109 / 123
魔法省で臨時メイドになりました
恋する者
しおりを挟む
そんなわけでついに王女様がいらしたわけですが、来た早々にアランが恋人宣言で牽制するとは流石に思わなかった。もうちょっとオブラートに包んだ言い方にするとか、なんかあるじゃない。
それを、外交にヒビが入ると仕事が増えるからって物凄く嫌がるアランが真っ先に言い出すとか、予想外でびっくりした。
「遠路はるばるよく参られた、我が国は美しき姫君を歓迎する」
アランが王女様を案内した先、謁見室で待っていたのは我らが王太子夫妻だ。仕事を抜け出したのだろう、他国の王族を迎えるにしては軽装だけど、王太子が着ると華美なものよりも堂々として見えるのだから凄い。その隣で、薔薇色のドレスを身につけたお嬢様もにっこりと微笑んでいる。
それに対する王女様もまた、麗しい微笑みを浮かべて礼を取った。
「予定より早い訪問となりましたが、快くお迎えくださいましてありがたく思います。この先も我が国と貴国の良き関係を続けられるようにと、我が国王より言付けられております」
「しかと受け取りました。私共としても同じ願いを持つ所存……この先も共に歩めればと思います」
この会話だけだと普通の「お互い仲良くしようねー」ってだけに聞こえるんだけど、副音声が本当に酷い。
良き関係を続けられるようにって、遠回しに縁組みしようぜってお誘いなんだよね。向こうの国王からって言いつつ王女様が予定より早く来たのは、この王女様とそちらの国とで縁組みしようって現れなんだ。
王女様がレオナール様を望んでいるのは周知のことだとすると、向こうの国王は王女の望む相手であるレオナール様が欲しいって言ってるわけだ。
で、それに対して王太子の返答が、この先も共に歩めればと思います、でしょう? 一見肯定に思えるけど、実際はこの先も思うだから、その縁組みは拒否させていただきたい的なニュアンスになるんだよね。
ああやだ、本当にもう私の身分メイドなんだからね。王太子とアランが面白がって巻き込みまくるから一通りの政治わかるようになっちゃったことの方がおかしいし、この副音声聞き取って理解出来るのもおかしいんだってば!
「今回の滞在中、王女にリリーをつけることが出来る。これまで王女自身に動かせてしまい、申し訳なかったな」
「あ、いえ。状況はきちんとご説明いただいておりましたので……あの、差し出がましいのですが、王家のメイドと呼ばれるような方についていただくまでもないかと思いますわ」
「あら、どうして?」
遠回しに私を遠ざけようとする王女様だけど、ストップをかけるのはお嬢様だ。
「未婚の、それも王女殿下を男性の多い場所に一人で行かせることの方が、王家のメイドを呼び寄せるよりもずっと恥ですもの。むしろこれまでが、きちんと出来ていなかった私共の落ち度ですわ……ねえ、殿下?」
「そうだな。外せぬ仕事を頼んで出向させてしまった我らの手配の落ち度だ。優秀さゆえに色々と頼みすぎてしまっていた部分もあったしな」
お嬢様の言葉に頷く王太子。さりげなく私を優秀とか、これ以上プレッシャーかけられても辛いんだけど。
まあ、王女様には牽制になったの、かな?
「リリー、王女殿下のことを頼む。母親として生きたいと望むお前の意向を汲んでやれなくてすまない」
「もったいないお言葉です」
うん、完全に牽制だけど、王太子がよその王族の前で部下に謝らないでください。ほら、王女様が目をまん丸にされているじゃありませんか。
「母親、ですか」
「レオナールが引き取った娘がいるんだが、その母親代わりとして派遣したのがはじまりだ」
「お仕事で母親をされていると?」
なんとも微妙な反応をされてしまったけれど、そこだけ聞くとそうなるよね。
反応に困るというような顔をしている王女様に、私は小さく苦笑して。
「リリーは、最初こそ仕事でも、今は僕の大事な家族」
待ってー、そういった説明をレオナール様がしないでー。絶対ややこしくなるからやめてー。
「ジルも懐いてるし、僕とリリーを親として慕ってくれている。リリーじゃなきゃ、駄目」
「……信頼しておられますのね」
可愛らしい唇から紡がれた声は微かに震えているけれど、王女様は微笑みを浮かべて私を見る。
「さぞや立派なお母様なのでしょう、いつかのために私も見習わせていただきたいですわ。今度ゆっくりお話を聞かせてくださいね」
……普通に考えて王女様が私のやり方を見習う必要はないわけで、これそこはかとなくレオナール様の隣は自分のものだっていうアピールなのかしら?
