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その6

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 南の出窓越しのカーテンの隙間から、日の光が差し込む。
 そんな古ぼけた宿屋の一角。
 これまたやはり古ぼけた木製のベットに少女が一人。
 気持ち良さそうに静かに寝息を立てて眠っている。
 平凡きわまりない情景だった。
「ふあ~ぁ」
 その少女が……。
 あっち行ってっ!(ナレーターはどかしておいてっと)
 わたしは主導権を取り戻すと、……じゃなくて。
 右手を上、左手を横にして、大きく伸びをしながら上半身を起こすのであった。
「わぁ~。すがすがしい朝」
 そのままベットから跳ね降りると、体を前に曲げたり、横に曲げたり、はたまた足を伸ばしたりと、軽く準備運動のようなことをしてみる。
「よし!今日も絶好調」
 トントン
 タイミングよく、入り口のドアを叩く音がする。
「はぁい」
 元気よく返事をするわたし。
「あ、やっと起きたか。ちょうど昼の用意が整ったから、下の食堂に来てくれって」
「はいはぁい」
 昼?
 ――ということは何?
 半日以上眠ったままだったわけ?
 いや、もしかして、よく物語りにありがちな、一週間も目を覚まさずに眠り続けていた。
 とか?
 あっ!
 それよりベスクードはどうなっちゃったの?
 わたしが無事ここにいるってことは、勝ったのかなぁ?
 それとも、これも幻覚だったりして。
 まぁ、そんなことはどうでもいっか!
 ランスに聞けば分かることだし。
 それよりも、まずは御飯だよねっ!
 勝手に疑問を投げかけて、自分で適当に流してしまったわたし。
 身だしなみも上の空で、一つしかない今にも穴の開きそうな階段を駆け下りた。

 昼下がりの、宿屋にただ一つある食堂。
 いつもはガランガランであるのに、この時ばかりは缶詰か何かのように人々でごった返していた。
 テーブルなどのある部屋の裏で、宿屋のお婆ちゃんがいつになくあたふたしている。
 臨時だろうか。
 そんなお婆ちゃんの指示を受けて、数人の女性達が料理の盛られた皿や、空になった皿を慌ただしく運んだりしている。
 そんな女性達は、お婆ちゃんよりは遥かに若いが、わたしよりはかなり長い年月を生きているような人達だった。
「どうしちゃったの?これ」
 わたしは、階段の中途で立ち止まり、あっけらかんとして下の階段脇にいるランスに訊いた。
「どうしちゃったって。見てわかるだろ!」
 少々大きな声での、そんな二人の会話の中。「お~っ!主役のティファナちゃんの登場だぞぉ~っ!」
 ワイシャツに蝶ネクタイをつけた、ちょっと?(かなり……?)太めのいかにも陽気そうなおじさんが、皆に向かってそう叫んだ。
 ちょび髭を生やし、右手に持ったビールジョッキを掲げて。
 おおおおぉぉぉ~
 一斉に歓声が沸き上がった。
「へっ?」
 一人何が何だかわからず、目を白黒させるわたし。
 と、先程の太っちょおじさんがわたしの元にやって来て、
「お~い、皆の衆。ベスクード打倒一番の功労者。ティファナちゃんから一言あるから静粛に!」
 そう言って、皆を静めた。
「ささ、ティファナちゃん。皆に何か一言言ってやってくれないかい」
 そして、わたしに手を差し伸べ促すのだ。
 ん~。
 急にそんなこと言われたってぇ。
 それに、そこまでされて遠慮しておきます。とも言えないし。
「ねぇ、ランス。何を言えばいいの?」
 またまた階段脇にいるランスに訊いたのだった。
 ただし、今度は小声で。
「そだな。昨日の感想でも言えばいいんでないの」
「感……想?」
「そ、大変だったとか、痛かったとか……」
 うん!
 一つ大きく頷き返して、わたしは再び皆の方を見た。
 皆、期待に満ちた眼差しでわたしの方を見ている。
 とたんに頭の中が真っ白になっちゃって、顔なんか真っ赤。
 ――だと思う。
 そして、開口一番、
「おつかれさまでした!」
 そう大声で口にし、お辞儀をしたのだった。
 後はそのまま成り行きに身を任せるのみで、何をどう言ったのか、さっぱり記憶の中から抜けていた。
 ただ、大歓声が上がったのだけは、おぼろげながら頭の片隅に残っている。
  乾杯の音頭をお馴染み太っちょおじさんがとって、皆が再び騒ぎだすのに、そう長い時間は要らなかった。
「なぁ、ティファナ」
「ん?何」
 わいわいがやがや。
 騒ぎだした食堂で、わたしもランスと一緒に食事をとっていた。
 みんなにいろいろと質問をされたりもしたが、とりあえず食事をとってからということにしてもらって。
「あの最後の呪文。あれ、噂に聞く古語魔法だったのか?」
 古語魔法。
 それは、神話となった古の光と闇の戦争で、光のものが使ったとされる大魔法のことだ。
 それは、圧倒的な力を誇った闇の力を凌ぐほどであったという。
 わたしでもこのくらいのことは知っている。
 子どもの頃に嫌っていうほど、勉強させられたから。
「ううん。違うの。最後のあれって、実は呪文でもなんでもないの。」
「へ?」
「ロシュエさんに自然を味方につけろってアドバイスもらって。ただ何となくああ言うふうに言った方が、気持ちが伝わるんじゃないかなって。そう思って……」
「呪文て、そんなもんなのか?」
 ランスがあっけらかんとして呟く。
「どうなんだろね?」
 そんなランスに対し、わたしは何となく笑顔を返した。
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