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行事は心のふるさとです
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「ジルの誕生日を決めなきゃならなくなった」
洗濯物を取り込んでいたらなぜかいきなりレオナール様の寝室に連れ込まれた私は、ベッドの上で後ろからレオナール様に抱き締められるという恥ずかしい格好になっていた。
うん、この状況でいきなりそんなこと言われても反応できないからね!?
「で、なんでこの状態に」
「ちょうどシドたち全員いなくなったし、ジルもいないし、リリーと二人きりで内緒話出来る状況めったにないから」
「確かにそうだけど」
「それに、リリーに触れたかった」
……うん、わかってる。レオナール様に他意はない、言葉通りの意味でこうやって抱き締めたかっただけだってわかってるよ。だから赤くなるな私の顔! 絶対にからかわれるからっ!
「そ、それで、ジルの誕生日を決めるって、いったいどういうこと?」
「んー、今日ちょっとジェイドの誕生日の話になって。ジェイドは自分の名前をもらって引き取られた日を誕生日として登録したんだ。そしたら、ジルもそうしたいって」
「なるほど、だけどジルはジゼル・クロッズだった時と同じ誕生日で既に登録がされていた、とか?」
「そう。で、拗ねてる」
うーん、まあ、ジルの気持ちもわからなくはない。
私とレオナール様を親と慕ってくれてるし、実の両親のところでは愛された実感がない。養子縁組を機に名前も変えて、だからと思ったんだよね。
ただ、ジェイドは自分の出身も正確な年齢すらわからない状態だったという違いがある。だから今回の申請も受け入れられたんだ。ジルに関して言えば、これに当てはまらない以上誕生日まで変えるのは虚偽扱いにあるんだろうな……
「ジルの誕生日については、私の方で説得するわ。ちなみにいつ?」
「海の月の十六日だよ」
この世界は前世と同じように一年が十二ヶ月の三百六十五日。ただ、月ごとに守護する神様がいて、その神様の属性で月を呼ぶ。
海の月は前世でいう三月。海の神が守護するから、海の月って呼ばれる訳だ。しいて言うなら前世の星座と同じような感覚かな?
ちなみに一月から順に、星・空・海・火・土・風・月・陽・水・愛・木・夜になっていて、閏年の閏日だけは創造の日と呼ばれている。だから閏日には創造神を湛える祭りが各地で行われるんだ。
「私は陽の月の十九日……あれ、レオナールは?」
「木の月、二十九日、だったかな」
……なんだってそんな曖昧な返事が来るんだろう。不思議に思って振り向けば、眉を下げたレオナール様が淡く苦笑していた。
「僕は祝われたことがないから。曖昧で、ごめん」
「……でも、記録はあるよね?」
「あるけど、普段使わない。調べればすぐだけど」
「じゃあ、調べましょう。で、盛大にお祝いするの」
意気込んで言えば、さっきとは違ってくすりとおかしそうにレオナール様が笑う。
「リリー、ずいぶん必死」
「だって、誕生日だよ? 生まれてきてくれてありがとうって、私と出会ってくれてありがとうって言いたいもの」
生まれた日を祝うのは、その人が生まれたことを祝い、出会えたことを感謝するためにある。そう教えてくれたのは、この世界の母さんだった。
あなたに会えて幸せだと、そう伝えるために祝いの言葉を贈るのだと。
その言葉を聞いたとき、前世の父が母が亡くなった後も毎年誕生日を祝っていた意味が分かったんだ。
この世界で彼女に出会うために生まれてきた。彼女こそ、僕の運命の人だった。
そう笑っていた父の気持ちが、どれほど母を愛していたのかが、やっと心の底から理解できたような気がした。
「大切な人だから、祝いたいんだ」
「リリー……」
どこか泣きそうな顔で笑うレオナール様。もちろんレオナール様だって次の誕生日には全力でお祝いしますとも!
だから、そんな顔しないで?
「それでもジルが気にして嫌がるなら、家族になった日を記念日にしちゃえばいいよね」
にこりと笑って見せたら、レオナール様は一度ぎゅっと私を抱き締めて微笑んでくれた。
「リリーは、嬉しいことばっかり言ってくれるね」
「そう? でも誕生日の考えは母さんから教えられたし、記念日も前は色々あったから」
「……記念日が色々?」
こてりと首を傾げたレオナール様に笑って頷く。
「祝日というか記念日というか、行事が色々とあったの。バレンタインデーとかクリスマスって異国から取り入れた行事も、節分や雛祭りなんて国有の行事もあったな」
「へぇ……」
目を輝かせたレオナール様は、じゃあと笑う。
「やろう」
「え?」
「だって、前の記憶だけじゃ、さみしい。でしょ? 楽しい思い出、僕たちともいっぱい作ろう?」
……うん、さっきレオナール様、私が嬉しい言葉ばっかり言うって言ってたけど、絶対レオナール様の方が私を喜ばせることばっかり言ってくれてるよね。
「じゃあ、本当のことは内緒で。あちこちの本で見かけた行事とかごちゃ混ぜでやってますってことで」
「うん、前の話は僕とリリーだけの秘密、だもんね」
にこにこ笑うレオナール様に頷いて、今度は私から抱きつく。
ほんと、嬉しい言葉をたくさんくれちゃうんだから、もう。
「……ありがとう」
こそっと呟けば、レオナール様は何も言わずに頭を撫でてくれる。
ああもう、本当に。悔しいから、レオナール様の誕生日、絶対ビックリさせてやるんだから!
