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4巻
4-3
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「へぇ、おっちゃん凄い料理人だったんだな。それより、あたしはそろそろお腹空いたんだけど」
「ははは、師匠のご友人でしたら是非召し上がってください。今から料理を作りますね」
そう言って、ゲールハークさんは厨房に行きました。
私もこっそりと、その後ろについていきます。
町の小さな食事屋とは思えないほど、多くの調理器具や古今東西様々な食材が並んでいる厨房の中を見ながら、私はゲールハークさんに声をかけます。
「あの、ゲールハークさん、少々よろしいでしょうか?」
「あい、なんでしょうか? リーゼロッテ王女様」
「――っ!? 気付いていらっしゃったんですか?」
「ええ、客の顔を忘れたことはございませんので」
そう言ってのけるゲールハークさんに対し、きっと今の私は苦虫を噛み潰したような表情になっているのでしょう。
この方は、私が王女だと知っていながら先ほどのような態度を取っていたということです。
まあ、金持ちでも貴族でも関係ないという言葉は事実だということはわかりました。
「あなたはクルト様の料理を召し上がったのですか?」
「ええ、私は以前、『炎の竜牙』のリーダーであるゴルノヴァという男に料理を作ったことがあるのです。その時に言われました。『七つ星の料理人だと聞いていたのに大したことないんだな。こんな料理じゃ、うちの雑用係が作った飯のほうがはるかに美味い』とね。頭に来た私は思わず、『そんなに凄い料理人がいるのなら連れてきてみろ。本当にそいつが作った料理が美味かったら、なんでも言うことを聞いてやる』と返したんです」
そこまで聞けば十分でした。
つまり、ゴルノヴァが連れてきたクルト様の料理を、彼は食べたのでしょう。
続きを聞けばその通りで、負けを認めたゲールハークさんはゴルノヴァにその日の売上金を全部持っていかれたそうです。
「負けてしまって、一カ月悩みましたよ。そして一カ月考えました。それからは、厨房で切磋琢磨する毎日。時折、師匠にアドバイスを貰っては、さらに料理の腕を磨いていました。しかし去年、師匠はホテルを出て行方知れずに。このままでは料理の深淵は見えないと思った私は、旅に出る決意をしたのです。このコスキート諸島は多くの島の文化が入り混じっていますから、まずはここで料理の研究をしていたのですが……そこで師匠に出会えるとは」
彼はそう言うと、野菜の皮を剥き始めました。
「俺の料理がどこまで師匠に認められるか――ははっ、今から考えるだけでもゾクゾクするぜ」
料理を作る彼の背中を見て私は感心しました。
彼は、クルト様の料理を食べ、その凄さを正確に計ることができ、その力を恐れながらも、それでもクルト様に追いつこうと努力をなさっているのですね。
十五分後。
私達はテーブルに並んだ料理を見て、驚愕しました。
「深海魚ガガオの目玉煮込みスープ、ガギラ虫の蒸し焼き、カオール羊の脳ゼリー寄せです。どうぞお召し上がりください」
「これだこれだ! やっぱりこの町に来たら、ここのゲテモノ料理を食べないとな」
美味しそうに食べ始めるチッチを見てから、私はクルト様と目を合わせました。
えっと、無理を言って作ってもらったのに、食べないわけにはいきません……よね。
食べる前ですが、ひとつだけ言えることがあります。
ゲールハークさん、絶対にクルト様に出会って道を踏み外しましたよね。
私はそう思いながら、料理を口に運びました。
結論から言うと、ゲールハークさんが作った料理は見た目に反して、クルト様の料理には及ばないものの美味でした。クルト様の料理の味に慣れた私が美味と評価することは、相当に美味ということです。しかし、美味だからこそ残すことができないというジレンマもあります。
もしも不味ければ、一口食べて遠慮することもできたのでしょうが。
どうして……どうしてあの巨大イモムシにしか見えない、この島に生息するというガギラ虫があそこまでクリーミーなのでしょうか。ガギラ虫だけではありません、魚の目玉のスープ、羊脳ゼリー寄せ、どれも美味でした。
「とても美味しかったです、ゲールハークさん」
クルト様はゲールハークさんの料理をそう評しました。
スープに浮かぶ魚の目玉を食べるまでは躊躇っていたクルト様も、一度食べてからはイモムシまですんなり召し上がっていましたから、お世辞ではなく素直な気持ちなのでしょう。
クルト様が虫を食べる姿は、見ていて面白いものではありませんでしたが。
「師匠にそう言ってもらえて、とても嬉しいです。あの、できれば師匠の料理をまた食べてみたいのですが」
「はい、でも、もう皆さんもお腹いっぱいになりかけていますし、簡単なスープでいいですよね? 厨房をお借りしてもいいですか?」
「もちろんです。では、案内します」
そう言ってクルト様とゲールハークさんは厨房へと向かい、私とチッチの二人きりになりました。
こういう時、会話に困りますね。
しかし、社交界で鍛えた私の話術があれば、彼女から情報を聞き出すことくらい余裕です。
鞘についての情報を聞き出せば、もう彼女は用済み。再びクルト様と二人きりの旅ができることになります。
「あのチッチさん、ひとつお伺いしたいことがあるのですが」
「ん? なんだい、お姫様」
「――っ!?」
今、彼女はなんと言いましたか?