「晩餐までは自由にされるがいい。視察等は明日からの予定で、最初の二日は工程を決めさせていただいているが、その他は希望に沿えるよう調節させていただきたいのだが?」
「まあ、ご丁寧な配慮に感謝いたします。今回は魔石を中心に生活での活用方から発展魔法まで視察させていただけると幸いですわ」
「なるほど、そのように取り計らっておこう。では、長旅で疲れもあるだろう、二人に案内させる。晩餐までゆっくりしていてほしい」
「ありがとうございます」
考え込んでいるうちに顔合わせが終わりになっている。ええと、この後の予定はどうすればいいのかな。
「レオナール、リリー、話があるから残ってくれ。エミディオ、アランと共にエスティリア王女を部屋にご案内するように」
「はっ」
王太子の言葉で別行動になると決まった王女様が残念そうな顔になっているのが視界の端に見えたけど、命令だからどうしようもないわけで。
ある意味助かった、と言えばいいのかしら。
それを、外交にヒビが入ると仕事が増えるからって物凄く嫌がるアランが真っ先に言い出すとか、予想外でびっくりした。
「遠路はるばるよく参られた、我が国は美しき姫君を歓迎する」
アランが王女様を案内した先、謁見室で待っていたのは我らが王太子夫妻だ。仕事を抜け出したのだろう、他国の王族を迎えるにしては軽装だけど、王太子が着ると華美なものよりも堂々として見えるのだから凄い。その隣で、薔薇色のドレスを身につけたお嬢様もにっこりと微笑んでいる。
それに対する王女様もまた、麗しい微笑みを浮かべて礼を取った。
「予定より早い訪問となりましたが、快くお迎えくださいましてありがたく思います。この先も我が国と貴国の良き関係を続けられるようにと、我が国王より言付けられております」
「しかと受け取りました。私共としても同じ願いを持つ所存……この先も共に歩めればと思います」
この会話だけだと普通の「お互い仲良くしようねー」ってだけに聞こえるんだけど、副音声が本当に酷い。
良き関係を続けられるようにって、遠回しに縁組みしようぜってお誘いなんだよね。向こうの国王からって言いつつ王女様が予定より早く来たのは、この王女様とそちらの国とで縁組みしようって現れなんだ。
王女様がレオナール様を望んでいるのは周知のことだとすると、向こうの国王は王女の望む相手であるレオナール様が欲しいって言ってるわけだ。
で、それに対して王太子の返答が、この先も共に歩めればと思います、でしょう? 一見肯定に思えるけど、実際はこの先も思うだから、その縁組みは拒否させていただきたい的なニュアンスになるんだよね。
ああやだ、本当にもう私の身分メイドなんだからね。王太子とアランが面白がって巻き込みまくるから一通りの政治わかるようになっちゃったことの方がおかしいし、この副音声聞き取って理解出来るのもおかしいんだってば!
「今回の滞在中、王女にリリーをつけることが出来る。これまで王女自身に動かせてしまい、申し訳なかったな」
「あ、いえ。状況はきちんとご説明いただいておりましたので……あの、差し出がましいのですが、王家のメイドと呼ばれるような方についていただくまでもないかと思いますわ」
「あら、どうして?」
遠回しに私を遠ざけようとする王女様だけど、ストップをかけるのはお嬢様だ。
「未婚の、それも王女殿下を男性の多い場所に一人で行かせることの方が、王家のメイドを呼び寄せるよりもずっと恥ですもの。むしろこれまでが、きちんと出来ていなかった私共の落ち度ですわ……ねえ、殿下?」
「そうだな。外せぬ仕事を頼んで出向させてしまった我らの手配の落ち度だ。優秀さゆえに色々と頼みすぎてしまっていた部分もあったしな」
お嬢様の言葉に頷く王太子。さりげなく私を優秀とか、これ以上プレッシャーかけられても辛いんだけど。
まあ、王女様には牽制になったの、かな?
