68 / 74
新章
新章第21話 カミングアウトはまだ続く
しおりを挟む
(うん?何だそれ・・イケメンに溺愛されたいの?)
エルメとアリスは、このビアトリスのぶっちゃけに目が点になる。マリオンとリオルからは、冷ややかな視線が注がれているが、必死なビアトリスは気づかない。
「私とエルメ様がどこなく似ているのは、皆さん否定しませんよね?同じドレスを着たら、殿下も似てる私にも溺愛とまではいかなくても、少しは甘く接してくれるかもしれないと思ったんです!
せっかく転移したのに、この世界を堪能しないともったいないでしょ?短い時間で最大限の経験をする・・これはいわゆるタイパ!タイムパフォーマンスを考慮した結果です!」
息継ぎなしで捲し立てたビアトリス。その姿はまるで、マラソン大会でゴール間際になってラストスパートをかける選手のようだ。
「ビア、貴女そんな理由で?」
「いやいやいやいや、いくら何でも突拍子すぎだよ。父上のこと何も分かってない。僕のこともね」
「そうよ。そんなの上手くいくわけないわ」
エルメたちから三者三様の反応が返ってくるが、ビアトリスはいじけモードに入ったようだ。
「エルメ様はいいですよ。断然美人だし、性格だって楽しいし、優しいし・・おまけに転生者だから、死ぬまでずぅっとエルメ様でいられるし・・・
でも私は、転移しただけ。元に戻ったら、平凡な容姿だし、地味で全然モテない、ネット小説に夢見る女子高生に逆戻りです。それなら少しだけ夢見てもバチは当たりませんよね?」
「「・・・・・・」」
ビアトリスの主張に、みな言葉を失う。
(あの小説を好きだと言ってくれるから、多めに見てたけど流石にちょっとね・・それに見て、あのマリオンの顔。あれはヤバいわ)
エルメは、怒りを通り越して無表情になっているマリオンを見て、ちょっと引いた。このままマリオンに何か言わせると、ビアトリスが無事では済まないだろう。ここは自分が事態の収集を図るべきと考え、口を開く。
「えぇ~!まあ、気持ちは分かるわよ。“彼氏”とか、ちょうど異性が気になる時期だしね。でもモテるモテないは関係なしに、私は羨ましいけどなあ、女子高生。もし戻れるなら、戻って青春やり直したいわよ」
「おい!エルメ!」
「母上!」
エルメの発言に、マリオンとリオルが慌てふためく。それはそうだ。まさか、自分たちがいるのに、叶わないとはいえ、戻りたいなどと口にするとは・・
しかしそんな二人の反応を無視して、エルメは話を続ける。
「でも・・死んじゃったんだよ。私もアリスも・・・突然、大事な人たちを残して、死んじゃったの。
だからこそ、例えいま戻してやると言われても、断るわね。だって、こんなに愛してくれる家族に悲しい想いをさせたくないもの。
それに分かったのよ。どんな世界でも楽しいことは沢山ある。でもそれに気付けるかどうかは、自分の気持ち次第だって・・ビアも戻ったら、大好きな小説の続編書いてくれてるんでしょ?こんなに必死になって取材してくれるなんて、作者としてすっごく嬉しい。
それに夫や息子は、別にこの容姿が好きなわけではないのよ。私がじゃじゃ馬で、こんな性格だからこそ好きでいてくれてる。隣国から嫁いできた姫じゃなく、中身が二十歳の大学生のエルメじゃなくちゃダメなのよ」
そう迷いのない声で言い切ったエルメが、愛する夫と息子に愛情の詰まった瞳を向け「ねっ?そうでしょ?」と微笑むと、マリオンもリオルも彼女の気持ちに応えようと、「もちろんだ」「当然だよ!」と力強く返事をした。
そしてエルメに抱きついたリオル。その温もりは、エルメの心をあっという間に幸せで埋め尽くす。
負けじと、大人気なく抱きつく息子を引き剥がし、エルメの腰を抱き寄せたマリオン。彼はエルメの耳元に顔を寄せると、優しく囁いた。
「・・・捨てられるのかと、ヒヤッとしたぞ」
その甘い声に、エルメの身体はビクッとする。
「・・・フフッ、それはそれは申し訳ございませんでした」
その言葉を聞いたマリオンは、エルメの頬に手を添えると、軽い謝罪を口にしたばかりの唇をチュッと塞ぐ。
「父上、いつもいつもずるいです!」
リオルがまた割り込もうとするが、今度はマリオンがそれを許さない。リオルが手を伸ばしたところで、リオルの首根っこを掴んだ。
そしてエルメは、落ち着いたと思っていたリオルが、父親と自分を巡って争ってい頃に戻った様子にキョトンとする。
(あらあら、少しは大人になったと思ったのに、まだまだだったのね)
そんな家族三人のワチャワチャを目の当たりにしたビアトリスとアリスから、声が上がる。
「あ~ん、やっぱり戻る前に私も溺愛された~い!誰かいませんか~!」
「あ~、もう!いつもいつも見せつけられる人の気にもなってくださいよ。エルメ様は、みんなのエルメ様なのに・・こうなったら、私もいい人探そうかしら」
アリスのセリフに瞳をキラッとさせたエルメ。これは自分の出番だと、胸をワクワクさせた。そして恋のキューピットとして暗躍しようと、密かに決めたのだった。