まさか、最初から私の正体を知っていて!?
私は咄嗟に胡蝶を抜いたのですが――
「ああ、待った待った、お姫様の正体を知っていて近付いたわけじゃないよ。さっき厨房で話していただろ? それが聞こえただけさ。あたしは耳がいいんでね……大丈夫、隠してるみたいだし士爵様には言わないよ」
彼女はそう言って、両の耳たぶを掴んでぶらぶらさせました。
かなり距離があったはずですのに、なんという地獄耳でしょうか。
情報を聞き出すどころか、まさかこちらの情報を聞かれているとは、不覚です。
幸い、クルト様には私の正体は話さないという確約は取れましたが。
「……ということは、さっきから店の中を監視している二人は、お姫様の護衛か何かかい?」
「気付いていたのですか?」
「仕事柄、人の視線には敏感なんだよ」
人の視線?
ファントムは諜報活動のプロです。素人とは全く違う視線に、普通の人間が気付くとは思えないのですが。
なるほど、レンジャーとして腕が立つというのは本当だったようですね。
しかし、私が王女だと知られたのは、この際好都合と考えましょう。
「チッチさん、あなたに質問があります。あなたの短剣の鞘、それをどこで手に入れましたか?」
「あぁ、これか」
彼女はテーブルの上に、鞘に納めたままのナイフを置きました。
私が手を伸ばそうとすると、彼女はさっとその鞘をひっこめます。
「秘密だな」
「…………金貨二枚でいかがでしょう?」
先ほど、ゲールハークさんに握らせようとした小銭です。
「話が早いな、姫様。きっとその十倍くらい値段を出せるんだろう」
私はよくそのことに気付きましたね、という顔で笑いましたが、実際はその百倍まで出していいと思っています。
どうやら、お金で解決しそうですね――そう思ったのですが。
「だが、断る」
彼女の答えは私の予想外のものでした。
「なぜだか尋ねてもいいですか?」
「それも秘密だよ」
……はぁ、そう来ましたか。
思っていたより手ごわいですね。
「ちなみに、どちらのほうが答えにくい質問ですか? このくらいは答えていただいてもよろしいですよね」
「そうだな、『なぜ、私が答えられないか』だな」
「わかりました。それでは、これをどうぞ」
私は彼女の前に、金貨十枚を積み上げました。
彼女はそれを見て鼻で笑います。
金貨十枚、普通に働いて稼ごうと思えば、そこらの街の衛兵でも数年かかります。
「安く見られたもんだね。教えて欲しければその二十倍は――」
「いいえ、これは賭け金です」
鼻で笑うチッチの言葉を、私は遮りました。
「賭け金?」
「はい。これからクルト様が作ってくるスープ――そのスープをあなたが完食するかどうかという賭けです。クルト様の料理を一口分以上残せばあなたの勝ち、私が出した金貨は無条件で差し上げましょう。しかし、あなたがクルト様の料理を完食したら、私の勝ち。情報をタダで貰います。それでどうですか?」
「はは、姫様は寄付が趣味なのかな? そんなの賭けになると思って――」
私はさらに金貨十枚を横に置きます。
合計金貨二十枚のベット。
彼女の眼付きが変わりました。
「いったいどんな手を使うんだい? まさか料理に麻薬でも入れるつもりか? 士爵様がそんなことをするとは思えないけど?」
「断りますか?」
「……いいだろ、後悔するんじゃないぞ」
そう言って不敵に笑うチッチ。
はい、これで情報が無料で手に入りました。
だって――
「皆さん、料理ができましたよ」
料理を運んでくるクルト様と、かなり疲れた表情のゲールハークさん。
きっとクルト様の料理の腕を見て、彼は自分の未熟さを本当の意味で悟ったのでしょう。
テーブルの上に並んだのは、クルト様が得意とするコーンスープですね。
「では、いただきましょう、チッチさん」
「ああ、そうさせてもらう……ん? この香りは」
彼女はコーンスープの香りを嗅いだ直後、木の匙を手に取りました。
それからは一瞬でした。
彼女が次にその木の匙を手放した時には、彼女の皿は綺麗に空になっていました。
「……ご馳走さま」
チッチはスープを飲み終え、そう言いました。
私の予想通り、クルト様の料理を残せるわけがありませんでしたね。
私もまた、一口金貨二十枚以上の価値があるであろうそのスープを、惜しげもなく口内に入れました。
「なんだよ、これ。うますぎるとかそういう次元を超えてるだろ。幻覚作用のある薬でも入っているんじゃないかと疑うレベルだぞ。もうないのか? 鍋一杯食べたいよ」
