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新章
新章第14話 貴女は誰?
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静まり返る室内に、微かに広間の音楽が聞こえてくる。
「エルメ、彼女はアリス嬢だろう?何を言ってるんだ?」
しかし、マリオンの言葉にもエルメは首を傾げる。
「本当にどなたでしょうか・・・・?もしかして・・側妃候補の方でしょうか?」
「何を言っているんだ!?彼女はただの癒やしの乙女!私には君がいるんだ。側妃など必要ない!
・・ドレス・・君のこのドレスは、彼女がデザインしたものだ。君はアリス嬢の作るドレスの大ファンじゃないか。それに二人には、共通の秘密があるではないか。前世を覚えているんだろう?そう君は私に明かした・・・」
マリオンが必死にエルメに訴えかけるが、彼女はキョトンとしている。
「マリオン様?どうなさったのですか?申し訳ございませんが、本当に仰っしゃる意味が分かりませんの」
ここは自分がいては拗れそうだと思ったアリスは、「エルメ様は混乱なさっているようです。ひとまず私は退室させていただきます」と言って、早々に部屋から逃げ出した。
アリスという味方を失ったマリオンだったが、エルメは自分の愛する妻。彼女のピンチに夫の自分が狼狽えてどうする!と心を奮い立たせる。
そして部屋に二人きりになったマリオンとエルメ。先に口を開いたのは、エルメだった。
「舞踏会の主役が二人とも抜けるなんて申し訳ございません。やはりマリオン様の言葉に従っておけばよろしかったですわね。ダンスをするべきではありませんでしたわ。私ひとりの身体ではないのに・・・」
そう反省の言葉を口にしたエルメは、愛おしそうにお腹を撫でている。
しかしそのセリフに言葉を返さずに、マリオンは医者を呼んだ。大急ぎで駆け込んできた医者が、エルメを診察する。すると医者から告げられた結果は、「心臓が以前より弱まっている」という聞き覚えのあるものだった。
医者を退室させ、再びエルメと二人きりになったマリオンは、混乱した頭を抱えていた。
アリスの万能薬で一時的に回復。そしてその後、アリスの力により転生者エルメの魂を害していたもう一つを取り除いたはずだ。それで愛する妻の憂いを消し去ったはずだった。
それから穏やかな日常を過ごし、いま開かれている舞踏会も間違いなく楽しんでいた。ダンスを終えるまでは・・・
それなのに、なんの前触れもなく別人のようなエルメになってしまった。しかもアリスから転生者エルメの魂ではないと告げられた衝撃の事実。
「それでは彼女から取り出したという魂は、何だったんだ?さっきまでは、確かに私の愛するエルメだったんだぞ」
そう独り言を呟くマリオン。
そして混乱するマリオンの手にエルメの手が添えられ、「マリオン様?大丈夫でしょうか?」と心配をされると、思わずマリオンは添えられた手をはねのけた。マリオンが、溺愛する妻の手をはねのけるなど、あり得ない光景だ。
「君は誰だ?」
思わず口をついて出たマリオンのセリフに、エルメは表情を曇らせる。
「誰って・・マリオン様の妻、エルメですわ」
そしてすぐにエルメは明らかに狼狽えるマリオンに懇願した。
「マリオン様、落ち着いて話をしましょう。私たちには話し合いが必要ですわ」
「それだ・・・君はやはりエルメではない・・私の知る彼女は、そんな言葉遣いなどしないぞ。私の愛したエルメは・・」
夫から拒絶されたエルメは、途端に瞳を潤ませ、あっという間に頬を濡らした。
「違う・・やはり私のエルメではない・・・・」
涙を流す彼女にマリオンは戸惑いを覚えたが、彼はエルメの側に歩み寄ることなく逃げ出した。
「すまない。悪いが、少し時間をくれ。すぐに戻るから・・・」
マリオンはそう一方的な言葉を残して、部屋の外へ消えた。
◇◇◇◇◇
マリオンが部屋から逃げ出し、一人取り残されたエルメ。
「あ~あ、マリオン逃げちゃった」
そう頬杖をつき、口を尖らせる彼女は、明らかにマリオンに『愛する妻ではない』と拒絶されたエルメではなかった。マリオンの愛するエルメそのものだ。
「でもマリオンが愛してくれるのは、やっぱり転生者である私ってことね。それだけは、はっきりしたわ」
実はこれがエルメの考えた計画の最終段階だった。
夫の愛情を試したくなったエルメは、自分の魂が消え、元のエルメが残ったら、マリオンがどう反応するかで、彼の想いを知ろうとしたのだ。
エルメの計画はこうだ。
皇帝夫妻不在の時期を狙っていたエルメ。今日の舞踏会はベストタイミングだった。皇帝夫妻主催の催しを茶番で潰すわけにはいかないからだ。
気分が悪くなったとマリオンと二人きりになる。そして転生者エルメが消えたと装い、隣国から嫁いできた姫として振る舞う。
当然、体調が悪くなった妻をマリオンは医者に診せるだろうから、そこはアリス特製の薬?であらかじめ心臓を弱らせておいた。リオルの持ってきた飲み物に混ぜたアレだ。
そして無事に医者の目を誤魔化せたら、あとはマリオンを試すだけだった。彼が狼狽え、逃げ出したのは想定外だったが、目的の一つ目はほぼ達成できた。
しかし、エルメにはもう一つ知りたいことが残っていた。
「マリオンが戻ってきたら、しっかり聞き出さなくちゃね。フフッ」
そう言って、しっかり心臓を元に戻す万能薬もどきを飲み干した。
そしてエルメがマリオンの戻りを待っていると、窓にかかるカーテンが揺れる。そしてすぐにエルメはソファーに身を委ね、スースーと静かな寝息をたて始めた。
「エルメ、彼女はアリス嬢だろう?何を言ってるんだ?」
しかし、マリオンの言葉にもエルメは首を傾げる。
「本当にどなたでしょうか・・・・?もしかして・・側妃候補の方でしょうか?」
「何を言っているんだ!?彼女はただの癒やしの乙女!私には君がいるんだ。側妃など必要ない!
