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魔法省で臨時メイドになりました

呼び出してみました

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「いい度胸じゃないか、貴様」

怒りに満ちた笑みを浮かべるロイゲンに、やっぱりこうなったかと内心苦笑する。
まあ、こうなるだろうと見越して私の名前も出したんだけどね。

「あら、王太子殿下付き近衛隊長であるエミディオ・ロイゲンがどうしてここに?」
「決まってる、貴様がわざわざ俺の部下を呼び出したからだ」
「おかしいわね、私は魔法省に届いた書類の確認で担当の方を呼ぶ際にきちんと伝わるようにしただけよ?」

そう言いつつ私の名前があれば必ず彼も来るとは思ってた。
エミディオ・ロイゲン、王太子付き近衛隊長で王太子の為なら火の中にも飛び込むだろう忠誠心を持つ。次期宰相と言われる側近のアランと並ぶ王太子の片腕だけど、それだけにメイドでありながら王太子に対する態度がふてぶてしいと私を目の敵にしているんだ。
ちなみに私の態度や行動に関しては王太子直々にお許しが出ている。お嬢様との結婚に関して相当仲介やらなんやら手伝ったら、私のようなタイプが傍にいるのは自分の過ちにいち早く気づけるいいことだから、変わらずにありのままでいろと言われたんだ。
という訳で王太子にも容赦なくズバズバ物言いするメイドに……確かにふてぶてしいよね、私。まぁ、変えるつもりもないけど。
で、そんな私がロイゲンの部下を呼び出すなんて、許せるわけないのも充分わかっていてわざとやってみたんだ。

「それで、この書類を作った責任者の方が後ろの方ですか?」
「話を聞け!」

何かをわめき続けていたロイゲンを無視して口を開けばすぐに叱責が飛んでくる。
これぐらいでビックリはしないけど、ちょっとイラっとした。

「黙って、ロイゲン。はっきり言って今回貴方はお呼びじゃない、おとなしく出来ないなら帰って」
「貴様、黙っていれば何をぬけぬけと!」
「黙ってないじゃない! こっちは仕事の話をしたいの、貴方の個人的かつ理不尽な私への暴言をいつものように聞いてる暇はないのよ、この書類の山が見えないの!?」

つい口調が荒くなった。落ち着け私、一回深呼吸……よし。

「話を戻しましょう。貴方がここに書類を出した方ですか?」

口をパクパクさせているロイゲンを放っておいて後ろに立っていた騎士に声をかける。
金の髪に薄い緑の目をした、そこそこ身長が高い多分私と同じくらいの年齢の男性騎士だ。私が顔を知らないから近衛に来たのは割と最近かな、美形と言うほどではないけど元々の造りがいいから女性の人気はありそう。
ただ今は人を小馬鹿にするような表情を浮かべて私を見ているから色々台無しだけれどね。

「ええ、そうですが」
「そうですか。ではここに呼ばれた理由も当然ながらご存知ですよね」

そう言って私は纏めていた書類の束ーー全部で本一冊くらいの分厚さになったーーをにっこりと笑って騎士に押し付ける。

「やり直してください、全部」
「……は?」
「聞こえませんでしたか? やり直してください」
「っふざけんな! なんでだよ!」

え、嘘、本気でわからないの? そこにビックリして目を丸くすると、静かなルーカスさんの声が聞こえた。

「その報告書並びに申請書が、判読出来ないからですよ」
「はぁ? これのどこが読めないって? 頭おかしーんじゃねーの?」

馬鹿にした顔で自分の頭をトントン叩く騎士に、思わずロイゲンを見る。

「最近の近衛はこの態度で通用するのですか?」
「……いや」

視線をそらすロイゲンだけど、近衛隊長でしょう? 注意とかしないの?
ふつふつと怒りが浮かんで黙っていたら、何を思ったのか騎士が顔を覗き込んできた。

「あんたが誰だかしらねーが、女ごときが口出ししてくんじゃねーよ」

……あ、きた。これはカチンときた。言ってくれたね、近衛騎士ともあろう立場で、よくも。

「……ロイゲン。このことは全部きちんと魔法省の銀印付きの書類で纏めた上でアランと殿下に手渡しして報告させて貰うわ。意味、わかるわね」
「ま、待て!」
「この場に居る時点で私が普通の立場ではないと気付かない人に、近衛騎士を名乗らせるなんて殿下の顔に泥を塗る行為でしかないわ。部下の態度並びに仕事内容の確認を怠ったとしか思えない現状、王太子付きの近衛に所属する身分が魔法省に喧嘩を売った今回の件、ロイゲン隊長も責任が重い。内々に終わらせるつもりだったけど、これはもうその程度の対処ではすまないと判断させて貰うしかない」

きっぱりと言い切れば流石のロイゲンも顔色をなくすけど、騎士自体はポカンとした顔になっただけ。
ああ、本当にこれは駄目だな。

「この件は王家のメイドとして陳情します。ロイゲン、貴方に殿下への忠誠心が誠にあると言うのなら、自らも陳情することね」
「くっ……」

唇を噛むロイゲンだけど、隣の騎士が我に返った様子で絶叫する。

「はあ? たかが女ごときが何を偉そうな!」
「ーー彼女はちゃんと宣言していますよ。自分が王家のメイドだと」

静かに響く、ここにいるはずのない声。入口を見れば、そこには。

「久しぶりですね、リリー」

次期宰相のアランが、書類を片手に微笑んでいた。

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