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お日様色の花 上
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お気に入りのドレスは綺麗な緑。珍しい異国の繊細なレースのリボンは、明るすぎる髪を少しだけいつもより大人っぽく見せてくれる気がする。
普段より丁寧に化粧をして、最後にお姉ちゃんに似合うよと言ってもらえたとっておきの口紅も借りて、準備は万全。
「よし、行ってきます」
「頑張りなさいな、ナナ」
それだけ言って見送ってくれるお姉ちゃんの優しさに頷く。
私と違って綺麗な金髪の、素敵な旦那さんのいる自慢のお姉ちゃん。ふっくらとしはじめたお腹を愛おし気に撫でる姿は妹の目から見ても美人で、だから卑屈だった時にはうっとおしくて大嫌いだったのに、今はとても頼もしくてありがたい存在になっていた。
ふわりと視界に入る黄色の髪に小さく微笑む。
どれほど手入れをしても綺麗とは思えなかったこの髪が私の卑屈の原因だった。
家族の誰にも似ていない、お姉ちゃんと比べられるばかりの髪が大嫌いで、うじうじしてばっかりだった。
そんな私が変わったのは、恋をしたから。
「……ナナ?」
家を出て急ぎ足で歩いていると、幼馴染のジャンが声をかけてきた。
私の髪色をからかう筆頭で、昔は大嫌いだったけど、今では普通に受け答えできるくらいには私も大人になれた。
どこか驚いた顔のジャンに、余裕すら見せて微笑んで見せる。
「どうかした?」
「いや……なんか、いつもと雰囲気が」
「ふふ、そうでしょ。頑張ったもの」
くるりとその場で回れば、ふわりと蜂蜜の香りが鼻をくすぐる。髪の手入れにも口紅にも蜂蜜を使っているせいか、香水をつけなくてもどこか甘い香りに包まれている私は、多分いつも以上に可愛いはず。
もしジャンに何か言われたとしても、今日の私は魔法をかけているようなものだから問題もない。
「そ、そんなに着飾ってどこに行くんだ? 俺がついて行ってやろうか?」
「あら、駄目よ。誤解されちゃうわ……これから、好きな人に告白しに行くんだから。じゃあね」
珍しい言葉に目を丸くしつつ、笑って申し出を断る。返事はないけど、約束の時間があるからそのまま踵を返す。
せっかく約束を取りつけられたんだから、一秒だって無駄にしたくない。
そうして急ぎ足で待ち合わせ場所に辿り着けば、彼はもうすでにそこにいた。
銀の髪に金の瞳、人とは思えないくらい整った顔、すらりとした身長。女性に聞いたらみんなが格好いいと口を揃えるだろう外見の彼が、私を見つけて微笑んでくれる。
それだけで胸がぎゅうっと苦しくて、泣きたいくらい幸せにもなって、ああ好きなんだって実感するんだ。
「お待たせしました、シドさん」
「女の子を待たせたくなかっただけだから気にすんな。今日はいつもと印象が違うんだな、普段も明るくてかわいいが今日のも大人っぽくてよく似合ってる」
「あ、ありがとうゴザイマス……」
今絶対顔が真っ赤になってる。サラッと意識した様子もなく褒めてくれるところ、私だけじゃなくて他の人にも平等にあるんだって知ってる。私が特別だなんてうぬぼれもしない。
だけど好きな人に努力を褒められて嬉しくない女の子なんていないでしょ?
それにそのなにげない優しさが、恋をした一番の理由なんだし。
「今日はお姉さん夫婦のお祝いだっけ?」
「はい。お手数ですが、男性の喜ぶものはわからないので、よろしくお願いします」
「んー、俺がいいなと思うものだから喜んでもらえるかはわからねーが……頼まれたからには全力で協力するぜ」
そう、今日シドさんに声をかけれたのは、お姉ちゃんと旦那さんに贈り物をする相談とお買い物に付き合ってもらうという理由があるから。
この関係で二人で歩けるこんな機会きっともう二度とないから、今日私の恋も一歩踏み出すと決めた。
並んで歩き出せば私の速度に合わせてゆっくりと歩いてくれる、そんなささいなことが飛び上がるほど嬉しくて、だけど手を繋いだり腕を組んだり、そういう距離の近さはない事実が悔しい。
もやもやともだもだを交互に感じていると、シドさんのすすめるお店につく。
落ち着いた雰囲気で、大人でも持ち歩いておかしくない物が私のお小遣いでも手が届く、まさに理想の品ぞろえ。
「それにしても、妊娠のお祝いを両親それぞれにって考えは面白いな」
「赤ちゃんのもの、いっぱいもう受け取っているので。それに、私はこれから親になる二人におめでとうをまず言ってあげたいなって……おかしいですか?」
「いや、スゲーなと思ったよ。今頑張ってるのは、お腹の赤ん坊だけじゃないって考えだろ? 必死に育ててる母親と、それを支える父親も、同じように頑張って新しい家族になるって、当たり前なのになかなか思いつかないよなって。真っ先にそこに気づけるナナは、心が綺麗なんだと感心してる」
自分の心が綺麗なだけじゃないとわかってるけど、今の私が少しでもそう思ってもらえるならやっぱり変われたんだなって嬉しくなる。
今の自分を好きになって笑えるのは、シドさんがくれた言葉のおかげだ。いつもの調子で何の気なしに口にした褒め言葉だったわかっているけど、それが女の子を変えるくらい凄い言葉なんだってちゃんと伝えたい。
