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魔法省で臨時メイドになりました
間違ったことは言ってない
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アランことアランガルド・リンダールはリンダール侯爵家の第一子息にして次期宰相と評される優秀な青年だ。
少し眠そうにも見える柔らかく細められた瞳の色は琥珀を嵌め込んだような金を溶かし込んだ茶色で、ボブに近い長さの金髪はふわりと風に靡いたようなゆるいウェーブがかっている。
顔立ちも整っているけれど優しげな印象を与えるから、レオナール様や王太子とはまた違ったイケメンなんだ。
将来有望な彼もまた女性陣の理想とする結婚相手に名前が挙がっているけれど、中身を知ってるから私としてはなんとも言えない。
自分の風貌を最大限に利用しての交渉術が、はっきり言ってドSだから。
優しげな風貌にやわらかな口調と物腰で誤魔化してるだけで、要求するのはぎりっぎりのところばかりだし、ちょっとでも隙を見せたら徹底的に叩かれる。そんなアランを知っているだけに、彼が書類を片手ににこやかな笑みを浮かべつつこちらを見てるなんて、私なら逃げる。絶対これ無茶ぶりか叩かれるかどっちかのパターンだもの。
「リンダール殿、どうしてこちらに?」
疑問の声を上げたルーカスさんに、アランは笑みを絶やさぬまま部屋の中へと入ってきた。
「リリーがこちらで仕事の手伝いをしているとエミディオが怒声を上げてくれましたからね。マリエル殿に渡す仕事もありましたから、ちょうどいいかと足を運んでみたのですよ」
「そ、そうだ! そもそも貴様がここで仕事をしているのがおかしい! なんでここにいる!」
アランが味方になったとでも思ったのか、ロイゲンの顔が明るくなった。
いや、自分が間違ってないって顔しないで。
「王家のメイドとしてレオナール様の仕事を手伝うのは契約で認められていますもの」
王家のメイドは元々通称だったのだけれど、先日正式な役職になったんだ。それに伴い新しい契約を結ばせてもらっている。
私が王家のメイドとして活動する絶対条件がレオナール様かジルと同行することである以上、二人の仕事に大きく関わる必要がある。その為、二人の仕事を手伝うことに制限はかけられていないんだ。
「確かにそうですね。ただ、今リリーが手伝っているのがエニアの仕事のように見えますが」
言外に契約と違うのでは、とアランが突っ込んでくる。そうだね、レオナール様以外の仕事を手伝っているのが現状の今、それを否定するつもりはない。それが契約と違うことも。
でも、アランがそう突っ込んできた理由が契約違反だってことじゃなくて、他の人を手伝えるなら自分の手伝いもしろって言う気なだけなのがわかるだけに、思わず苦笑しそうになる。
「ええ、確かにそうですね。ですが、ルーカスさんの手が空かないと、レオナール様の負担が減らせないので必要な手伝いです」
しれっと言い切ればアランが虚をつかれたようにきょとんとするけど、気にしたら負けだ。
「レオナール様の負担を減らす為のお手伝いに、なにか文句が?」
「だ、だが! 今回のは職権乱用だろう!」
不意に叫んだロイゲンに視線を移せば、怒りにか頬を染めたまま私を見ていた。
「いくら手伝いとはいえ重要な書類を部外者である貴様が判断していい道理はない、違うか!」
「いえ、全くもってその通りです」
そこは素直に認めます。魔法省に提出された書類を判断する責任も立場も私にはないもの。
でもすんなり受け入れるとは思わなかったのか、何かを続けて言おうとして無理矢理止めたロイゲンが盛大に咳き込む。あーあ、ゆっくり話せば噎せることもないだろうに、勢い込むから。
「わ、わかってるなら、先ほどの発言を取り消せ!」
「……ロイゲン、あなたちゃんと召喚状読みました?」
先ほどのって、そこに立ってる騎士に対するやり直せ発言だよね。うん、でも、これを言うのは私でも、その判断をして召喚状を出したのはちゃんとルーカスさんだったのよ。
きちんと銀印付きの書類にしたし、だからこそロイゲンも内容を確認した。
そしてそれを届ける際に私の名前を出したのが今怒鳴った理由だってこともわかってはいるけれど、召喚状そのものに私は触れていない。
「私はあくまで書類が迅速に近衛隊長まで届くよう、顔見知りの方に召喚状をお願いしただけです。書類のどこかに私の名前がありましたか?」
「い、いや……」
「先ほど私から書類についてこの方に申し上げたのも、このように忙しいルーカスさんに書類の不備の指摘でお時間を取らせるのがもったいないからです。やり直してください、と言っただけで、私は内容に言及していないでしょう?」
はい、この辺の屁理屈はアラン仕込みです。わかってるだろうアランがお腹抱えて笑ってるし、普段アランと仕事してるからロイゲンにもバッチリ伝わっているだろうし。
ルーカスさんが苦笑してるけど、だってねぇ。
「リリー殿にお手伝いを頼んでよかったと思います。その強さが私にはありませんから」
「あら、それって褒めてます?」
「もちろん。個人的に、スッキリしました」
そう言って笑ったルーカスさんは騎士を見ると、私に押し付けられていた書類を再び差し出した。
