上 下
2 / 14

行事は心のふるさとです

しおりを挟む
「ジルの誕生日を決めなきゃならなくなった」

 洗濯物を取り込んでいたらなぜかいきなりレオナール様の寝室に連れ込まれた私は、ベッドの上で後ろからレオナール様に抱き締められるという恥ずかしい格好になっていた。
うん、この状況でいきなりそんなこと言われても反応できないからね!?

「で、なんでこの状態に」
 「ちょうどシドたち全員いなくなったし、ジルもいないし、リリーと二人きりで内緒話出来る状況めったにないから」
 「確かにそうだけど」
 「それに、リリーに触れたかった」

……うん、わかってる。レオナール様に他意はない、言葉通りの意味でこうやって抱き締めたかっただけだってわかってるよ。だから赤くなるな私の顔! 絶対にからかわれるからっ!

 「そ、それで、ジルの誕生日を決めるって、いったいどういうこと?」
 「んー、今日ちょっとジェイドの誕生日の話になって。ジェイドは自分の名前をもらって引き取られた日を誕生日として登録したんだ。そしたら、ジルもそうしたいって」
 「なるほど、だけどジルはジゼル・クロッズだった時と同じ誕生日で既に登録がされていた、とか?」
 「そう。で、拗ねてる」

うーん、まあ、ジルの気持ちもわからなくはない。
 私とレオナール様を親と慕ってくれてるし、実の両親のところでは愛された実感がない。養子縁組を機に名前も変えて、だからと思ったんだよね。
ただ、ジェイドは自分の出身も正確な年齢すらわからない状態だったという違いがある。だから今回の申請も受け入れられたんだ。ジルに関して言えば、これに当てはまらない以上誕生日まで変えるのは虚偽扱いにあるんだろうな……

「ジルの誕生日については、私の方で説得するわ。ちなみにいつ?」
 「海の月の十六日だよ」

この世界は前世と同じように一年が十二ヶ月の三百六十五日。ただ、月ごとに守護する神様がいて、その神様の属性で月を呼ぶ。
 海の月は前世でいう三月。海の神が守護するから、海の月って呼ばれる訳だ。しいて言うなら前世の星座と同じような感覚かな?
ちなみに一月から順に、星・空・海・火・土・風・月・陽・水・愛・木・夜になっていて、閏年の閏日だけは創造の日と呼ばれている。だから閏日には創造神を湛える祭りが各地で行われるんだ。

 「私は陽の月の十九日……あれ、レオナールは?」
 「木の月、二十九日、だったかな」

……なんだってそんな曖昧な返事が来るんだろう。不思議に思って振り向けば、眉を下げたレオナール様が淡く苦笑していた。

 「僕は祝われたことがないから。曖昧で、ごめん」
 「……でも、記録はあるよね?」
 「あるけど、普段使わない。調べればすぐだけど」
 「じゃあ、調べましょう。で、盛大にお祝いするの」

 意気込んで言えば、さっきとは違ってくすりとおかしそうにレオナール様が笑う。

 「リリー、ずいぶん必死」
 「だって、誕生日だよ? 生まれてきてくれてありがとうって、私と出会ってくれてありがとうって言いたいもの」

 生まれた日を祝うのは、その人が生まれたことを祝い、出会えたことを感謝するためにある。そう教えてくれたのは、この世界の母さんだった。
あなたに会えて幸せだと、そう伝えるために祝いの言葉を贈るのだと。
その言葉を聞いたとき、前世の父が母が亡くなった後も毎年誕生日を祝っていた意味が分かったんだ。
この世界で彼女に出会うために生まれてきた。彼女こそ、僕の運命の人だった。
そう笑っていた父の気持ちが、どれほど母を愛していたのかが、やっと心の底から理解できたような気がした。

 「大切な人だから、祝いたいんだ」
 「リリー……」

どこか泣きそうな顔で笑うレオナール様。もちろんレオナール様だって次の誕生日には全力でお祝いしますとも!
だから、そんな顔しないで?

