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新章
新章第19話 妻は騙されていたことを知る
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「あー!!ビアの協力者って、マリオンね!」
エルメの声が部屋に響き渡り、リオルがビクッとし「母上?」と見上げる。
「ごめんね、リオル。びっくりさせちゃったわね」と謝りながら、エルメは腕に少し力を込めると、リオルは天使のような笑顔を向けた。
(まさかマリオンがビアと繋がってるなんて・・・考えたら、『探っているのを知られたら、殺されそうになった』って言ってたけど、そんなことしそうなの彼ぐらいだわ)
「はい。殿下からエルメ様のこれまでの活躍を色々聞きました」
「マリオンから?」
「はい。エルメ様が転生者であることも殿下から聞きましたし、それはもう色々と・・・」
何だかやたらウキウキした様子でそう話すビアトリスに、嫌な予感がしたエルメが「ちなみに何を話したのよ、マリオンは」と聞くが、返ってきたのは「それはもう色々と」と曖昧なものだった。
(マリオンが簡単に私の情報を売るなんて、なにか裏があるんじゃない?何を話したのかすごく気になるけど、これは後で尋問が必要ね)
「そうなの。分かった。後でマリオンから聞くから、いいわ」
「母上、それならすぐに聞けますよ。父上も、もうすぐここへ来ますから」
するとリオルの言葉を聞いたビアトリスが「ひぃっ」と怯えた表情を見せる。その様子に首を傾げたエルメは、問い詰める。
「ビア?マリオンは協力者なんでしょ?怯えなくてもいいじゃない」
「あの、それが協力者ではあるんですが、今のこの状況で殿下に見つかるのはマズいというか、何と言うか」
「何よ。ビア、はっきり言ってくれないと、分からないわ。マリオンが何かしたの?」とエルメが追い打ちをかけるが、ビアトリスは顔を引きつらせるだけだ。その怯える表情は、まさに顔面蒼白という言葉がピッタリ。
すると唐突に、そのビアトリスが怯える人物の声がした。
「私が何だって?」
声の主を振り向くと、後ろにアーノルドを従えた扉から入って来るマリオンの姿があった。纏うオーラは、妻に会えた喜びと、怒りの入り混じったものに見える。
エルメが慌てて立ち上がるより先に、マリオンは母親に抱きつく息子を引きはがすと、彼女の肩に手を置き、優しく微笑みかけた。
「エルメ、大丈夫か?何もされてないだろうね?」
そう尋ねておきながら、エルメの答えを聞く前に額に軽いキスを落とすマリオン。エルメが「うん、大丈夫よ」と言うと、「そそそっ、そうです!エルメ様には何もしてません!」とビアトリスは肯定した。
「そう、よかった・・」
マリオンはビアトリスには一瞥もせず、安堵の表情を見せる。その翡翠色の瞳に映すのは愛する妻だけだ。
「マリオン、どうやら私には色々と聞かなきゃいけないことがあるようなんだけど・・・また私を騙してたでしょ」
「騙すとは、心外だな。私がすることの意味は全ては君のためなのに・・・まだ分かってくれてないとは、これから教え甲斐がありそうだな」
マリオンはエルメの手を取ると、彼女をそのまま抱きしめた。そしてエルメの耳元に唇を寄せて囁く。
「今夜は覚悟しておけ」
甘い言葉にエルメの顔は真っ赤に染まるが、マリオンの胸を押し返し、彼の目を見つめ返す。
「その手には、のらないんだから」
「私の本気を君はとっくに知ってるだろう?」
三人の観客がいるにも関わらず、甘~い二人だけの世界に浸るマリオンとエルメにリオルは呆れ顔をしている。
「父上、母上。そろそろ戻りましょう。アーノルドの顔が真っ赤ですし、“二人が戻って来ない”と、城で待つ者たちが今頃右往左往してますよ」
冷静なリオルの言葉に入口に視線移すと、アーノルドが直立不動で立っていた。
「あぁ、リオルもいたのか。そんなもの待たせておけばいいが、とりあえず帰るか」
珍しく息子の意見を取り入れたマリオンに、エルメが少しだけ驚くと、彼の口から相変わらずの発言が飛び出した。
「君を、こんな場所にいつまでも居させたくないからな。君は城に居るほうがよく似合う」
マリオンはそう言って目を細めると、今度はエルメの唇に触れるだけのキスを落としたのだった。
◇◇◇◇◇
城に戻ってきたエルメたち。それは広間で開かれていた舞踏会が、ちょうど終わる頃だった。
エルメは乱れた髪とドレスを整えると、マリオンと共に広間に姿を見せた。主役として挨拶をするためだ。
