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伝説の剣を買ってみた
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「楓ちゃん! 売ってたのよ、エクスカリバーが!!」
唐突に始まる会話。
天真爛漫ツインテール女子高生の御子の仕業だ。
暖かい陽気につつまれて、公園のベンチに座っていた同じ学生服の少女――楓は本を閉じて空を見上げた。
「そっかぁ、春だもんね」
「そう、エクスカリバーも芽を出す季節だよ」
「伝説の剣ってつくしか何かを先祖に持っているのかな?」
制服を着た女子高生の会話としてはシュールすぎる内容が繰り広げられていく。
「で、どこい売ってたの? そのエクスカリバーは」
「ふふふ、聞いて驚け見て驚け!」
「うん、まぁだいたい予想できるけどね」
「メロカリで売ってたの!」
「……そろそろマザーズ上場廃止してほしいな。で、買わないわよね、当然」
「三十円のお買い得品だったからついつい。送料は必要だけど」
「買ったのか……でも安いわね、つくしより安いんじゃないの?」
「で、これがその伝説の剣、エクスカリバーです!」
御子はエクスカリバーを鞘から取り出した。
訂正。
彼女はアイスの棒を取り出した。
「……珍しいわね」
そのアイスの棒には"あたり もう一本"と書かれている。七十円で売っているソーダ味のアレの当たり棒だ。
「三十円だと安いけど、送料(たぶん八十円)を含めたら大損ね」
『失礼な! 我の価値をなんだと思っている』
その声は突如響いた。
『驚いて声もでないか。そう、我こそはエクスカリバー』
「ね、本人もこういっているんだから間違いないよ」
「……ねぇ、御子。アイス食べたくない? 今日は暖かいし」
「うん、食べる食べる! あ、でもお金あんまりないよ?」
「大丈夫、ここに当たり棒があるからこれで交換しよ」
「わぁい!」
『こら待てい、小娘!』
アイスの棒がすかさず待ったをかける。
『我をなんだと思っている。そう、我こそはエクスカリバー』
「少なくとも木刀として生まれ変わって出直して来い、七十円(税別)!」
『しくしく、我も本当はこのような姿になど生まれ変わりたくもなかった。ただ、我が生まれ変わる時に強く願ってしまった。今度は喋れる剣になりたい。そしてさらに誰もが求める剣になりたいと。その結果が--』
「おぉ、コンビニが冷房に切り替わってるよ、楓ちゃん。前まで暖房だったのに」
「本当だ、あぁ気持ちいいわね」
『いつの間に我を交換する店に入っておる!』
コンビニの店員さんが突然アイス棒が喋りだしたのを見てびっくりしていた。人生経験もとい不幸成分が足りないみたいだ。
「御子、はい」
楓はソーダアイスと当たり棒を御子に渡した。
「うん。すみませぇん、交換してくださぁい!」
彼女は笑顔でそれを店員のところに持っていく。
『待たんかい、小娘ども! 我をたかが氷菓子と交換する気かっ!』
怒鳴りつけるアイス棒を見ても、店員は粛々と自分の仕事を続ける。
「すみません、アイスの当たり棒は買った店で交換してください」
※注意 コンビニの店員さんはいちいちそんなことを言わずに交換してくれることが多いです。この場合喋るアイス棒が気持ち悪いので交換を拒否したことを察してください。
「このアイス棒、七十円の価値もないじゃん」
『……我も泣きたくなってきた』
「まぁまぁ、エクスカリバーさん、アイスでも食べてくださいよ。楓ちゃんがおごってくれたんです」
『いや、我には口がないし』
口がないのにしゃべるなよ、アイス棒が。
「で、話を戻すけどいい?」
『ふむ、いいぞ』
「なんか、つくしの佃煮食べたくなってきた」
『そんなところに戻すな!』
楓は正直飽きていた。
そもそも、アイスの当たり棒なのに、何故喋るのか? 口はどこにあるのか? そんな疑問ばかり浮かぶ。
「きっと、これは夢ね」