チッチがおかわりを要求したので、クルト様は笑顔で「お世辞でも嬉しいです。ではおかわりを用意しますね」と仰って厨房に行きました。
ゲールハークさんはゲールハークさんで涙を流し、「私は素材にこだわりすぎて、料理人として大事なものを見失っていたのかもしれない」と呻いています。素材にこだわった結果があの料理だったのだとしたら、少々悲しいですね。
「で、チッチさん。約束は覚えていますね」
「ああ、負けたよ。まさか、士爵様の料理がここまでとは思ってもいなかった。で、あたしの剣の鞘をどこから入手したか、どうして教えられないのかって話だったね?」
「はい、そうです。教えてください」
それがわかれば、鞘の入手場所もわかるかもしれないですからね。
彼女は散々舐め尽くした匙を再度舐めて頷きました。
「これは本来、特別な人しか持ったらいけない鞘なのさ。それをあたしが持っているのは許されない……そういうことだよ」
彼女はそれ以上言いませんでした。
なるほど、貰ったのか盗んだのか……まぁ、どちらでもいいでしょう。
「その特別な人っていうのは?」
「『戦巫女』と呼ばれる奴だよ」
『巫女』というのはたしか、教会とは異なる宗教における、修道女のようなものだったと記憶しています。
しかし、『戦』巫女というのはいったい?
戦う修道女ということでしょうか?
修道女が戦うというのは……まぁ、普通のことですよね?
ゾンビやスケルトンといった不死生物が現れた時に修道女は光魔法で戦いますし、メイスを使ってゴブリンなどを殴り倒す修道女もいます。「炎の竜牙」でクルト様と一緒にいたマーレフィスも戦っていたそうです。
戦巫女というのも、そういう類なのでしょうか?
不思議そうにしている私を見て、チッチが補足してくれます。
「精霊を身に宿し、戦うのが戦巫女さ。もっとも、戦巫女はもう数百年とこの世に生まれていないんだけどね。ただ今でも、その戦巫女の子孫が精霊を身に宿すため、このコスキートの島のひとつ、イシセマ島で訓練を続けているらしいよ」
「イシセマ島ですか――」
「ああ、イシセマ島の島主様なら以前、この店に食事に来たことがあるな。美しいが、それ以上にまさに武人という雰囲気も纏っていた」
少し落ち着いたゲールハークさんが話に加わりました。
この人、話を聞いていたんですね。
「武人ですか――修道女はあえてそういう雰囲気を出さない人が多いのですがね」
「ああ、本当に凄い雰囲気だったよ。妙齢の女性なのだが、白い髪がまた綺麗でね」
「白い髪っ!?」
私は思わず声を上げてしまいました。
白髪の妙齢の女性というのは珍しいです。
もしかして、ユーリさんの関係者の方なのではないでしょうか?
「あの、その島主様の年齢はどのくらいでしたか?」
「二十四歳だよ。名前はローレッタ・エレメントさ」
そう答えたのはチッチでした。先ほどまで情報を渋っていた割には、今度はスラスラと……ありがたいですが。
しかし、やはり聞いたことのない名前ですね。
まあ、それも仕方がありません。
コスキートに所属する七島のうち、イシセマ島は唯一、他の島と正式な交易路が結ばれておらず、観光客の立ち入りも許されない、つまりほぼ鎖国されている島なのです。
諸島都市連盟コスキートの他の島主は何人か、王宮に会談にいらした時にお会いしたことがありますが、イシセマの島主に関しては情報がありません。
そもそも島に入るには、特別な手続きが必要で、今回タイコーン辺境伯が用意してくれた各施設の紹介状の中にもイシセマ島に関連するものはありませんでした。
ホムーロス王族の立場を利用しても、そのローレッタ・エレメント様に会うのは難しいかもしれませんね。
「ローレッタ・エレメントに会いたいのかい?」
「ええ。私の王女としての立場を利用すれば――」
「そんなことしなくても、パオス島の武道大会に行けばいいんじゃないか? 武道大会には諸島都市連盟コスキートの全島主が見学に集まるそうだし」
……え?
そういえば、タイコーン辺境伯から、武道大会の招待状を預かっていました。
これは、予想よりも簡単に彼女に接見できそうですね。
「皆さん、スープ作ってきましたよ」
クルト様が、チッチの言う通り鍋いっぱいのスープを持ってきました。
それを美味しそうに食べるチッチですが、しかし、なんでしょう?