こうして参加した貴族たちの知らぬところで起きた“消えた皇太子妃事件”も、エルメが残された謎を知るだけとなった。
エルメの声が部屋に響き渡り、リオルがビクッとし「母上?」と見上げる。
「ごめんね、リオル。びっくりさせちゃったわね」と謝りながら、エルメは腕に少し力を込めると、リオルは天使のような笑顔を向けた。
(まさかマリオンがビアと繋がってるなんて・・・考えたら、『探っているのを知られたら、殺されそうになった』って言ってたけど、そんなことしそうなの彼ぐらいだわ)
「はい。殿下からエルメ様のこれまでの活躍を色々聞きました」
「マリオンから?」
「はい。エルメ様が転生者であることも殿下から聞きましたし、それはもう色々と・・・」
何だかやたらウキウキした様子でそう話すビアトリスに、嫌な予感がしたエルメが「ちなみに何を話したのよ、マリオンは」と聞くが、返ってきたのは「それはもう色々と」と曖昧なものだった。
(マリオンが簡単に私の情報を売るなんて、なにか裏があるんじゃない?何を話したのかすごく気になるけど、これは後で尋問が必要ね)
「そうなの。分かった。後でマリオンから聞くから、いいわ」
「母上、それならすぐに聞けますよ。父上も、もうすぐここへ来ますから」
するとリオルの言葉を聞いたビアトリスが「ひぃっ」と怯えた表情を見せる。その様子に首を傾げたエルメは、問い詰める。
「ビア?マリオンは協力者なんでしょ?怯えなくてもいいじゃない」
「あの、それが協力者ではあるんですが、今のこの状況で殿下に見つかるのはマズいというか、何と言うか」
「何よ。ビア、はっきり言ってくれないと、分からないわ。マリオンが何かしたの?」とエルメが追い打ちをかけるが、ビアトリスは顔を引きつらせるだけだ。その怯える表情は、まさに顔面蒼白という言葉がピッタリ。
すると唐突に、そのビアトリスが怯える人物の声がした。
「私が何だって?」
声の主を振り向くと、後ろにアーノルドを従えた扉から入って来るマリオンの姿があった。纏うオーラは、妻に会えた喜びと、怒りの入り混じったものに見える。
エルメが慌てて立ち上がるより先に、マリオンは母親に抱きつく息子を引きはがすと、彼女の肩に手を置き、優しく微笑みかけた。
「エルメ、大丈夫か?何もされてないだろうね?」
そう尋ねておきながら、エルメの答えを聞く前に額に軽いキスを落とすマリオン。エルメが「うん、大丈夫よ」と言うと、「そそそっ、そうです!エルメ様には何もしてません!」とビアトリスは肯定した。
「そう、よかった・・」
マリオンはビアトリスには一瞥もせず、安堵の表情を見せる。その翡翠色の瞳に映すのは愛する妻だけだ。
「マリオン、どうやら私には色々と聞かなきゃいけないことがあるようなんだけど・・・また私を騙してたでしょ」
「騙すとは、心外だな。私がすることの意味は全ては君のためなのに・・・まだ分かってくれてないとは、これから教え甲斐がありそうだな」
マリオンはエルメの手を取ると、彼女をそのまま抱きしめた。そしてエルメの耳元に唇を寄せて囁く。
「今夜は覚悟しておけ」
甘い言葉にエルメの顔は真っ赤に染まるが、マリオンの胸を押し返し、彼の目を見つめ返す。
「その手には、のらないんだから」
「私の本気を君はとっくに知ってるだろう?」
三人の観客がいるにも関わらず、甘~い二人だけの世界に浸るマリオンとエルメにリオルは呆れ顔をしている。
「父上、母上。そろそろ戻りましょう。アーノルドの顔が真っ赤ですし、“二人が戻って来ない”と、城で待つ者たちが今頃右往左往してますよ」
冷静なリオルの言葉に入口に視線移すと、アーノルドが直立不動で立っていた。
「あぁ、リオルもいたのか。そんなもの待たせておけばいいが、とりあえず帰るか」
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「君を、こんな場所にいつまでも居させたくないからな。君は城に居るほうがよく似合う」
マリオンはそう言って目を細めると、今度はエルメの唇に触れるだけのキスを落としたのだった。
◇◇◇◇◇
城に戻ってきたエルメたち。それは広間で開かれていた舞踏会が、ちょうど終わる頃だった。
エルメは乱れた髪とドレスを整えると、マリオンと共に広間に姿を見せた。主役として挨拶をするためだ。
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