〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です

hanakuro

文字の大きさ
上 下
64 / 74
新章

新章第17話 怒涛の展開に失神寸前

しおりを挟む
ナイフを下ろす様子のない頑ななエルメに、ビアトリスは短いため息をつくと、ソファーに座るように言った。しかしエルメにその気はない。

二人の間に流れるのは、重苦しい沈黙だった。黙って睨みつけていると、先に口を開いたのはビアトリスだった。

「どこから話を始めましょうか・・もうすぐ観客が増えそうなので、その方に聞かれたらマズい話からしましょうか」

(観客が増える?他にも誰か連れてくるの?それとも助けかしら?)

エルメは、ビアトリスの発言の意図が分からずにいたが、とりあえず耳を傾けることにした。

「まず自己紹介からしますね。はじめまして。私は、本当のビアトリスではありません。日本から転移してきた女子高生です・・・ハンドルネームは『シャドーヴィラン』です!」

(はぁぁ!?転移ぃ!?日本!?女子高生!?ハンドルネーム!!??)

「あっ、色々と口を挟みたいのは分かりるんですけど、時間は限られてるんで、最後まで聞いてください。その後、質問を受け付けますね」

突拍子もないビアトリスの話に口を挟もうとしたエルメを遮り、ニッコリ笑顔のビアトリスは続ける。

「ネット小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』は、ご存知ですよね?」

ビアトリスの質問にコクっと頷くエルメ。知っていて当然だ。それを書いたのは、転生前のエルメ。日本で生きていた二十歳の大学生なんだから・・

ビアトリスは、当の作者に作品を知っているのかと、聞いていることになる。

「ですよね。エルメ様がその作者ですもんね」

「いっ!?だっ!?なっ!?何で・・あっ・・ ごめんなさい」と思わず声を出したエルメは、ビアトリスにシーッと黙るようにジェスチャーされ、咄嗟に謝罪する。

エルメの頭の中は、もう情報過多で混乱どころの騒ぎではなかった。めまいを起こしそうになりながらも、必死で頭を整理しようとする。

「そして、この世界はその小説そのもの。ただしエルメ様は悪役皇太子妃の運命から逃れ、見事大人気皇太子妃になり、ヒロインであるアリス様とも大の仲良しに・・・そして、その友人のアリス様もまた転生者ですね・・・・ここまで言えば、私が日本の女子高生だと信じてくれますか?」

もはやエルメの口から、肯定の言葉も否定の言葉も出てこず、ただコクコクと何度も頷く様子に、ビアトリスは苦笑した。

「ここまではご理解頂いたみたいで、よかったです。では次ですが、何で私がこんな拉致なんて、犯罪スレスレのことをやったのか」

(いやいや、犯罪スレスレ?めちゃくちゃ犯罪よ。アウトよ、これ・・・)

そう心の中で突っ込みながら、エルメはビアトリスの次の言葉を待った。

「それは、続編の執筆のためです!!」

そう言い切ったビアトリスの背後に“ドドーンッ”と、効果音がつきそうなほど自信満々な表情の彼女に、さすがにエルメも口を開く。

「・・・・はい?今なんて?えっ?続編?私の書いた物語の続編が書きたいの?そんなくだらないことで、私をこんなところに連れてきたの?
“書きたいならご自由にどうぞ”よ、ホント・・・」

あまりの話の内容に、驚きを通り越して呆れ顔のエルメ。“黙って聞け”というビアトリスとの約束など、もうどうでもいい。

(正直、暇つぶしのネット小説。作者でさえ、どれくらいの人たちに読まれてるか皆無だったのに、そんな作品の続編を書きたいとか・・・)

「変わってるわね。ビアって」

「そうですか?始めて言われましたよ」

「変わってるわよ。だって・・」とエルメが正直に自分の小説の感想を言う。

それは、転生したからこその感想だった。転生後に歩んだエルメの人生のほうが、何倍も何十倍も何百倍も濃密で、何より楽しいのだから・・・

「だから続編でも何でも書いてちょうだい」

「わぁ!嬉しい!私、あの小説の大ファンだから、シャドーヴィランとしてスピンオフを書いてたんですけど、それもネタ切れで限界になっちゃって・・・」

「えっ!ちょっと待って!スピンオフ!?」

「はい!『悪役皇太子妃シリーズ』のスピンオフを書かせてもらってま~す」

「シッ、シリーズ!?シリーズってなに!!??」

今までも十分予想の上をいっていたが、更に遥か上をいく予想外すぎる話に、どこかで見た目ヂカラの強い芸人並に目を見開くエルメ。

「あっ、これはまだ話してませんでしたね」と言うと、ビアトリスはネット小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の作者の知らないその後の展開を語りだした。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

