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魔法省で臨時メイドになりました
いつもと違う日の始まり
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そもそもの起こりは十日ほど前。
立て続けに起きた事件の処理に追われたレオナール様が、忙しさのあまり家に帰って来れなくなったことがはじまりだった。
レオナール様が帰ってこないのはさみしいけど、お仕事だから仕方ないよね。なんて最初は思ってたけど、レオナール様の同僚であるロザンナさんからも息子のジェイドを泊めてほしいってお願いされるくらい忙しいみたいで、今はもう心配でしかない。
とりあえずジルとジェイドを連れ帰ってくれる精霊さんに頼んでお弁当とか着替えの差し入れしてるけど、ちゃんと休めたりしてるのかなぁ……
そんなことを考えつつ、今日もいつものように夕食を作っていた。
「リリー、こんな感じですの?」
「うん、ありがとう。そしたらそこにマヨネーズと塩コショウを入れて、よく混ぜてね」
「わかりましたわ!」
元気に返事をしたのはレオナール様の契約者で水の精霊であるミリス。不思議な色合いの青く輝く髪に、澄んだ水色のまなざしを持った美少女の姿をしている。
でも見かけによらずとても強くて、私が出かける時には護衛も兼ねてくれるんだ。
もっとも、私にとってミリスは大事な家族みたいなものだし、親友って呼べるくらい仲がいい。だから護衛とはわかっていても、感覚的には友達とお買い物って感じで楽しむことができる。
そんなミリス、私がこの家に来た時には家事がからきしだったけど、本人の強い熱意と努力によって今では晩御飯を一緒に作ってくれるくらい腕が上がっている。ちなみに、現在ミリスに作ってもらってるのはポテトサラダ。レオナール様のお弁当もかねてるから、芋の食感は残さぬようよく潰して混ぜてもらっているんだ。見た目は華奢でも流石精霊さん、力のいる作業でも苦にした様子はまったくない。
私の作るポテトサラダに混ぜる具は、軽く塩揉みしたきゅうりと水にさらした玉ねぎのみじん切り、それからマカロニだけ。
サラダにしてももちろん美味しいけど、やわらかいパンにたっぷり塗るとすっごく美味しいんだよねー。
ごろっとした芋の入ったほくほくのポテトサラダも美味しいけど、サンドウィッチにすると食べにくいから私はいつもこれにしてる。
「マヨネーズはどれくらい入れますの?」
「芋が滑らかになるくらい、コショウは二振り、塩は味見をしてからね」
「わかりましたわ」
ミリスがポテトサラダを作っている間に私はメインのチキンソテーを焼いていく。
今日はハニーマスタードチキンにするんだ。蜂蜜の甘味と照りに、マスタードの香りが食欲をそそるはず。
調味料を全部混ぜた中にじっくり漬けたから、鳥にはしっかり味がついてるんだ。マスタードを使ってるけどまったく辛くないから、小さな子でも食べられる。
辛いの苦手なレオナール様も美味しいって言ってくれたらいいな。
なんて考えつつ皮をパリッとさせるために鳥をヘラで押し焼きしていたら、ジルたちが帰ってきたらしく声が聞こえて来た。
「お母さん、ただいま! いいにおい!」
「……ただいま」
元気に顔を見せたのはジル。レオナール様の養女で私にとっても大事な愛娘だ。ふわふわと波打つ金の髪を背中に遊ばせ、空色の大きな瞳を期待にキラキラ輝かせているのがとても可愛くて微笑んでしまう。
その後ろから顔を覗かせたのは、ロザンナさんの息子であるジェイドだ。彼もまたロザンナさんたちの養子で、黒い髪に深い緑の瞳を持ったジルより少し年上の男の子。彼は綺麗な目を閉じて、すんすんと鼻を動かしている。
「この匂いは、マスタード?」
「ジェイド君大正解、今日のご飯はハニーマスタードチキンだよ。辛くないから安心してね」
「よかった」
少しだけ不安そうなジェイドに笑いかければ、ホッとしたような顔で笑みを返してくれる。初めて会った時に比べれば格段に豊かになった表情に安堵を覚えながらチキンをひっくり返して蓋をする。