楓はそう結論付けた。
『我も夢だと願いたい』
「そうだよ、エクスカリバーくん。これは夢なのだ。だから寝なさい。起きたころには魔王との戦いが待っている」
『そうだ。これは夢なのだ。ならば私は寝よう! 剣に戻ったら起こしてくれたまえ』
そういうや否や、エクスカリバーは静かに吐息をだして眠りだす。あ、息は吐いていないけどそんな雰囲気だった。
「よし、御子。アイスもう一本買おう!」
「うん!」
こうして世界は今日も平和だった。
エクスカリバーがその後どうなったのかなんてどうでもいいほどに。
楓はつくしの佃煮を作って食べたら、とてもおいしかった。
御子は楓に買ってもらったアイスを冷凍庫に入れた。
そして、次の日。ちなみに、今日は創立記念日なのでお休み。
「聞いて、昨日買ったアイスなんだけどさぁ」
「どうしたの? 食べ過ぎておなかを壊した」
「当たりだったの!」
「へぇ、よかったじゃん」
「うん」
御子はそういい、アイスの棒を取り出した。
昨日と同じ、アイスの当たり棒がそこにある。ただ唯一違うのは、エクスカリバーと名乗らないことだろうか。
『私は聖剣デュランダルと申します。お初にお目にかかります』
エクスカリバーにしろデュランダルにしろ、アイスの棒に生まれ変わったら日本語を習得する機能でもついているのだろうか?
疑問は山ほどあるが、
「御子。昨日つくしの佃煮作りすぎたから、あとで持っていくわね」
「うん!」
結局のところ、今日も世界は平和だということだ。伝説の剣を必要としない程度には。
「核やミサイル撃たれたら剣とかアイス棒なんてなんの役にも立たないもんね」
楓は的を射たことをいいながら、交換したばかりのアイスを食べた。
「残念、はずれだ」
『よくぞこの妖刀村雨の封印を解い--』
「ゴミはゴミ箱に」
楓の投げたアイスのはずれ棒は見事な放物線を描いて公園のゴミ箱に中に入っていった。
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大昔に書いた話を編集しました
唐突に始まる会話。
天真爛漫ツインテール女子高生の御子の仕業だ。
暖かい陽気につつまれて、公園のベンチに座っていた同じ学生服の少女――楓は本を閉じて空を見上げた。
「そっかぁ、春だもんね」
「そう、エクスカリバーも芽を出す季節だよ」
「伝説の剣ってつくしか何かを先祖に持っているのかな?」
制服を着た女子高生の会話としてはシュールすぎる内容が繰り広げられていく。
「で、どこい売ってたの? そのエクスカリバーは」
「ふふふ、聞いて驚け見て驚け!」
「うん、まぁだいたい予想できるけどね」
「メロカリで売ってたの!」
「……そろそろマザーズ上場廃止してほしいな。で、買わないわよね、当然」
「三十円のお買い得品だったからついつい。送料は必要だけど」
「買ったのか……でも安いわね、つくしより安いんじゃないの?」
「で、これがその伝説の剣、エクスカリバーです!」
御子はエクスカリバーを鞘から取り出した。
訂正。
彼女はアイスの棒を取り出した。
「……珍しいわね」
そのアイスの棒には"あたり もう一本"と書かれている。七十円で売っているソーダ味のアレの当たり棒だ。
「三十円だと安いけど、送料(たぶん八十円)を含めたら大損ね」
『失礼な! 我の価値をなんだと思っている』
その声は突如響いた。
『驚いて声もでないか。そう、我こそはエクスカリバー』
「ね、本人もこういっているんだから間違いないよ」
「……ねぇ、御子。アイス食べたくない? 今日は暖かいし」
「うん、食べる食べる! あ、でもお金あんまりないよ?」
「大丈夫、ここに当たり棒があるからこれで交換しよ」
「わぁい!」
『こら待てい、小娘!』
アイスの棒がすかさず待ったをかける。
『我をなんだと思っている。そう、我こそはエクスカリバー』
「少なくとも木刀として生まれ変わって出直して来い、七十円(税別)!」
