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魔法省で臨時メイドになりました
お友達が増えました
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「る、ルーちゃん、あの」
「それで、まだ私の手元まで書類が来ていないのですが、どちらにありますか? ああ、先にレオナール殿へ確認を頼んだ訳ですね、そうですよね?」
にこやかなまま畳み掛けるルーカスさんに、ヴィオラさんの腰が引けている。
うん、今のルーカスさん怖いもの。気持ちはよくわか……あれ?
「……そういえばルーカスさんってレオナール様のことを名前で呼んでいたかしら」
私のことは名前で呼んでくれるけど、確かレオナール様のことはマリエル殿って呼んでいた気がする。違ったかなと首を捻れば、あってると声が聞こえた。
「最近呼んでくれるようになった。その」
不自然に言葉が途切れたレオナール様を見れば、面映そうな顔になっていた。
「ウィレムが、僕と友達になった経緯を話したみたい、で、だったら私たちもって、ルーカスとグレイが友達になった、から」
「……そうですか、よかったですね」
あ、やっぱりルーカスさん特攻してた。そうだよね、あれだけ関わっていてただの同僚って言われたら少し寂しいし、友達認識の方法知ったら絶対やるだろうとは思ってた。グレイさんもノリノリで付き合うだろうし、多分水臭いってちょっと怒ったりもしたんだろうな。二人とも面倒見のいい人で、レオナール様に好意的だったしね。
そして新しい友達ができたのは喜ばしいんだけど、なにこの照れっぷり。レオナール様可愛すぎるでしょう。嬉しそうなレオナール様を見てると私まで嬉しくなっちゃう。途切れ途切れな言葉の端々に喜びが滲んでいるとか、もう。
思わずほのぼのしていたら、悲鳴が聞こえてきた。
「痛い痛い、ルーちゃん痛い!」
「痛いでしょうね、痛くしていますからね。仕事をせず懲りもせずレオナール殿に辛いもの食べさせようとしていたあなたには少しばかり体に教えないと理解できないようですから」
ルーカスさんがヴィオラさんの耳を引っ張っている。紫の瞳に涙が浮かんでるから、相当痛いんだろうな。容赦ない感じでルーカスさん引っ張っているもの。
「そもそも、この忙しさの原因があなただと自覚していますか?」
「言いがかりよ!」
「そうですか、まだわかっていませんか……では、聞きましょう。忙しいさなか腹痛を訴えて休んでいる人が全員あなたに辛い物を食べさせられている事実を、どうお考えですか」
「それ、は……だって、みんな忙しそうで、だから辛いものがいいわよって」
最初はぼそぼそと呟いていたヴィオラさんだったけど、キッと顔をあげてルーカスさんを睨む。
「辛い物は健康にいいのよ! 辛いから目も覚めるし、体をあたためてくれる優れものなんだから!」
「程度があるでしょう、程度が。それに、レオナール殿は辛い物が苦手なのですから、ただの嫌がらせになってしまいますよ」
うん、ヴィオラさんの主張は間違ってはないけど、これはルーカスさんの勝ちだね。というか、レオナール様たちが帰れないほど忙しい理由、休んでる人が多いからなんだよね……うーん。
「あの、ルーカスさん、手伝いいりますか? 前と同じような仕事なら、お手伝いしますよ?」
「え、いいですか? 凄く助かります!」
「いいですよね、レオナール様」
「……リリーが、仕事手伝うの?」
目を輝かせるルーカスさんと不思議そうな顔のレオナール様を交互に見て、小さく頷く。
「随分お忙しいようですし、微々たるものでしょうが少しは書類整理のお手伝いが出来ますので」
「少しですって? 王太子殿下の書類整理も手伝っていたのを知っていますよ?」
「あれは、まあ、内緒にしておいてください」
前に一緒に仕事をしたルーカスさんには私が色々とやっているのを知られちゃっているんだ。でも、表向きお嬢様のメイドだから、王太子の仕事を手伝うのは本来やってはいけないこと。
もちろん王太子もアランも国防や外交に関わる大事な書類を見せはしなかったけど、派遣した先の情報は私が知ってるからと嘆願書とか諸々の判断はぶん投げられた。
酷いよね、私メイドだよ? ちゃんと確認はアランか王太子にとるけど、この嘆願書の内容を許可するかしないかとかなんで私が判断するのさ。あと騎士や兵士の訓練の許可と報告書の添削ね、散々エミディオと喧嘩したよね。
「ちょっと待っててくださいね、私の仕事この部屋に運んでしまいます! 一括でやった方が絶対に早いですから!」
あんまり思い出したくない記憶にちょっとげんなりしていたら、いつの間にかルーカスさんがヴィオラさんを引っぱりながら部屋を出て行くところだった。ヴィオラさん、耳千切れないかな。悲鳴上げてるし凄い痛そうだよ……あれ、仕事持って来るって、レオナール様と一緒にやるの?
「ルーカスさんがこの部屋で仕事されても大丈夫でしたか?」
「ん、それはいい。でも、先にご飯食べたい、な」
そうですね、私が来たそもそもの目的がレオナール様のご飯を届けることだものね……そういえばシドさんがいつの間にかいなくなってる。
あ、でもお弁当のシドさんの分もなくなってるね。どこかに行っているのかな?
「それじゃあ、ルーカスさんが戻られる前に食べちゃいましょうか。私、お茶淹れますね」
「ん……食べてる間、一緒にいてくれる?」
「ええ、どうせなら一緒に食べようと私の分も持ってきましたから」
「嬉しい。一人は寂しい、から」
嬉しそうに笑うレオナール様がいそいそとお弁当に手を伸ばすのを見つつ、私はお茶を淹れる為に部屋の隅へ向かった。
「それで、まだ私の手元まで書類が来ていないのですが、どちらにありますか? ああ、先にレオナール殿へ確認を頼んだ訳ですね、そうですよね?」
にこやかなまま畳み掛けるルーカスさんに、ヴィオラさんの腰が引けている。
うん、今のルーカスさん怖いもの。気持ちはよくわか……あれ?