「リリー、王女殿下のことを頼む。母親として生きたいと望むお前の意向を汲んでやれなくてすまない」
「もったいないお言葉です」
うん、完全に牽制だけど、王太子がよその王族の前で部下に謝らないでください。ほら、王女様が目をまん丸にされているじゃありませんか。
「母親、ですか」
「レオナールが引き取った娘がいるんだが、その母親代わりとして派遣したのがはじまりだ」
「お仕事で母親をされていると?」
なんとも微妙な反応をされてしまったけれど、そこだけ聞くとそうなるよね。
反応に困るというような顔をしている王女様に、私は小さく苦笑して。
「リリーは、最初こそ仕事でも、今は僕の大事な家族」
待ってー、そういった説明をレオナール様がしないでー。絶対ややこしくなるからやめてー。
「ジルも懐いてるし、僕とリリーを親として慕ってくれている。リリーじゃなきゃ、駄目」
「……信頼しておられますのね」
可愛らしい唇から紡がれた声は微かに震えているけれど、王女様は微笑みを浮かべて私を見る。
「さぞや立派なお母様なのでしょう、いつかのために私も見習わせていただきたいですわ。今度ゆっくりお話を聞かせてくださいね」
……普通に考えて王女様が私のやり方を見習う必要はないわけで、これそこはかとなくレオナール様の隣は自分のものだっていうアピールなのかしら?
「晩餐までは自由にされるがいい。視察等は明日からの予定で、最初の二日は工程を決めさせていただいているが、その他は希望に沿えるよう調節させていただきたいのだが?」
「まあ、ご丁寧な配慮に感謝いたします。今回は魔石を中心に生活での活用方から発展魔法まで視察させていただけると幸いですわ」
「なるほど、そのように取り計らっておこう。では、長旅で疲れもあるだろう、二人に案内させる。晩餐までゆっくりしていてほしい」
「ありがとうございます」
考え込んでいるうちに顔合わせが終わりになっている。ええと、この後の予定はどうすればいいのかな。
「レオナール、リリー、話があるから残ってくれ。エミディオ、アランと共にエスティリア王女を部屋にご案内するように」
「はっ」
王太子の言葉で別行動になると決まった王女様が残念そうな顔になっているのが視界の端に見えたけど、命令だからどうしようもないわけで。
ある意味助かった、と言えばいいのかしら。
55
お気に入りに追加
6,127
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
敗戦して嫁ぎましたが、存在を忘れ去られてしまったので自給自足で頑張ります!
桗梛葉 (たなは)
恋愛
タイトルを変更しました。
※※※※※※※※※※※※※
魔族 vs 人間。
冷戦を経ながらくすぶり続けた長い戦いは、人間側の敗戦に近い状況で、ついに終止符が打たれた。
名ばかりの王族リュシェラは、和平の証として、魔王イヴァシグスに第7王妃として嫁ぐ事になる。だけど、嫁いだ夫には魔人の妻との間に、すでに皇子も皇女も何人も居るのだ。
人間のリュシェラが、ここで王妃として求められる事は何もない。和平とは名ばかりの、敗戦国の隷妃として、リュシェラはただ静かに命が潰えていくのを待つばかり……なんて、殊勝な性格でもなく、与えられた宮でのんびり自給自足の生活を楽しんでいく。
そんなリュシェラには、実は誰にも言えない秘密があった。
※※※※※※※※※※※※※
短編は難しいな…と痛感したので、慣れた文字数、文体で書いてみました。
お付き合い頂けたら嬉しいです!

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
魅了が解けた元王太子と結婚させられてしまいました。 なんで私なの!? 勘弁してほしいわ!
金峯蓮華
恋愛
*第16回恋愛小説大賞で優秀賞をいただきました。
これも皆様の応援のお陰だと感謝の気持ちでいっぱいです。
これからも頑張りますのでよろしくお願いします。
ありがとうございました。
昔、私がまだ子供だった頃、我が国では国家を揺るがす大事件があったそうだ。
王太子や側近達が魅了の魔法にかかり、おかしくなってしまった。
悪事は暴かれ、魅了の魔法は解かれたが、王太子も側近たちも約束されていた輝かしい未来を失った。
「なんで、私がそんな人と結婚しなきゃならないのですか?」
「仕方ないのだ。国王に頭を下げられたら断れない」
気の弱い父のせいで年の離れた元王太子に嫁がされることになった。
も〜、勘弁してほしいわ。
私の未来はどうなるのよ〜
*ざまぁのあとの緩いご都合主義なお話です*
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。