『しくしく、我も本当はこのような姿になど生まれ変わりたくもなかった。ただ、我が生まれ変わる時に強く願ってしまった。今度は喋れる剣になりたい。そしてさらに誰もが求める剣になりたいと。その結果が--』
「おぉ、コンビニが冷房に切り替わってるよ、楓ちゃん。前まで暖房だったのに」
「本当だ、あぁ気持ちいいわね」
『いつの間に我を交換する店に入っておる!』
コンビニの店員さんが突然アイス棒が喋りだしたのを見てびっくりしていた。人生経験もとい不幸成分が足りないみたいだ。
「御子、はい」
楓はソーダアイスと当たり棒を御子に渡した。
「うん。すみませぇん、交換してくださぁい!」
彼女は笑顔でそれを店員のところに持っていく。
『待たんかい、小娘ども! 我をたかが氷菓子と交換する気かっ!』
怒鳴りつけるアイス棒を見ても、店員は粛々と自分の仕事を続ける。
「すみません、アイスの当たり棒は買った店で交換してください」
※注意 コンビニの店員さんはいちいちそんなことを言わずに交換してくれることが多いです。この場合喋るアイス棒が気持ち悪いので交換を拒否したことを察してください。
「このアイス棒、七十円の価値もないじゃん」
『……我も泣きたくなってきた』
「まぁまぁ、エクスカリバーさん、アイスでも食べてくださいよ。楓ちゃんがおごってくれたんです」
『いや、我には口がないし』
口がないのにしゃべるなよ、アイス棒が。
「で、話を戻すけどいい?」
『ふむ、いいぞ』
「なんか、つくしの佃煮食べたくなってきた」
『そんなところに戻すな!』
楓は正直飽きていた。
そもそも、アイスの当たり棒なのに、何故喋るのか? 口はどこにあるのか? そんな疑問ばかり浮かぶ。
「きっと、これは夢ね」
楓はそう結論付けた。
『我も夢だと願いたい』
「そうだよ、エクスカリバーくん。これは夢なのだ。だから寝なさい。起きたころには魔王との戦いが待っている」
『そうだ。これは夢なのだ。ならば私は寝よう! 剣に戻ったら起こしてくれたまえ』
そういうや否や、エクスカリバーは静かに吐息をだして眠りだす。あ、息は吐いていないけどそんな雰囲気だった。
「よし、御子。アイスもう一本買おう!」
「うん!」
こうして世界は今日も平和だった。
エクスカリバーがその後どうなったのかなんてどうでもいいほどに。
楓はつくしの佃煮を作って食べたら、とてもおいしかった。
御子は楓に買ってもらったアイスを冷凍庫に入れた。
そして、次の日。ちなみに、今日は創立記念日なのでお休み。
「聞いて、昨日買ったアイスなんだけどさぁ」
「どうしたの? 食べ過ぎておなかを壊した」
「当たりだったの!」
「へぇ、よかったじゃん」
「うん」
御子はそういい、アイスの棒を取り出した。
昨日と同じ、アイスの当たり棒がそこにある。ただ唯一違うのは、エクスカリバーと名乗らないことだろうか。
『私は聖剣デュランダルと申します。お初にお目にかかります』
エクスカリバーにしろデュランダルにしろ、アイスの棒に生まれ変わったら日本語を習得する機能でもついているのだろうか?
疑問は山ほどあるが、
「御子。昨日つくしの佃煮作りすぎたから、あとで持っていくわね」
「うん!」
結局のところ、今日も世界は平和だということだ。伝説の剣を必要としない程度には。
「核やミサイル撃たれたら剣とかアイス棒なんてなんの役にも立たないもんね」
楓は的を射たことをいいながら、交換したばかりのアイスを食べた。
「残念、はずれだ」
『よくぞこの妖刀村雨の封印を解い--』
「ゴミはゴミ箱に」
楓の投げたアイスのはずれ棒は見事な放物線を描いて公園のゴミ箱に中に入っていった。
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大昔に書いた話を編集しました
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