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第16話 勇んで来たはいいけれど・・

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扉をくぐったキャリーは、目眩めまいがした。

(眩しい・・・)

豪華な屋敷はもちろんだが、何より侯爵家の面々の麗しさにだ。キャリーの前には、文字通りの美男美女が並んでいる。

(クラクラしてる場合じゃない。戦いに来てるのよ!)

戦いに臨む騎士のような想いを胸に、勝手に盛り上がるキャリーを、これまた満開の笑顔のダニエルが迎える。

「キャリー、いらっしゃい!」

それにキャリーも微笑みを返すと、ダニエルはほんの僅かに瞳に憂いの色を見せる。キャリーがその表情に首を傾げていると「まあまあ、いらっしゃい。こんな可愛らしいお嬢さんがうちの子と一緒になるなんてねぇ」と嬉々ききとした声でダニエルの母親が言った。それに、彼の父親も「ああ、そうだなぁ」と加勢する。キャリーはダニエルの両親からの思いがけない言葉に、警戒心がフルになる。

(社交辞令ですか!?それとも、上げて落とす戦法ですか!?)

しかし、キャリーのそんな心配は杞憂きゆうに終わる。

ダニエルの言っていたとおり、婚約者がキャリーだと知っても、追い出されることも皿を投げつけられることもなかった。逆に“婚約してくれてありがとう”と感謝されたぐらいだ。

「この子から“妻に迎えたい人がいる”と聞かされた時は、本当に驚いたのよ」

「そうだな。ダニエルは、結婚できないと思っていたからな」

「いやぁ、本当だよ。弟は色恋にはうとくてね。前もそうだったが・・・あっ、いや・・・まあ、とにかく兄としても安心したよ」

(前もそうだった?何それ・・?聞いてないよ、それ。ていうか、彼のことよく知らないし・・考えたら、あれよあれよという間に婚約してたな。所謂いわゆるこれが政略結婚ってやつね。でも絶対、政略になってないけどね)

そして拍子抜けするほど、穏やかで楽しい両家の顔合わせとなった訪問は、食事を終え歓談の時間となり、キャリーはダニエルに庭を案内されていた。さすが侯爵家。広大な庭は、よく手入れされた花々がキャリーの目を楽しませ、豊満な香りが鼻をくすぐり、五感を刺激する。

ダニエルに手を取られ歩くキャリーは、胸に僅かに開いた恋という花を自覚し、戸惑っていた。よく知らないダニエルのどこに好意を持ったのか・・・

彼の両親が本当にキャリーのことを受け入れてくれたことが嬉しかったし、彼の“心配ない”という言葉が嘘ではなかったことは嬉しかった。またクロードに捕まった自分を助けに来てくれたことも嬉しかった。

(吊り橋効果ってこともあるなぁ)

そんな感じにキャリーが色々と考えていると、いつの間にか庭の奥の四阿あずまやに腰を下ろしていた。

笑顔のダニエルに見つめられるキャリーの頬は、意図せずほんのり染まる。

「今日、君を見た時、僕の心臓が止まるかと思ったよ。そして、同時に不安に思ったんだ」

「それはどういう意味ですか?」

キャリーが意味を尋ねると、ダニエルの手が頬に触れた。

「キャリーが、すごくキレイになってるから」

「アルマたちが、気合い入れて準備してくれたお陰です」

「そうか・・それは、彼女たちに礼をしなくてはならないね。でも不安だ。誰か君に言い寄るやつが出るんじゃないかとね」

「そんな奇特な方は、貴方だけですよ」

「そんなことはないよ。みんな気付いていないだけだ。あの日、君の跡を追ってよかった。本当のキャリーを知れてよかった。この瞳に映すのは私だけであってほしい」

「私に逃げ場などないのでしょう?」

キャリーの言葉に「ああ、逃がす気はないよ」とダニエルは返すと、華奢な身体を腕の中にしまい込み、額に口づけを贈った。

そして気になる言葉を口にしたダニエルは、キャリーの手を取り屋敷へと戻っていく。

「キャリー、君に聞いてほしい真実があるんだ」
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