 「それでもジルが気にして嫌がるなら、家族になった日を記念日にしちゃえばいいよね」

にこりと笑って見せたら、レオナール様は一度ぎゅっと私を抱き締めて微笑んでくれた。

 「リリーは、嬉しいことばっかり言ってくれるね」
 「そう? でも誕生日の考えは母さんから教えられたし、記念日も前は色々あったから」
 「……記念日が色々?」

こてりと首を傾げたレオナール様に笑って頷く。

 「祝日というか記念日というか、行事が色々とあったの。バレンタインデーとかクリスマスって異国から取り入れた行事も、節分や雛祭りなんて国有の行事もあったな」
 「へぇ……」

 目を輝かせたレオナール様は、じゃあと笑う。

 「やろう」
 「え?」
 「だって、前の記憶だけじゃ、さみしい。でしょ? 楽しい思い出、僕たちともいっぱい作ろう?」

……うん、さっきレオナール様、私が嬉しい言葉ばっかり言うって言ってたけど、絶対レオナール様の方が私を喜ばせることばっかり言ってくれてるよね。

 「じゃあ、本当のことは内緒で。あちこちの本で見かけた行事とかごちゃ混ぜでやってますってことで」
 「うん、前の話は僕とリリーだけの秘密、だもんね」

にこにこ笑うレオナール様に頷いて、今度は私から抱きつく。
ほんと、嬉しい言葉をたくさんくれちゃうんだから、もう。

 「……ありがとう」

こそっと呟けば、レオナール様は何も言わずに頭を撫でてくれる。
ああもう、本当に。悔しいから、レオナール様の誕生日、絶対ビックリさせてやるんだから!


しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

ただ、その瞳を望む

夕月 星夜
ファンタジー
「メイドから母になりました」のレオナール視点になります。 本編より過去だったりも。不定期更新です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

魔法のせいだからって許せるわけがない

ユウユウ
ファンタジー
 私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。  すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。

姉から奪うことしかできない妹は、ザマァされました

饕餮
ファンタジー
わたくしは、オフィリア。ジョンパルト伯爵家の長女です。 わたくしには双子の妹がいるのですが、使用人を含めた全員が妹を溺愛するあまり、我儘に育ちました。 しかもわたくしと色違いのものを両親から与えられているにもかかわらず、なぜかわたくしのものを欲しがるのです。 末っ子故に甘やかされ、泣いて喚いて駄々をこね、暴れるという貴族女性としてはあるまじき行為をずっとしてきたからなのか、手に入らないものはないと考えているようです。 そんなあざといどころかあさましい性根を持つ妹ですから、いつの間にか両親も兄も、使用人たちですらも絆されてしまい、たとえ嘘であったとしても妹の言葉を鵜呑みにするようになってしまいました。 それから数年が経ち、学園に入学できる年齢になりました。が、そこで兄と妹は―― n番煎じのよくある妹が姉からものを奪うことしかしない系の話です。 全15話。 ※カクヨムでも公開しています

側妃ですか!? ありがとうございます!!

Ryo-k
ファンタジー
『側妃制度』 それは陛下のためにある制度では決してなかった。 ではだれのためにあるのか…… 「――ありがとうございます!!」

メイドから母になりました

夕月 星夜
ファンタジー
第一部完結、現在は第二部を連載中 第一部は書籍化しております 第二部あらすじ 晴れて魔法使いレオナールと恋人になった王家のメイドのリリー。可愛い娘や優しく頼もしい精霊たちと穏やかな日々を過ごせるかと思いきや、今度は隣国から王女がやってくるのに合わせて城で働くことになる。 おまけにその王女はレオナールに片思い中で、外交問題まで絡んでくる。 はたしてやっと結ばれた二人はこの試練をどう乗り越えるのか? (あらすじはおいおい変わる可能性があります、ご了承ください) 書籍は第5巻まで、コミカライズは第11巻まで発売中です。 合わせてお楽しみいただけると幸いです。

今さら帰ってこいなんて言われても。~森に移住した追放聖女は快適で優雅に暮らす~

ケンノジ
ファンタジー
「もうお前は要らない女だ!」 聖女として国に奉仕し続けてきたシルヴィは、第一王子ヴィンセントに婚約破棄と国外追放を言い渡される。 その理由は、シルヴィより強い力を持つ公爵家のご令嬢が現れたからだという。 ヴィンセントは態度を一変させシルヴィを蔑んだ。 王子で婚約者だから、と態度も物言いも目に余るすべてに耐えてきたが、シルヴィは我慢の限界に達した。 「では、そう仰るならそう致しましょう」 だが、真の聖女不在の国に一大事が起きるとは誰も知るよしもなかった……。 言われた通り国外に追放されたシルヴィは、聖女の力を駆使し、 森の奥で出会った魔物や動物たちと静かで快適な移住生活を送りはじめる。 これは虐げられた聖女が移住先の森の奥で楽しく幸せな生活を送る物語。

処理中です...