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第6話 どうしたら、このシチュエーションから逃げられますか?
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父親に言われた通り屋敷に籠っていたキャリーは、次第に暇を持て余すようになる。あいにく貴族令嬢らしい刺繍なんかは、趣味ではない。そして、お茶会に呼べる友人も、呼んでくれる友人も当然いなかった。
元々貴族のしがらみから抜け出すつもりだったキャリーは、暇つぶしのターゲットを屋敷の使用人に定める。それは当然イジメではなく、彼らの仕事を手伝うようになったのだ。
前世はド庶民のキャリー。家事をすることに抵抗は全くなかった。最初こそ「ヒィィ・・とんでもございません!」と、ひれ伏すように逃げ出していた使用人たちも、アルマとのやり取りを見て徐々に警戒心を解いてきた。今では使用人たちの間で「お嬢様、お嬢様!」と、大人気キャラ並の対象となったのだ。
「何だかこちらに来られてから、お綺麗になられましたね」
ある日、使用人からこう言われたキャリーは、不思議に思う。王太子との恋に夢中だった頃のほうが、肌や髪の手入れに一生懸命だった。それが今では、“香油?あー、面倒だからつけるのや~めた”である。絶対に以前の方が綺麗だったはずなのだ。
しかし、アルマにそれをつい口にすると、彼女もそれに同意した。
「あの子の言うとおりですよ!言ってるのは、見た目でなく内面から滲み出る美しさなんです。使用人を下賤だと無下にする方も多い中、お嬢様は素直に今までの非を認め、そして心を入れ替え、使用人の手伝いまでなさる。そんなお心のお嬢様が綺麗と言われるのは、当然のことです」
(いやぁ、ただの暇つぶしのつもりが、何だか勝手に美化されてるなぁ。まあ、元々みんなの中の最悪な私の印象を変えるつもりだったし、結果オーライだけど・・なんか棚ぼたみたいで申し訳ないな)
キャリーは、お世辞でない言葉に胸にこみ上げるものがあった。それは彼女のやる気を上げるのに充分だった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ある時からキャリーはメイド服に身を包み、買い物に行くようになる。使用人として街に出るほうが、見つかる心配がないのはもちろんだったが、前々から可愛いいと思っていたメイド服を着てみたいという好奇心が大半だった。
今にもスキップしそうなほどルンルンで街を歩くキャリーは、スパイス屋さんに寄る。最近ハマってる調味料が切れた為、買いに来たのだ。そして、お目当ての物を見つけ手を伸ばすと、同時に横から手が伸びてきた。思わず横に目をやると、そこにはあの近衛の青年が立っていた。
「こんにちは」
爽やかな笑顔と共にキャリーに挨拶する青年。キャリーは内心「げっっ!」と令嬢らしからぬ反応をしていたが、顔には笑顔を浮かべ「こんにちは」と返す。王太子クロードを虜にした微笑みだ。それに青年は「ねっ?言った通りだろう?貴女とは、また会える気がしたんだ」と、スパイス屋なんかに似合わぬオーラを放って言った。
(何この再会シチュ・・いつの時代のドラマなの!?)
それからというもの、キャリーは度々彼と偶然出会うようになる。
ある時は、地元の子供たちと遊ぶ青年を見つける。当然、遠回りしてやり過ごそうとするキャリーだったが、遠くから目ざとくキャリーを見つけた彼は爽やかに「こーんにーちはぁ」と挨拶してきた。キャリーはペコッと頭を下げると、足早にその場を去った。
そしてこの日、すれ違いざまに男に肩をぶつけられ、バランスを崩したキャリーを、優しく支える腕に出会う。顔をあげると、あの青年だった。
「大丈夫?」
「はい、ありがとうございます」
また出会ってしまった事に気が遠くなりそうなのを必死に耐え、礼を言うキャリー。そして、そそくさと去ろうとした彼女の腕は、青年の掴む手によって引き止められる。
キャリーは度々起こる唐突な再会に内心辟易していたが、それとは対照的に青年の顔は笑顔に染まり、キャリーに詰め寄ってくる。
「これから、時間ある?」
(ヒィィィ・・近い・・近いから!イケメン間近で見るとか耐性ないから!)