「……そういえばルーカスさんってレオナール様のことを名前で呼んでいたかしら」
私のことは名前で呼んでくれるけど、確かレオナール様のことはマリエル殿って呼んでいた気がする。違ったかなと首を捻れば、あってると声が聞こえた。
「最近呼んでくれるようになった。その」
不自然に言葉が途切れたレオナール様を見れば、面映そうな顔になっていた。
「ウィレムが、僕と友達になった経緯を話したみたい、で、だったら私たちもって、ルーカスとグレイが友達になった、から」
「……そうですか、よかったですね」
あ、やっぱりルーカスさん特攻してた。そうだよね、あれだけ関わっていてただの同僚って言われたら少し寂しいし、友達認識の方法知ったら絶対やるだろうとは思ってた。グレイさんもノリノリで付き合うだろうし、多分水臭いってちょっと怒ったりもしたんだろうな。二人とも面倒見のいい人で、レオナール様に好意的だったしね。
そして新しい友達ができたのは喜ばしいんだけど、なにこの照れっぷり。レオナール様可愛すぎるでしょう。嬉しそうなレオナール様を見てると私まで嬉しくなっちゃう。途切れ途切れな言葉の端々に喜びが滲んでいるとか、もう。
思わずほのぼのしていたら、悲鳴が聞こえてきた。
「痛い痛い、ルーちゃん痛い!」
「痛いでしょうね、痛くしていますからね。仕事をせず懲りもせずレオナール殿に辛いもの食べさせようとしていたあなたには少しばかり体に教えないと理解できないようですから」
ルーカスさんがヴィオラさんの耳を引っ張っている。紫の瞳に涙が浮かんでるから、相当痛いんだろうな。容赦ない感じでルーカスさん引っ張っているもの。
「そもそも、この忙しさの原因があなただと自覚していますか?」
「言いがかりよ!」
「そうですか、まだわかっていませんか……では、聞きましょう。忙しいさなか腹痛を訴えて休んでいる人が全員あなたに辛い物を食べさせられている事実を、どうお考えですか」
「それ、は……だって、みんな忙しそうで、だから辛いものがいいわよって」
最初はぼそぼそと呟いていたヴィオラさんだったけど、キッと顔をあげてルーカスさんを睨む。
「辛い物は健康にいいのよ! 辛いから目も覚めるし、体をあたためてくれる優れものなんだから!」
「程度があるでしょう、程度が。それに、レオナール殿は辛い物が苦手なのですから、ただの嫌がらせになってしまいますよ」
うん、ヴィオラさんの主張は間違ってはないけど、これはルーカスさんの勝ちだね。というか、レオナール様たちが帰れないほど忙しい理由、休んでる人が多いからなんだよね……うーん。
「あの、ルーカスさん、手伝いいりますか? 前と同じような仕事なら、お手伝いしますよ?」
「え、いいですか? 凄く助かります!」
「いいですよね、レオナール様」
「……リリーが、仕事手伝うの?」
目を輝かせるルーカスさんと不思議そうな顔のレオナール様を交互に見て、小さく頷く。
「随分お忙しいようですし、微々たるものでしょうが少しは書類整理のお手伝いが出来ますので」
「少しですって? 王太子殿下の書類整理も手伝っていたのを知っていますよ?」
「あれは、まあ、内緒にしておいてください」
前に一緒に仕事をしたルーカスさんには私が色々とやっているのを知られちゃっているんだ。でも、表向きお嬢様のメイドだから、王太子の仕事を手伝うのは本来やってはいけないこと。
もちろん王太子もアランも国防や外交に関わる大事な書類を見せはしなかったけど、派遣した先の情報は私が知ってるからと嘆願書とか諸々の判断はぶん投げられた。
酷いよね、私メイドだよ? ちゃんと確認はアランか王太子にとるけど、この嘆願書の内容を許可するかしないかとかなんで私が判断するのさ。あと騎士や兵士の訓練の許可と報告書の添削ね、散々エミディオと喧嘩したよね。
「ちょっと待っててくださいね、私の仕事この部屋に運んでしまいます! 一括でやった方が絶対に早いですから!」
あんまり思い出したくない記憶にちょっとげんなりしていたら、いつの間にかルーカスさんがヴィオラさんを引っぱりながら部屋を出て行くところだった。ヴィオラさん、耳千切れないかな。悲鳴上げてるし凄い痛そうだよ……あれ、仕事持って来るって、レオナール様と一緒にやるの?
「ルーカスさんがこの部屋で仕事されても大丈夫でしたか?」
「ん、それはいい。でも、先にご飯食べたい、な」
そうですね、私が来たそもそもの目的がレオナール様のご飯を届けることだものね……そういえばシドさんがいつの間にかいなくなってる。
あ、でもお弁当のシドさんの分もなくなってるね。どこかに行っているのかな?
「それじゃあ、ルーカスさんが戻られる前に食べちゃいましょうか。私、お茶淹れますね」
「ん……食べてる間、一緒にいてくれる?」
「ええ、どうせなら一緒に食べようと私の分も持ってきましたから」
「嬉しい。一人は寂しい、から」
嬉しそうに笑うレオナール様がいそいそとお弁当に手を伸ばすのを見つつ、私はお茶を淹れる為に部屋の隅へ向かった。
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