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新章
新章第13話 最後の最後
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席に戻ったエルメは、しばらく広間で踊る男女を見つめていたが、その顔色は悪い。
そして隣に座るマリオンが、そのエルメの様子に気付き、「どうした?気分でも悪くなったのか?」と心配の眼差しを向けた。
「・・・違うの。ちょっと疲れちゃったみたい」
「顔色が悪いぞ・・・」
「うん・・あっ、何か飲み物を取ってくる」と小声で返すエルメ。しかし「いや、君は座ってろ。私が行ってこよう」の断られてしまう。
そして、立ち上がるマリオンを「えっ!私が」と止めようとエルメが中腰になった時、彼女の身体が揺れた。次の瞬間「あっ・・」と声を漏らすエルメの身体をマリオンの力強い腕が支える。
側に控えていたアーノルドたち側近を制し、マリオンは「本当に疲れか?」と憂いの眼差しを向けると、エルメの手は彼の手の上に重ねられた。
「大丈夫よ。本当に疲れなの。だけどお願い。私を一人にしないで・・・」
潤んだ瞳をマリオンに向けると、彼はエルメの身体を抱き上げ、席の後ろのカーテンの中に消えた。
そこは控えのスペースだ。侍女たちがざわついている中、マリオンはエルメの身体をソファーに下ろす。
「やはりダンスで無理をしたんじゃないのか?」
「それは違うの」とやや食い気味に否定するエルメ。
「だが、立ちくらみを起こしたのは確かだろ?」
「それは・・・」
「頼むから、無茶をするのは止めてくれ」
「だって・・・」と口籠るエルメの頭を、マリオンは優しく撫でる。そして「大丈夫だ。私は君の側を離れない。だから安心しろ」と微笑んだ。それにエルメは小さくコクリと頷き、マリオンにすがるように抱きついた。
そして外の空気を吸いたいというエルメの願いを聞いたマリオンは、彼女を連れてこっそり広間から抜け出した。
人影がまばらな廊下を歩いていると、エルメの足がふいに止まる。「エルメ!」と慌てて妻の身体を支えたマリオンは、直ぐ側の扉を開けた。そしてすばやくエルメをソファーに横たえると、彼女は何も言わずに目を閉じた。
「エルメ・・・」
マリオンが彼女の額に手を当てると、熱を帯びているのが分かる。マリオンは急いで部屋から顔を出し、外に控えていたアーノルドに言った。
「医者を連れて・・いや、アリス・・・アリス嬢を呼んで来い!至急だ!」
◇◇◇◇◇
「殿下・・大変申し上げにくいですが、エルメ様の魂が魂ではなくなってます」
「どういうことだ!?」
エルメを診終えたアリスの言葉に、マリオンは思わず声を上げる。
「殿下、声を抑えてください。聞こえてしまいます」
人払いをさせた部屋には、エルメとマリオン、アリスの三人だけだ。だが外には側近たちが控えているため、大声を出せば、飛び込んでくる。転生の絡んだ秘密の話をするのに、部外者は邪魔だ。
エルメを溺愛するマリオンの気持ちを推し量れば、今のように声を上げてしまうのも仕方ないのだが、アリスは努めて冷静を装った。
「どうやらエルメ様の中にある魂は、転生者である魂ではないようです」
「どういうことだ!!」と同じセリフで詰め寄るマリオンにアリスは、同じ説明を繰り返した。
「もしや、あの時の治療に問題があったんじゃないのか?」
マリオンの言う“あの時の治療”とは、エルメたちが繰り広げた茶番のことである。エルメの中から魂を引っ張り出し、ネズミに閉じ込めたアレだ。
「あのネズミはどうしたんだ?処分したのか?」
「処分など、滅相もありません。逃しました。むやみな殺生は好みませんし、当然エルメ様もそう望まれましたので・・・」
「なぜ処分しなかった!」
「ですから・・・」とアリスが再度説明しようと口を開きかけたその時、ソファーから可愛らしい鈴の音のような声がした。
「マリオン様・・・?どうなさったのですか?」
目を擦り、目を覚ましたばかりの様子のエルメだ。
しかし、何かが違う・・・
そう違和感を感じたマリオンだったが、すぐに妻を心配するセリフを口にした。
「エルメ!目を覚ましたか。気分はどうだ?熱があるようだが・・・」
「はい。少し頭がぼんやりしますが、平気です。それよりご心配をおかけしました。せっかくの舞踏会でしたのに・・・」
「そんな事どうでもいいんだ!君の身体が一番大事だからな」
マリオンはそっとエルメの頬を撫でると、その手に彼女の手が添えられる。
「マリオン様の手、冷たくてとても気持ちいいですわ・・・」
うっとりとした表情でマリオンを見つめるエルメに、彼は困惑していた。エルメが、エルメではない気がしていたからだ。
『どうやらエルメ様の中にある魂は、転生者である魂ではないようです』
さっき聞いたばかりのアリスのセリフが頭を駆け巡る。
まさか・・・!