これで少し蒸し焼きにしたら出来上がりだ。
「そろそろご飯ができるから、二人とも着替えておいで」
「はい。ジル、手を洗って着替えてこよう」
「うん!」
すっかり仲良しになった二人をミリスと微笑ましく見送る。
ここに来た最初こそ戸惑うように口数が少なかったジェイドも今はくつろいだ笑顔を見せてくれるようになったし、ジルもジェイドがいるのが嬉しいのか忙しくて疲れているわりに機嫌がいい。
ただ、ジェイドと一緒に寝るからと自分の部屋で毎晩寝るようになったから、ちょっとだけお母さんさみしいぞーってなってたりする。
「悪い、リリー。もう作り終わるか?」
「あらシドさん、お帰りなさい。ええ、もうすぐ出来ますよ」
疲れた様子で顔を覗かせたのは闇の精霊のシドさん。月光のような淡い銀の髪を短く揃え、瞳は満月の金に輝く美青年だ。正直、この家で暮らす皆様が私以外美男美女勢揃いなんだよね。中でもシドさんは特殊な生まれからレオナール様とよく似た顔立ちの美形で、レオナール様が澄んだ水のような美貌だとすればシドさんはぬくもりもわけてくれる陽だまりのような感じ。
二人が並んでいる姿は本当に目の保養というか、うん。私は平凡なので時々ここにいていいのかなってたそがれそうになる。
そんなこと言ったらみんなにしょんぼりされるわかりきってるから絶対言わないけど。
で、晩御飯だっけ。この蒸し焼きが終われば出来上がりだから、本当にあとちょっとなんだよね。しかも今焼いてるのがお弁当用で、家で食べる用はまた次に焼くつもりだから……
「お弁当でしたらこれを焼いて冷ます時間だけいただければすぐですけど、急ぎますか?」
頭の中で一番早く出来る手順を考えながら聞くと、あーっと低い声が返ってきた。
「なあリリー、弁当作りに自分の着替えの時間を追加して、終わるまでにどれくらい時間があればいい?」
「え?」
「マスターがそろそろ限界でな。ちょっと顔見せてやってほしい」
言われた内容を理解するのに少し時間がかかった。えっと、つまり、今からお弁当持ってレオナール様のところに行こうってことだよね?
立て続けに起きた事件の処理に追われたレオナール様が、忙しさのあまり家に帰って来れなくなったことがはじまりだった。
レオナール様が帰ってこないのはさみしいけど、お仕事だから仕方ないよね。なんて最初は思ってたけど、レオナール様の同僚であるロザンナさんからも息子のジェイドを泊めてほしいってお願いされるくらい忙しいみたいで、今はもう心配でしかない。
とりあえずジルとジェイドを連れ帰ってくれる精霊さんに頼んでお弁当とか着替えの差し入れしてるけど、ちゃんと休めたりしてるのかなぁ……
そんなことを考えつつ、今日もいつものように夕食を作っていた。
「リリー、こんな感じですの?」
「うん、ありがとう。そしたらそこにマヨネーズと塩コショウを入れて、よく混ぜてね」
「わかりましたわ!」
元気に返事をしたのはレオナール様の契約者で水の精霊であるミリス。不思議な色合いの青く輝く髪に、澄んだ水色のまなざしを持った美少女の姿をしている。
でも見かけによらずとても強くて、私が出かける時には護衛も兼ねてくれるんだ。
もっとも、私にとってミリスは大事な家族みたいなものだし、親友って呼べるくらい仲がいい。だから護衛とはわかっていても、感覚的には友達とお買い物って感じで楽しむことができる。
そんなミリス、私がこの家に来た時には家事がからきしだったけど、本人の強い熱意と努力によって今では晩御飯を一緒に作ってくれるくらい腕が上がっている。ちなみに、現在ミリスに作ってもらってるのはポテトサラダ。レオナール様のお弁当もかねてるから、芋の食感は残さぬようよく潰して混ぜてもらっているんだ。見た目は華奢でも流石精霊さん、力のいる作業でも苦にした様子はまったくない。
私の作るポテトサラダに混ぜる具は、軽く塩揉みしたきゅうりと水にさらした玉ねぎのみじん切り、それからマカロニだけ。
