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魔法省で臨時メイドになりました

紫の服の人

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顔を向けると、心外だというようにムッとした顔の男性がこちらを見ていた。

「レオちゃんが寝ないで頑張るって言うから、応援したの!」
「応援、ですか?」
「そうよ、辛いものを食べると元気になるし眠気もなくなるんだから」
「いや、程度があるかと」

確かに辛いものって刺激だから目は覚めるだろうけど、辛いもの苦手な人にはただの嫌がらせでしかないという根本と、ほどほどの使用にしないと胃とかの消化器官に支障が出るわけで。
というか腹痛で皆様倒れたって多分それでしょう?
思わず突っ込めば、男性は小馬鹿にするように鼻で笑った。

「ふん、わかってないのね。アンタが噂のレオちゃんのメイドでしょう。いくら王家のメイドだからって、食事にまで口出しするんじゃないわよっ」

それを言うならそもそも魔法使いだろう男性の方が食事にあれこれ言うのがおかしいような……あれ、この人もしかして魔法省担当の料理人だったりするの?
とりあえず確認をとレオナール様に問いかける。

「レオナール様、こちらの方は?」
「ヴィル、ヴィルフェルム・デュランタ。魔法省で魔法研究をしている」
「レオナール様の同僚の方、ということですか。レオナール様がヴィルと愛称で呼ばれるほど、仲はいいのですね」
「……仲が、いい、のかな」

歯切れの悪い返事だけど、だって苦手な辛いものを散々おっつけられても愛称で呼べるなら仲良しなんじゃないかな?
レオナール様の友達認識がとんでもないことは知ってるから、ヴィルさんも友達って呼んでいいような……だって、レオナール様にとって友達は相手が宣言しないと成立しないんだもの。だからレオナール様の友人と呼べるのは魔法省の同僚である火の魔剣を操るウィレムさんと、その相棒で後輩のグリフィンを操るセドリック君だけなんだって。
この事実が知られたら、絶対ルーカスさんとか突撃してくるんだろうな……
首を傾げる仕草がなんだか可愛らしくて内心ほんわかしていたら、不満そうな声が聞こえる。

「ちょっと! ヴィルじゃないって言ってるでしょ!」
「……ヴィル」
「ちがーう! もう、仕方ないわね」

ふぁさっと優雅に髪をかきあげたヴィルさんは、私を見て口を開く。

「レオちゃんのメイド、よーく覚えておきなさい。私を呼ぶ時は、ヴィオラって呼ぶのよ!」
「ヴィオラ?」

胸を張るヴィルさんに目を丸くすれば、酷く不機嫌な顔になった。

「なによ、文句あるの?  私がヴィオラと呼んでほしいって言ってるんだから、別に」
「あ、いえ……申し訳ありません、知人と同じ名前だったので驚いてしまって」

私の知るヴィオラさんはキールさんの契約者で雷の精霊さんだ。綺麗でまっすぐで主のために自分の手を汚すことを厭わない残酷なまでの一途さを持つ美女を脳裏に思い浮かべて小さく微笑む。彼女もまた、ヴィルさんと同じように紫の髪をしていたんだよね。
少し前、魔力を持った子供たちが国中で行方不明になる事件があった。その首謀者はスタウト・ウィンター、魔法省の次席……二番目に偉い役職についていた侯爵家の次男で、邪神を信仰する教団と手を組んでいた。キールさんはスタウトの異母兄弟で、魔力と契約者であるヴィオラさんをスタウトに貸していたんだ。
スタウトは自分の所業を調べていたレオナール様を牽制するために私を攫って人質にしようと考えていたみたいで、だけどキールさんも私と話したいと思っていたからヴィオラさんはキールさんのところへ私を連れて行こうとした。
割と過激に攻撃してきたりもしてちょっと怖かったけど、ヴィオラさんがどれだけキールさんを好きで守りたいのかもわかったし、キールさんも謝ってくれたから今は特にわだかまりもなく二人を思うことができる。
一通り調べを終えた二人は、償いとして王太子直属の配下になり各地に派遣されるのが決まっていた。栄誉を得たように思えるけど、これから一生監視されるということでもある。王太子の機嫌一つで生殺与奪が決まるかもしれない恐怖ーーまあいきなりそういうことをする方ではないけれど、そういうのをすべて受け入れて一生を国に尽くせと言われているんだ。
そのためにまずは体を回復させる必要があったんだけど、今はどこまで進んだのかな。前に話を聞いた時には歩行訓練開始したって言ってたから、今は杖つきで歩けるのかもしれない。
そう考えていると、いつの間にかヴィルさんが微妙な顔をして私を見ていた。

「申し訳ありません、つい考え事を」
「……アンタの知り合いと同じ名前なのは予想外だったわ。でも、私だってヴィオラと呼ばれたいのよ」
「リリー、ヴィルでいい」
「ヴィオラだって言ってるでしょ!」

レオナール様にさらりと言い切られて再び怒り出すヴィルさんを見つつ、どうしたものかと考える。
そもそもさっきから気になっていたんだけど、もしかしてヴィルさんって女性になりたい系男子ですか? いや、いいんだけど、別に偏見とかないしそれならそれで接するだけだけど。
んー、でも、一概にそうとも言い切れない、のかな?
違和感があるんだよね……こう、そこはかとないわざとらしさというかさ。
ちょっと自信がないけど、考えつつ軽く一礼する。

「改めてご挨拶をさせていただきます。はじめまして、リリー・ルージャと申します。お名前を呼ぶにあたりひとつだけ、お伺いさせてただいてもよろしいでしょうか?」
「なによ」
「それほどまでにヴィオラと呼ぶようにおっしゃられるのは、紫色がとてもお好きだから、でしょうか」

そう言ったら、ヴィルさんの目が大きく見開かれた。
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