あまりにも都合よく話が進みすぎている――そんな気がしてなりません。
鍋いっぱいのコーンスープをチッチが食べている間、これまでわかった話をクルト様に伝えました。
ユーリさんが持っていた鞘は、どうやら戦巫女という修道女のような方が持つものだということ。
さらにその修道女は長らく生まれておらず、子孫がイシセマ島にいること。
そのイシセマ島の島主というのが、ユーリさんと同じ白髪の若い女性であるということ。
そして、その島主――ローレッタ・エレメント様が、今度の武道大会に見学に来ること。
「僕が料理を作っている間に、そこまでわかったんですか!? さすが、リーゼさんです!」
クルト様に褒めていただいたのはとても嬉しいものの、実際、彼女が情報を喋ったのはクルト様の秘密兵器のお陰なのですけれどね。
それを伝えられないもどかしさで、口がむずむずします。
そして、クルト様はいつの間にか用意していた羊皮紙の束をゲールハークさんに渡します。
「ゲールハークさん、よかったらこれ、僕の故郷の料理のレシピです。田舎料理ですけど、このあたりにはない料理なんで、是非どうぞ」
「師匠、よろしいのですか!?」
「ええ。もちろんです」
「ありがとうございます。一生の宝にいたします」
「大袈裟ですよ」
クルト様は笑いますが、ゲールハークさん本人にしてみれば大袈裟でもなんでもないのでしょうね。
きっとあのレシピは、料理人にとって至高の宝といってもいいはずですから。
もっとも、完全にレシピ通りに作っても、クルト様が作った料理と同じものができるとは限りませんが。
なぜなら、クルト様は素材の質に応じて調味料の量や煮込み時間などを僅かに変えていますからね。それを見極めるのはプロでも不可能でしょう。
「ところでリーゼさん。武道大会はいつ頃開かれるのでしょうか?」
「一週間後だそうです。それまでは当初の予定通り、各地の留学先でいろいろな文化を学ぶことにしましょうか――ということで、チッチさん、あなたはもう必要ありませんのでここで別れましょう」
「な、ちょっと待った! もう契約は成立している! きっちりパオス島まで送り届けさせてもらうからな」
「そう言って、あなた、クルト様の料理が食べたいだけでしょ」
「いやいや、それだけじゃないんだよな。実は、パオス島では武道大会の前にいろいろな大会が行われていてね。料理大会や鍛冶大会、芸術大会なんてものもある。士爵様なら、料理大会で優勝できると思うんだよ。出てみないかい?」
ああ、なるほど、そういうことですか。
そういう大会では、必ず一緒にギャンブルが行われています。
これまで料理大会で一切実績のないクルト様に一点賭けし、そのクルト様が優勝すれば莫大なお金が貰えそう……などと考えているのでしょうね。
「僕なんかが優勝できるわけありませんよ」
そのクルト様の言葉は、謙遜ではなく本心からでしょう。
しかし、豚の餌を作ってドラゴンを手懐ける料理の腕があれば、たとえ低品質の食材だけで料理を作っても優勝は目に見えています。
そしてそれは、クルト様に自分の実力を認識させることを意味し、昏倒する未来に繋がります。
当然、却下です。
適当な理由をつけて、チッチとは別行動にしないといけませんね。
「ダメですよ。それにクルト様はこれから、隣のマッカ島の工房の視察があるのです。チッチさんとはここで」
「そうですね――そういうわけですから、チッチさん、やっぱり出場はできません」
クルト様が頭を下げると、チッチは口の周りにいっぱいスープを付けながら、匙を咥えて残念そうにしていました。
店を出て、チッチと別れたところで今後のことについて考えます。
まずは、他の島に渡る手段を考えなければいけません。
一番確実なのは航路ですけれども、やはり時間がかかりますからね。
できることならば、転移石を利用したことのある人を探し、その人と一緒に別の島に渡りたいところです。
諸島都市連盟コスキートには、このバックラス島を含め、計四カ所に転移石が設置されています。しかし転移石での移動には、一度その転移石に触れた人が一緒にいる必要があります。
問題は、転移結晶は高価で持っている人間がとても少なく、そのため、転移石を使ったことがある者も少ないということですが……
まあこのことについては、冒険者ギルドで依頼を出せば問題ありません。高ランク冒険者ならば、転移結晶を持っている人も多いですからね。
ということで、私とクルト様は冒険者ギルドに行き、依頼を出しました。
まぁ、この程度の依頼ならば、今日中に依頼を受けてくれる冒険者が見つかるでしょう。
「リーゼ様、クルト様、依頼していた冒険者が見つかりましたので、第二受付カウンターまでお越しください」
ほら、もう見つかりました。
これであっという間に他の島に移動できます。
「リーゼ様、クルト様、このお方が、この国にある四カ所全ての転移石を使用した経験のある冒険者です」
受付嬢さんが私達に彼女を紹介しました。
――まぁ、そういう予感はしていたんですけどね。
「またよろしくな、二人とも。あ、依頼料は護衛料とは別に貰うからな」
彼女――チッチはそう言って私達に手を差し出したのでした。
