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その1
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「あぶねー!!」
その言葉を最後に、わたしの意識はこの場から遠退いていった。
よく物語にはありがちだけど。
やっぱりわたしも気がついた時には、小さな小屋のベッドの上に横たわっていたのよね。
あれから一年……ちょっと。
小さな山村を救おうとしたのだけれど。
ちょっとしたミスで村をめちゃめちゃにしちゃって、逃げるように村を出てきたりとか。
モンスターと一緒に魔法でちょこっと?(実は大火事になってたりして……)森を焦がしちゃったりとか……。
まぁ、いろいろとあったわけだけれど、その話はまたおいおい話してゆくとして……。(たぶん……?)
そういえば、まだ自己紹介してなかったよね。
改めて、申し遅れましたが、名を「ティファエル・ケル・シルナ」と申します。
でも、普段は「ティファナ」って呼ばれてる。
年は一六歳!身長は一五二センチ。
体重は……内緒っ!
凹凸の少ない平べったい顔に、少し大きめの目と小っちゃな鼻。
それと、ありきたりなちょこっと小さめの口。
十六には見えないほどの童顔でもある。
髪の色はほっとんど黒で、後ろ首のあたりを赤いリボンで束ねている。
長さは、背中の真ん中あたりまで。
瞳の色も髪と同じような色かな。
スタイルは……、悔しいけどやっぱりまだまだ子供かなぁ。
首が半分以上隠れるくらいの黄色がかった色の布の服。それに茶色の革の靴といった、年頃の女の子にしては地味な服装なの。
本当は、もっと可愛らしい服とか着たいんだけど。
明るさが取り柄だけの、ごくごく普通の女の子。
いや、実は魔法を扱うことの出来る、ごくごくまれな女の子。
けれど、才能はあっても、やっぱり練習や訓練はしなくちゃね。
―――と、いうわけで、今のところは滅多に成功しないという程度の実力しかないの。
だから、一応ショートソードも持っているにはいるのだけれど、完全に足手まといだね。
でもでも、本人はいつだって一生懸命頑張ってるつもり……なのです。
生まれは、南を海が、北を山が覆っている、ちょっとした田舎町っぽいところだった。 煉瓦造りの建物の多い、全体的に赤みがかった町なものだから、海の青、山の緑にうまく調和していて、船上から見るとなんとも美しい風景で。
自慢じゃないけど、風光明媚な町として、五本の指に入るって言われてるんだ。
と、いうわけでって、何が「と、いうわけ」なんだかわからないけれど。
いろいろあって、今はオステオとランスという頼もしい二人と一緒に旅をしてるんだ。
出会いは、今から一年くらい前。
頭が狼、胴体が人間であるワーウルフと言われる半人半獣のモンスター五、六体に囲まれちゃって。
そうそ、そいつらったら、舌をだらぁ~とさせ、よだれを垂らしながら、わたしにじりじり近づいてきたんだよね。
その時は家から飛び出してきたばかりで、たいした魔法も知らず、大ピンチっ!だったの。
その時に、助けてくれたのが、この二人ってわけ。
気失ちゃってたから詳しいことは、後で聞いただけだけど、かなり大変だったらしいよ。
小屋まで連れてくの。
すごく遠くて……。
それで、かわゆい?女の子の一人旅は危険だからって言うので、こうして三人で旅するようになったの。
ちなみに、あえて役職をつけるなら戦士にあたるオステオは、一八歳で、身長は一八〇センチ後半くらい。
だから、わたしと並ぶと三十センチくらいの差があるんだよね。
まるで、大人と子どもみたいに。
あと、肩幅が広くてけっこう体格がいい。
体重は、見た目では九十キロ近くあるのかなぁ。
鼻が高く、引き締まった顔。
めちゃくちゃ二枚目だ。
髪の色は真っ黒で、耳にかかるほどにまで伸びている。
普段は、ぼさぼさに見えるのだけれど、本人はあまり、気にしてはいないらしい。
瞳はグレーっぽいかなぁ?
かなり重そうな青のアーマーをいつも身につけ、腰には自慢のロングソードをぶら下げている。
性格はめちゃくちゃいい奴なのだけれど。
表現が悪いのか、何なのか……。他人のフォローとか何やらがすんっごく下手。
でも、やっぱり頼りになる我らがリーダー。
剣技にかけては、かなりの腕を持っている。とわたしは思っているのだけれど。
ランスもやっぱり一八歳で身長は一七〇センチくらいかな?
