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魔法省で臨時メイドになりました

教えてルーカス先生

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「二人に限ったことじゃなく、魔法使いはみなある程度そういう部分があるかもしれませんね」

私が持ってきたお菓子やお茶で休憩中、さっきの疑問を投げかけてみるとルーカスさんにも頷かれてしまう。
その隣でお茶を飲んでいたヴィオラさんも頷くし、え、魔法使いって本当にそうなの?

「選民意識っていうと語弊があるけど、リリーちゃんも知ってるように魔法使いになるだけの力がある人って少ないのね。で、自分が普通の人と違うって理解するまでは誰でも何かしらの孤独を感じているものなの」
「ヴィルヘルム殿はそれだけじゃないような」
「まぁね、この口調とこの格好だもの。色々言われもするわよ」

呆れたようなルーカスさんにそう言って、ヴィオラさんは柔らかく笑う。

「リリーちゃんは確か魔力ゼロ体質なんだっけ?」
「あ、はい」
「じゃああんまり実感ないかもしれないんだけど……魔法使いにとって魔力は扱えて当たり前だから、扱えないこと自体が理解出来ないわけよ。だから、魔法使いになったことに対して後悔するってことはあんまりないと思う。もちろんしがらみ云々は別よ? ただ、そうね。なければよかったと思うほど思い詰めていたら、きっと魔法使いにはなってない」

持っていて当たり前……魔力自体は私でも持っていて、ただ表に出せないから魔力ゼロ体質って言われるのよね。
大体は差があっても魔力の放出が出来て当たり前で、むしろないと不便なことの方が多い。
だから、扱えないことが想像出来ないのはわからなくもないんだけど、それ魔力ゼロ体質に対してだけの話にならないの?

「いまいちピンと来ないって感じね」
「お恥ずかしながら。私のような魔力ゼロ体質に対してならわかるのですが、普通は魔法とまで言えなくても放出出来ますよね?」
「んー、そうねぇ。ルーちゃん、何に例えたらわかりやすいかしら」

ヴィオラさんの言葉に少し考え込むようなそぶりをみせるルーカスさん。
そう言えばジルとジェイドにとっては先生だっけ、私にもわかるように教えてくれるかな?

「そうですね。リリー殿は空を飛んだことがありますか?」
「ええ、アムドさんの背に乗ったりレオナール様と飛んだりしたことがあります」
「では、あの空を飛んだ時に見える範囲が魔法使いにとっての空で、普通の人にとっては地面から見上げて見える範囲が空。リリーさんのような魔力ゼロ体質にとっては窓の中から見える空としてみましょう。リリーさんにとっての空は窓越しで、触れることはできないし体感もできないけれど、そこにあるとは知っています。窓越しの空だから、直接見ることは叶わない」
「ええ、わかります」
「一方の魔法使いにとっての空は、それこそ範囲が決められていないし果てもない。下を見れば地面こそ見えるけれど、左右も上も地面に届くまでの範囲がすべて空だと思っている訳です。ところが、普通の人にとって空は見上げるもの、建物や山などがあればそこで遮られて範囲が決まってしまっているものです。魔力ゼロ体質からすれば外で空を見れるのは同じに思えますが、こうして比べた場合に同じ空を見ていると言えますか?」
「言えない、ですね」

だって範囲が違いすぎる。見上げるのとそこにいるのじゃあんまりにも……ああ、そうか。

「魔法使いの方々には、見上げるだけの空しか知らないのが、理解出来ない?」
「そういうことです。すでにあるものを、あると知っているのに違うと言われているようなものですね。だから、他の人も同じものを知っていると実感できることが幸せなんです」

たった一人、広すぎる空にいて。そこに誰かがやってきてくれたなら、それは確かに嬉しいだろう。

「心無い言葉に傷つかない訳じゃない。悲しみも怒りももどかしさも諦めもあって、それでも今は同じ仲間がいる。自分は間違ってなかったと、そう実感できると自分と他人の違いについて受け入れられるようになる、だから過去は過去と言えるのではないでしょうか」
「自分は間違ってなかったから、自分と他人を区別できる?」
「だって、それまで比較対象がないから、何がどう違うのか理解出来ないんですよ?」

あー、なるほど。自分と同じ感覚の人もいるから、違う人もいると思えるようになると。
魔法使いも色々大変だな、じゃなくて。

「なら、ジルもジェイドも、レオナール様も。そのことで傷ついた心のままではいないと思ってもいいのでしょうか」
「え?」
「悲しいと、それに心を痛め続けてはいないのでしょうか」

そう訊ねればルーカスさんは目を丸くして、それからやわらかな微笑みを浮かべた。
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