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新章
新章第12話 本日は決戦なり
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エルメは、舞踏会の準備に余念がなかった。侍女たちはドレスを着せ付けると、うっとりと見惚れていた。
「妃殿下、とてもお似合いです!」
「妃殿下の美しさとアリス様のデザイナーの腕と相まって、この世のものとも思えませんわ」
「さすがですわ。今日の主役に相応しい美しさです!」
緑のグラデーションが美しいドレスは、胸の下から裾に向けてふんわりと広がり、花びらのように軽やかだ。これならふっくらとしたお腹が目立たない。
袖も肩から手首にかけて広がるデザインで、二の腕をやたら気にしていたエルメの希望とアリスの思いやりから生まれた形だ。
首元には大粒のダイヤを散りばめたネックレスを着けてある。髪はハーフアップにしてあり、後頭部で纏めたシニヨン部分にパールビーズを編み込んでいた。
あまりの賛辞に「みんか褒めすぎよ~」とさすがに恥ずかしそうに頬を染めるエルメに、熱い視線を送るのはアリスだ。傍らにビアトリスもいる。
「エルメ様!褒めすぎなど、全くありませんよ。嗚呼、これは早速肖像画にしないと・・・」
「・・アリス・・・肖像画は止めてちょうだい。何枚描けば気が済むのよ。あの大きな屋敷が私の肖像画で埋まるとか、やめてよね」
「何を仰っしゃるんですか!?あれがあるからこそ、私のデザイナーとしてのアイデアが湧き上がってくるんです!私を助けると思って、大人しく描かれてください」
相変わらず推しエルメへの愛が止まらないアリスだが、エルメはアリス自身の将来を少し憂いていた。
アリスはいつでも“エルメエルメ”で、全く自分の色恋に関心を見せる様子がない。前世の日本ならこんな心配はいらないが、あいにくこの世界で女性が一人で生きていくのは、困難だ。
(いつかはアリスも愛し、愛してくれる人が現れるのかな・・・いっそ、私が一肌脱いじゃうって、手もあるわね)
エルメはそんなことを考えながら、舞踏会が開かれる広間に向かった。
広間の扉に到着する直前、「久しぶりの舞踏会は、気合が入るわね」とエルメが口にすると、「気合もいいが、自分の身体を大事にしてくれよ」と後ろから声がかかる。
その声にエルメの胸は途端に高鳴った。振り向くと、正装に身を包んだマリオンが立っていた。いつものように優しい笑顔を浮かべている。
(くぅぅぅぅ・・カッコいい。やっぱり正装最高!元々タイプの顔だけど、正装姿はぶっちぎりでランキングナンバーワンなんだよね)
エルメは内心歓喜しながら、無意識に鼻をおさえる。どうやら鼻血が心配のようだ。
「大丈夫よ。もうパパは心配症でちゅよね~」
「こらっ、エルメ。それは止めろ。夫をからかうもんじゃないぞ」
お腹を撫でながら「エヘッ」と舌を出して笑うエルメに、マリオンは苦笑するしかない。そして悪戯っぽく微笑むエルメをエスコートし、マリオンたちは広間の中に消えていった。
◇◇◇◇◇
広間では華やかな音楽が流れ、着飾った貴族たちが集まっていた。皆、談笑し、言葉を交わしている。
「母上、喉が乾いたでしょう?飲み物を持ってきました」
「ありがとう。リオル」
広間の奥に着座し、貴族たちから挨拶を受けるマリオンとエルメ。そんなエルメの後ろからこっそり姿を見せたリオルがグラスを差し出すと、エルメはアリスから受け取ったあの小さな包みの中身をグラスに入れた。
そして一気に飲み干したエルメから「あら、やだ。美味しい」と呟かれた言葉に、リオルは満足げな表情する。
「それは何よりです。母上、それではご武運を・・・」
そう言葉を残し、リオルは姿を消した。
(リオルったら、『ご武運を』だなんて、戦を始めるわけじゃないのに・・我ながらよくできた息子だと思うわ)
エルメは、思わず苦笑いしたのだった。
そして、ダンスの時間が始まる。ファーストダンスは、マリオンとエルメの二人だ。
音楽に合わせて、二人は踊り始める。優雅に踊り出した二人のステップに合わせて、会場に流れる音楽はさらに盛り上がる。
「楽しそうだな。だが少し緊張してないか?」
「そう?きっとこの雰囲気で興奮してるだけよ。それより、転ばないようにちゃんと支えてね。愛しの旦那様」
「私の妻は、相変わらずワガママだな」
マリオンは嬉しさ半分呆れ半分といった様子で、エルメの腰に回していた腕に力を入れる。
(あっぶな~。正直ちょっと緊張してるんだけど、やっぱりマリオンは鋭いわね。私も気合い入れ直さないと・・)
そんな思いを隠し、エルメは満更でもない様子で「あら?昔は暴れ馬で、今はワガママな女は嫌い?」と満面の笑みで答える。そんなエルメに、マリオンは「答えは分かってるだろう?」と優しく微笑んだ。
軽口を交わしながら、お互い見つめ合い、微笑み合う二人。周囲からは感嘆のため息が漏れ聞こえていた。
最後のターンを終え、二人は同時にお辞儀をする。拍手喝采の中、貴族たちから次々と称賛を浴びせられながら、エルメはマリオンの腕に手を添えたまま、席に戻った。