転生令嬢の涙 〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜

矢口愛留
恋愛
【タイトル変えました】 公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。 この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。 小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。 だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。 どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。 それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――? *異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。 *「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

【完結】人生で一番幸せになる日 ~『災い』だと虐げられた少女は、嫁ぎ先で冷血公爵様から溺愛されて強くなる~

八重
恋愛
【全32話+番外編】 「過去を、後ろを見るのはやめます。今を、そして私を大切に思ってくださっている皆さんのことを思いたい!」  伯爵家の長女シャルロッテ・ヴェーデルは、「生まれると災いをもたらす」と一族で信じられている『金色の目』を持つ少女。生まれたその日から、屋敷には入れてもらえず、父、母、妹にも虐げられて、一人ボロボロの「離れ」で暮らす。  ある日、シャルロッテに『冷血公爵』として知られるエルヴィン・アイヒベルク公爵から、なぜか婚約の申し込みがくる。家族は「災い」であるシャルロッテを追い出すのにちょうどいい口実ができたと、彼女を18歳の誕生日に嫁がせた。  しかし、『冷血公爵』とは裏腹なエルヴィンの優しく愛情深い素顔と婚約の理由を知り、シャルロッテは彼に恩返しするため努力していく。  そして、一族の中で信じられている『金色の目』の話には、実は続きがあって……。  マナーも愛も知らないシャルロッテが「夫のために役に立ちたい!」と努力を重ねて、幸せを掴むお話。 ※引き下げにより、書籍版1、2巻の内容を一部改稿して投稿しております

悪役令嬢に仕立て上げられたので領地に引きこもります(長編版)

下菊みこと
恋愛
ギフトを駆使して領地経営! 小説家になろう様でも投稿しています。

強すぎる力を隠し苦悩していた令嬢に転生したので、その力を使ってやり返します

天宮有
恋愛
 私は魔法が使える世界に転生して、伯爵令嬢のシンディ・リーイスになっていた。  その際にシンディの記憶が全て入ってきて、彼女が苦悩していたことを知る。  シンディは強すぎる魔力を持っていて、危険過ぎるからとその力を隠して生きてきた。  その結果、婚約者のオリドスに婚約破棄を言い渡されて、友人のヨハンに迷惑がかかると考えたようだ。  それなら――この強すぎる力で、全て解決すればいいだけだ。  私は今まで酷い扱いをシンディにしてきた元婚約者オリドスにやり返し、ヨハンを守ろうと決意していた。

無事にバッドエンドは回避できたので、これからは自由に楽しく生きていきます。

木山楽斗
恋愛
悪役令嬢ラナトゥーリ・ウェルリグルに転生した私は、無事にゲームのエンディングである魔法学校の卒業式の日を迎えていた。 本来であれば、ラナトゥーリはこの時点で断罪されており、良くて国外追放になっているのだが、私は大人しく生活を送ったおかげでそれを回避することができていた。 しかしながら、思い返してみると私の今までの人生というものは、それ程面白いものではなかったように感じられる。 特に友達も作らず勉強ばかりしてきたこの人生は、悪いとは言えないが少々彩りに欠けているような気がしたのだ。 せっかく掴んだ二度目の人生を、このまま終わらせていいはずはない。 そう思った私は、これからの人生を楽しいものにすることを決意した。 幸いにも、私はそれ程貴族としてのしがらみに縛られている訳でもない。多少のわがままも許してもらえるはずだ。 こうして私は、改めてゲームの世界で新たな人生を送る決意をするのだった。 ※一部キャラクターの名前を変更しました。(リウェルド→リベルト)

家族に裏切られて辺境で幸せを掴む?

しゃーりん
恋愛
婚約者を妹に取られる。 そんな小説みたいなことが本当に起こった。 婚約者が姉から妹に代わるだけ?しかし私はそれを許さず、慰謝料を請求した。 婚約破棄と共に跡継ぎでもなくなったから。 仕事だけをさせようと思っていた父に失望し、伯父のいる辺境に行くことにする。 これからは辺境で仕事に生きよう。そう決めて王都を旅立った。 辺境で新たな出会いがあり、付き合い始めたけど?というお話です。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

処理中です...