上 下
98 / 123
魔法省で臨時メイドになりました

籠められた思い

しおりを挟む
「な、なに?」

あんまりにもジッと見られて居心地が悪くなった私が聞くと、アランはハッとしたような顔になった。

「ああ、いえ。その指輪が気になって」
「指輪? ああ、これ?」

アランが言ったのはレオナール様から頂いたムーンストーンの婚約指輪のことね。
散りばめられた石と共にキラキラと輝くのが綺麗で可愛いし、なによりレオナール様が私をイメージしたと言って贈ってくれたのだからとても大切にしている。
家事をする時は外さないとと思ったら、汚れや傷防止の魔法と、私かレオナール様にしか抜けない魔法まで付与してもらったから腕輪と同じようにいつもつけていられるんだ。

「……レオナール様に、いただいたの」

そう言って指輪を撫でる私は、きっと幸せそうな笑みを浮かべていたんだろう。視界の端でロイゲンの顔が歪んでいくのが見えるもの。ごめんね、大嫌いな私が幸せになって。

「そう、ですか」
「うん」

アランの声に頷くけど、顔を向けるより先に紫色が見えてそちらを向く。案の定ヴィオラさんが近づいてきていて、その目がキラキラと輝いていた。

「ちょっと見せてもらえないかしら? あ、もちろん指にしたままでいいから!」
「ええ、どうぞ」

素直に左手を差し出せば、うわぁと感嘆の声を上げつつしげしげと見つめられる。

「中央は珍しい青のムーンストーンかしら?脇のはアメジストと……ピンク系の石だけどローズクオーツでもトルマリンでもなさそうね。あとこの透明なのはレインボークオーツ……じゃないわ、なにかしら」
「確か、アクアマリンとフローライトだと」
「えええ、やだー!」

きゃあきゃあと嬉しそうに私を見たヴィオラさんは、にっこりと私に笑いかける。

「本当に、大事にされてるのね」
「え?」
「あら、もしかして聞いてないの?」
「ムーンストーンの意味ならお聞きしました。あとは私のイメージだとかで、詳しくは……」

それ以外に何か特別な意味があるのかなってレオナール様を見たら、そっぽを向かれたけど耳が赤い。
え、なんだろう、気になるけど。

「聞かない方がいいですか?」
「……恥ずかしい、だけ。ヴィル、話していいよ」
「うふふ、了解ー。じゃ、ちょっと見てもらえる?」

とても楽しそうなヴィオラさんは、私の指輪を示す。

「まず中央のムーンストーンは稀少な青いムーンストーンね。有名な意味は永遠の愛情。ムーンストーン自体が女性を守る石だもの、男性から贈られる石としては最高にいいわね」
「お詳しいのですね」
「私、魔石の研究が専門なの。魔力との相性や石同士の相性が魔石を使う魔法具には凄い影響が出るから、石には詳しくないとね」

本職の方でしたか、なるほど。じゃあ、ルーカスさんと同じように研究系の魔法使いさんなのね。
魔石はもともと魔力を帯びた石を使うこともあるけど、基本的には石に魔力を注いだり刻印を刻んで力を増幅させるものだもの、そりゃ相性もろもろあるか。
宝石の意味にも魔法にかかわる何かがこめられているのかな? なんて考えていたら、それでとヴィオラさんが続ける。

「アメジストの意味は真実の愛を守り抜く、アクアマリンは幸せな結婚、フローライトは色々と色によって意味が異なるけど、この透明でほとんど無色のものなら純粋とか清らかな意味を持っているし、悪いものから身を守る力があるのよ。それにアメジストもアクアマリンも透明度は高いけど色味が薄いでしょう?」
「そう、ですね」

確かに、どちらの石もとても透き通って綺麗だけど色味は限りなく薄い。いわゆる宝石だよって感じではない。
その分中央のムーンストーンを引き立てるし調和してるから可愛らしい仕上がりなんだけど。

「だからこの三種類に宝石としての価値はあまりないわ。でも魔石で考えれば、透明度が高いってことはその分複数の魔力を込めるときに邪魔なものがなく、他の魔石との調和も取りやすいということになるの。だから、ありったけの魔法と想いを注いだ最強のお守りで誓いの証だって、見る人が見れば一発よ。その指輪の意匠からもね」

この指輪、いわゆるリングの部分に宝石をはめ込んで一直線に飾るのではなく、中央のムーンストーンを取り巻くように左右の石が飾られている。まるで花のようにも見える指輪なんだけど、この意匠がどうかしたの?

「透明な石で中央の石を囲んでいる、このこと自体に相乗効果による魔力の増幅があるわ。こめられた魔力がより強くなるってことね。で、この花みたいな意匠自体が、女性らしさを引きだすし女性を守る力も大きくなる意匠なのよ。もう、やれるだけのことはやってみた感が凄いし、全部調和してるところが凄いわね。私も見習いたいくらい」

えと、それはつまり、レオナール様がそれだけたくさんの意味を込めてこの指輪を作って贈ってくれたってことで、うん。
とても大事に思われているんだなって嬉しく思いつつ、間違いなく真っ赤だろう熱い頬に手を当てる。
だ、だって、嬉しいけどすっごい恥ずかしいんだもの!

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

メイドから母になりました 番外編

夕月 星夜
ファンタジー
メイドから母になりましたの番外編置き場になります リクエストなどもこちらです

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

クラスメイトに死ねコールをされたので飛び降りた

ああああ
恋愛
クラスメイトに死ねコールをされたので飛び降りた

なりゆきで、君の体を調教中

星野しずく
恋愛
教師を目指す真が、ひょんなことからメイド喫茶で働く現役女子高生の優菜の特異体質を治す羽目に。毎夜行われるマッサージに悶える優菜と、自分の理性と戦う真面目な真の葛藤の日々が続く。やがて二人の心境には、徐々に変化が訪れ…。

天才になるはずだった幼女は最強パパに溺愛される

雪野ゆきの
ファンタジー
記憶を失った少女は森に倒れていたところをを拾われ、特殊部隊の隊長ブレイクの娘になった。 スペックは高いけどポンコツ気味の幼女と、娘を溺愛するチートパパの話。 ※誤字報告、感想などありがとうございます! 書籍はレジーナブックス様より2021年12月1日に発売されました! 電子書籍も出ました。 文庫版が2024年7月5日に発売されました!

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

幸子ばあさんの異世界ご飯

雨夜りょう
ファンタジー
「幸子さん、異世界に行ってはくれませんか」 伏見幸子、享年88歳。家族に見守られ天寿を全うしたはずだったのに、目の前の男は突然異世界に行けというではないか。 食文化を発展させてほしいと懇願され、幸子は異世界に行くことを決意する。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。