サラダにしてももちろん美味しいけど、やわらかいパンにたっぷり塗るとすっごく美味しいんだよねー。
ごろっとした芋の入ったほくほくのポテトサラダも美味しいけど、サンドウィッチにすると食べにくいから私はいつもこれにしてる。
「マヨネーズはどれくらい入れますの?」
「芋が滑らかになるくらい、コショウは二振り、塩は味見をしてからね」
「わかりましたわ」
ミリスがポテトサラダを作っている間に私はメインのチキンソテーを焼いていく。
今日はハニーマスタードチキンにするんだ。蜂蜜の甘味と照りに、マスタードの香りが食欲をそそるはず。
調味料を全部混ぜた中にじっくり漬けたから、鳥にはしっかり味がついてるんだ。マスタードを使ってるけどまったく辛くないから、小さな子でも食べられる。
辛いの苦手なレオナール様も美味しいって言ってくれたらいいな。
なんて考えつつ皮をパリッとさせるために鳥をヘラで押し焼きしていたら、ジルたちが帰ってきたらしく声が聞こえて来た。
「お母さん、ただいま! いいにおい!」
「……ただいま」
元気に顔を見せたのはジル。レオナール様の養女で私にとっても大事な愛娘だ。ふわふわと波打つ金の髪を背中に遊ばせ、空色の大きな瞳を期待にキラキラ輝かせているのがとても可愛くて微笑んでしまう。
その後ろから顔を覗かせたのは、ロザンナさんの息子であるジェイドだ。彼もまたロザンナさんたちの養子で、黒い髪に深い緑の瞳を持ったジルより少し年上の男の子。彼は綺麗な目を閉じて、すんすんと鼻を動かしている。
「この匂いは、マスタード?」
「ジェイド君大正解、今日のご飯はハニーマスタードチキンだよ。辛くないから安心してね」
「よかった」
少しだけ不安そうなジェイドに笑いかければ、ホッとしたような顔で笑みを返してくれる。初めて会った時に比べれば格段に豊かになった表情に安堵を覚えながらチキンをひっくり返して蓋をする。
これで少し蒸し焼きにしたら出来上がりだ。
「そろそろご飯ができるから、二人とも着替えておいで」
「はい。ジル、手を洗って着替えてこよう」
「うん!」
すっかり仲良しになった二人をミリスと微笑ましく見送る。
ここに来た最初こそ戸惑うように口数が少なかったジェイドも今はくつろいだ笑顔を見せてくれるようになったし、ジルもジェイドがいるのが嬉しいのか忙しくて疲れているわりに機嫌がいい。
ただ、ジェイドと一緒に寝るからと自分の部屋で毎晩寝るようになったから、ちょっとだけお母さんさみしいぞーってなってたりする。
「悪い、リリー。もう作り終わるか?」
「あらシドさん、お帰りなさい。ええ、もうすぐ出来ますよ」
疲れた様子で顔を覗かせたのは闇の精霊のシドさん。月光のような淡い銀の髪を短く揃え、瞳は満月の金に輝く美青年だ。正直、この家で暮らす皆様が私以外美男美女勢揃いなんだよね。中でもシドさんは特殊な生まれからレオナール様とよく似た顔立ちの美形で、レオナール様が澄んだ水のような美貌だとすればシドさんはぬくもりもわけてくれる陽だまりのような感じ。
二人が並んでいる姿は本当に目の保養というか、うん。私は平凡なので時々ここにいていいのかなってたそがれそうになる。
そんなこと言ったらみんなにしょんぼりされるわかりきってるから絶対言わないけど。
で、晩御飯だっけ。この蒸し焼きが終われば出来上がりだから、本当にあとちょっとなんだよね。しかも今焼いてるのがお弁当用で、家で食べる用はまた次に焼くつもりだから……
「お弁当でしたらこれを焼いて冷ます時間だけいただければすぐですけど、急ぎますか?」
頭の中で一番早く出来る手順を考えながら聞くと、あーっと低い声が返ってきた。
「なあリリー、弁当作りに自分の着替えの時間を追加して、終わるまでにどれくらい時間があればいい?」
「え?」
「マスターがそろそろ限界でな。ちょっと顔見せてやってほしい」
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