「ははは、師匠のご友人でしたら是非召し上がってください。今から料理を作りますね」
そう言って、ゲールハークさんは厨房に行きました。
私もこっそりと、その後ろについていきます。
町の小さな食事屋とは思えないほど、多くの調理器具や古今東西様々な食材が並んでいる厨房の中を見ながら、私はゲールハークさんに声をかけます。
「あの、ゲールハークさん、少々よろしいでしょうか?」
「あい、なんでしょうか? リーゼロッテ王女様」
「――っ!? 気付いていらっしゃったんですか?」
「ええ、客の顔を忘れたことはございませんので」
そう言ってのけるゲールハークさんに対し、きっと今の私は苦虫を噛み潰したような表情になっているのでしょう。
この方は、私が王女だと知っていながら先ほどのような態度を取っていたということです。
まあ、金持ちでも貴族でも関係ないという言葉は事実だということはわかりました。
「あなたはクルト様の料理を召し上がったのですか?」
「ええ、私は以前、『炎の竜牙』のリーダーであるゴルノヴァという男に料理を作ったことがあるのです。その時に言われました。『七つ星の料理人だと聞いていたのに大したことないんだな。こんな料理じゃ、うちの雑用係が作った飯のほうがはるかに美味い』とね。頭に来た私は思わず、『そんなに凄い料理人がいるのなら連れてきてみろ。本当にそいつが作った料理が美味かったら、なんでも言うことを聞いてやる』と返したんです」
そこまで聞けば十分でした。
つまり、ゴルノヴァが連れてきたクルト様の料理を、彼は食べたのでしょう。
続きを聞けばその通りで、負けを認めたゲールハークさんはゴルノヴァにその日の売上金を全部持っていかれたそうです。
「負けてしまって、一カ月悩みましたよ。そして一カ月考えました。それからは、厨房で切磋琢磨する毎日。時折、師匠にアドバイスを貰っては、さらに料理の腕を磨いていました。しかし去年、師匠はホテルを出て行方知れずに。このままでは料理の深淵は見えないと思った私は、旅に出る決意をしたのです。このコスキート諸島は多くの島の文化が入り混じっていますから、まずはここで料理の研究をしていたのですが……そこで師匠に出会えるとは」
彼はそう言うと、野菜の皮を剥き始めました。
「俺の料理がどこまで師匠に認められるか――ははっ、今から考えるだけでもゾクゾクするぜ」
料理を作る彼の背中を見て私は感心しました。
彼は、クルト様の料理を食べ、その凄さを正確に計ることができ、その力を恐れながらも、それでもクルト様に追いつこうと努力をなさっているのですね。
十五分後。
私達はテーブルに並んだ料理を見て、驚愕しました。
「深海魚ガガオの目玉煮込みスープ、ガギラ虫の蒸し焼き、カオール羊の脳ゼリー寄せです。どうぞお召し上がりください」
「これだこれだ! やっぱりこの町に来たら、ここのゲテモノ料理を食べないとな」
美味しそうに食べ始めるチッチを見てから、私はクルト様と目を合わせました。
えっと、無理を言って作ってもらったのに、食べないわけにはいきません……よね。
食べる前ですが、ひとつだけ言えることがあります。
ゲールハークさん、絶対にクルト様に出会って道を踏み外しましたよね。
私はそう思いながら、料理を口に運びました。
結論から言うと、ゲールハークさんが作った料理は見た目に反して、クルト様の料理には及ばないものの美味でした。クルト様の料理の味に慣れた私が美味と評価することは、相当に美味ということです。しかし、美味だからこそ残すことができないというジレンマもあります。
もしも不味ければ、一口食べて遠慮することもできたのでしょうが。
どうして……どうしてあの巨大イモムシにしか見えない、この島に生息するというガギラ虫があそこまでクリーミーなのでしょうか。ガギラ虫だけではありません、魚の目玉のスープ、羊脳ゼリー寄せ、どれも美味でした。
「とても美味しかったです、ゲールハークさん」
クルト様はゲールハークさんの料理をそう評しました。
スープに浮かぶ魚の目玉を食べるまでは躊躇っていたクルト様も、一度食べてからはイモムシまですんなり召し上がっていましたから、お世辞ではなく素直な気持ちなのでしょう。
クルト様が虫を食べる姿は、見ていて面白いものではありませんでしたが。
「師匠にそう言ってもらえて、とても嬉しいです。あの、できれば師匠の料理をまた食べてみたいのですが」
「はい、でも、もう皆さんもお腹いっぱいになりかけていますし、簡単なスープでいいですよね? 厨房をお借りしてもいいですか?」
「もちろんです。では、案内します」
そう言ってクルト様とゲールハークさんは厨房へと向かい、私とチッチの二人きりになりました。
こういう時、会話に困りますね。
しかし、社交界で鍛えた私の話術があれば、彼女から情報を聞き出すことくらい余裕です。
鞘についての情報を聞き出せば、もう彼女は用済み。再びクルト様と二人きりの旅ができることになります。
「あのチッチさん、ひとつお伺いしたいことがあるのですが」
「ん? なんだい、お姫様」
「――っ!?」
今、彼女はなんと言いましたか?
