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魔法省で臨時メイドになりました

気になるのはそこです

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「……へえ、そう来るんだ」

それまでの不機嫌そうな顔が、一瞬で楽しげなものに変わる。こちらを探るようなまなざしを向けて、ヴィルさんははっきりと頷いた。

「そうよ、私はとても紫が好き。だからこの瞳の色で呼ばれたいの」
「わかりました、ではヴィオラ様と呼ばせていただきます」
「……聞きたいのはそれだけかしら?」

面白そうな笑みを浮かべたままのヴィルさん、じゃなくてヴィオラさんに、とりあえずはと頷く。
いや、口調は気になるけど、出会ったばかりで個人的な話をするものじゃないでしょう。話してくれる気になったら教えてくれるだろうし、私にとってはレオナール様の親しい友人で同僚だってことがわかれば充分だもの。
あー、でもひとつだけ確認出来るなら聞きたいことが、というか、えっと……

「なにか言いたいでしょう?」
「……言ってもよろしいのですか?」
「いいわよー」

んーと、じゃあ遠慮なく。

「その身につけれておられる紫の染めは貝紫かと思うのですが、どちらで頼まれましたか?」

そう言ったらヴィオラさんは目をまん丸にした。

「王太子妃殿下のドレスを作る時に貝紫の染料は今手に入らないと聞いたものですから、もし手に入れられる伝があればと思いまして」
「ちょっと待って、本当に待って」

あ、やっぱり聞いちゃ駄目だったかな?  特別な伝とかあるなら秘密にしておきたいだろうし聞かれたくないことだよね。
謝ろうと口を開いたけど、ヴィオラさんの方が先だった。

「おかしいでしょう、気にするところが違うわよ!」
「え、王族ですら手に入りにくい貝紫ですよ?  気になるに決まってます」

元々凄く高いんだよ貝紫の染めって。貝の一種から本当に僅かしか採れない染料だから貝紫っていう呼び名だったっけ。
貝だから採れなきゃ手に入らないって言われたのに、こんなに鮮やかな発色になるくらいたっぷり使われてるとか、気にならないはずがないよね。

「リリー、ヴィルの服が珍しいの?」
「はい、正しくはその紫色が、ですけれど。貴重な染めに見えるから気になって」

不思議そうなレオナール様の声に答えたら、ふぅんと軽く首を傾げられた。

「確か、鉱物の染め。魔法で鉱物を液体に変えたんだ、安価だけど魔力を帯びているから相当な魔力がないと魔力酔いする」
「貝ではなく鉱物の染め、ですか。安価なのは魅力的ですが、私には着られない訳ですね」

むしろ相当な魔力がないとってことは、着ているだけである種のステータスを表せるってことか……それはそれで権威的に使えていいのかも?

「ヴィオラ様の魔力が強い証なのですね。リディアーヌ様は身につけても大丈夫でしょうか」
「んー、王太子なら大丈夫だったみたいだけど、王太子妃殿下の魔力量はわからない」
「確かに……リディアーヌ様の立場では、測る必要がありませんでしたからね」

私が知る限り、王太子はかなりの魔力を持っているとのことで、魔法使い並みに攻撃魔法を使えるんだとか。剣の腕前はお兄ちゃん――騎士で上位五人に数えられる実力を持っているとの話――と互角どころか一本取れるくらい強いのに魔法も強いとか、チートか。勉強的な意味じゃなく純粋に頭もいいし、欠点は嫁馬鹿な部分しかないとか、ひどい。色々ひどい。そこに計算高さと腹黒さが加わるから本当にひどい。
一方お嬢様は魔法こそ使えるけど使う機会も必要もないから、習った以上を知らない。で、習った魔法が基礎魔法……魔法が使えるくらいの魔力があるなら誰でも出来る程度な訳だ。
お嬢様に求められていたのは魔力じゃなくて社交力や外交力だもの。測り直さなきゃ正確な値はわからないよねぇ。

「だーかーらー! なにのほほんとレオちゃんも話してるのよ、この子変よ!?」
「変?」
「だって、普通気にするの私の口調とか見た目でしょう? なのに、染料が気になるってなんなの!?」

なんなのと言われても、一番聞きたかったことだもの。見た目は最初のインパクトだけでもう慣れたし、口調に関しても聞けるほど親しくない。

「口調にびっくりしなかったと言えば嘘になりますが、だからと言って別にどうということもありません。個人の好みであり自由であり、初対面の私があれこれ詮索すべきことでもないですよね?」
「えええ……」

何故か絶句されたけど、困ってレオナール様を見たら優しく微笑んで頷いてくれたからいいか。
そう思っていたら、パコンと何かを叩くような音が聞こえた。

「いたーい! ちょっと、誰……」
「この忙しい時に奇遇ですね、ヴィルヘルム殿。ここで会ったということは、もちろんお願いしていた分の仕事が終わったということですね、素晴らしいですね」

振り向けば、手に持っていた分厚い資料らしき紙の束でヴィオラさんの頭を叩いた格好のまま、にこにこと微笑みつつも背中に般若を背負っているかのようなルーカスさんが立っていた。
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