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新章
新章第23話 帰還の時
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「皆さん、ありがとうございました。いい小説が書けそうです!」
別れの挨拶を口にするのは、ビアトリスだ。不思議なことに彼女のオッドアイの瞳が両眼同じ青い色に変わっていた。
ビアトリス曰く、両眼同じ色になると、この世界に別れを告げる時期らしい。
(さすが続編を書きたいなんて思いだけで転移する人は、違うわね)
エルメは内心苦笑したが、それを口にはしなかった。
その日は、突然やってきたのだ。
あの舞踏会の日から二日後、公務で忙しいマリオンを除いたいつもの面々でお茶をしていると、リオルが不意に聞いた。
「ねえ、ビアは転移してきたって言ったけど、いつどうやって戻るの?」
この純粋な疑問に固まるエルメとアリス。
(たっ確かに・・ビアは、転移って言うけど、本人の思い通りにできるものじゃないでしょ、転移なんて)
するとビアトリスから、意外な答えが返ってきた。
「そろそろだと思いますよ。ほらっ、私のこのオッドアイ。もう片方の色に似てきたでしょ?」
そう言って、帰還の時期が近いことを告げたのだ。何でも続編を書くための情報を得ると、瞳が徐々に色を変えるそうだ。まるでバロメーターだ。
それからたった三日後。エルメたちは、ビアトリスとの別れを惜しんでいた。
「本当にこんなことで戻れるの?ほらっ、異世界へのゲートがバーンとか、神様とか魔女がドーンと出てきたりとかない?」
そう言ってビアトリスを心配するのは、アリスだ。突然訪れた右腕として育てていた弟子との永遠の別れ。本当は泣きたいはずなのに、いつものアリスらしく気丈に振る舞っている。
「フフッ、そうねぇ。私も意外だけど、ビアが言うなら、これが正解なのよね」
「はい!エルメ様、師匠!ご安心ください!はっきりズバッと見ましたから、夢で!」
原作では北の最果ての地へ追いやられるエルメ。ビアトリスは、その夢を見たらしい。しかも夢の中で北へ向かう馬車に乗るのは、エルメではなくビアトリス。その馬車に乗りさえすれば、元の世界に戻ることができるそうだ。
そんなビアトリスの手には一枚の紙が握られている。そこにはシャドーヴィランの彼女が、原作の作者として名乗ることを許可する文言が記されている。あとはサインも・・・
前世の家族は、誰も二十歳の大学生がネット小説を書いてたことなど知らない。だから戻った彼女が名乗ろうが自由だ。ただビアトリスは、エセではなく、正々堂々と本物の作者として続編を書き上げたいと言った。
本物と嘘が渦巻くネットの世界。そんな世界の片隅で埋もれている作者のことなど、勝手に名乗っても誰に迷惑がかかるわけでもないし、何の問題もない。
しかしビアトリスは、そこはちゃんとしたいと言った。エルメもここまで自分の作品を愛してくれる彼女への感謝の思いを込めたのが、こうして形になった。
「シャドーヴィランさん、エルメたちをよろしくね。『悪役皇太子妃シリーズ』をよろしくね」
エルメから託されたビアトリスは「はい!」と一言返し、アリスへ頭を下げる。
「師匠もありがとうございました!師匠の活躍もバッチリ書きますから、期待しててくださいね!」
「ビア、そんな嬉しいこと言って・・ただ、私たちが読めないことを忘れてない?」
「まさか!今回、こうして転移できたんです。また戻って来られるかもしれないし、そんな都合よく来られないかもしれない・・って、どっちなんだい!って感じですね」
そんな言葉とともに満面の笑顔を送るビアトリスを見てると、「何だかビアが言うと、本当に戻ってきそうね」という言葉が口をついて出る。それにアリスも「そうですね」と同意した。
いよいよビアトリスが馬車に乗り込もうという時に、エルメに背中を押されたマリオンが一歩前に出た。「殿下?」と首を傾げたビアトリスを、マリオンの思いもよらない行動が襲う。
彼の腕に包まれたのだ。それは一瞬で緩いものだったが、確かに以前明かしたビアトリスの望みを叶えるものだった。
「元気でな。続編期待してるぞ」
視線を横に向け、ぶっきら棒に言葉を送るマリオンに、顔を真っ赤にしたビアトリスは破顔した。
「殿下、最後の最後にありがとうございました。めちゃくちゃイケメンに書いて差し上げますね!」
そしてビアトリスは最後にエルメに顔を寄せ、囁いた。
「エルメ様の考えたあの計画、殿下に筒抜けですよ。スパイはリオル様です」
「えっ!ビア!?」
(えっ?えっ!?何でビアが知ってるの?マリオンも知ってるの!?)