まさか、最初から私の正体を知っていて!?
私は咄嗟に胡蝶を抜いたのですが――
「ああ、待った待った、お姫様の正体を知っていて近付いたわけじゃないよ。さっき厨房で話していただろ? それが聞こえただけさ。あたしは耳がいいんでね……大丈夫、隠してるみたいだし士爵様には言わないよ」
彼女はそう言って、両の耳たぶを掴んでぶらぶらさせました。
かなり距離があったはずですのに、なんという地獄耳でしょうか。
情報を聞き出すどころか、まさかこちらの情報を聞かれているとは、不覚です。
幸い、クルト様には私の正体は話さないという確約は取れましたが。
「……ということは、さっきから店の中を監視している二人は、お姫様の護衛か何かかい?」
「気付いていたのですか?」
「仕事柄、人の視線には敏感なんだよ」
人の視線?
ファントムは諜報活動のプロです。素人とは全く違う視線に、普通の人間が気付くとは思えないのですが。
なるほど、レンジャーとして腕が立つというのは本当だったようですね。
しかし、私が王女だと知られたのは、この際好都合と考えましょう。
「チッチさん、あなたに質問があります。あなたの短剣の鞘、それをどこで手に入れましたか?」
「あぁ、これか」
彼女はテーブルの上に、鞘に納めたままのナイフを置きました。
私が手を伸ばそうとすると、彼女はさっとその鞘をひっこめます。
「秘密だな」
「…………金貨二枚でいかがでしょう?」
先ほど、ゲールハークさんに握らせようとした小銭です。
「話が早いな、姫様。きっとその十倍くらい値段を出せるんだろう」
私はよくそのことに気付きましたね、という顔で笑いましたが、実際はその百倍まで出していいと思っています。
どうやら、お金で解決しそうですね――そう思ったのですが。
「だが、断る」
彼女の答えは私の予想外のものでした。
「なぜだか尋ねてもいいですか?」
「それも秘密だよ」
……はぁ、そう来ましたか。
思っていたより手ごわいですね。
「ちなみに、どちらのほうが答えにくい質問ですか? このくらいは答えていただいてもよろしいですよね」
「そうだな、『なぜ、私が答えられないか』だな」
「わかりました。それでは、これをどうぞ」
私は彼女の前に、金貨十枚を積み上げました。
彼女はそれを見て鼻で笑います。
金貨十枚、普通に働いて稼ごうと思えば、そこらの街の衛兵でも数年かかります。
「安く見られたもんだね。教えて欲しければその二十倍は――」
「いいえ、これは賭け金です」
鼻で笑うチッチの言葉を、私は遮りました。
「賭け金?」
「はい。これからクルト様が作ってくるスープ――そのスープをあなたが完食するかどうかという賭けです。クルト様の料理を一口分以上残せばあなたの勝ち、私が出した金貨は無条件で差し上げましょう。しかし、あなたがクルト様の料理を完食したら、私の勝ち。情報をタダで貰います。それでどうですか?」
「はは、姫様は寄付が趣味なのかな? そんなの賭けになると思って――」
私はさらに金貨十枚を横に置きます。
合計金貨二十枚のベット。
彼女の眼付きが変わりました。
「いったいどんな手を使うんだい? まさか料理に麻薬でも入れるつもりか? 士爵様がそんなことをするとは思えないけど?」
「断りますか?」
「……いいだろ、後悔するんじゃないぞ」
そう言って不敵に笑うチッチ。
はい、これで情報が無料で手に入りました。
だって――
「皆さん、料理ができましたよ」
料理を運んでくるクルト様と、かなり疲れた表情のゲールハークさん。
きっとクルト様の料理の腕を見て、彼は自分の未熟さを本当の意味で悟ったのでしょう。
テーブルの上に並んだのは、クルト様が得意とするコーンスープですね。
「では、いただきましょう、チッチさん」
「ああ、そうさせてもらう……ん? この香りは」
彼女はコーンスープの香りを嗅いだ直後、木の匙を手に取りました。
それからは一瞬でした。
彼女が次にその木の匙を手放した時には、彼女の皿は綺麗に空になっていました。
「……ご馳走さま」
チッチはスープを飲み終え、そう言いました。
私の予想通り、クルト様の料理を残せるわけがありませんでしたね。
私もまた、一口金貨二十枚以上の価値があるであろうそのスープを、惜しげもなく口内に入れました。
「なんだよ、これ。うますぎるとかそういう次元を超えてるだろ。幻覚作用のある薬でも入っているんじゃないかと疑うレベルだぞ。もうないのか? 鍋一杯食べたいよ」