ああでもない、こうでもないと、真剣に贈り物を考えてくれるシドさんにまた胸をぎゅっと鷲掴みにされながら、私もちゃんと目的の贈り物を探しだした。
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普段より丁寧に化粧をして、最後にお姉ちゃんに似合うよと言ってもらえたとっておきの口紅も借りて、準備は万全。
「よし、行ってきます」
「頑張りなさいな、ナナ」
それだけ言って見送ってくれるお姉ちゃんの優しさに頷く。
私と違って綺麗な金髪の、素敵な旦那さんのいる自慢のお姉ちゃん。ふっくらとしはじめたお腹を愛おし気に撫でる姿は妹の目から見ても美人で、だから卑屈だった時にはうっとおしくて大嫌いだったのに、今はとても頼もしくてありがたい存在になっていた。
ふわりと視界に入る黄色の髪に小さく微笑む。
どれほど手入れをしても綺麗とは思えなかったこの髪が私の卑屈の原因だった。
家族の誰にも似ていない、お姉ちゃんと比べられるばかりの髪が大嫌いで、うじうじしてばっかりだった。
そんな私が変わったのは、恋をしたから。
「……ナナ?」
家を出て急ぎ足で歩いていると、幼馴染のジャンが声をかけてきた。
私の髪色をからかう筆頭で、昔は大嫌いだったけど、今では普通に受け答えできるくらいには私も大人になれた。
どこか驚いた顔のジャンに、余裕すら見せて微笑んで見せる。
「どうかした?」
「いや……なんか、いつもと雰囲気が」
「ふふ、そうでしょ。頑張ったもの」
くるりとその場で回れば、ふわりと蜂蜜の香りが鼻をくすぐる。髪の手入れにも口紅にも蜂蜜を使っているせいか、香水をつけなくてもどこか甘い香りに包まれている私は、多分いつも以上に可愛いはず。
もしジャンに何か言われたとしても、今日の私は魔法をかけているようなものだから問題もない。
「そ、そんなに着飾ってどこに行くんだ? 俺がついて行ってやろうか?」
「あら、駄目よ。誤解されちゃうわ……これから、好きな人に告白しに行くんだから。じゃあね」
珍しい言葉に目を丸くしつつ、笑って申し出を断る。返事はないけど、約束の時間があるからそのまま踵を返す。
せっかく約束を取りつけられたんだから、一秒だって無駄にしたくない。
そうして急ぎ足で待ち合わせ場所に辿り着けば、彼はもうすでにそこにいた。
銀の髪に金の瞳、人とは思えないくらい整った顔、すらりとした身長。女性に聞いたらみんなが格好いいと口を揃えるだろう外見の彼が、私を見つけて微笑んでくれる。
それだけで胸がぎゅうっと苦しくて、泣きたいくらい幸せにもなって、ああ好きなんだって実感するんだ。
「お待たせしました、シドさん」
「女の子を待たせたくなかっただけだから気にすんな。今日はいつもと印象が違うんだな、普段も明るくてかわいいが今日のも大人っぽくてよく似合ってる」
「あ、ありがとうゴザイマス……」
今絶対顔が真っ赤になってる。サラッと意識した様子もなく褒めてくれるところ、私だけじゃなくて他の人にも平等にあるんだって知ってる。私が特別だなんてうぬぼれもしない。
だけど好きな人に努力を褒められて嬉しくない女の子なんていないでしょ?
それにそのなにげない優しさが、恋をした一番の理由なんだし。
「今日はお姉さん夫婦のお祝いだっけ?」
「はい。お手数ですが、男性の喜ぶものはわからないので、よろしくお願いします」
「んー、俺がいいなと思うものだから喜んでもらえるかはわからねーが……頼まれたからには全力で協力するぜ」
そう、今日シドさんに声をかけれたのは、お姉ちゃんと旦那さんに贈り物をする相談とお買い物に付き合ってもらうという理由があるから。
この関係で二人で歩けるこんな機会きっともう二度とないから、今日私の恋も一歩踏み出すと決めた。
並んで歩き出せば私の速度に合わせてゆっくりと歩いてくれる、そんなささいなことが飛び上がるほど嬉しくて、だけど手を繋いだり腕を組んだり、そういう距離の近さはない事実が悔しい。
もやもやともだもだを交互に感じていると、シドさんのすすめるお店につく。
落ち着いた雰囲気で、大人でも持ち歩いておかしくない物が私のお小遣いでも手が届く、まさに理想の品ぞろえ。
「それにしても、妊娠のお祝いを両親それぞれにって考えは面白いな」
「赤ちゃんのもの、いっぱいもう受け取っているので。それに、私はこれから親になる二人におめでとうをまず言ってあげたいなって……おかしいですか?」
「いや、スゲーなと思ったよ。今頑張ってるのは、お腹の赤ん坊だけじゃないって考えだろ? 必死に育ててる母親と、それを支える父親も、同じように頑張って新しい家族になるって、当たり前なのになかなか思いつかないよなって。真っ先にそこに気づけるナナは、心が綺麗なんだと感心してる」
自分の心が綺麗なだけじゃないとわかってるけど、今の私が少しでもそう思ってもらえるならやっぱり変われたんだなって嬉しくなる。
今の自分を好きになって笑えるのは、シドさんがくれた言葉のおかげだ。いつもの調子で何の気なしに口にした褒め言葉だったわかっているけど、それが女の子を変えるくらい凄い言葉なんだってちゃんと伝えたい。
ああでもない、こうでもないと、真剣に贈り物を考えてくれるシドさんにまた胸をぎゅっと鷲掴みにされながら、私もちゃんと目的の贈り物を探しだした。
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