キャリーは、この場からすぐにでも逃げ出したい衝動を引き攣る笑顔で必死に押さえ付けた。
そして今、キャリーは何故か美味しそうなケーキとお茶の乗ったテーブルを彼と囲んでいた。
キャリーは引き攣る笑顔を必死に隠し、椅子に座っている。
(ノォォォ!!!何がどうしてこうなった!!??)
元々貴族のしがらみから抜け出すつもりだったキャリーは、暇つぶしのターゲットを屋敷の使用人に定める。それは当然イジメではなく、彼らの仕事を手伝うようになったのだ。
前世はド庶民のキャリー。家事をすることに抵抗は全くなかった。最初こそ「ヒィィ・・とんでもございません!」と、ひれ伏すように逃げ出していた使用人たちも、アルマとのやり取りを見て徐々に警戒心を解いてきた。今では使用人たちの間で「お嬢様、お嬢様!」と、大人気キャラ並の対象となったのだ。
「何だかこちらに来られてから、お綺麗になられましたね」
ある日、使用人からこう言われたキャリーは、不思議に思う。王太子との恋に夢中だった頃のほうが、肌や髪の手入れに一生懸命だった。それが今では、“香油?あー、面倒だからつけるのや~めた”である。絶対に以前の方が綺麗だったはずなのだ。
しかし、アルマにそれをつい口にすると、彼女もそれに同意した。
「あの子の言うとおりですよ!言ってるのは、見た目でなく内面から滲み出る美しさなんです。使用人を下賤だと無下にする方も多い中、お嬢様は素直に今までの非を認め、そして心を入れ替え、使用人の手伝いまでなさる。そんなお心のお嬢様が綺麗と言われるのは、当然のことです」
(いやぁ、ただの暇つぶしのつもりが、何だか勝手に美化されてるなぁ。まあ、元々みんなの中の最悪な私の印象を変えるつもりだったし、結果オーライだけど・・なんか棚ぼたみたいで申し訳ないな)
キャリーは、お世辞でない言葉に胸にこみ上げるものがあった。それは彼女のやる気を上げるのに充分だった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ある時からキャリーはメイド服に身を包み、買い物に行くようになる。使用人として街に出るほうが、見つかる心配がないのはもちろんだったが、前々から可愛いいと思っていたメイド服を着てみたいという好奇心が大半だった。
今にもスキップしそうなほどルンルンで街を歩くキャリーは、スパイス屋さんに寄る。最近ハマってる調味料が切れた為、買いに来たのだ。そして、お目当ての物を見つけ手を伸ばすと、同時に横から手が伸びてきた。思わず横に目をやると、そこにはあの近衛の青年が立っていた。
「こんにちは」
爽やかな笑顔と共にキャリーに挨拶する青年。キャリーは内心「げっっ!」と令嬢らしからぬ反応をしていたが、顔には笑顔を浮かべ「こんにちは」と返す。王太子クロードを虜にした微笑みだ。それに青年は「ねっ?言った通りだろう?貴女とは、また会える気がしたんだ」と、スパイス屋なんかに似合わぬオーラを放って言った。
(何この再会シチュ・・いつの時代のドラマなの!?)
それからというもの、キャリーは度々彼と偶然出会うようになる。
ある時は、地元の子供たちと遊ぶ青年を見つける。当然、遠回りしてやり過ごそうとするキャリーだったが、遠くから目ざとくキャリーを見つけた彼は爽やかに「こーんにーちはぁ」と挨拶してきた。キャリーはペコッと頭を下げると、足早にその場を去った。
そしてこの日、すれ違いざまに男に肩をぶつけられ、バランスを崩したキャリーを、優しく支える腕に出会う。顔をあげると、あの青年だった。
「大丈夫?」
「はい、ありがとうございます」
また出会ってしまった事に気が遠くなりそうなのを必死に耐え、礼を言うキャリー。そして、そそくさと去ろうとした彼女の腕は、青年の掴む手によって引き止められる。
キャリーは度々起こる唐突な再会に内心辟易していたが、それとは対照的に青年の顔は笑顔に染まり、キャリーに詰め寄ってくる。
「これから、時間ある?」
(ヒィィィ・・近い・・近いから!イケメン間近で見るとか耐性ないから!)
キャリーは、この場からすぐにでも逃げ出したい衝動を引き攣る笑顔で必死に押さえ付けた。
そして今、キャリーは何故か美味しそうなケーキとお茶の乗ったテーブルを彼と囲んでいた。
キャリーは引き攣る笑顔を必死に隠し、椅子に座っている。
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