら、隣の畑を見た。
「お、こっちはニンジン畑か。これを見ると安心するな。どれ、一本抜かせてもらってもいいか?」
「はい、それではこれをつけてください」
クルトはそう言うと、耳栓をアルレイドに渡した。
何故耳栓? という顔をしているアルレイドだが、ユーリシアが付けるように言ったので、それに応じた。
クルトとユーリシアも耳栓をつける。
「ん? 普通に周りの音は聞こえるんだな?」
「音に込められた魔力を防ぐだけのものみたいだよ」
「なるほど、ただの耳栓ではないんか」
それでも何故耳栓を? と思いながらアルレイドはニンジンと思い込んでいるそれを抜いた。
すると、突然悲鳴が上がった。
アルレイドのものではない――アルレイドの抜いた作物が……だ。
「な、なんだ、これは?」
「マンドレイクだよ。名前くらいは知ってるだろ?」
「確か、山奥にある、引き抜くと悲鳴をあげて、その悲鳴を聞くと死ぬっていう魔物だろ……待て、俺、悲鳴を聞いたぞ!?」
「そのための耳栓だ」
「……なるほど」
「品種改良を施していますから、耳栓無しに聞いても死ぬことはありませんよ。ほら、アルレイドさん、あれを見てください」
クルトが指さした方向では、あの畑を食い荒らしていたバロメッツが倒れていた。
「死んでるのか?」
「寝ているだけです。なんの効果も無いようにしようかと思ったんですけど、そうすると薬にする素材としてはダメみたいで」
「ここで採れたマンドレイクは全部、工房主オフィリア様と第三宮廷魔術師のミミコが買い取ることになってるから、持っていったらダメだぞ」
一本金貨三枚で……とユーリシアは内心で付け加えた。
ちなみに、野生のマンドレイクは一本金貨五十枚で取引されているので、それに比べればかなり割安だ。
クルトが前にマンドレイクを百本収穫して帰ってきたことがあり、それを聞いたオフィリア様が「マンドレイクか。安く手に入るのなら私も使いたいと思っていたから、採取を頼めるだろうか?」と言ったところ、「じゃあ、工房の家庭菜園で育てますよ」と言ってこうなったのだ。
「……ところで、あの若木、動いているみたいだが? まさか、トレントか?」
どうやら、アルレイドの奴。トレントを飼っているくらいでは驚かなくなってきた。
だが、甘い。
「あれは大精霊ドリアード様の挿し木だ。大精霊様本体程の力はないが、中級精霊レベルの力はある。クルトの奴、いつの間にか持って帰ってきていたんだ。いまは庭の管理をしてくれているよ」
「…………もう考えるのを諦めることにした」
そうして、アルレイドは帰っていった。
クルトが差し入れたバロメッツは、カニのような味がしてかなり美味しく、兵士たちからかなり好評だったという。
この日も、私はクルトと一緒に、工房の果樹園で採れた木の実を運んでいる。
「ありがとうございます、ユーリシアさん。手伝ってもらって」
「いいんだよ。私が行かないと信じてもらえないだろうからさ」
「信じてもらえない?」
「いや、こっちのことだ」
そして、私は衛兵の詰め所に向かった。
ちょうど、アルレイドが新兵たちの訓練をしていた。
先日、リクルドの町ができたとき、この町の衛兵の半分がリクルドに派遣された。その後補充された新兵たちだろう。
「アルレイドさん、こんにちは」
「おぉ、クルトか。お前らは訓練を続けろ!」
アルレイドは新兵たちに素振りを続けるように命じて私たちのところにやってきた。
「今日はどうしたんだ?」
「果樹園で木の実が採れたので持ってきました。皆さんでお召し上がりください」
「おぉ、ありがとう。クルトの果樹園の木の実は美味しいからみんなよろこ……悪い。聞き間違えたようだ。もう一度言ってくれ
「果樹園で木の実が採れたので持ってきました。皆さんでお召し上がりください」
そう言われ、アルレイドは頭を抱えた。
気持ちは私もよくわかる。
そして、アルレイドは確信の一言を放つ。
「いや、これ、木の実じゃないだろ」
「木の実ですよ?」
「じゃあ、これは木に生っていたっていうのか?」
「はい、木に生っていました」
「…………」
アルレイドが無言で私を見てくる。
彼がそうなるのも当然だ。
