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お日様色の花 下
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「もうこんな時間か。そろそろ帰らないとだな」
買い物帰り、疲れただろうからってお茶を一緒にして、まるで恋人みたいな時間を貰った。
幸せな時間は本当にあっという間に過ぎちゃうんだなって残念に思うのと同時に緊張してくる。
でも、勇気を出すってちゃんと決めたから。
「シドさん、最後に一か所だけ、寄り道してもいいですか?」
そう言ってやって来たのは、私達がはじめて出会った場所。小道から少し入った所にある、近くの花屋さんの管理する公園だ。
花を荒らさなければ自由に入っていいと言われたここは、当時の私にとって格好の隠れ場所で、静かで人もあまりいない場所だった。
「ああ、よかった。まだ咲いてた」
「向日葵か、見事だな」
花屋さんに聞いていたけど、今ちょうど咲き始めたと言われた向日葵が、凛と咲いている。
向日葵の前に立ちシドさんをまっすぐに見つめれば、どこか眩し気にシドさんが目を細めた。
「シドさん、覚えてますか? ここで私達、出会ったんですよ」
「覚えてる。花に紛れるみたいに、膝を抱えて泣いてるのが気になって声をかけたんだよな」
「初対面なのに顔がいいなんて酷いと、きらきらした髪がずるいと、子供みたいに責め立ててしまいましたね……その際は本当に恥ずかしい所をお見せしました」
「いや、実際あの時は子供だっただろ?」
気にしてないと笑うシドさんは、五年も経つのにはじめて会った時と変わらない。私は十五になったから、私より年上なのはわかりきっていたけれど。
「今の私も、まだ子供ですか?」
「いんや、もう立派な一人前のレディだな。」
「じゃあ、ちゃんと私の言葉を聞いてもらえますよね」
ひとつ息を吸い込んで、私は目いっぱい笑って見せる。
「私はシドさんが、一人の男性として好きです」
僅かに目を見開いて何かを言おうとするシドさんに、そうさせないよう言葉を続ける。
「ここでシドさんが私の髪を、大嫌いだった髪を、お日様の色と言ってくれたから。明るくて綺麗な花の色と褒めてくれたから、向日葵みたいに前を向いて生きていけるようになりました。さっき褒めてくれた考え方も、シドさんと出会ったから思えるようになった私で、だから私はシドさんに恋をして変わったことを誇りに思ってます」
「……ナナ」
「子供の憧れじゃなくて、ちゃんと好きです……ちゃんと、伝わってますか」
最後の方は悔しいけど声が震えてしまった。どんな返事が来るか、聞きたい気持ちと聞きたくない気持ちがせめぎあってぐるぐるする。
子供の思い込みみたいに片付けないで。ちゃんと恋をしてるって、そこを否定しないで。祈るように見つめた先で、シドさんはの目が大きく揺れた。
「……ああ。ああ、ちゃんと、受け取った」
そう言って頷いてくれたシドさんに、私はほっと息を吐く。その拍子に一粒だけ頬を流れた涙の意味は、私にもよくわからなかった。
「あ、ナナ……」
「ジャン?」
両手で贈り物をしっかり抱きかかえて家に帰ってきたら、何故かジャンが外に立っていた。
酷く狼狽えているような姿がちょっと面白くてくすっと笑ってしまう。
「何してるの?」
「や、その……告白、するって言ったから気になって」
「ああ、ちゃんと告白して、ちゃんとフラれて来たよ」
あっさりと私がそう言うと、ジャンは真ん丸に目を見開いて口をパクパクさせる。
それがあんまりにも面白すぎて、とうとう声を立てて笑ってしまった。
『俺の心の一番は、もう他のやつで埋まってる。絶対誰にも譲ってやれねーから、ナナの気持ちに同じ答えを返せない』
はっきりと言い切ったシドさんは、でも、となんだか泣きそうに笑っていた。
『ありがとな。俺を、好きになってくれて』
まるで宝物を確かめるように、やわらかな声で言ってくれた。それだけでなんだか満足してしまった。
好きで、本当に好きで、今も思うだけで胸が痛むのに、とてもすっきりした気分になっている。
フラれたことより伝えられた達成感の方が強いのかもしれない。
「最後に握手して、けじめをつけて、満足」
「いいのか、それで」
「うん、好きな気持ちを否定されなかったし、ちゃんと私を私として見てくれたうえで、もう大事な人が決まってるからって言われたの。だから、もう、充分」
ふと、こんなにジャンと普通に話すのはいつぶりだろうと思って顔を見る。
記憶よりも大人びた、意地悪だった男の子。でも、考えてみたら最近はからかわれてないなとか、なんだかんだ心配してくれてるのかなとか、そう思ったら前ほど嫌いな気持ちは浮かんでこない。
これも私が変われたから? そうだとしたら、やっぱり恋をしてよかった。痛くて甘くて苦しくて幸せな、こんな気持ちを知れてよかった。
「シドさん、あなたに恋をして、本当によかった」
小さく呟いた言葉はジャンにも届かず、風に消える。
「ナナ、帰って来たの?」
「うん、ただいま、お姉ちゃん!」
お姉ちゃんの呼ぶ声に、私は晴れ晴れとした気持ちで笑って返事をした。