で、こちらはシーフって感じで(って、どんな感じなんだっ?)、スラリとしてる。
体重は、わたしと似たか寄ったかだって言ってたけど。
ちょっとした三枚目に近い顔をしてはいるものの、それなりに整ってはいる。
少々あどけない幼さを残した顔だ。
髪は金に近い茶。前髪がつんつんしてる。
瞳はライトグリーンのような……。
とっても、とっても派手、と言ったら悪いかもしれないけれど。そんな風貌をしている。
でも、そんな風貌とは裏腹に、服装はいたって地味。
本人はシーフだって言い切ってるけど。
実際は、ただ単に罠を外したり、という手先の器用さと、その体型から想像出来る身の軽さ。
それだけ。
他人の物を盗んだりなんて絶対にしない!という誠実さ。
どっちかって言うと、忍びに近い性質なのかもしれない。
七つ道具は、いつも欠かさずに持っている。
ちっちゃな鞄にどうやったら入るのか不思議なくらいにたくさん。
また、それが戦闘時の武器にもなるんだって。
その他にもいろいろと小道具があるらしいのだけれど。
何でも二人は幼なじみなんだそうだ。
性格が正反対だから、大きな喧嘩もせずに今までうまくやってこれたって、本人たちはいってるけれど。
わたしは、それだけじゃなく二人が互いの欠点をうまいこと補い合っているからなんだと思う。
「お~い。夕飯出来たぞーっ!」
あ、呼んでる、呼んでる。
あの声はオステオだな。
「ハァ~イ。今行きますよーっ!」
へへっ、ご飯ご飯っ!
あ、別にいつも作ってもらってるわけじゃないからね。
たまたま今日は、ちょっとした賭にかって、特別にオステオとランスが担当してるだけで……。
と?わたしはテントから出ると、夕飯の待つ元へと駆けていった。
今は夜。
外は真っ暗闇。
明かりといえば、焚き火の炎だけ。
そんな感じだから、互いの顔は赤々とちらつく程度にしか見えない。
「かぷりっ!あー、おいしーっ!この肉」
前言撤回(かわゆい女の子って言ったことね)。
わたしは大口を開けて肉にかぶりついた。
ハハ……、いつもながら二人があきれたぁーて顔でこっち見てる。
「食べるのもいいけどさぁー、ちょっとは……」
「もぐもぐ……わかってますよぉー」
いつもの調子で、肉にかぶりつきながらランスの言葉を遮った。
言いたいことは、わかってる。
でも、わたしは全然そんな気はないよ。
それは、勝手に家を飛び出してきて、置き手紙一つで一年以上も戻ってないんだから、ちょっとは家族も心配してるとは思うけど。
でも、でも、あんな家絶対にかえりたくないっ!
「わかったよ。もう言わない。だから、そんな顔するなよ」
ぷーっとふくれた顔を見て、ランスも観念したらしい。
「ホント……に?」
「ああ、ホントだ」
「ホントにホント……?」
「ホントにホントだ!」
「ホントにホントにホントっ?」
「ホントにホントにホントだっ!」
ん~、怪しいもんだ。
でも、まっいっか。
心配してくれてることは、確かだし。
「よし、じゃ食べよっと」
ナハハ……。花より団子ってこのことかな?
わたしは、再び肉にかぶりついた。
翌朝――。
辺りは、薄く霧が立ちこめている。
きっと、こういう日にはよくないことが起こるんだよね。
物語の展開としては……。
「おいっ!ティファナっ!いい加減に起きてくれよ~」
「ティファナァー……」
ランスとオステオの疲れたぁ~って声が静まり返った森の中に響く。
「んがぁっ!むにゃむにゃ……ぐ~……」
そんな二人の願いもむなしく、ホントよく眠ること。
この子は……。
この寝起きの悪さはパーティー中随一。
「よっこらしょっと」
二人は、もう観念してティファナのことには目もくれず、せっせとテントなどを片付け始めた。
「ハックシュンっ!う~寒い~……」
寝ぼすけのティファナも、テントをはがされ、早朝の外に放り出されたもんだから、たまらず目を覚ました。
「おはよ。やっと起きたか」
とぼけた顔してランスが答える。
「あのね。やっと起きたかって、まだ人が気持ちよく寝てるっていうのに……」
たく、なんて人たちだ。まったく。
かわゆいゆいの女の子がまだおやすみになってるっていうのに。
「俺たちは、ちゃんと起こしたぞ。なぁ、ランス」
「ああ、な・ん・ど・も……ね」
「……」
う~、何も言えない。
わたしの寝ぼすけは、折り紙付きだし。
おまけに方向音痴(これは関係ないか?)。
よくこれで、今まで無事でいられたものだ。
一人旅だったら、今頃「麗しの世界よ、さよ~なら~……」とか、何とか言って、三途の川あたりで溺れているんじゃないかなぁ?