爆弾投下で動揺したエルメを放置し、馬車に乗り込んだビアトリス。ゆっくり動き出した馬車に不意に思い出した疑問をぶつけるエルメ。
「ねえ!ビア!シャドーヴィランって、どんな意味?」
「あ~、影の悪役で~す!!グ○ったので、間違ってるかもだけど!悪役皇太子妃として散ったエルメ様へのリスペクトと、その思いを引き継いだ証ですよ!」
セリフの最後は、聞き取れないほど小さくなり、ビアトリスが去って行ったことを実感させた。
やがて見えなくなる馬車を見送る皆の胸に去来するのは、寂しさと嬉しさだった。
別れの挨拶を口にするのは、ビアトリスだ。不思議なことに彼女のオッドアイの瞳が両眼同じ青い色に変わっていた。
ビアトリス曰く、両眼同じ色になると、この世界に別れを告げる時期らしい。
(さすが続編を書きたいなんて思いだけで転移する人は、違うわね)
エルメは内心苦笑したが、それを口にはしなかった。
その日は、突然やってきたのだ。
あの舞踏会の日から二日後、公務で忙しいマリオンを除いたいつもの面々でお茶をしていると、リオルが不意に聞いた。
「ねえ、ビアは転移してきたって言ったけど、いつどうやって戻るの?」
この純粋な疑問に固まるエルメとアリス。
(たっ確かに・・ビアは、転移って言うけど、本人の思い通りにできるものじゃないでしょ、転移なんて)
するとビアトリスから、意外な答えが返ってきた。
「そろそろだと思いますよ。ほらっ、私のこのオッドアイ。もう片方の色に似てきたでしょ?」
そう言って、帰還の時期が近いことを告げたのだ。何でも続編を書くための情報を得ると、瞳が徐々に色を変えるそうだ。まるでバロメーターだ。
それからたった三日後。エルメたちは、ビアトリスとの別れを惜しんでいた。
「本当にこんなことで戻れるの?ほらっ、異世界へのゲートがバーンとか、神様とか魔女がドーンと出てきたりとかない?」
そう言ってビアトリスを心配するのは、アリスだ。突然訪れた右腕として育てていた弟子との永遠の別れ。本当は泣きたいはずなのに、いつものアリスらしく気丈に振る舞っている。
「フフッ、そうねぇ。私も意外だけど、ビアが言うなら、これが正解なのよね」
「はい!エルメ様、師匠!ご安心ください!はっきりズバッと見ましたから、夢で!」
原作では北の最果ての地へ追いやられるエルメ。ビアトリスは、その夢を見たらしい。しかも夢の中で北へ向かう馬車に乗るのは、エルメではなくビアトリス。その馬車に乗りさえすれば、元の世界に戻ることができるそうだ。
そんなビアトリスの手には一枚の紙が握られている。そこにはシャドーヴィランの彼女が、原作の作者として名乗ることを許可する文言が記されている。あとはサインも・・・
前世の家族は、誰も二十歳の大学生がネット小説を書いてたことなど知らない。だから戻った彼女が名乗ろうが自由だ。ただビアトリスは、エセではなく、正々堂々と本物の作者として続編を書き上げたいと言った。
本物と嘘が渦巻くネットの世界。そんな世界の片隅で埋もれている作者のことなど、勝手に名乗っても誰に迷惑がかかるわけでもないし、何の問題もない。
しかしビアトリスは、そこはちゃんとしたいと言った。エルメもここまで自分の作品を愛してくれる彼女への感謝の思いを込めたのが、こうして形になった。
「シャドーヴィランさん、エルメたちをよろしくね。『悪役皇太子妃シリーズ』をよろしくね」
エルメから託されたビアトリスは「はい!」と一言返し、アリスへ頭を下げる。
「師匠もありがとうございました!師匠の活躍もバッチリ書きますから、期待しててくださいね!」
「ビア、そんな嬉しいこと言って・・ただ、私たちが読めないことを忘れてない?」
「まさか!今回、こうして転移できたんです。また戻って来られるかもしれないし、そんな都合よく来られないかもしれない・・って、どっちなんだい!って感じですね」
そんな言葉とともに満面の笑顔を送るビアトリスを見てると、「何だかビアが言うと、本当に戻ってきそうね」という言葉が口をついて出る。それにアリスも「そうですね」と同意した。
いよいよビアトリスが馬車に乗り込もうという時に、エルメに背中を押されたマリオンが一歩前に出た。「殿下?」と首を傾げたビアトリスを、マリオンの思いもよらない行動が襲う。
彼の腕に包まれたのだ。それは一瞬で緩いものだったが、確かに以前明かしたビアトリスの望みを叶えるものだった。
「元気でな。続編期待してるぞ」
視線を横に向け、ぶっきら棒に言葉を送るマリオンに、顔を真っ赤にしたビアトリスは破顔した。
「殿下、最後の最後にありがとうございました。めちゃくちゃイケメンに書いて差し上げますね!」
そしてビアトリスは最後にエルメに顔を寄せ、囁いた。
「エルメ様の考えたあの計画、殿下に筒抜けですよ。スパイはリオル様です」
「えっ!ビア!?」
(えっ?えっ!?何でビアが知ってるの?マリオンも知ってるの!?)
爆弾投下で動揺したエルメを放置し、馬車に乗り込んだビアトリス。ゆっくり動き出した馬車に不意に思い出した疑問をぶつけるエルメ。
「ねえ!ビア!シャドーヴィランって、どんな意味?」
「あ~、影の悪役で~す!!グ○ったので、間違ってるかもだけど!悪役皇太子妃として散ったエルメ様へのリスペクトと、その思いを引き継いだ証ですよ!」
セリフの最後は、聞き取れないほど小さくなり、ビアトリスが去って行ったことを実感させた。
やがて見えなくなる馬車を見送る皆の胸に去来するのは、寂しさと嬉しさだった。
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