175 / 214
幕間話2
SS お雑煮を作ろう(味噌・醤油編)
しおりを挟む
さて、話は変わるが、東国は現在冬。ホム―ロス王国も冬だったので、当然なのだけれども、雪が積もっていた。
ホム―ロス王国では初雪はあったが、積雪はまだだったため、アクリは目を輝かせた。
「雪なの!」
アクリが元気に雪原を駆けまわったが、はしゃぎすぎて倒れたようで、私たちは思わず駆け寄ったが、当のアクリはというと嬉しそうに笑っていた。
私はため息をつきながらも、笑顔でアクリの顔についた雪を払う。
クルトお手製の防水手袋、防水コート、防水耳当てに防水帽子をつけているが、どうしても顔の部分は無防備だな。
雪の上には小さな人型が出来上がっていた。
「冒険者なんてやっていると、雪なんて水汲みの手間が省ける以外は不便なものだと思っていたが、子供連れだと感想がまた異なるな」
「ユーリさん、黴の生えた餅だけに飽き足らず、雪なんて食べていらっしゃったんですか?」
「そのまま雪を食べてたわけじゃねぇよ。雪をそのまま食べたらダメだって、リーゼが前に読んでいた冒険者教本にも書いてあっただろ? ほら、クルトの取材に来た作家の……【今日から君も冒険者】って本だったか?」
書いていることは、概ね間違ったことは書いていなかった。まぁ、私に言わせれば問題部分も多く、冒険者の指南書というよりかは、面白いサバイバル本だった気もする。
「その本を書いている作者でしたら、現在は創作作家に転向したそうですよ?」
「そうなのか? ……まぁ、兎も角、雪はそのまま食べずに一度煮沸させる必要がある。あと、雪の中には砂とか埃とかも多いから、不純物を取り除くのに道具を使ったほうがいい。茶こしとか便利だぞ?」
「ゴミを取り除くために茶こしを使ったら、紅茶を淹れるための茶こしがなくなってしまうではありませんか」
生きるか死ぬかの状態で、紅茶を飲んでいる余裕なんてないんだけど……まぁ、生粋のお嬢様のリーゼにはわからない話か。
「ユーリママ、イグルー!」
アクリが手袋の上に雪を積み上げて言った。
「イグルー? あぁ、そういえばアクリに話したことあったっけ?」
「ユーリさん、イグルーってなんですの?」
「イグルーっていうのは、圧縮した雪のレンガを使って作る家のことだよ。この国ではかまくらって呼ばれているものが近いかな」
「あぁ、クルト様が造っていらっしゃるあれですか?」
リーゼがそう言って広場で完成しつつある建物を見た。
「あれもイグルー……でいいのかな?」
「雪のレンガで作った建物ですわよね」
「それはそうなんだが――」
完成しつつある高さ三階建ての雪レンガの建物を見て、やっぱり違うだろ――と思った。
クルトが作ったイグルーは非常に快適で、私たちはその日、その家に一泊した。
快適すぎて寝坊したのは言うまでもない。
※※※
翌日、私たちは米麹を扱っている場所に来ていた。
私とリーゼは思わず鼻を摘む。アクリも鼻を摘み、「くちゃい」と言っていた。
「あはは、これは大豆を発酵させているにおいのようですね。納豆というものを作っている場所はもっと凄いにおいがするそうですよ。僕はこのにおいはそれほど嫌いじゃありません」
クルトは冗談ではなく、本当にこの匂いでも平気のようだ。
どうやら、私たち渡来人にとって、ミソと呼ばれる調味料の臭いが苦手なのは当たり前の話らしく、案内してくれたおばちゃんは少しおかしそうに私たちを見ていた。
そして、米麹を見せる前に、味噌を見せてもらう。
味噌もお雑煮の材料だからな。
「マジかよ……東国の人間ってこんなものばかり食べているのか?」
「私の国では発酵食品はあまりメジャーではありませんから、慣れないにおいはどうしても。チーズやピクルス、ザワークラフト等は昔からありましたが」
「しかし、この見た目は――」
茶色くてドロッとした見た目は、ピーナッツクリームにも似ている気がするが、この独特な臭いと混ざるとなぁ。
本当に、これでスープを作るのだろうか。
ま、まぁ、クルトが作ればどんな素材でもきっと一流の料理を作るんだろうな。
お雑煮の材料――米麹、大豆GET。
「ところで、嬢ちゃんたち。さっきの坊ちゃん、米麹から味噌を作るって言っていたけど、味噌は作ろうと思えば最低でも何カ月も必要になるんだけど、わかっているのかい?」
おばちゃんが尋ねてきた。
リーゼは笑顔で返す。
「ええ、クルト様なら、きっとすべてを理解していて、なにもわかっていないと思いますよ」
「……まぁ、クルトだからな」
おばちゃんは不思議そうな顔で、「それならいいんだけどね」と言ってくれた。
ちなみに、その日の夜、イグルーの三階倉庫に、完成した味噌と醤油の樽が並んでいたことは特筆するまでもない。
ホム―ロス王国では初雪はあったが、積雪はまだだったため、アクリは目を輝かせた。
「雪なの!」
アクリが元気に雪原を駆けまわったが、はしゃぎすぎて倒れたようで、私たちは思わず駆け寄ったが、当のアクリはというと嬉しそうに笑っていた。
私はため息をつきながらも、笑顔でアクリの顔についた雪を払う。
クルトお手製の防水手袋、防水コート、防水耳当てに防水帽子をつけているが、どうしても顔の部分は無防備だな。
雪の上には小さな人型が出来上がっていた。
「冒険者なんてやっていると、雪なんて水汲みの手間が省ける以外は不便なものだと思っていたが、子供連れだと感想がまた異なるな」
「ユーリさん、黴の生えた餅だけに飽き足らず、雪なんて食べていらっしゃったんですか?」
「そのまま雪を食べてたわけじゃねぇよ。雪をそのまま食べたらダメだって、リーゼが前に読んでいた冒険者教本にも書いてあっただろ? ほら、クルトの取材に来た作家の……【今日から君も冒険者】って本だったか?」
書いていることは、概ね間違ったことは書いていなかった。まぁ、私に言わせれば問題部分も多く、冒険者の指南書というよりかは、面白いサバイバル本だった気もする。
「その本を書いている作者でしたら、現在は創作作家に転向したそうですよ?」
「そうなのか? ……まぁ、兎も角、雪はそのまま食べずに一度煮沸させる必要がある。あと、雪の中には砂とか埃とかも多いから、不純物を取り除くのに道具を使ったほうがいい。茶こしとか便利だぞ?」
「ゴミを取り除くために茶こしを使ったら、紅茶を淹れるための茶こしがなくなってしまうではありませんか」
生きるか死ぬかの状態で、紅茶を飲んでいる余裕なんてないんだけど……まぁ、生粋のお嬢様のリーゼにはわからない話か。
「ユーリママ、イグルー!」
アクリが手袋の上に雪を積み上げて言った。
「イグルー? あぁ、そういえばアクリに話したことあったっけ?」
「ユーリさん、イグルーってなんですの?」
「イグルーっていうのは、圧縮した雪のレンガを使って作る家のことだよ。この国ではかまくらって呼ばれているものが近いかな」
「あぁ、クルト様が造っていらっしゃるあれですか?」
リーゼがそう言って広場で完成しつつある建物を見た。
「あれもイグルー……でいいのかな?」
「雪のレンガで作った建物ですわよね」
「それはそうなんだが――」
完成しつつある高さ三階建ての雪レンガの建物を見て、やっぱり違うだろ――と思った。
クルトが作ったイグルーは非常に快適で、私たちはその日、その家に一泊した。
快適すぎて寝坊したのは言うまでもない。
※※※
翌日、私たちは米麹を扱っている場所に来ていた。
私とリーゼは思わず鼻を摘む。アクリも鼻を摘み、「くちゃい」と言っていた。
「あはは、これは大豆を発酵させているにおいのようですね。納豆というものを作っている場所はもっと凄いにおいがするそうですよ。僕はこのにおいはそれほど嫌いじゃありません」
クルトは冗談ではなく、本当にこの匂いでも平気のようだ。
どうやら、私たち渡来人にとって、ミソと呼ばれる調味料の臭いが苦手なのは当たり前の話らしく、案内してくれたおばちゃんは少しおかしそうに私たちを見ていた。
そして、米麹を見せる前に、味噌を見せてもらう。
味噌もお雑煮の材料だからな。
「マジかよ……東国の人間ってこんなものばかり食べているのか?」
「私の国では発酵食品はあまりメジャーではありませんから、慣れないにおいはどうしても。チーズやピクルス、ザワークラフト等は昔からありましたが」
「しかし、この見た目は――」
茶色くてドロッとした見た目は、ピーナッツクリームにも似ている気がするが、この独特な臭いと混ざるとなぁ。
本当に、これでスープを作るのだろうか。
ま、まぁ、クルトが作ればどんな素材でもきっと一流の料理を作るんだろうな。
お雑煮の材料――米麹、大豆GET。
「ところで、嬢ちゃんたち。さっきの坊ちゃん、米麹から味噌を作るって言っていたけど、味噌は作ろうと思えば最低でも何カ月も必要になるんだけど、わかっているのかい?」
おばちゃんが尋ねてきた。
リーゼは笑顔で返す。
「ええ、クルト様なら、きっとすべてを理解していて、なにもわかっていないと思いますよ」
「……まぁ、クルトだからな」
おばちゃんは不思議そうな顔で、「それならいいんだけどね」と言ってくれた。
ちなみに、その日の夜、イグルーの三階倉庫に、完成した味噌と醤油の樽が並んでいたことは特筆するまでもない。
110
お気に入りに追加
21,191
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。
よくある聖女追放ものです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
王家も我が家を馬鹿にしてますわよね
章槻雅希
ファンタジー
よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。
『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。