上 下
164 / 208
幕間話

化石掘り爺さんと伝説の化石ホリスト(前編)

しおりを挟む
 辺境町から離れた場所にある谷での生活もかれこれ一カ月になった。
 水源が近くにあるが、魔物すら近付かない、ペンペン草すら生えない谷の底。
 持ち込んだ食材は尽きそうになっている。
 七十七歳というめでたいのかそうでないのかよくわからない節目になる誕生日を先日迎えても元気なワシじゃが、しかし空腹には勝てない。
 一カ月前、つまりここに来る前にハロワに依頼しておいた食料配達も、ワシが日付けを間違えていなければ今日にも届くはずだ。
 そして、それは間違いではなかった。
「すみません、ハロワからの依頼で食料を届けに来ました」
 現れたのは、十五歳くらいの灰色の髪の少年だった。
 背中には三百キロくらいある荷物を担いでおる。
 小柄な体には似つかわしくない量――どうやら、凄腕の運び屋のようじゃ。
「うむ、ご苦労じゃった。確認させてもらうぞ」
 荷物を確認する。
 小麦粉百キロ、乾燥野菜や乾燥果実、そして酒に予備のピッケルと軍手、タオル、衣服類、薬類。
 注文した通りのものじゃ。
「坊主、名はなんという?」
「クルトです」
「そうかそうか、クルトか。良い名じゃ。ちなみに、ワシの名はカセキ・ホルドーじゃ」
「あ、はい。はじめまして」
「…………」
「…………」
「……………………」
「……………………」
「聞かんか!」
「え、何をですか?」
 まったく、最近の若者は、周囲への興味を持っておらぬのか。
「ワシが何をしておるのか、気になるじゃろ!」
「え? あ、はい! とても気になります」
「うむ、良い心構えじゃ。ワシはここで化石を掘っておる」
「化石ですか?」
「そうじゃ、化石じゃ」
 化石というのは、遥か昔の生物の骨等が地層の中に残っている物を言う。
 魔族の領地にちかいこの場所は、瘴気が不安定な場所で古来は独自の生態系を持っていたというワシの持論に基づき、特別な化石が見つかると踏んだわけじゃ。
「凄いです! 古代のロマンですね!」
「おぉ、わかるか、少年よ! よし、少年をワシの助手に任命する!」
「はい、よろこんで」
 ……ん?
 これまで同じようなことをワシは多くの少年に語り聞かせたが、しかし少年くらいの年齢の相手の対応は必ずしも塩対応じゃった。
「あ……うん、まぁガンバってくだしあ」
「楽しそうですけど、時間が」
「無理ー」
 なんて対応ばかりじゃったのに、
「いいのか、少年よ」
「はい、帰還予定まで二日程ありますから、その間だけでもお手伝いを――あとは依頼の報告して、工房アトリエに許可を貰ってからになりますが」
「そうかそうか! よし、ではさっそくやってみるか。少年、まずはこの予備のピッケルを持ってみなさい」
「はい、わかりました」
 少年がピッケルを持つ。
 うん、いい構えじゃ。
「ここの地層を見ろ。ここはいまから1000万年前――ハイエルフですら生まれていないと言われる時代の地層じゃ」
「1000万年前っ!? 凄いですね」
「うむ、凄いのじゃ。ここを掘ってみろ」
「はい、わかりました」
 少年が地層を手で調べ、どこを掘ろうか悩んでいる。
 可愛い奴じゃの、そんなことをしてもどこを掘ればいいかわかるはずはあるまいに。
 きっと、それがカッコいいと思っておるのじゃろ。
 しかし、それは悪くはない。化石掘りというのはロマンじゃからな。
 ロマンを追い求めるのとカッコつけるのは同義とワシは思っておる。
 つまり、あのように無意味なことをするのもまた、化石掘りをするのに向いておるというわけじゃ。
 少年はようやくどこを掘るか決めたらしい。
「焦ってはならぬ。ピッケルでは深くは掘れない。少しずつ少しずつ掘っていけば、おかしな部分が見つかる事がある」
「ホルドーさん」
「それを掘り当てた時の感動、是非とも少年には味わって欲しいのじゃが、しかし時間が――」
「ホルドーさん」
「なんじゃ、少年! いまからワシがいいことを――」
「これが見つかりました」
 少年がワシに見せたもの――それは――

「こ、これは! スライムの先祖であるスライム貝の化石ではないか!」

 スライムは大昔は貝のような魔物だったと言われている。それが、陸地を進むために貝殻を退化させて軟体生物になったそうじゃ。
 まさか、ここまで完全な形のスライム貝の化石が見つかるとは――しかし、ここは1000万年前も陸地だったはず……まさか!?

 そうか、そういうことか。
 スライム貝は元より陸貝じゃったのか!?
 こ、この少年、わずか一振りで化石学会の新たな説を生み出すための化石を掘り当てよった。
 ま、まさか、この少年。
 伝説の化石ホリストではあるまいかっ!?
ーーーーーーーーーーーー
続く! すみません、完全ネタ話です。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜

mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!? ※スカトロ表現多数あり ※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。