〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です

hanakuro

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新章

新章第20話 怯える羊のカミングアウト

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部屋の一室に舞踏会を終えたエルメたちが集まっている。途中だった話をするためだ。

「本当にすみませんでした!」

いきなりビアトリスの謝罪から始まり、事情を知らないアリスは、戸惑いの表情を見せている。

マリオンから「弟子を見つけて連れて来い」と言われたアリスは、城中を探し回ったが、見つからなかった。当然だ。エルメを拉致して、城にはいないのだから・・・

途方に暮れているところに、エルメたち一行が戻り、その中に探していたビアトリスを見つけたアリスは「どこに行ってたの!」と弟子に詰め寄った。

しかし時間のないマリオンから「とりあえず待て」と言われ、アリスは大人しく待った。その姿は、お預けをくらった犬のようだった。

(『待て』ってアリスは犬じゃないんだから・・・・まあ、でも素直に待つ彼女はいつの間にか忠犬ポジションかもね)

「それで?なぜ妻を誘拐した?」

ゴゴゴッと音が聞こえてきそうなほどの圧を放ち、マリオンが問いただす。満面の笑顔が逆に怖い。そんな圧を一人で受け止めるビアトリスに、エルメに雄弁に語っていたあの姿はどこにもない。それはそうだろう。美しすぎるほどのイケメンの裏のある笑顔ほど、恐ろしいものはこの世にない。

「ひぃっ、もももっ申し訳ありません!殿下!」

下げた頭をそのままひれ伏し床につけたビアトリス。まさか若い女の子が土下座までするとは思ってなかったエルメは、慌てて立たせる。

「ビア!止めてちょうだい。マリオンもここまでする必要ないでしょ?」

ビアトリスを立たせ、ソファーに座らせようとするが、頑として拒まれる。そんな妻を見たマリオンからは、「エルメ・・」と呆れなのか少々冷たい声が返ってきた。

そんな夫の声を無視してエルメは、ビアトリスに尋ねる。

「どうしてこんな事をしたの?大体、マリオンがなら、謝る必要ないでしょ?」

“協力者”のところを強調したのは、自分を騙してたいた夫への嫌味だ。

マリオンは何故か怒ってるようだが、エルメは別に怪我をさせられたわけでもないし、ちょっとしたトラブルくらいに考えていた。むしろ穏やかすぎる日常のスパイス。だからビアトリスの過剰なまでの謝罪など不要だった。

「魔が差してしまって、本当に申し訳ありません!」

「これも続編のため?」

「はい。エルメ様をデレッデレに溺愛する殿下が、ピンチに駆けつける場面を見たかったんです。『百聞は一見にしかず』『経験は何よりも饒舌じょうぜつ』と言うじゃないですか。その場面を見られれば、絶対に書こうと決めてました」

「その割にはマリオンが来ると知って、怯えてたわよ」

エルメの言葉に「ほう・・怯えていたか。少しは理性があるとみえるな」と、マリオンが口を挟む。すると、ビアトリスは更にシュンとしてうなだれた。

「はい。エルメ様の言うとおり、怖くなりました。だって殿下との約束を破り、エルメ様に手を出したのですから・・」

どうやらマリオンは、エルメに手を出さないことを条件に、ビアトリスの行いに目を瞑り、手を貸していたらしい。

「リオル様から殿下が来ることを知らされると、急に冷静になりまして、自分の起こした行動を後悔しました。ですが、後の祭りでした」

ここで黙って話を聞いていたアリスが乱入する。

「ちょっと待ってください!魔が差したとか、協力とか、何の話ですか?全く話がみえません!それより一番気になるのは“続編”ってなに!?」

この疑問に答えたのは、リオルだった。エルメが口を開くより先に、彼は隣に座るアリスの肩に手をポンとかけると、「アリス、気持ちは分かるけど、話の腰を折るのはどうかと思うよ。仕方ないかは、僕が説明してあげる」とニコッと微笑みかけた。

そしてリオルがとても丁寧だが、端的に事の経緯を説明した。その話は、八歳児とは思えない語彙力であり、また何故かリオルがエルメの元に到着するより前の話も入っていた。これはリオルが、ビアトリスの協力者であるマリオンと繋がっていたことを物語っていた。

(やっぱりマリオンが暗躍していたわけね。妻にはナイショで息子まで使うなんて、ヒドイじゃない)

エルメがチラッと控えめなジト目を向けると、マリオンは眉間にシワを寄せて腕組みをしていた。

そして説明を聞き終えたアリスは、彼女らしい言葉で残念がる。

「ビアもエルメ様が大好きなことは知っていたけど、残念だわ。転移者だと知ってたら・・あの小説の大ファンだと知ってたら、夜通し熱く語り合うこともできたのに・・・それに続編っ!?ビアが書くの!?」

やはり推しのエルメの活躍する続編と聞いて黙っていられなくなったのか、ギャアギャアと騒ぐアリスを「アリス嬢、大事な話をしてるのが分からんのか?」と静かな声でマリオンが嗜めた。

ようやくアリスを黙らせたところで、まず口開いたのはマリオンだ。彼の追求はまだ続く。

「ところでそのドレスは、どういうことだ?私には妻のものと同じに見えるが?」

マリオンが、ビアトリスの着ているエルメと同じドレスに話題を変えると、黙らせたばかりのアリスに視線を移す。その彼女から返ってきたのは、首をブンブンと横に振る無言の答えだった。

(やっぱりそこツッコんじゃうよね。さっきは、めちゃくちゃ嘘くさいこと言ってたけど、彼には通用しないと思うよ)

すると、エルメの心配をよそにビアトリスは本当の目的を打ち明けた。

「・・私だって、イケメンに溺愛されてもいいじゃないですか!」
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