エルメとアリスは、このビアトリスのぶっちゃけに目が点になる。マリオンとリオルからは、冷ややかな視線が注がれているが、必死なビアトリスは気づかない。
「私とエルメ様がどこなく似ているのは、皆さん否定しませんよね?同じドレスを着たら、殿下も似てる私にも溺愛とまではいかなくても、少しは甘く接してくれるかもしれないと思ったんです!
せっかく転移したのに、この世界を堪能しないともったいないでしょ?短い時間で最大限の経験をする・・これはいわゆるタイパ!タイムパフォーマンスを考慮した結果です!」
息継ぎなしで捲し立てたビアトリス。その姿はまるで、マラソン大会でゴール間際になってラストスパートをかける選手のようだ。
「ビア、貴女そんな理由で?」
「いやいやいやいや、いくら何でも突拍子すぎだよ。父上のこと何も分かってない。僕のこともね」
「そうよ。そんなの上手くいくわけないわ」
エルメたちから三者三様の反応が返ってくるが、ビアトリスはいじけモードに入ったようだ。
「エルメ様はいいですよ。断然美人だし、性格だって楽しいし、優しいし・・おまけに転生者だから、死ぬまでずぅっとエルメ様でいられるし・・・
でも私は、転移しただけ。元に戻ったら、平凡な容姿だし、地味で全然モテない、ネット小説に夢見る女子高生に逆戻りです。それなら少しだけ夢見てもバチは当たりませんよね?」
「「・・・・・・」」
ビアトリスの主張に、みな言葉を失う。
(あの小説を好きだと言ってくれるから、多めに見てたけど流石にちょっとね・・それに見て、あのマリオンの顔。あれはヤバいわ)
エルメは、怒りを通り越して無表情になっているマリオンを見て、ちょっと引いた。このままマリオンに何か言わせると、ビアトリスが無事では済まないだろう。ここは自分が事態の収集を図るべきと考え、口を開く。
「えぇ~!まあ、気持ちは分かるわよ。“彼氏”とか、ちょうど異性が気になる時期だしね。でもモテるモテないは関係なしに、私は羨ましいけどなあ、女子高生。もし戻れるなら、戻って青春やり直したいわよ」
「おい!エルメ!」
「母上!」
エルメの発言に、マリオンとリオルが慌てふためく。それはそうだ。まさか、自分たちがいるのに、叶わないとはいえ、戻りたいなどと口にするとは・・
しかしそんな二人の反応を無視して、エルメは話を続ける。
「でも・・死んじゃったんだよ。私もアリスも・・・突然、大事な人たちを残して、死んじゃったの。
だからこそ、例えいま戻してやると言われても、断るわね。だって、こんなに愛してくれる家族に悲しい想いをさせたくないもの。
それに分かったのよ。どんな世界でも楽しいことは沢山ある。でもそれに気付けるかどうかは、自分の気持ち次第だって・・ビアも戻ったら、大好きな小説の続編書いてくれてるんでしょ?こんなに必死になって取材してくれるなんて、作者としてすっごく嬉しい。
それに夫や息子は、別にこの容姿が好きなわけではないのよ。私がじゃじゃ馬で、こんな性格だからこそ好きでいてくれてる。隣国から嫁いできた姫じゃなく、中身が二十歳の大学生のエルメじゃなくちゃダメなのよ」
そう迷いのない声で言い切ったエルメが、愛する夫と息子に愛情の詰まった瞳を向け「ねっ?そうでしょ?」と微笑むと、マリオンもリオルも彼女の気持ちに応えようと、「もちろんだ」「当然だよ!」と力強く返事をした。
そしてエルメに抱きついたリオル。その温もりは、エルメの心をあっという間に幸せで埋め尽くす。
負けじと、大人気なく抱きつく息子を引き剥がし、エルメの腰を抱き寄せたマリオン。彼はエルメの耳元に顔を寄せると、優しく囁いた。
「・・・捨てられるのかと、ヒヤッとしたぞ」
その甘い声に、エルメの身体はビクッとする。
「・・・フフッ、それはそれは申し訳ございませんでした」
その言葉を聞いたマリオンは、エルメの頬に手を添えると、軽い謝罪を口にしたばかりの唇をチュッと塞ぐ。
「父上、いつもいつもずるいです!」
リオルがまた割り込もうとするが、今度はマリオンがそれを許さない。リオルが手を伸ばしたところで、リオルの首根っこを掴んだ。
そしてエルメは、落ち着いたと思っていたリオルが、父親と自分を巡って争ってい頃に戻った様子にキョトンとする。
(あらあら、少しは大人になったと思ったのに、まだまだだったのね)
そんな家族三人のワチャワチャを目の当たりにしたビアトリスとアリスから、声が上がる。
「あ~ん、やっぱり戻る前に私も溺愛された~い!誰かいませんか~!」
「あ~、もう!いつもいつも見せつけられる人の気にもなってくださいよ。エルメ様は、みんなのエルメ様なのに・・こうなったら、私もいい人探そうかしら」
アリスのセリフに瞳をキラッとさせたエルメ。これは自分の出番だと、胸をワクワクさせた。そして恋のキューピットとして暗躍しようと、密かに決めたのだった。
10
お気に入りに追加
2,271
あなたにおすすめの小説