よく?人の出会いは十の四六乗分の一だって言われてるけど、わたしはこの二人に出会って、すごくラッキーだったと思ってる。
ホントだよ。
だって、こんなにわたしのこと心配してくれてるし……。
「ね、朝食まだ?」
さっきのことは、とぼけるとして、心機一転明るく言った。
「えっ、朝食ならもう食べ終わったよ」
―――あれっ? さっきのラッキーだったてのカットね。
む……怒ったぞ。
「あ~お腹すいた、お腹すいたぁっっっ!!」
「わぁった、わぁった。ちゃんとあるよ。ティファナの分も」
冗談だよぉってな顔で、慌ててオステオが言った。
あら、けっこうあっけなかったね。
事に乗じて思いっきりだだこねてやるぅって思ってたのに。
ちょっと残念。
でも、ま、いっかぁ!
「ラッキーっ!もう、ホント死ぬかと思ったよ。」
「たく、大げさだなぁ」
まぁた、呆れたぁって顔でこっち見てる。
ニャハっ!
やっぱ朝食はしっかり取らなきゃね。
ピョンピョンと軽い足どりで朝御飯の元へと向かった。
「たく、いつまでたっても子供だな。ティファナは」
「ほんと、ほんと。む……」
んっ!ランスの一言をわたしは聞き逃さなかった。
「む……が、何だってっ!」
思いっきりランスを睨んでやった。
どうせ、また胸が小さいのだとか、童顔だとか、寸胴だとか。
そんなことを言おうとしたに決まってる。
が、
「いや、むか~し、昔……」
むちゃくちゃ苦しいボケをするランス。
「おまえは、じいさんかっ!」
ランスの頭を一つ、軽くだけど叩いた。
もう、人が気にしていることを……。
そりゃまぁ、一六の他の女の子はもっともっとグラマーかもしれないけれど。
でも、でも……。
ま、どうでもいいや。
とりあえずご飯ご飯っ。
その言葉を最後に、わたしの意識はこの場から遠退いていった。
よく物語にはありがちだけど。
やっぱりわたしも気がついた時には、小さな小屋のベッドの上に横たわっていたのよね。
あれから一年……ちょっと。
小さな山村を救おうとしたのだけれど。
ちょっとしたミスで村をめちゃめちゃにしちゃって、逃げるように村を出てきたりとか。
モンスターと一緒に魔法でちょこっと?(実は大火事になってたりして……)森を焦がしちゃったりとか……。
まぁ、いろいろとあったわけだけれど、その話はまたおいおい話してゆくとして……。(たぶん……?)
そういえば、まだ自己紹介してなかったよね。
改めて、申し遅れましたが、名を「ティファエル・ケル・シルナ」と申します。
でも、普段は「ティファナ」って呼ばれてる。
年は一六歳!身長は一五二センチ。
体重は……内緒っ!