チッチがおかわりを要求したので、クルト様は笑顔で「お世辞でも嬉しいです。ではおかわりを用意しますね」と仰って厨房に行きました。
ゲールハークさんはゲールハークさんで涙を流し、「私は素材にこだわりすぎて、料理人として大事なものを見失っていたのかもしれない」と呻いています。素材にこだわった結果があの料理だったのだとしたら、少々悲しいですね。
「で、チッチさん。約束は覚えていますね」
「ああ、負けたよ。まさか、士爵様の料理がここまでとは思ってもいなかった。で、あたしの剣の鞘をどこから入手したか、どうして教えられないのかって話だったね?」
「はい、そうです。教えてください」
それがわかれば、鞘の入手場所もわかるかもしれないですからね。
彼女は散々舐め尽くした匙を再度舐めて頷きました。
「これは本来、特別な人しか持ったらいけない鞘なのさ。それをあたしが持っているのは許されない……そういうことだよ」
彼女はそれ以上言いませんでした。
なるほど、貰ったのか盗んだのか……まぁ、どちらでもいいでしょう。
「その特別な人っていうのは?」
「『戦巫女』と呼ばれる奴だよ」
『巫女』というのはたしか、教会とは異なる宗教における、修道女のようなものだったと記憶しています。
しかし、『戦』巫女というのはいったい?
戦う修道女ということでしょうか?
修道女が戦うというのは……まぁ、普通のことですよね?
ゾンビやスケルトンといった不死生物が現れた時に修道女は光魔法で戦いますし、メイスを使ってゴブリンなどを殴り倒す修道女もいます。「炎の竜牙」でクルト様と一緒にいたマーレフィスも戦っていたそうです。
戦巫女というのも、そういう類なのでしょうか?
不思議そうにしている私を見て、チッチが補足してくれます。
「精霊を身に宿し、戦うのが戦巫女さ。もっとも、戦巫女はもう数百年とこの世に生まれていないんだけどね。ただ今でも、その戦巫女の子孫が精霊を身に宿すため、このコスキートの島のひとつ、イシセマ島で訓練を続けているらしいよ」
「イシセマ島ですか――」
「ああ、イシセマ島の島主様なら以前、この店に食事に来たことがあるな。美しいが、それ以上にまさに武人という雰囲気も纏っていた」
少し落ち着いたゲールハークさんが話に加わりました。
この人、話を聞いていたんですね。
「武人ですか――修道女はあえてそういう雰囲気を出さない人が多いのですがね」
「ああ、本当に凄い雰囲気だったよ。妙齢の女性なのだが、白い髪がまた綺麗でね」
「白い髪っ!?」
私は思わず声を上げてしまいました。
白髪の妙齢の女性というのは珍しいです。
もしかして、ユーリさんの関係者の方なのではないでしょうか?
「あの、その島主様の年齢はどのくらいでしたか?」
「二十四歳だよ。名前はローレッタ・エレメントさ」
そう答えたのはチッチでした。先ほどまで情報を渋っていた割には、今度はスラスラと……ありがたいですが。
しかし、やはり聞いたことのない名前ですね。
まあ、それも仕方がありません。
コスキートに所属する七島のうち、イシセマ島は唯一、他の島と正式な交易路が結ばれておらず、観光客の立ち入りも許されない、つまりほぼ鎖国されている島なのです。
諸島都市連盟コスキートの他の島主は何人か、王宮に会談にいらした時にお会いしたことがありますが、イシセマの島主に関しては情報がありません。
そもそも島に入るには、特別な手続きが必要で、今回タイコーン辺境伯が用意してくれた各施設の紹介状の中にもイシセマ島に関連するものはありませんでした。
ホムーロス王族の立場を利用しても、そのローレッタ・エレメント様に会うのは難しいかもしれませんね。
「ローレッタ・エレメントに会いたいのかい?」
「ええ。私の王女としての立場を利用すれば――」
「そんなことしなくても、パオス島の武道大会に行けばいいんじゃないか? 武道大会には諸島都市連盟コスキートの全島主が見学に集まるそうだし」
……え?
そういえば、タイコーン辺境伯から、武道大会の招待状を預かっていました。
これは、予想よりも簡単に彼女に接見できそうですね。
「皆さん、スープ作ってきましたよ」
クルト様が、チッチの言う通り鍋いっぱいのスープを持ってきました。
それを美味しそうに食べるチッチですが、しかし、なんでしょう?