洗濯物を取り込んでいたらなぜかいきなりレオナール様の寝室に連れ込まれた私は、ベッドの上で後ろからレオナール様に抱き締められるという恥ずかしい格好になっていた。
うん、この状況でいきなりそんなこと言われても反応できないからね!?
「で、なんでこの状態に」
「ちょうどシドたち全員いなくなったし、ジルもいないし、リリーと二人きりで内緒話出来る状況めったにないから」
「確かにそうだけど」
「それに、リリーに触れたかった」
……うん、わかってる。レオナール様に他意はない、言葉通りの意味でこうやって抱き締めたかっただけだってわかってるよ。だから赤くなるな私の顔! 絶対にからかわれるからっ!
「そ、それで、ジルの誕生日を決めるって、いったいどういうこと?」
「んー、今日ちょっとジェイドの誕生日の話になって。ジェイドは自分の名前をもらって引き取られた日を誕生日として登録したんだ。そしたら、ジルもそうしたいって」
「なるほど、だけどジルはジゼル・クロッズだった時と同じ誕生日で既に登録がされていた、とか?」
「そう。で、拗ねてる」
うーん、まあ、ジルの気持ちもわからなくはない。
私とレオナール様を親と慕ってくれてるし、実の両親のところでは愛された実感がない。養子縁組を機に名前も変えて、だからと思ったんだよね。
ただ、ジェイドは自分の出身も正確な年齢すらわからない状態だったという違いがある。だから今回の申請も受け入れられたんだ。ジルに関して言えば、これに当てはまらない以上誕生日まで変えるのは虚偽扱いにあるんだろうな……
「ジルの誕生日については、私の方で説得するわ。ちなみにいつ?」
「海の月の十六日だよ」
この世界は前世と同じように一年が十二ヶ月の三百六十五日。ただ、月ごとに守護する神様がいて、その神様の属性で月を呼ぶ。
海の月は前世でいう三月。海の神が守護するから、海の月って呼ばれる訳だ。しいて言うなら前世の星座と同じような感覚かな?
ちなみに一月から順に、星・空・海・火・土・風・月・陽・水・愛・木・夜になっていて、閏年の閏日だけは創造の日と呼ばれている。だから閏日には創造神を湛える祭りが各地で行われるんだ。
「私は陽の月の十九日……あれ、レオナールは?」
「木の月、二十九日、だったかな」
……なんだってそんな曖昧な返事が来るんだろう。不思議に思って振り向けば、眉を下げたレオナール様が淡く苦笑していた。
「僕は祝われたことがないから。曖昧で、ごめん」
「……でも、記録はあるよね?」
「あるけど、普段使わない。調べればすぐだけど」
「じゃあ、調べましょう。で、盛大にお祝いするの」
意気込んで言えば、さっきとは違ってくすりとおかしそうにレオナール様が笑う。
「リリー、ずいぶん必死」
「だって、誕生日だよ? 生まれてきてくれてありがとうって、私と出会ってくれてありがとうって言いたいもの」
生まれた日を祝うのは、その人が生まれたことを祝い、出会えたことを感謝するためにある。そう教えてくれたのは、この世界の母さんだった。
あなたに会えて幸せだと、そう伝えるために祝いの言葉を贈るのだと。
その言葉を聞いたとき、前世の父が母が亡くなった後も毎年誕生日を祝っていた意味が分かったんだ。
この世界で彼女に出会うために生まれてきた。彼女こそ、僕の運命の人だった。
そう笑っていた父の気持ちが、どれほど母を愛していたのかが、やっと心の底から理解できたような気がした。
「大切な人だから、祝いたいんだ」
「リリー……」
どこか泣きそうな顔で笑うレオナール様。もちろんレオナール様だって次の誕生日には全力でお祝いしますとも!
だから、そんな顔しないで?
「それでもジルが気にして嫌がるなら、家族になった日を記念日にしちゃえばいいよね」
にこりと笑って見せたら、レオナール様は一度ぎゅっと私を抱き締めて微笑んでくれた。
「リリーは、嬉しいことばっかり言ってくれるね」
「そう? でも誕生日の考えは母さんから教えられたし、記念日も前は色々あったから」
「……記念日が色々?」
こてりと首を傾げたレオナール様に笑って頷く。
「祝日というか記念日というか、行事が色々とあったの。バレンタインデーとかクリスマスって異国から取り入れた行事も、節分や雛祭りなんて国有の行事もあったな」
「へぇ……」
目を輝かせたレオナール様は、じゃあと笑う。
「やろう」
「え?」
「だって、前の記憶だけじゃ、さみしい。でしょ? 楽しい思い出、僕たちともいっぱい作ろう?」
……うん、さっきレオナール様、私が嬉しい言葉ばっかり言うって言ってたけど、絶対レオナール様の方が私を喜ばせることばっかり言ってくれてるよね。
「じゃあ、本当のことは内緒で。あちこちの本で見かけた行事とかごちゃ混ぜでやってますってことで」
「うん、前の話は僕とリリーだけの秘密、だもんね」
にこにこ笑うレオナール様に頷いて、今度は私から抱きつく。
ほんと、嬉しい言葉をたくさんくれちゃうんだから、もう。
「……ありがとう」
こそっと呟けば、レオナール様は何も言わずに頭を撫でてくれる。
ああもう、本当に。悔しいから、レオナール様の誕生日、絶対ビックリさせてやるんだから!
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