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新章

新章第10話 友人の興味を引き出したい

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「大事な思い出?」

「そうなのよ。何だか雲をつかむような話でね。でも興味をそそられない?」

「それはもう!興味ありありで・・って、違いますよ!これが、エルメ様の部屋に置かれてた事が大事件じゃないですか!」

最初こそキラキラと瞳を輝かせたアリスだったが、どうやら発覚した状況が気になるようだ。

「まあ、そうとも言えるわね。でも危害を加えられた訳でもないし、いい暇つぶしにはなりそうじゃない?」

のほほんとした口調で、全く危機感のないエルメに対し、アリスは鼻息が荒い。

「何を呑気に・・ダメですよ!私はエルメ様の部屋に無断で侵入し、こんなふざけた置き手紙をした犯人が許せません!挑戦状・・いいえ、脅迫状ですよ、これっ!」

本気で怒り、自分のことを心配してくれている友人の様子にエルメは「アリス・・そこまで真剣に怒ってくれるなんて」と感動しかけた。しかしそんなアリスの次のセリフで苦笑する。

「神聖なるエルメ様のお部屋への不法侵入!私を差し置いて・・許せません!」

(あはは・・そうだよね。アリスって、こういう子だったわ・・・ハハッハァ~)

エルメは、アリスの元来の性格を思い出し、諦めの境地に達した一方、アリスは手紙を読み返しながら首を傾げる。

「ところで、その大事な思い出に心当たりはあるんですか?」

エルメは、アリスの問いかけに待ってましたとばかりに立ち上がり、その品を見せる。アリスの好奇心を引き出せれば、二人で犯人を探し出せると、睨んでいたからだ。

マリオンからは忘れろと言われたが、エルメは大人しくしているつもりはなかった。

「えっ?これ何ですか?」

「いいから、読んでみて」

エルメにそう言われてアリスが目を通すのは、マリオンが机の裏から取り出した品だ。

「こんなものがあったなんて・・」

「マリオンは、これじゃないかって言うんだけど、どうかしらね」

「う~ん、分かりません。正直、エルメ様と殿下にしか意味はありませんし・・あっ、でもエルメ様推しの私にとっては、非常に価値あるものですよ」

「そりゃ、どうも・・」

「それにしても、計画実行中の大事な時期なのにイヤな手紙ですね」

アリスのこの言葉に、楽観視していたエルメの胸に一抹の不安がよぎるのだった。


◇◇◇◇◇


一日を終えたエルメがひとり、部屋でクルクルと回っている。そこに入って来たマリオンが「何をしてるんだ!?」と足を止めた。

「うん?身体がなまっちゃって・・だから運動してるのよ。もうすぐ舞踏会もあるし」

「まさか舞踏会で踊るつもりか?」

マリオンの問いにエルメは「うん。まだこのお腹なら、踊れるよ。マリオンは踊りたくないの?」と軽やかにステップを踏み始めた。慌てて駆け寄り、愛しい妻の身体に腕を回すマリオン。

「だが、もし転んだら」

「え~、私の旦那様は、身重の妻と踊って転ぶようなポンコツなの?それに主役の私たちが一曲でも踊らなくちゃ、盛り上がらないじゃない」

ふたりでくるりと回ると、夜着の裾が広がり美しいシルエットを見せる。

実はいま皇帝夫妻は、旅行中だ。視察も兼ねた休暇である。そうなると、皇帝夫妻が不在の皇家主催の舞踏会の主役は、皇太子夫妻マリオンとエルメとなる。そしてこの不在こそが、エルメが舞踏会当日に計画のメインを持ってきた理由だった。

しかし“ダンスを踊る”・・この選択があんなトラブルに巻き込まれる発端になるとは、この時のエルメもマリオンも知らなかった。

“未来予知”

そんな便利な力があれば、防げただろう。

「ポンコツとはヒドイな。私がそんな夫だと、まだ思ってるのか?」

「う~ん、それはどうかなぁ・・?フフフッ・・試してみる?」

「いや・・試すまでもないな。私が塞いでしまえばいいだけだ」

マリオンはそう言うと、ステップを踏む足を止め、直前に言葉にしたとおり、エルメの頬に手を当て、彼女のふっくらとした唇を塞いだ。口づけると、エルメも目を閉じて応える。

マリオンは、その柔らかな感触を楽しむように、エルメの唇をむ。チュッチュッと軽いリップ音は、やがて水気を含んだ淫靡なものへと変わっていく。

「ん・・ぅ・・・」

重ねられた唇から漏れる吐息。そして、エルメの腕がマリオンの首に回された頃合いを見計らって、マリオンはその唇を解放した。

「あ・・・」

名残惜しそうな声を上げるエルメを抱き上げたマリオンはベッド・・ではなく、何故か壁の前に下ろした。そしてエルメは、壁と向き合っている。

「えっ!?マリオン!?」と後ろを振り返ろうとするエルメの身体をガッチリ掴み、マリオンは彼女の耳元で甘い声で囁いた。

「壁を見てろ」
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