凹凸の少ない平べったい顔に、少し大きめの目と小っちゃな鼻。
それと、ありきたりなちょこっと小さめの口。
十六には見えないほどの童顔でもある。
髪の色はほっとんど黒で、後ろ首のあたりを赤いリボンで束ねている。
長さは、背中の真ん中あたりまで。
瞳の色も髪と同じような色かな。
スタイルは……、悔しいけどやっぱりまだまだ子供かなぁ。
首が半分以上隠れるくらいの黄色がかった色の布の服。それに茶色の革の靴といった、年頃の女の子にしては地味な服装なの。
本当は、もっと可愛らしい服とか着たいんだけど。
明るさが取り柄だけの、ごくごく普通の女の子。
いや、実は魔法を扱うことの出来る、ごくごくまれな女の子。
けれど、才能はあっても、やっぱり練習や訓練はしなくちゃね。
―――と、いうわけで、今のところは滅多に成功しないという程度の実力しかないの。
だから、一応ショートソードも持っているにはいるのだけれど、完全に足手まといだね。
でもでも、本人はいつだって一生懸命頑張ってるつもり……なのです。
生まれは、南を海が、北を山が覆っている、ちょっとした田舎町っぽいところだった。 煉瓦造りの建物の多い、全体的に赤みがかった町なものだから、海の青、山の緑にうまく調和していて、船上から見るとなんとも美しい風景で。
自慢じゃないけど、風光明媚な町として、五本の指に入るって言われてるんだ。
と、いうわけでって、何が「と、いうわけ」なんだかわからないけれど。
いろいろあって、今はオステオとランスという頼もしい二人と一緒に旅をしてるんだ。
出会いは、今から一年くらい前。
頭が狼、胴体が人間であるワーウルフと言われる半人半獣のモンスター五、六体に囲まれちゃって。
そうそ、そいつらったら、舌をだらぁ~とさせ、よだれを垂らしながら、わたしにじりじり近づいてきたんだよね。
その時は家から飛び出してきたばかりで、たいした魔法も知らず、大ピンチっ!だったの。
その時に、助けてくれたのが、この二人ってわけ。
気失ちゃってたから詳しいことは、後で聞いただけだけど、かなり大変だったらしいよ。
小屋まで連れてくの。
すごく遠くて……。
それで、かわゆい?女の子の一人旅は危険だからって言うので、こうして三人で旅するようになったの。
ちなみに、あえて役職をつけるなら戦士にあたるオステオは、一八歳で、身長は一八〇センチ後半くらい。
だから、わたしと並ぶと三十センチくらいの差があるんだよね。
まるで、大人と子どもみたいに。
あと、肩幅が広くてけっこう体格がいい。
体重は、見た目では九十キロ近くあるのかなぁ。
鼻が高く、引き締まった顔。
めちゃくちゃ二枚目だ。
髪の色は真っ黒で、耳にかかるほどにまで伸びている。
普段は、ぼさぼさに見えるのだけれど、本人はあまり、気にしてはいないらしい。
瞳はグレーっぽいかなぁ?
かなり重そうな青のアーマーをいつも身につけ、腰には自慢のロングソードをぶら下げている。
性格はめちゃくちゃいい奴なのだけれど。
表現が悪いのか、何なのか……。他人のフォローとか何やらがすんっごく下手。
でも、やっぱり頼りになる我らがリーダー。
剣技にかけては、かなりの腕を持っている。とわたしは思っているのだけれど。
ランスもやっぱり一八歳で身長は一七〇センチくらいかな?
で、こちらはシーフって感じで(って、どんな感じなんだっ?)、スラリとしてる。
体重は、わたしと似たか寄ったかだって言ってたけど。
ちょっとした三枚目に近い顔をしてはいるものの、それなりに整ってはいる。
少々あどけない幼さを残した顔だ。
髪は金に近い茶。前髪がつんつんしてる。
瞳はライトグリーンのような……。
とっても、とっても派手、と言ったら悪いかもしれないけれど。そんな風貌をしている。
でも、そんな風貌とは裏腹に、服装はいたって地味。
本人はシーフだって言い切ってるけど。
実際は、ただ単に罠を外したり、という手先の器用さと、その体型から想像出来る身の軽さ。
それだけ。
他人の物を盗んだりなんて絶対にしない!という誠実さ。
どっちかって言うと、忍びに近い性質なのかもしれない。
七つ道具は、いつも欠かさずに持っている。
ちっちゃな鞄にどうやったら入るのか不思議なくらいにたくさん。
また、それが戦闘時の武器にもなるんだって。
その他にもいろいろと小道具があるらしいのだけれど。
何でも二人は幼なじみなんだそうだ。
性格が正反対だから、大きな喧嘩もせずに今までうまくやってこれたって、本人たちはいってるけれど。
わたしは、それだけじゃなく二人が互いの欠点をうまいこと補い合っているからなんだと思う。
「お~い。夕飯出来たぞーっ!」
あ、呼んでる、呼んでる。
あの声はオステオだな。
「ハァ~イ。今行きますよーっ!」
へへっ、ご飯ご飯っ!
あ、別にいつも作ってもらってるわけじゃないからね。
たまたま今日は、ちょっとした賭にかって、特別にオステオとランスが担当してるだけで……。
と?わたしはテントから出ると、夕飯の待つ元へと駆けていった。
今は夜。
外は真っ暗闇。
明かりといえば、焚き火の炎だけ。
そんな感じだから、互いの顔は赤々とちらつく程度にしか見えない。
「かぷりっ!あー、おいしーっ!この肉」
前言撤回(かわゆい女の子って言ったことね)。
わたしは大口を開けて肉にかぶりついた。
ハハ……、いつもながら二人があきれたぁーて顔でこっち見てる。
「食べるのもいいけどさぁー、ちょっとは……」
「もぐもぐ……わかってますよぉー」
いつもの調子で、肉にかぶりつきながらランスの言葉を遮った。
言いたいことは、わかってる。
でも、わたしは全然そんな気はないよ。
それは、勝手に家を飛び出してきて、置き手紙一つで一年以上も戻ってないんだから、ちょっとは家族も心配してるとは思うけど。
でも、でも、あんな家絶対にかえりたくないっ!