・・ドレス・・君のこのドレスは、彼女がデザインしたものだ。君はアリス嬢の作るドレスの大ファンじゃないか。それに二人には、共通の秘密があるではないか。前世を覚えているんだろう?そう君は私に明かした・・・」
マリオンが必死にエルメに訴えかけるが、彼女はキョトンとしている。
「マリオン様?どうなさったのですか?申し訳ございませんが、本当に仰っしゃる意味が分かりませんの」
ここは自分がいては拗れそうだと思ったアリスは、「エルメ様は混乱なさっているようです。ひとまず私は退室させていただきます」と言って、早々に部屋から逃げ出した。
アリスという味方を失ったマリオンだったが、エルメは自分の愛する妻。彼女のピンチに夫の自分が狼狽えてどうする!と心を奮い立たせる。
そして部屋に二人きりになったマリオンとエルメ。先に口を開いたのは、エルメだった。
「舞踏会の主役が二人とも抜けるなんて申し訳ございません。やはりマリオン様の言葉に従っておけばよろしかったですわね。ダンスをするべきではありませんでしたわ。私ひとりの身体ではないのに・・・」
そう反省の言葉を口にしたエルメは、愛おしそうにお腹を撫でている。
しかしそのセリフに言葉を返さずに、マリオンは医者を呼んだ。大急ぎで駆け込んできた医者が、エルメを診察する。すると医者から告げられた結果は、「心臓が以前より弱まっている」という聞き覚えのあるものだった。
医者を退室させ、再びエルメと二人きりになったマリオンは、混乱した頭を抱えていた。
アリスの万能薬で一時的に回復。そしてその後、アリスの力により転生者エルメの魂を害していたもう一つを取り除いたはずだ。それで愛する妻の憂いを消し去ったはずだった。
それから穏やかな日常を過ごし、いま開かれている舞踏会も間違いなく楽しんでいた。ダンスを終えるまでは・・・
それなのに、なんの前触れもなく別人のようなエルメになってしまった。しかもアリスから転生者エルメの魂ではないと告げられた衝撃の事実。
「それでは彼女から取り出したという魂は、何だったんだ?さっきまでは、確かに私の愛するエルメだったんだぞ」
そう独り言を呟くマリオン。
そして混乱するマリオンの手にエルメの手が添えられ、「マリオン様?大丈夫でしょうか?」と心配をされると、思わずマリオンは添えられた手をはねのけた。マリオンが、溺愛する妻の手をはねのけるなど、あり得ない光景だ。
「君は誰だ?」
思わず口をついて出たマリオンのセリフに、エルメは表情を曇らせる。
「誰って・・マリオン様の妻、エルメですわ」
そしてすぐにエルメは明らかに狼狽えるマリオンに懇願した。
「マリオン様、落ち着いて話をしましょう。私たちには話し合いが必要ですわ」
「それだ・・・君はやはりエルメではない・・私の知る彼女は、そんな言葉遣いなどしないぞ。私の愛したエルメは・・」
夫から拒絶されたエルメは、途端に瞳を潤ませ、あっという間に頬を濡らした。
「違う・・やはり私のエルメではない・・・・」
涙を流す彼女にマリオンは戸惑いを覚えたが、彼はエルメの側に歩み寄ることなく逃げ出した。
「すまない。悪いが、少し時間をくれ。すぐに戻るから・・・」
マリオンはそう一方的な言葉を残して、部屋の外へ消えた。
◇◇◇◇◇
マリオンが部屋から逃げ出し、一人取り残されたエルメ。
「あ~あ、マリオン逃げちゃった」
そう頬杖をつき、口を尖らせる彼女は、明らかにマリオンに『愛する妻ではない』と拒絶されたエルメではなかった。マリオンの愛するエルメそのものだ。
「でもマリオンが愛してくれるのは、やっぱり転生者である私ってことね。それだけは、はっきりしたわ」
実はこれがエルメの考えた計画の最終段階だった。
夫の愛情を試したくなったエルメは、自分の魂が消え、元のエルメが残ったら、マリオンがどう反応するかで、彼の想いを知ろうとしたのだ。
エルメの計画はこうだ。
皇帝夫妻不在の時期を狙っていたエルメ。今日の舞踏会はベストタイミングだった。皇帝夫妻主催の催しを茶番で潰すわけにはいかないからだ。
気分が悪くなったとマリオンと二人きりになる。そして転生者エルメが消えたと装い、隣国から嫁いできた姫として振る舞う。
当然、体調が悪くなった妻をマリオンは医者に診せるだろうから、そこはアリス特製の薬?であらかじめ心臓を弱らせておいた。リオルの持ってきた飲み物に混ぜたアレだ。
そして無事に医者の目を誤魔化せたら、あとはマリオンを試すだけだった。彼が狼狽え、逃げ出したのは想定外だったが、目的の一つ目はほぼ達成できた。
しかし、エルメにはもう一つ知りたいことが残っていた。
「マリオンが戻ってきたら、しっかり聞き出さなくちゃね。フフッ」
そう言って、しっかり心臓を元に戻す万能薬もどきを飲み干した。
そしてエルメがマリオンの戻りを待っていると、窓にかかるカーテンが揺れる。そしてすぐにエルメはソファーに身を委ね、スースーと静かな寝息をたて始めた。
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