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魔法省で臨時メイドになりました

恋する者

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そんなわけでついに王女様がいらしたわけですが、来た早々にアランが恋人宣言で牽制するとは流石に思わなかった。もうちょっとオブラートに包んだ言い方にするとか、なんかあるじゃない。
それを、外交にヒビが入ると仕事が増えるからって物凄く嫌がるアランが真っ先に言い出すとか、予想外でびっくりした。

「遠路はるばるよく参られた、我が国は美しき姫君を歓迎する」

アランが王女様を案内した先、謁見室で待っていたのは我らが王太子夫妻だ。仕事を抜け出したのだろう、他国の王族を迎えるにしては軽装だけど、王太子が着ると華美なものよりも堂々として見えるのだから凄い。その隣で、薔薇色のドレスを身につけたお嬢様もにっこりと微笑んでいる。
それに対する王女様もまた、麗しい微笑みを浮かべて礼を取った。

「予定より早い訪問となりましたが、快くお迎えくださいましてありがたく思います。この先も我が国と貴国の良き関係を続けられるようにと、我が国王より言付けられております」
「しかと受け取りました。私共としても同じ願いを持つ所存……この先も共に歩めればと思います」

この会話だけだと普通の「お互い仲良くしようねー」ってだけに聞こえるんだけど、副音声が本当に酷い。
良き関係を続けられるようにって、遠回しに縁組みしようぜってお誘いなんだよね。向こうの国王からって言いつつ王女様が予定より早く来たのは、この王女様とそちらの国とで縁組みしようって現れなんだ。
王女様がレオナール様を望んでいるのは周知のことだとすると、向こうの国王は王女の望む相手であるレオナール様が欲しいって言ってるわけだ。
で、それに対して王太子の返答が、この先も共に歩めればと思います、でしょう? 一見肯定に思えるけど、実際はこの先も思うだから、その縁組みは拒否させていただきたい的なニュアンスになるんだよね。
ああやだ、本当にもう私の身分メイドなんだからね。王太子とアランが面白がって巻き込みまくるから一通りの政治わかるようになっちゃったことの方がおかしいし、この副音声聞き取って理解出来るのもおかしいんだってば!

「今回の滞在中、王女にリリーをつけることが出来る。これまで王女自身に動かせてしまい、申し訳なかったな」
「あ、いえ。状況はきちんとご説明いただいておりましたので……あの、差し出がましいのですが、王家のメイドと呼ばれるような方についていただくまでもないかと思いますわ」
「あら、どうして?」

遠回しに私を遠ざけようとする王女様だけど、ストップをかけるのはお嬢様だ。

「未婚の、それも王女殿下を男性の多い場所に一人で行かせることの方が、王家のメイドを呼び寄せるよりもずっと恥ですもの。むしろこれまでが、きちんと出来ていなかった私共の落ち度ですわ……ねえ、殿下?」
「そうだな。外せぬ仕事を頼んで出向させてしまった我らの手配の落ち度だ。優秀さゆえに色々と頼みすぎてしまっていた部分もあったしな」

お嬢様の言葉に頷く王太子。さりげなく私を優秀とか、これ以上プレッシャーかけられても辛いんだけど。
まあ、王女様には牽制になったの、かな?

「リリー、王女殿下のことを頼む。母親として生きたいと望むお前の意向を汲んでやれなくてすまない」
「もったいないお言葉です」

うん、完全に牽制だけど、王太子がよその王族の前で部下に謝らないでください。ほら、王女様が目をまん丸にされているじゃありませんか。

「母親、ですか」
「レオナールが引き取った娘がいるんだが、その母親代わりとして派遣したのがはじまりだ」
「お仕事で母親をされていると?」

なんとも微妙な反応をされてしまったけれど、そこだけ聞くとそうなるよね。
反応に困るというような顔をしている王女様に、私は小さく苦笑して。

「リリーは、最初こそ仕事でも、今は僕の大事な家族」

待ってー、そういった説明をレオナール様がしないでー。絶対ややこしくなるからやめてー。

「ジルも懐いてるし、僕とリリーを親として慕ってくれている。リリーじゃなきゃ、駄目」
「……信頼しておられますのね」

可愛らしい唇から紡がれた声は微かに震えているけれど、王女様は微笑みを浮かべて私を見る。

「さぞや立派なお母様なのでしょう、いつかのために私も見習わせていただきたいですわ。今度ゆっくりお話を聞かせてくださいね」

……普通に考えて王女様が私のやり方を見習う必要はないわけで、これそこはかとなくレオナール様の隣は自分のものだっていうアピールなのかしら?

「晩餐までは自由にされるがいい。視察等は明日からの予定で、最初の二日は工程を決めさせていただいているが、その他は希望に沿えるよう調節させていただきたいのだが?」
「まあ、ご丁寧な配慮に感謝いたします。今回は魔石を中心に生活での活用方から発展魔法まで視察させていただけると幸いですわ」
「なるほど、そのように取り計らっておこう。では、長旅で疲れもあるだろう、二人に案内させる。晩餐までゆっくりしていてほしい」
「ありがとうございます」

考え込んでいるうちに顔合わせが終わりになっている。ええと、この後の予定はどうすればいいのかな。

「レオナール、リリー、話があるから残ってくれ。エミディオ、アランと共にエスティリア王女を部屋にご案内するように」
「はっ」

王太子の言葉で別行動になると決まった王女様が残念そうな顔になっているのが視界の端に見えたけど、命令だからどうしようもないわけで。
ある意味助かった、と言えばいいのかしら。
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