「わかったよ。もう言わない。だから、そんな顔するなよ」
ぷーっとふくれた顔を見て、ランスも観念したらしい。
「ホント……に?」
「ああ、ホントだ」
「ホントにホント……?」
「ホントにホントだ!」
「ホントにホントにホントっ?」
「ホントにホントにホントだっ!」
ん~、怪しいもんだ。
でも、まっいっか。
心配してくれてることは、確かだし。
「よし、じゃ食べよっと」
ナハハ……。花より団子ってこのことかな?
わたしは、再び肉にかぶりついた。
翌朝――。
辺りは、薄く霧が立ちこめている。
きっと、こういう日にはよくないことが起こるんだよね。
物語の展開としては……。
「おいっ!ティファナっ!いい加減に起きてくれよ~」
「ティファナァー……」
ランスとオステオの疲れたぁ~って声が静まり返った森の中に響く。
「んがぁっ!むにゃむにゃ……ぐ~……」
そんな二人の願いもむなしく、ホントよく眠ること。
この子は……。
この寝起きの悪さはパーティー中随一。
「よっこらしょっと」
二人は、もう観念してティファナのことには目もくれず、せっせとテントなどを片付け始めた。
「ハックシュンっ!う~寒い~……」
寝ぼすけのティファナも、テントをはがされ、早朝の外に放り出されたもんだから、たまらず目を覚ました。
「おはよ。やっと起きたか」
とぼけた顔してランスが答える。
「あのね。やっと起きたかって、まだ人が気持ちよく寝てるっていうのに……」
たく、なんて人たちだ。まったく。
かわゆいゆいの女の子がまだおやすみになってるっていうのに。
「俺たちは、ちゃんと起こしたぞ。なぁ、ランス」
「ああ、な・ん・ど・も……ね」
「……」
う~、何も言えない。
わたしの寝ぼすけは、折り紙付きだし。
おまけに方向音痴(これは関係ないか?)。
よくこれで、今まで無事でいられたものだ。
一人旅だったら、今頃「麗しの世界よ、さよ~なら~……」とか、何とか言って、三途の川あたりで溺れているんじゃないかなぁ?
よく?人の出会いは十の四六乗分の一だって言われてるけど、わたしはこの二人に出会って、すごくラッキーだったと思ってる。
ホントだよ。
だって、こんなにわたしのこと心配してくれてるし……。
「ね、朝食まだ?」
さっきのことは、とぼけるとして、心機一転明るく言った。
「えっ、朝食ならもう食べ終わったよ」
―――あれっ? さっきのラッキーだったてのカットね。
む……怒ったぞ。
「あ~お腹すいた、お腹すいたぁっっっ!!」
「わぁった、わぁった。ちゃんとあるよ。ティファナの分も」
冗談だよぉってな顔で、慌ててオステオが言った。
あら、けっこうあっけなかったね。
事に乗じて思いっきりだだこねてやるぅって思ってたのに。
ちょっと残念。
でも、ま、いっかぁ!
「ラッキーっ!もう、ホント死ぬかと思ったよ。」
「たく、大げさだなぁ」
まぁた、呆れたぁって顔でこっち見てる。
ニャハっ!
やっぱ朝食はしっかり取らなきゃね。
ピョンピョンと軽い足どりで朝御飯の元へと向かった。
「たく、いつまでたっても子供だな。ティファナは」
「ほんと、ほんと。む……」
んっ!ランスの一言をわたしは聞き逃さなかった。
「む……が、何だってっ!」
思いっきりランスを睨んでやった。
どうせ、また胸が小さいのだとか、童顔だとか、寸胴だとか。
そんなことを言おうとしたに決まってる。
が、
「いや、むか~し、昔……」
むちゃくちゃ苦しいボケをするランス。
「おまえは、じいさんかっ!」
ランスの頭を一つ、軽くだけど叩いた。
もう、人が気にしていることを……。
そりゃまぁ、一六の他の女の子はもっともっとグラマーかもしれないけれど。
でも、でも……。
ま、どうでもいいや。
とりあえずご飯ご飯っ。
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