メロカリで買ってみた

時野洋輔

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草刈り機を買ってみた

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 いつもの通学路、いつもの帰り道――から少し離れた芝生公園のベンチに座って、ショートヘアで眼鏡をかけた少女――佐藤楓はペットボトルに入ったカルピスを飲みながら、悪役転生ものの小説を読んでいた。
 そこに、一人の少女が猛ダッシュで駆け寄って来る。
 天真爛漫ツ少女の鈴木御子だった。
 だが、今日はいつものツインテールじゃなく、ポニーテールでの登場だ。
 
「楓ちゃん、楓ちゃん! メロカリで草刈り機買ったんだ!」
「御子の家って庭ないじゃん。お父さんの髪の毛でも刈るつもり?」
「お父さん泣いたよ。収穫期は二十年前に過ぎてるからもう刈らないでって」
「本当に言ったのかよ……で、草刈り機って?」
「うん、これ!」
 御子はそう言って、鞄の中から草刈り機を取り出した。
「ヤギじゃん」
 真っ白なヤギだった。公園に解き放たれたヤギは、徐に茂みの葉っぱを食べ始めた。
「あ、やっぱり楓ちゃんもそう思う?」
「それ以外に見えないよ。メイちゃんも、トウモロコシ持って逃げ出すよ。っていうか、え? いま鞄の中から出し……え? その通学鞄って四次元ポケットなの?」
「ポケットじゃなくて鞄だよ? そんなことより問題は山羊だってことなの。ヤギってことなの」
「わざわざ漢字からカタカナにしなくても読めるわよ。それより鞄の方が気になるんだけど」
「いまは私の鞄の中なんてどうでもいいでしょ。問題は山羊ヤギの方なの」
「だからルビはいらないって。ヤマヒツジとか読まないから。で、何が問題なの? ってもんだいだらけよね。さすがに草刈り機かってヤギが送られてきたら。世話とかも大変だろうし、なにより機じゃないし」
「メロカリは生体販売禁止なの!」
「そっちっ!? いや、確かにそれは問題だけど。じゃあ、メロカリに連絡したら? 対処してくれるんじゃない?」
「でも、それだとヤギを返品しないといけなくなるでしょ。せっかく家族になれたのに」
「あ、ヤギそのものは気に入ってるんだ」
「そうだよ。この子と離れ離れなんて、私もお母さんも泣いちゃうよ。お父さんは髪の毛食べられて泣いてたよ」
「そりゃ泣くよ。紙じゃなくて髪を食べられたらそりゃ泣くよ。そしてお父さん、刈られた後だったんだね、ごめんなさい」
「楓ちゃん! いまはお父さんのことなんてどうでもいいの。いまは家族であるこの子のことを考えてあげて」
「お父さんも家族なんだから考えてあげようよ」
「お父さんなんて知らないよ。昨日から全然口もきいてくれないんだもん」
「髪を食べられたからでしょうが!」
「髪なんて食べられてもまた生えてくるじゃん。私だって右のツインテール片方食べられて、ポニーテールになっちゃったんだし」
「ツインテール片方食べられてポニーテールにならないわよ。あと、もう生えてこないから泣いたんでしょうが」

 楓はそう言って、ヤギを見た。
 公園の草がかなり食べられてしまっている。
 草刈り機としての機能は十分に発揮しているが、このままでは芝生公園が芝無公園になってしまいそうだ。

「とりあえず、返しなさい。それがこの子のためよ」
「……うん……わかった」

 御子は涙を浮かべ、

「ごめんね、ラスカル。森にお帰り」

 と置き去りにしようとする。

「いや、野生に返すな。出品者に返せ。あとそれはアライグマだ。ついでにこの付近に森はない!」

 私はそう言って、御子をヤギに乗せて帰らせた。
 そして三日後。

「楓ちゃん! 返品交換したあと、出品者からお詫びの手紙と新しい草刈り機が届いたの」
「へぇ、よかったね。手紙にはなんて書いてあったの?」
「それが、新しい草刈り機に食べられちゃった」

 御子はそう言って、鞄から黒いヤギを取り出した。
 そうか、手紙、食べちゃったか。

 楓は御子の鞄を四次元カバンとして、いつかメロカリに出品しようと画策しながらも、例の童謡を口ずさんだのだった。
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