「悪いけど、クルトの言っていることは本当だよ。よかったら見に来るかい?」
「…………あぁ、そうさせてもらってもいいか? さすがに信じられない」
こうしてアルレイドは畑を見に来ることになった。
三十頭くらいの金色の羊が、クルトが育てていると思われる野菜を食べていた。
「クルト、お前の野菜が食べられているけど、大丈夫か?」
「はい、あれは餌として用意しているものなので大丈夫ですよ」
金色の羊は、「んめー」と美味しそうにニンジンを食べている。
羊毛が金色なのは珍しいが、しかし問題はそこではない。
その金色の羊は、地面から生えていたのだ。
「……なんで地面から羊が生えているんだ?」
「うん、気持ちはわかるが……あれは木の実だよ。現実を認めろ」
先ほど、クルトが運んだ木の実と同じ形をしている。
「バロメッツという名前のな。いや、実在すると言われている伝説の植物なんだよ。最初はでっかいが普通の木の実だったんだけどな。そこから羊の顔が出てきて一斉に鳴きだしたときは、世界の終焉かと思ったよ」
「それは……想像すると怖いな」
かつて単身でオークを二百匹相手に無双したと言われるアルレイドも戦慄した。
生きている羊が生えてくるなんて聞いたことがない。
アルレイドは頭を抱えながら、隣の畑を見た。
「お、こっちはニンジン畑か。これを見ると安心するな。どれ、一本抜かせてもらってもいいか?」
「はい、それではこれをつけてください」
クルトはそう言うと、耳栓をアルレイドに渡した。
何故耳栓? という顔をしているアルレイドだが、ユーリシアが付けるように言ったので、それに応じた。
クルトとユーリシアも耳栓をつける。
「ん? 普通に周りの音は聞こえるんだな?」
「音に込められた魔力を防ぐだけのものみたいだよ」
「なるほど、ただの耳栓ではないんか」
それでも何故耳栓を? と思いながらアルレイドはニンジンと思い込んでいるそれを抜いた。
すると、突然悲鳴が上がった。
アルレイドのものではない――アルレイドの抜いた作物が……だ。
「な、なんだ、これは?」
「マンドレイクだよ。名前くらいは知ってるだろ?」
「確か、山奥にある、引き抜くと悲鳴をあげて、その悲鳴を聞くと死ぬっていう魔物だろ……待て、俺、悲鳴を聞いたぞ!?」
「そのための耳栓だ」
「……なるほど」
「品種改良を施していますから、耳栓無しに聞いても死ぬことはありませんよ。ほら、アルレイドさん、あれを見てください」
クルトが指さした方向では、あの畑を食い荒らしていたバロメッツが倒れていた。
「死んでるのか?」
「寝ているだけです。なんの効果も無いようにしようかと思ったんですけど、そうすると薬にする素材としてはダメみたいで」
「ここで採れたマンドレイクは全部、工房主オフィリア様と第三宮廷魔術師のミミコが買い取ることになってるから、持っていったらダメだぞ」
一本金貨三枚で……とユーリシアは内心で付け加えた。
ちなみに、野生のマンドレイクは一本金貨五十枚で取引されているので、それに比べればかなり割安だ。
クルトが前にマンドレイクを百本収穫して帰ってきたことがあり、それを聞いたオフィリア様が「マンドレイクか。安く手に入るのなら私も使いたいと思っていたから、採取を頼めるだろうか?」と言ったところ、「じゃあ、工房の家庭菜園で育てますよ」と言ってこうなったのだ。
「……ところで、あの若木、動いているみたいだが? まさか、トレントか?」
どうやら、アルレイドの奴。トレントを飼っているくらいでは驚かなくなってきた。
だが、甘い。
「あれは大精霊ドリアード様の挿し木だ。大精霊様本体程の力はないが、中級精霊レベルの力はある。クルトの奴、いつの間にか持って帰ってきていたんだ。いまは庭の管理をしてくれているよ」
「…………もう考えるのを諦めることにした」
そうして、アルレイドは帰っていった。
クルトが差し入れたバロメッツは、カニのような味がしてかなり美味しく、兵士たちからかなり好評だったという。
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