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買い物帰り、疲れただろうからってお茶を一緒にして、まるで恋人みたいな時間を貰った。
幸せな時間は本当にあっという間に過ぎちゃうんだなって残念に思うのと同時に緊張してくる。
でも、勇気を出すってちゃんと決めたから。
「シドさん、最後に一か所だけ、寄り道してもいいですか?」
そう言ってやって来たのは、私達がはじめて出会った場所。小道から少し入った所にある、近くの花屋さんの管理する公園だ。
花を荒らさなければ自由に入っていいと言われたここは、当時の私にとって格好の隠れ場所で、静かで人もあまりいない場所だった。
「ああ、よかった。まだ咲いてた」
「向日葵か、見事だな」
花屋さんに聞いていたけど、今ちょうど咲き始めたと言われた向日葵が、凛と咲いている。
向日葵の前に立ちシドさんをまっすぐに見つめれば、どこか眩し気にシドさんが目を細めた。
「シドさん、覚えてますか? ここで私達、出会ったんですよ」
「覚えてる。花に紛れるみたいに、膝を抱えて泣いてるのが気になって声をかけたんだよな」
「初対面なのに顔がいいなんて酷いと、きらきらした髪がずるいと、子供みたいに責め立ててしまいましたね……その際は本当に恥ずかしい所をお見せしました」
「いや、実際あの時は子供だっただろ?」
気にしてないと笑うシドさんは、五年も経つのにはじめて会った時と変わらない。私は十五になったから、私より年上なのはわかりきっていたけれど。
「今の私も、まだ子供ですか?」
「いんや、もう立派な一人前のレディだな。」
「じゃあ、ちゃんと私の言葉を聞いてもらえますよね」
ひとつ息を吸い込んで、私は目いっぱい笑って見せる。
「私はシドさんが、一人の男性として好きです」
僅かに目を見開いて何かを言おうとするシドさんに、そうさせないよう言葉を続ける。
「ここでシドさんが私の髪を、大嫌いだった髪を、お日様の色と言ってくれたから。明るくて綺麗な花の色と褒めてくれたから、向日葵みたいに前を向いて生きていけるようになりました。さっき褒めてくれた考え方も、シドさんと出会ったから思えるようになった私で、だから私はシドさんに恋をして変わったことを誇りに思ってます」
「……ナナ」
「子供の憧れじゃなくて、ちゃんと好きです……ちゃんと、伝わってますか」
最後の方は悔しいけど声が震えてしまった。どんな返事が来るか、聞きたい気持ちと聞きたくない気持ちがせめぎあってぐるぐるする。
子供の思い込みみたいに片付けないで。ちゃんと恋をしてるって、そこを否定しないで。祈るように見つめた先で、シドさんはの目が大きく揺れた。
「……ああ。ああ、ちゃんと、受け取った」
そう言って頷いてくれたシドさんに、私はほっと息を吐く。その拍子に一粒だけ頬を流れた涙の意味は、私にもよくわからなかった。
「あ、ナナ……」
「ジャン?」
両手で贈り物をしっかり抱きかかえて家に帰ってきたら、何故かジャンが外に立っていた。
酷く狼狽えているような姿がちょっと面白くてくすっと笑ってしまう。
「何してるの?」
「や、その……告白、するって言ったから気になって」
「ああ、ちゃんと告白して、ちゃんとフラれて来たよ」
あっさりと私がそう言うと、ジャンは真ん丸に目を見開いて口をパクパクさせる。
それがあんまりにも面白すぎて、とうとう声を立てて笑ってしまった。
『俺の心の一番は、もう他のやつで埋まってる。絶対誰にも譲ってやれねーから、ナナの気持ちに同じ答えを返せない』
はっきりと言い切ったシドさんは、でも、となんだか泣きそうに笑っていた。
『ありがとな。俺を、好きになってくれて』
まるで宝物を確かめるように、やわらかな声で言ってくれた。それだけでなんだか満足してしまった。
好きで、本当に好きで、今も思うだけで胸が痛むのに、とてもすっきりした気分になっている。
フラれたことより伝えられた達成感の方が強いのかもしれない。
「最後に握手して、けじめをつけて、満足」
「いいのか、それで」
「うん、好きな気持ちを否定されなかったし、ちゃんと私を私として見てくれたうえで、もう大事な人が決まってるからって言われたの。だから、もう、充分」
ふと、こんなにジャンと普通に話すのはいつぶりだろうと思って顔を見る。
記憶よりも大人びた、意地悪だった男の子。でも、考えてみたら最近はからかわれてないなとか、なんだかんだ心配してくれてるのかなとか、そう思ったら前ほど嫌いな気持ちは浮かんでこない。
これも私が変われたから? そうだとしたら、やっぱり恋をしてよかった。痛くて甘くて苦しくて幸せな、こんな気持ちを知れてよかった。
「シドさん、あなたに恋をして、本当によかった」
小さく呟いた言葉はジャンにも届かず、風に消える。
「ナナ、帰って来たの?」
「うん、ただいま、お姉ちゃん!」
お姉ちゃんの呼ぶ声に、私は晴れ晴れとした気持ちで笑って返事をした。
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