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青い彼と贈り物 上(ロジ様へ)

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それはいつものように買い物に出ていた時のこと。

 「やあリリー、買い物?」

にこやかな笑みとともに現れた茶髪の少年にきょとんとしていれば、少年はぱちりと片目をつむる。
 鮮やかな青い瞳が……青い瞳?
え、まって、茶髪だから一瞬わからなかったけど、もしかして。

 「カーディ……っ!?」
 「しー、その名前は駄目だよ、リリー」

 唇にちょんと指をあてられただけなのに言葉が出なくなる。そのままいたずらっぽく笑った少年――カーディナルは、はぐれと呼ばれる魔法使いで、いわゆるお尋ね者のはず。
 見つかったら捕まるのに、なんでまた王都にいるのかと呆れてしまう。

 「どうしてあなたがここに?」
 「リリーに会いに、ちょっとね」

 前に関わって以来なぜか私を気に入ったらしいカーディナルは、本気でそのために来たらしい。
 捕まる危険を犯してまで私に会いたいって、いったいどんな理由?

 「なにか、あったの?」

 思わず心配になって問いかければ、カーディナルは少し目を丸くしてからやわらかく微笑んだ。

 「そこで僕の心配しちゃうんだから、リリーって面白いよね」
 「え、だって」
 「ふふ、大丈夫。でも、ちょっとリリーに聞きたいというか助言が欲しいというか……まあ、買い物に付き合ってもらえないかなって誘いに来たんだよね」

 買い物の、お誘い。予想外の言葉に目を瞬かせるけど、そういうことなら……あ。

 「えっと、レオナール様の精霊さんたちも一緒でいい? あとレオナール様への報告も」
 「同行はもちろんだけど、レオナール君に報告されるのは困るな」

そう言って笑うカーディナルの目が笑ってないから怯みそうになるけど、これはちょっと譲れない。

 「だって、レオナール様に誤解されたくない、もの」
 「……あ、そっち? そういう意味?」
 「他にどんな意味が?」

だってどうせ私には捕まえられないし、レオナール様が駆けつける前には逃げちゃうでしょう?
そう言ったら思いっきり笑われた。

 「やー、うん。リリーって本当に面白いよねー。そういうところがもっと親しみ持てて僕は好きだけど。じゃ、いいよ、報告しても」
 「……そんなに私と買い物したいの?」
 「うん。女の子の意見が欲しいけど、リリー以外に付き合ってくれる人いないもん」

ああ、だいたいわかった。

 「つまり恋人への贈り物なのね」
 「そそ。今度の満月が僕たちが出会ってからちょうど一万日目なんだよ。だから、なにか特別なことをしたいなって」

 一万日目って、すごいけど細かいなー、私なら年記念でいいくらいだよ。でも魔法使い的に一万日目が意味を持ったりするのかな? 前世読んだ本に似たような話があったような気がしなくもない。
まあ、とりあえずそれは置いといて。

 「ミリス、アムドさん」
 「なぁに、リリー」

 少し離れた場所で私たちの会話を見ていた二人が近づいてくる。こういうぴったり張り付く訳じゃない護衛は私の息抜き的にもちょうどいいし、二人にとっても軽いデート気分になれるみたいで、最近この組み合わせの時はもっぱら用事のない時は少しだけ離れて動いてる。
だから多分、カーディナルの正体も気づかれてない、はず。

 「ちょっとこの方と寄り道をしてもいい?」
 「リリーの友達なら、別に……」
 「ありがとう、ミリス。じゃあアムドさん、レオナール様に誤解しないでねって伝えてもらってもいいかしら」

あ、とミリスが口を開く傍らで、アムドさんが苦笑する。

 「わかった。俺たち、離れていた方がいいか。一緒の方がいいか」
 「一緒でお願いします」

その方がより誤解を与えにくいだろうし、そもそもカーディナルの買い物にはミリスたちを巻き込んだ方がよさそうなんだもの。
カーディナルの大切な想い人は、風の精霊さん。それも精霊王の候補とされるほどの力を持っている、らしい。
 精霊さんの好みまではさすがにわからないから、同じ女性の精霊さんであるミリスや、同じ風の精霊さんであるアムドさんの意見も取り入れられたらより良い物を見つけられそうじゃない?

 「ええと、じゃあ、行きましょうか」
 「ふふ、うん。ありがとう」

 嬉しそうなカーディナルにちょっとだけ困惑しつつ、それでも頼られることは嫌じゃない。
そんな不思議な気持ちを抱きつつ、私たちはカーディナルと共に買い物を続けることになった。
……それにしても、カーディナルはいったい何を贈りたいんだろう?


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