転生令嬢の涙 〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜
矢口愛留
恋愛
【タイトル変えました】
公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。
この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。
小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。
だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。
どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。
それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――?
*異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。
*「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい
矢口愛留
恋愛
【全11話】
学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。
しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。
クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。
スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。
※一話あたり短めです。
※ベリーズカフェにも投稿しております。

【完結】人生で一番幸せになる日 ~『災い』だと虐げられた少女は、嫁ぎ先で冷血公爵様から溺愛されて強くなる~
八重
恋愛
【全32話+番外編】
「過去を、後ろを見るのはやめます。今を、そして私を大切に思ってくださっている皆さんのことを思いたい!」
伯爵家の長女シャルロッテ・ヴェーデルは、「生まれると災いをもたらす」と一族で信じられている『金色の目』を持つ少女。生まれたその日から、屋敷には入れてもらえず、父、母、妹にも虐げられて、一人ボロボロの「離れ」で暮らす。
ある日、シャルロッテに『冷血公爵』として知られるエルヴィン・アイヒベルク公爵から、なぜか婚約の申し込みがくる。家族は「災い」であるシャルロッテを追い出すのにちょうどいい口実ができたと、彼女を18歳の誕生日に嫁がせた。
しかし、『冷血公爵』とは裏腹なエルヴィンの優しく愛情深い素顔と婚約の理由を知り、シャルロッテは彼に恩返しするため努力していく。
そして、一族の中で信じられている『金色の目』の話には、実は続きがあって……。
マナーも愛も知らないシャルロッテが「夫のために役に立ちたい!」と努力を重ねて、幸せを掴むお話。
※引き下げにより、書籍版1、2巻の内容を一部改稿して投稿しております


強すぎる力を隠し苦悩していた令嬢に転生したので、その力を使ってやり返します
天宮有
恋愛
私は魔法が使える世界に転生して、伯爵令嬢のシンディ・リーイスになっていた。
その際にシンディの記憶が全て入ってきて、彼女が苦悩していたことを知る。
シンディは強すぎる魔力を持っていて、危険過ぎるからとその力を隠して生きてきた。
その結果、婚約者のオリドスに婚約破棄を言い渡されて、友人のヨハンに迷惑がかかると考えたようだ。
それなら――この強すぎる力で、全て解決すればいいだけだ。
私は今まで酷い扱いをシンディにしてきた元婚約者オリドスにやり返し、ヨハンを守ろうと決意していた。

無事にバッドエンドは回避できたので、これからは自由に楽しく生きていきます。
木山楽斗
恋愛
悪役令嬢ラナトゥーリ・ウェルリグルに転生した私は、無事にゲームのエンディングである魔法学校の卒業式の日を迎えていた。
本来であれば、ラナトゥーリはこの時点で断罪されており、良くて国外追放になっているのだが、私は大人しく生活を送ったおかげでそれを回避することができていた。
しかしながら、思い返してみると私の今までの人生というものは、それ程面白いものではなかったように感じられる。
特に友達も作らず勉強ばかりしてきたこの人生は、悪いとは言えないが少々彩りに欠けているような気がしたのだ。
せっかく掴んだ二度目の人生を、このまま終わらせていいはずはない。
そう思った私は、これからの人生を楽しいものにすることを決意した。
幸いにも、私はそれ程貴族としてのしがらみに縛られている訳でもない。多少のわがままも許してもらえるはずだ。
こうして私は、改めてゲームの世界で新たな人生を送る決意をするのだった。
※一部キャラクターの名前を変更しました。(リウェルド→リベルト)

家族に裏切られて辺境で幸せを掴む?
しゃーりん
恋愛
婚約者を妹に取られる。
そんな小説みたいなことが本当に起こった。
婚約者が姉から妹に代わるだけ?しかし私はそれを許さず、慰謝料を請求した。
婚約破棄と共に跡継ぎでもなくなったから。
仕事だけをさせようと思っていた父に失望し、伯父のいる辺境に行くことにする。
これからは辺境で仕事に生きよう。そう決めて王都を旅立った。
辺境で新たな出会いがあり、付き合い始めたけど?というお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる