~【まおうすくい】~

八咫烏

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第3話『ヴァヴェル』

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「じゃあ行くわよ!」

「ウム、ハジメヨウゾ。」

洞窟内に闘いのゴング、小石の落ちる音が鳴り響き、ふたりの勝負は幕を開けた。

少女は深く息を吸い込み、一瞬で全てを吐き出すように声を出す。
ドラゴンは咆哮し、その声に乗せて自らの最強を吐き出す。

「はぁーっ!」

「ガルルルルーっ!」

ドラゴンは高温の炎を吐き出し、全てを燃やし尽くそうとする。
少女はそれに対抗するかのように、洞窟の一部を水で満たす。
ドラゴンは確かに言った。己の最強は1時間も持続すると。
だから彼女は狙った。短時間で勝負を決めることを。

彼女はさらに、魔力を込め、より一層強力な水の魔法を使う。
ドラゴンも負けじと力を込め、少女を焼き尽くそうとブレスを放つ。
水と炎、ぶつかり合い、爆発を起こす。
水蒸気爆発と呼ばれるそれは、圧倒的熱量が水に触れ、水が気化して水蒸気となり、その膨張が爆発的な力を発揮する。
液体の約1700倍にも膨れ上がる体積が引き起こすソレは、想像を絶する威力となる。
そんな事など気にも留めず、ふたりは尚も、己の最強をぶつけ合う。

しかし、そう長くは続かなかった。
少女の出した水は、瞬く間にドラゴンをスッポリと飲み込む。
ドラゴンは抵抗し、体を水に飲み込まれ、もがきながらもブレスを吐く。
だが、ドラゴンの抵抗も虚しく、水はドラゴンの体に圧力をかけてきた。
そして、ドラゴンは、ブレスを吐くのをやめる。

「フム、ヨイウデダ。ワレノマケダ、ハナシテクレ。」

「あら、もう負けを認めるの?意外と素直なのね。」

「ウム、テイコウシテモワガブレスデハノガレルコトハデキヌヨウダシナ。」

「賢明な判断ね。さて、私の望みを叶えてくれるかしら?」

「ウム、コムスメヨワレニナニヲノゾム?」

「決まっているわ、従属よ。」

「ハッ、バカニシテイルノカ?コムスメゴトキニジュウゾクスルワレデハナイワ!」

「あなたの負けよね?勝者には従ってもらうわ。」

「ワルイガソレハデキヌ、ワレハユウシャノカエリヲマッテイルノダ。」

「勇者なんていないわ、とっくに死んでいるもの。」

「ソンナハズハナイ!ワレガユイイツ、ゼンリョクデタタカッテ、ソレデモマケタアイテデアルゾ!」

「嘘じゃないわ、彼だって人間…寿命には抗えないのよ。」

「ーーーソウカ…。」

ドラゴンは寂しそうに上を向いた。
洞窟の中のため、空は見えなかったが、それでもドラゴンは、遠い日々を懐かしむように目を細め、洞窟の天井を眺める。

「私があなたを外に連れ出してあげるわ。こんな埃っぽいところに篭っていないで、私についていらっしゃい。」

「ワカッタ、キサマニツキシタガウトシヨウ。シカシ、ワレヨリジツリョクガオトルトワカレバ、スグニクライコロシテヤル。」

「望むところね!私の名前はユーカ。これからよろしく、ドラゴンさん。」

「ウム、ユーカヨ、ヨロシクタノム。」

「あなた…名前はないの?」

「フム…ワレハタイコノトキヨリコノセカイヲシハイシテイル、エンペラードラゴン、ソノサイゴノイキノコリデアル。」

「要は、名前はないってことね?じゃあ勝手につけさせてもらうわ。」

「イヤ、ユウシャトイッショニイタトキニヨバレテイタナマエガアル。」

「あら、そうなの?それじゃあ教えてくれるかしら?」

「シカタナイ、ワガナハヴァヴェル。エンペラードラゴンノヴァヴェルデアル。」

「ふーん、ヴァヴェルっていうのね。じゃ、あなたはこれからヴェルよ!」

「スキニスルガヨイ、ソレヨリコレカラドウスルノダ?」

「まずは洞窟を出るわ。その後、レヴィンという街まで戻らなくてはいけないの。」

「ソウカ、デハワレモトモニユクトシヨウ。」

すると、ドラゴンは眩い光を放つ。
光の後、出てきたのは、小さくなったドラゴンだった。その大きさは、少女でも抱えて歩けるほどに小さいサイズだ。

「あら、便利ね。じゃあ行くわよ。」

「マテ、ワレハコノサイズニナルトホトンドチカラガダセヌ。カカエテモッテイッテハクレヌダロウカ?」

「ーー不便ね。」

冷たくは言い放ったが、声音とは裏腹に、少女の表情は少し緩んでいた。
ドラゴンを胸の高さまで抱え上げると、一度だけギュッと抱きしめるそぶりを見せる。

「コムスメヨ、ワルイガアソコニアルヒホウヲトッテキテハクレヌカ?」

「大きいものだったら持っていかないわよ。」

「アンズルナ、タダノユビワダ。キントギンノモノガアルデアロウ?フタツトモタノム。」

「しょうがないわね…。これでいいのかしら?」

「ウム、スマンナ。アトノザイホウハクレテヤル。」

「要らないわよ。じゃあ埋めておくわ。」

そう言うと、彼女は魔法で残りの財宝を地中深くに埋めてしまう。
これだけあればひと財産どころか、国すら買えるほどの価値のものを、何の躊躇もなく、さっさと埋めてしまう。
まるで、面倒なものを片付けて、早く街に戻りたい様な雰囲気まで出している。

「テマヲカケサセテワルカッタナ。アレハユウシャトタビヲシタトキノオモイデナノダ。」

「別に構わないわ。それより、さっさと街に戻りましょう。」

ドラゴンを抱えた少女は、そう言い残して洞窟を後にする。


洞窟を出ると、さすがに夜になっていたので、今夜は山の麓で一夜を明かそうと準備に取り掛かる。
その辺りにある少し大きめの石を、円形に並べ、その中に拾った小枝を投げ入れる。
最初は火がつきにくいので、枯葉も集め、一緒に入れておく。
最後に、魔法で火を灯し、焚き火をする。

魔法で水を作り、空中に浮かべながら、火の上まで持って行き、温める。
しばらくして、暖かいお湯になったら、カバンから取り出したコップに、魔法で器用に注ぐ。
コップの次に、パンと干し肉を取り出し、食べようとするが…

「ウム、ワレモヒサカタブリニニクヲクライタイナ!」

と、横でまるまっている小さなドラゴンが首をのばして言ってきたので、干し肉を分け与える。

「ねぇヴェル。あなた、食費がかからなくて便利だから、ご飯時はそのサイズで居なさいな。」

「フーム…ワレナガラニケイザイテキデアルナ。シカシ、タマニハフツウノサイズデノショクジヲキボウスル。」

「まぁ、たまになら良いわ。陽が昇ったら起こして頂戴。見張りよろしくね。」

すでに食事を終えた少女は、それだけ伝えると、体を横に倒し、意識を睡眠へと集中させる。
しばらくの後、彼女からは寝息が聞こえはじめ、小さなドラゴンは小さなため息をつく。

「ドラゴンヅカイノアライヤツダナ…。ドレ、シカタアルマイ。」

少女が寝静まった後に、そう呟いてから、小さなドラゴンはそのサイズを元に戻し、彼女をぐるりと体で囲む。
そして一晩中、火を絶やさない様に、集めてあった小枝を口でくわえ、火にくべながら夜の空を眺め、星を数えた。

「ユウシャヨ、ヤハリシンデイタノカ。ワレガアノトキイッタヨウニ、ヒヤクヲノンデイレバ、ジュミョウナンゾニシバラレルコトハナカッタノニナ…。」

ドラゴンの目からは涙が落ちたが、その涙は、夜空に浮かぶどの星の輝きよりも、それはそれは美しいものであった。





「オイ、オキロコムスメ!ヒガノボッタゾ。」

翌朝、ドラゴンは小さくなってから少女を起こす。

「ふあーぁあ…。ん…?ちょっと、嘘つかないでよ!どこに陽が昇っているというのかしら?」

「ナニヲイウ、ノボッテイルデハナイカ。」

「確かに昇っているわ、昇っていますとも。でもね、誰が日の出とともに起こしてって言ったのよ?」

「キサマガヒガノボッタラオコセトイッタノデアロウ?」

「私の言い方が悪かったわ。明日からは陽が昇ってしばらくして、空が明るくなって鳥たちが飛ぶ様になってから起こして頂戴。」

「フム、ココロエタ。シテ、キョウハナニヲスルノダ?」

「そうね、街へ戻るわ。もとの大きさになってひとっ飛びして頂戴。」

「メシハマダカ?」

「無いわよそんなもの。歩いてこんなに時間がかかるだなんて聞いてないわよ…もう!」

「ワレニアタルナ…。」

「そういうわけだから、ササっとひとっ翔びして頂戴。」

「マッタク、ドラゴンヅカイノアライ…。ホラ、セニノルガヨイ。」

「あら、このフサフサの毛、気持ち良いわね!」

「ワレノジマンダ、テイネイニアツカッテクレ。サテ、イクゾ!」

「ちょ、待って、待ってってば!」

ふわりとドラゴンは浮かび、そのまま、重力を意に返さず、空中で止まると、そのまま一気にハネを広げ、加速する。

「いゃっ…いやぁぁあー!!!」

少女はドラゴンのたてがみにしがみつき、抗議の声をあげるが、ドラゴンは久し振りの空を楽しむかの様に、上下や左右に揺れ、速度を上げたり落としたりして、飛翔した。

「ウム、ヒサカタブリニトンダガ、ヤハリソラハキモチガヨイ!」

「ちょっと…もっとゆっくり翔びなさいよ!」

少女は顔を真っ青にしながら、涙と鼻水で濡らし、今にも倒れそうな表情で、必死に抗議する。

「ナンダ?コムスメハソラガニガテデアッタカ。コレハヨイ、キノウノオカエシデアル!」

そう言うと、ドラゴンは、さらに速度と高度をあげる。適度に高度が高くなったところで、一気に降下し、さらに速度を上げながら嗤う。

「フハハハハハハーっ!ドウダ、マダマダコンナモノデハナイゾ!」

「許して、ごめん、ごめんなさいってばぁ…ばかぁ。」

「フム、デハマチニツイタラニクガクライタイナ。カピカピノデハナク、トビッキリジューシーナヤツヲダ!」

「分かった、分かったわよ!食べさせてあげるから!!!」

「ヤクソクダゾ。」

「えぇ、約束するから…だから速度を落として頂戴!」

「ナンダ…コリテイナイヨウダナ。」

「ご、ごめんなさい。私が悪かったわ!だから、速度を落としてください、お願いしますっ!」

「ウム、クルシュウナイ。ニクノケン、ワスレルデナイゾ。」

そう言うと、唐突にドラゴンは地面に降りる。ゆっくりと、優しく。

「どうしたのかしら?」

「ツイタゾ。」

「えっ?」

「ツイタゾ、コムスメ。ハヤクオリルガヨイ。」

そこは、レヴィンの街から少し離れた丘の上。
街にドラゴンが近づいて、要らぬ波風を立てない様にと配慮した結果だ。
そこから街までは、歩いて1時間といったところだろう。
周囲に人の気配は感じられず、一匹のドラゴンと、その横で真っ青の顔を涙と鼻水で濡らした少女。

「覚えてなさいよ!ヴェル、あんた今日ご飯抜きだから。」

「マテマテ、ヤクソクガチガウデハナイカ!」

「うるさいっ!この私をあんな目に合わせるなんて…。許さないんだからね!」

「ムムッ…ソレハコマル。ワレハハヤクニクガクライタイカラガンバッテトンダトイウノニ…。」

「とりあえず、さっさと街へ帰るわよ。早く小さくなりなさいな。」

小さくなったドラゴンを抱え、少女は街の入り口を目指して歩き出す。




レヴィンの街は、古くからあり、街の中はいくつもの歴史的建造物が建ち並ぶ。
東にある教会はもちろん、中央の時計塔、北に位置する町役場、そして、なんといっても街を守る防壁。
大昔は砦として建設され、何度も攻められるが、陥落したのは唯の一度しか無い。
それほどに強固な防壁を擁していたが、戦争が終わると、砦は放棄され、しばらくは人が寄り付かず、荒廃した。
そんな砦を、七英雄のひとり、フォンダン=レヴィンが私財を投資して再生させたのが、今からおよそ800年前。
その時に、砦は取り壊されたが、砦内に併設されていた教会を移設し、砦のシンボルでもあった時計塔を修繕し、独立した建物として甦らせた。
さらに、町役場を建設し、大昔から住民による自治が進んでいた。
その為、帝国に属してはいるが、他の街に比べると、割と自由な政策が行われている。

しばらく街に向かって歩き、もう少しで正門まで到着しようという時に、少女はふと、足を止めた。

「ねぇヴェル、あなた…人型になれないの?」

「シツモンノイトガワカラヌ、ドウシテワレガワザワザヒトノナリヲセネバナラン?」

「小さくてもドラゴンだからかしら?私が目を離した隙に攫われたら、堪ったもんじゃないわ。」

「ワレガモトノオオキサニモドッテ、クライコロセバヨカロウ?」

「ダメよ、騒ぎを起こしたら、この街に居られなくなっちゃうじゃない。」

「ヒトノカタチ…ウム、ムリデハナイガ。」

「それにね、ギルドの依頼、あなたが居たら、ソロでは受けられないのが受注できるのよ。」

「ワレニドノヨウナトクガアルノダ?」

「ソロでこなす依頼よりも報酬が高いの!あなたも自分の食い扶持ぐらい自分で稼ぎなさいな。」

「スルト…ワレハワレジシンノカネガモラエテ、ソノカネデジューシーナニクヲクライホウダイナノカ?」

「そうよ!もちろんあなたにもちゃんとお金は分けるわ。人型になってたら、自分で欲しいものも買えるわよ!」

「ソレハイイ!シカシ、コノスガタイガイノナリデイルト、スコシツカレルノダ…。」

「街の中だけで良いんじゃないかしら?それに、宿でとった部屋の中ではその小さい姿に戻っても問題ないと思うわ。」

「ウム、ワカッタ。デハ…。」

そう言うと、小さなドラゴンは、己の体内に魔力を集め、練り始めた。

ムムムムムーっ
ーーーーーーーーポンっ!

すると、白い煙の中から、小さなドラゴンに代わって、美女が姿をあらわした。

「ちょちょちょちょっ…ちょっと待って!ヴェル、あなた…女の子だったの?」

「なんだ?心外だな…。小娘には、この美しい美貌が見えていなかったのか?」

「分かった、分かったから、一回元に戻って!」

「なぜだ?」

「なぜって…あなた、裸じゃない!」

「服など持っておらぬからな、それがどうした?」

「分かったわ、とりあえず私が服を買ってくるから、それまで小さなドラゴンに戻りなさい。」

「そうか、仕方ないな。」

ムムムムムーっ
ーーーーーーーーポンっ!

先ほどと同じように、女性の辺り一帯が白い煙に包まれ、彼女に代わって、小さなドラゴンが姿をあらわす。

「フム、コレデヨイカ?ワレハサッサトヨウヲスマセテニクヲクライタイ!」

「あぁ…出費だわ。ヴェル、あなたの分の報酬から天引きするからね。」

「ナント、ソレハスコシコマル。ニクヲクラエルブンノカネハノコルノデアロウナ?」

「あなたまだ一度も依頼を受けてないでしょ?要は、あなたは、無一文なの!私が貸してあげるから、後できっちり返してもらうわよ!」

「ムムムっ…。デハナゼワレノザイホウヲモッテコナンダ?アレダケアレバソコソコカネニナッタダロウニ。」

「あれはあなたの思い出なんでしょ?お金では売れないわよ。」

「フム、デハソノウチカエスノデ、イマハフクトニクノブンノカネヲタテカエテオイテクレ。」

再び小さくなったドラゴンを胸に抱え、街の中に入る。ギルドに報告しに行こうと思ったが、少し混雑していたので、後回しにし、先に宿を見つけることにした。
ギルドが提携している宿や施設は、少し割引料金で使えるようになるので、しばらく歩いて、割引してくれる宿を探す。
ギルドと提携している店は、店の前や看板に、ギルドのマークが一緒に飾られているので、すぐに見つけることができる。
割引きは、ランクが上がれば上がるほどに大きくなっていき、割引分はギルドが負担してくれる。これは、冒険者がその分、ギルドに貢献しているという事と、ギルドに手数料を支払っていることが大きい。
手数料は大体一割から二割ほどかかるので、たくさん稼ぐ冒険者、つまり…ランクが高い冒険者ほど、手数料をたくさん支払っていることに帰属する。
手数料は、一応だが上限が決まっているので、ビックリするほど稼いでも、それを一割も取ろうなどとはギルドも考えていない。
嘗ては、こういう事もあったらしいが、あまりに馬鹿らしいと冒険者たちから文句を言われたので、その時に改定された。

「この宿で良いわね。部屋は空いてるかしら…。」

街の大通りに面していて、少し上品な宿を見つけた少女は、その看板にギルドのマークが付いていることを確認すると、扉を開けて中に入った。

「ごめんください、部屋は空いているかしら?」

「いらっしゃいませ、お客様。冒険者でいらっしゃいますか?」

「ええ、そうよ。はい、認識プレート。」

そう言うと、少女はカバンの中から『薄黒』のプレートを出す。
プレートにはしっかりと鎖が通してあり、首にかけることや腕に巻く事もできる。
しかし、身に付けるのが嫌なのか、少女はカバンにしまっているので、一見すると冒険者には見えない。

「これは…『薄黒』でいらっしゃいますか。ご希望のお部屋はございますか?」

「そうね、ベットが大きくて日当たりの良い大きな部屋が良いわ!」

「かしこまりました、それでは、5階の左奥の部屋をお使いください。」

宿の従業員が、部屋まで案内をしてくれる。
チップとして銅貨を渡すと、笑顔で部屋を出て行った。

「ふぅ…疲れた。喋っても良いわよ。」

「ウム、ハヤクフクヲカイニイコウデハナイカ!ソウデナケレバニクガクラエヌ。」

「はいはい、でもその前にギルドに行きたいから少しここで待っていて貰えるかしら?」

「ココロエタ、ハヤメニカエッテクルノダゾ。」

少女は、小さなドラゴンをベットの上に下ろすと、肩にかけていたカバンを机の上に置き、その中から認識プレートだけを手に持って部屋を出て行く。
できるだけギルドの建物に近い宿を選択した事もあって、すぐにギルドの建物へ着く。
建物の中へ入ると、先ほどよりはヒト数も少なくなり、カウンターへと向かうと、すぐに対応してくれた。

「こんにちは、ユーカ様。お早いお戻りですね。」

対応してくれたのは、初めて来た時と同じ女性だった。確か、名前は…オリービエだっただろうか。

「いえ、少し手こずりましたわ。山まで遠いのですもの。」

「確かに遠いですね、馬だと片道で2日ほどかかりますからね。では、プレートをお預かりします。」

「ええ、頼むわ。(あら…馬でもそんなにかかるのね。)」

「はい、確かに。確認いたしました。では、今回は緊急依頼という事ですので…えっと、はい、こちらが報酬になります。」

「こ…これだけなのかしら?」

「はい?結構な額だと思いますが?」

「だだだって…銅貨が8枚しか入ってないじゃないの!金貨や銀貨はどうしたのかしら!?」

「いえ、今回はそちらの報酬で全てです。内訳としましては、依頼料が銅貨6枚、緊急依頼としてのボーナスが銅貨2枚、しめて銅貨8枚です。」

「そう…なのね。分かったわ、ありがとう。(今度からは報酬の金額もしっかりと聞くべきね…。)」

「それでは、次の依頼を受注なさいますか?」

「いいえ、また後日お伺いするわ。それと、この辺りに銅貨2枚以内でわりと良い服の買えるお店はないかしら?」

「それでしたら、東通の青い壁のお店がオススメです!」

「東通…ここから遠いのかしら?」

「そうですね…歩いて10分ほどだと思います。」

「そう、ありがとう。それでは失礼するわ。」

そう言ってギルドを後にした少女は、建物を数歩出ると、頭を抱え、心の中で叫んだ。

(ちょっと!報酬がこんなに安いだなんて聞いてないわよっ!
いい宿に泊まっちゃったじゃない…お代、どうするのよ…。)

ちなみに銅貨は、貨幣の中で上からも下からも3番目で、そこそこ価値がある。
下から、『鉄貨』『青銅貨』『銅貨』『銀貨』『金貨』である。
100枚で一つ上のランクの貨幣と同じ価値があり、10枚で素材は同じだが、価値が高い高貨というものもある。
〈鉄貨100=高鉄貨10=青銅貨1 〉となる。
貨幣には穴が空いているのと空いていないのがあり、空いていない方は高貨となる。


(あぁーっ…従業員に銅貨なんて渡しちゃったわ。
そんなに価値が高かったのね…たかだか銅ごときが!)

頭を痛めながら、小さなドラゴンの待つ宿へと帰る。
これからさらに、頭が痛くなる事を知らずに…。







次回:第4話『借金』
お楽しみにお待ちください。

8月18日 21時に更新予定をしております。
感想や誤字脱字の指摘などなど
よろしければお願いし申し上げます。












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