そして、いよいよエルメの計画も大詰めを迎える。
「妃殿下、とてもお似合いです!」
「妃殿下の美しさとアリス様のデザイナーの腕と相まって、この世のものとも思えませんわ」
「さすがですわ。今日の主役に相応しい美しさです!」
緑のグラデーションが美しいドレスは、胸の下から裾に向けてふんわりと広がり、花びらのように軽やかだ。これならふっくらとしたお腹が目立たない。
袖も肩から手首にかけて広がるデザインで、二の腕をやたら気にしていたエルメの希望とアリスの思いやりから生まれた形だ。
首元には大粒のダイヤを散りばめたネックレスを着けてある。髪はハーフアップにしてあり、後頭部で纏めたシニヨン部分にパールビーズを編み込んでいた。
あまりの賛辞に「みんか褒めすぎよ~」とさすがに恥ずかしそうに頬を染めるエルメに、熱い視線を送るのはアリスだ。傍らにビアトリスもいる。
「エルメ様!褒めすぎなど、全くありませんよ。嗚呼、これは早速肖像画にしないと・・・」
「・・アリス・・・肖像画は止めてちょうだい。何枚描けば気が済むのよ。あの大きな屋敷が私の肖像画で埋まるとか、やめてよね」
「何を仰っしゃるんですか!?あれがあるからこそ、私のデザイナーとしてのアイデアが湧き上がってくるんです!私を助けると思って、大人しく描かれてください」
相変わらず推しエルメへの愛が止まらないアリスだが、エルメはアリス自身の将来を少し憂いていた。
アリスはいつでも“エルメエルメ”で、全く自分の色恋に関心を見せる様子がない。前世の日本ならこんな心配はいらないが、あいにくこの世界で女性が一人で生きていくのは、困難だ。
(いつかはアリスも愛し、愛してくれる人が現れるのかな・・・いっそ、私が一肌脱いじゃうって、手もあるわね)
エルメはそんなことを考えながら、舞踏会が開かれる広間に向かった。
広間の扉に到着する直前、「久しぶりの舞踏会は、気合が入るわね」とエルメが口にすると、「気合もいいが、自分の身体を大事にしてくれよ」と後ろから声がかかる。
その声にエルメの胸は途端に高鳴った。振り向くと、正装に身を包んだマリオンが立っていた。いつものように優しい笑顔を浮かべている。
(くぅぅぅぅ・・カッコいい。やっぱり正装最高!元々タイプの顔だけど、正装姿はぶっちぎりでランキングナンバーワンなんだよね)
エルメは内心歓喜しながら、無意識に鼻をおさえる。どうやら鼻血が心配のようだ。
「大丈夫よ。もうパパは心配症でちゅよね~」
「こらっ、エルメ。それは止めろ。夫をからかうもんじゃないぞ」
お腹を撫でながら「エヘッ」と舌を出して笑うエルメに、マリオンは苦笑するしかない。そして悪戯っぽく微笑むエルメをエスコートし、マリオンたちは広間の中に消えていった。
◇◇◇◇◇
広間では華やかな音楽が流れ、着飾った貴族たちが集まっていた。皆、談笑し、言葉を交わしている。
「母上、喉が乾いたでしょう?飲み物を持ってきました」
「ありがとう。リオル」
広間の奥に着座し、貴族たちから挨拶を受けるマリオンとエルメ。そんなエルメの後ろからこっそり姿を見せたリオルがグラスを差し出すと、エルメはアリスから受け取ったあの小さな包みの中身をグラスに入れた。
そして一気に飲み干したエルメから「あら、やだ。美味しい」と呟かれた言葉に、リオルは満足げな表情する。
「それは何よりです。母上、それではご武運を・・・」
そう言葉を残し、リオルは姿を消した。
(リオルったら、『ご武運を』だなんて、戦を始めるわけじゃないのに・・我ながらよくできた息子だと思うわ)
エルメは、思わず苦笑いしたのだった。
そして、ダンスの時間が始まる。ファーストダンスは、マリオンとエルメの二人だ。
音楽に合わせて、二人は踊り始める。優雅に踊り出した二人のステップに合わせて、会場に流れる音楽はさらに盛り上がる。
「楽しそうだな。だが少し緊張してないか?」
「そう?きっとこの雰囲気で興奮してるだけよ。それより、転ばないようにちゃんと支えてね。愛しの旦那様」
「私の妻は、相変わらずワガママだな」
マリオンは嬉しさ半分呆れ半分といった様子で、エルメの腰に回していた腕に力を入れる。
(あっぶな~。正直ちょっと緊張してるんだけど、やっぱりマリオンは鋭いわね。私も気合い入れ直さないと・・)
そんな思いを隠し、エルメは満更でもない様子で「あら?昔は暴れ馬で、今はワガママな女は嫌い?」と満面の笑みで答える。そんなエルメに、マリオンは「答えは分かってるだろう?」と優しく微笑んだ。
軽口を交わしながら、お互い見つめ合い、微笑み合う二人。周囲からは感嘆のため息が漏れ聞こえていた。
最後のターンを終え、二人は同時にお辞儀をする。拍手喝采の中、貴族たちから次々と称賛を浴びせられながら、エルメはマリオンの腕に手を添えたまま、席に戻った。
そして、いよいよエルメの計画も大詰めを迎える。
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