「魔法省次席代理として、この書類は受け取れません。規定の書式並びに署名にて再提出をお願いしますね」
……あーあ、ついに言われちゃった。
少し眠そうにも見える柔らかく細められた瞳の色は琥珀を嵌め込んだような金を溶かし込んだ茶色で、ボブに近い長さの金髪はふわりと風に靡いたようなゆるいウェーブがかっている。
顔立ちも整っているけれど優しげな印象を与えるから、レオナール様や王太子とはまた違ったイケメンなんだ。
将来有望な彼もまた女性陣の理想とする結婚相手に名前が挙がっているけれど、中身を知ってるから私としてはなんとも言えない。
自分の風貌を最大限に利用しての交渉術が、はっきり言ってドSだから。
優しげな風貌にやわらかな口調と物腰で誤魔化してるだけで、要求するのはぎりっぎりのところばかりだし、ちょっとでも隙を見せたら徹底的に叩かれる。そんなアランを知っているだけに、彼が書類を片手ににこやかな笑みを浮かべつつこちらを見てるなんて、私なら逃げる。絶対これ無茶ぶりか叩かれるかどっちかのパターンだもの。
「リンダール殿、どうしてこちらに?」
疑問の声を上げたルーカスさんに、アランは笑みを絶やさぬまま部屋の中へと入ってきた。
「リリーがこちらで仕事の手伝いをしているとエミディオが怒声を上げてくれましたからね。マリエル殿に渡す仕事もありましたから、ちょうどいいかと足を運んでみたのですよ」
「そ、そうだ! そもそも貴様がここで仕事をしているのがおかしい! なんでここにいる!」
アランが味方になったとでも思ったのか、ロイゲンの顔が明るくなった。
いや、自分が間違ってないって顔しないで。
「王家のメイドとしてレオナール様の仕事を手伝うのは契約で認められていますもの」
王家のメイドは元々通称だったのだけれど、先日正式な役職になったんだ。それに伴い新しい契約を結ばせてもらっている。
私が王家のメイドとして活動する絶対条件がレオナール様かジルと同行することである以上、二人の仕事に大きく関わる必要がある。その為、二人の仕事を手伝うことに制限はかけられていないんだ。
「確かにそうですね。ただ、今リリーが手伝っているのがエニアの仕事のように見えますが」
言外に契約と違うのでは、とアランが突っ込んでくる。そうだね、レオナール様以外の仕事を手伝っているのが現状の今、それを否定するつもりはない。それが契約と違うことも。
でも、アランがそう突っ込んできた理由が契約違反だってことじゃなくて、他の人を手伝えるなら自分の手伝いもしろって言う気なだけなのがわかるだけに、思わず苦笑しそうになる。
「ええ、確かにそうですね。ですが、ルーカスさんの手が空かないと、レオナール様の負担が減らせないので必要な手伝いです」
しれっと言い切ればアランが虚をつかれたようにきょとんとするけど、気にしたら負けだ。
「レオナール様の負担を減らす為のお手伝いに、なにか文句が?」
「だ、だが! 今回のは職権乱用だろう!」
不意に叫んだロイゲンに視線を移せば、怒りにか頬を染めたまま私を見ていた。
「いくら手伝いとはいえ重要な書類を部外者である貴様が判断していい道理はない、違うか!」
「いえ、全くもってその通りです」
そこは素直に認めます。魔法省に提出された書類を判断する責任も立場も私にはないもの。
でもすんなり受け入れるとは思わなかったのか、何かを続けて言おうとして無理矢理止めたロイゲンが盛大に咳き込む。あーあ、ゆっくり話せば噎せることもないだろうに、勢い込むから。
「わ、わかってるなら、先ほどの発言を取り消せ!」
「……ロイゲン、あなたちゃんと召喚状読みました?」
先ほどのって、そこに立ってる騎士に対するやり直せ発言だよね。うん、でも、これを言うのは私でも、その判断をして召喚状を出したのはちゃんとルーカスさんだったのよ。
きちんと銀印付きの書類にしたし、だからこそロイゲンも内容を確認した。
そしてそれを届ける際に私の名前を出したのが今怒鳴った理由だってこともわかってはいるけれど、召喚状そのものに私は触れていない。
「私はあくまで書類が迅速に近衛隊長まで届くよう、顔見知りの方に召喚状をお願いしただけです。書類のどこかに私の名前がありましたか?」
「い、いや……」
「先ほど私から書類についてこの方に申し上げたのも、このように忙しいルーカスさんに書類の不備の指摘でお時間を取らせるのがもったいないからです。やり直してください、と言っただけで、私は内容に言及していないでしょう?」
はい、この辺の屁理屈はアラン仕込みです。わかってるだろうアランがお腹抱えて笑ってるし、普段アランと仕事してるからロイゲンにもバッチリ伝わっているだろうし。
ルーカスさんが苦笑してるけど、だってねぇ。
「リリー殿にお手伝いを頼んでよかったと思います。その強さが私にはありませんから」
「あら、それって褒めてます?」
「もちろん。個人的に、スッキリしました」
そう言って笑ったルーカスさんは騎士を見ると、私に押し付けられていた書類を再び差し出した。
「魔法省次席代理として、この書類は受け取れません。規定の書式並びに署名にて再提出をお願いしますね」
……あーあ、ついに言われちゃった。
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