あまりにも都合よく話が進みすぎている――そんな気がしてなりません。
鍋いっぱいのコーンスープをチッチが食べている間、これまでわかった話をクルト様に伝えました。
ユーリさんが持っていた鞘は、どうやら戦巫女という修道女のような方が持つものだということ。
さらにその修道女は長らく生まれておらず、子孫がイシセマ島にいること。
そのイシセマ島の島主というのが、ユーリさんと同じ白髪の若い女性であるということ。
そして、その島主――ローレッタ・エレメント様が、今度の武道大会に見学に来ること。
「僕が料理を作っている間に、そこまでわかったんですか!? さすが、リーゼさんです!」
クルト様に褒めていただいたのはとても嬉しいものの、実際、彼女が情報を喋ったのはクルト様の秘密兵器のお陰なのですけれどね。
それを伝えられないもどかしさで、口がむずむずします。
そして、クルト様はいつの間にか用意していた羊皮紙の束をゲールハークさんに渡します。
「ゲールハークさん、よかったらこれ、僕の故郷の料理のレシピです。田舎料理ですけど、このあたりにはない料理なんで、是非どうぞ」
「師匠、よろしいのですか!?」
「ええ。もちろんです」
「ありがとうございます。一生の宝にいたします」
「大袈裟ですよ」
クルト様は笑いますが、ゲールハークさん本人にしてみれば大袈裟でもなんでもないのでしょうね。
きっとあのレシピは、料理人にとって至高の宝といってもいいはずですから。
もっとも、完全にレシピ通りに作っても、クルト様が作った料理と同じものができるとは限りませんが。
なぜなら、クルト様は素材の質に応じて調味料の量や煮込み時間などを僅かに変えていますからね。それを見極めるのはプロでも不可能でしょう。
「ところでリーゼさん。武道大会はいつ頃開かれるのでしょうか?」
「一週間後だそうです。それまでは当初の予定通り、各地の留学先でいろいろな文化を学ぶことにしましょうか――ということで、チッチさん、あなたはもう必要ありませんのでここで別れましょう」
「な、ちょっと待った! もう契約は成立している! きっちりパオス島まで送り届けさせてもらうからな」
「そう言って、あなた、クルト様の料理が食べたいだけでしょ」
「いやいや、それだけじゃないんだよな。実は、パオス島では武道大会の前にいろいろな大会が行われていてね。料理大会や鍛冶大会、芸術大会なんてものもある。士爵様なら、料理大会で優勝できると思うんだよ。出てみないかい?」
ああ、なるほど、そういうことですか。
そういう大会では、必ず一緒にギャンブルが行われています。
これまで料理大会で一切実績のないクルト様に一点賭けし、そのクルト様が優勝すれば莫大なお金が貰えそう……などと考えているのでしょうね。
「僕なんかが優勝できるわけありませんよ」
そのクルト様の言葉は、謙遜ではなく本心からでしょう。
しかし、豚の餌を作ってドラゴンを手懐ける料理の腕があれば、たとえ低品質の食材だけで料理を作っても優勝は目に見えています。
そしてそれは、クルト様に自分の実力を認識させることを意味し、昏倒する未来に繋がります。
当然、却下です。
適当な理由をつけて、チッチとは別行動にしないといけませんね。
「ダメですよ。それにクルト様はこれから、隣のマッカ島の工房の視察があるのです。チッチさんとはここで」
「そうですね――そういうわけですから、チッチさん、やっぱり出場はできません」
クルト様が頭を下げると、チッチは口の周りにいっぱいスープを付けながら、匙を咥えて残念そうにしていました。
店を出て、チッチと別れたところで今後のことについて考えます。
まずは、他の島に渡る手段を考えなければいけません。
一番確実なのは航路ですけれども、やはり時間がかかりますからね。
できることならば、転移石を利用したことのある人を探し、その人と一緒に別の島に渡りたいところです。
諸島都市連盟コスキートには、このバックラス島を含め、計四カ所に転移石が設置されています。しかし転移石での移動には、一度その転移石に触れた人が一緒にいる必要があります。
問題は、転移結晶は高価で持っている人間がとても少なく、そのため、転移石を使ったことがある者も少ないということですが……
まあこのことについては、冒険者ギルドで依頼を出せば問題ありません。高ランク冒険者ならば、転移結晶を持っている人も多いですからね。
ということで、私とクルト様は冒険者ギルドに行き、依頼を出しました。
まぁ、この程度の依頼ならば、今日中に依頼を受けてくれる冒険者が見つかるでしょう。
「リーゼ様、クルト様、依頼していた冒険者が見つかりましたので、第二受付カウンターまでお越しください」
ほら、もう見つかりました。
これであっという間に他の島に移動できます。
「リーゼ様、クルト様、このお方が、この国にある四カ所全ての転移石を使用した経験のある冒険者です」
受付嬢さんが私達に彼女を紹介しました。
――まぁ、そういう予感はしていたんですけどね。
「またよろしくな、二人とも。あ、依頼料は護衛料とは別に貰うからな」
彼女――チッチはそう言って私達に手を差し出したのでした。
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