マリオンが彼女の肩を掴み、口を開いたその時、エルメが怯える表情を見せた。
「貴女はどなたですか?」
エルメがそう尋ねた視線の先にいたのは紛れもないアリスだった。
そして隣に座るマリオンが、そのエルメの様子に気付き、「どうした?気分でも悪くなったのか?」と心配の眼差しを向けた。
「・・・違うの。ちょっと疲れちゃったみたい」
「顔色が悪いぞ・・・」
「うん・・あっ、何か飲み物を取ってくる」と小声で返すエルメ。しかし「いや、君は座ってろ。私が行ってこよう」の断られてしまう。
そして、立ち上がるマリオンを「えっ!私が」と止めようとエルメが中腰になった時、彼女の身体が揺れた。次の瞬間「あっ・・」と声を漏らすエルメの身体をマリオンの力強い腕が支える。
側に控えていたアーノルドたち側近を制し、マリオンは「本当に疲れか?」と憂いの眼差しを向けると、エルメの手は彼の手の上に重ねられた。
「大丈夫よ。本当に疲れなの。だけどお願い。私を一人にしないで・・・」
潤んだ瞳をマリオンに向けると、彼はエルメの身体を抱き上げ、席の後ろのカーテンの中に消えた。
そこは控えのスペースだ。侍女たちがざわついている中、マリオンはエルメの身体をソファーに下ろす。
「やはりダンスで無理をしたんじゃないのか?」
「それは違うの」とやや食い気味に否定するエルメ。
「だが、立ちくらみを起こしたのは確かだろ?」
「それは・・・」
「頼むから、無茶をするのは止めてくれ」
「だって・・・」と口籠るエルメの頭を、マリオンは優しく撫でる。そして「大丈夫だ。私は君の側を離れない。だから安心しろ」と微笑んだ。それにエルメは小さくコクリと頷き、マリオンにすがるように抱きついた。
そして外の空気を吸いたいというエルメの願いを聞いたマリオンは、彼女を連れてこっそり広間から抜け出した。
人影がまばらな廊下を歩いていると、エルメの足がふいに止まる。「エルメ!」と慌てて妻の身体を支えたマリオンは、直ぐ側の扉を開けた。そしてすばやくエルメをソファーに横たえると、彼女は何も言わずに目を閉じた。
「エルメ・・・」
マリオンが彼女の額に手を当てると、熱を帯びているのが分かる。マリオンは急いで部屋から顔を出し、外に控えていたアーノルドに言った。
「医者を連れて・・いや、アリス・・・アリス嬢を呼んで来い!至急だ!」
◇◇◇◇◇
「殿下・・大変申し上げにくいですが、エルメ様の魂が魂ではなくなってます」
「どういうことだ!?」
エルメを診終えたアリスの言葉に、マリオンは思わず声を上げる。
「殿下、声を抑えてください。聞こえてしまいます」
人払いをさせた部屋には、エルメとマリオン、アリスの三人だけだ。だが外には側近たちが控えているため、大声を出せば、飛び込んでくる。転生の絡んだ秘密の話をするのに、部外者は邪魔だ。
エルメを溺愛するマリオンの気持ちを推し量れば、今のように声を上げてしまうのも仕方ないのだが、アリスは努めて冷静を装った。
「どうやらエルメ様の中にある魂は、転生者である魂ではないようです」
「どういうことだ!!」と同じセリフで詰め寄るマリオンにアリスは、同じ説明を繰り返した。
「もしや、あの時の治療に問題があったんじゃないのか?」
マリオンの言う“あの時の治療”とは、エルメたちが繰り広げた茶番のことである。エルメの中から魂を引っ張り出し、ネズミに閉じ込めたアレだ。
「あのネズミはどうしたんだ?処分したのか?」
「処分など、滅相もありません。逃しました。むやみな殺生は好みませんし、当然エルメ様もそう望まれましたので・・・」
「なぜ処分しなかった!」
「ですから・・・」とアリスが再度説明しようと口を開きかけたその時、ソファーから可愛らしい鈴の音のような声がした。
「マリオン様・・・?どうなさったのですか?」
目を擦り、目を覚ましたばかりの様子のエルメだ。
しかし、何かが違う・・・
そう違和感を感じたマリオンだったが、すぐに妻を心配するセリフを口にした。
「エルメ!目を覚ましたか。気分はどうだ?熱があるようだが・・・」
「はい。少し頭がぼんやりしますが、平気です。それよりご心配をおかけしました。せっかくの舞踏会でしたのに・・・」
「そんな事どうでもいいんだ!君の身体が一番大事だからな」
マリオンはそっとエルメの頬を撫でると、その手に彼女の手が添えられる。
「マリオン様の手、冷たくてとても気持ちいいですわ・・・」
うっとりとした表情でマリオンを見つめるエルメに、彼は困惑していた。エルメが、エルメではない気がしていたからだ。
『どうやらエルメ様の中にある魂は、転生者である魂ではないようです』
さっき聞いたばかりのアリスのセリフが頭を駆け巡る。
まさか・・・!
マリオンが彼女の肩を掴み、口を開いたその時、エルメが怯える表情を見せた。
「貴女はどなたですか?」
エルメがそう尋ねた視線の先にいたのは紛れもないアリスだった。
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