〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です

hanakuro

文字の大きさ
上 下
55 / 74
新章

新章第8話 寸劇やってみた

しおりを挟む
エルメの部屋に集まるのは、いつもの面々だ。部屋の主エルメ、その夫マリオンと息子のリオル、そして帝国の救世主アリス。

いつもならワイワイと他愛のない会話で盛り上がるメンバーだが、今日はどうも様子が違うようだ。

「本当にこんなことで、エルメの魂は戻るのか?」

訝しがるマリオンを前にアリスは「疑うのですか?この癒やしの乙女の言葉を」と胸を張る。

「いいじゃない。やってみれば分かることでしょ・・・私はアリスを全面的に信頼してるから、何でもやるわよ。リオルもそうよね?」

「はい!母上がそう仰っしゃるなら、僕が口を挟むまでもありません」

沈黙の静けさがしばし流れ、四人が囲むテーブルの上のネズミが、せわしなく動く音だけが部屋に響く。

三対一・・・このままでは自分がごねているように見えると、気づいたのかマリオンはため息をついた。

「・・・分かった。君がそう言うなら、私が反対する理由はないな」と、諦めたように言うマリオンに、アリスは「はい!そうですよ!」と嬉しそうな声をあげた。

「それじゃあ、早速始めましょうか」

エルメのこの言葉を合図にエルメたちの作戦(修正版)は、第二段階に突入した。

「では、殿下とリオル様には外でお待ちいただきます」

アリスの口から出てきた追い出そうとするセリフにマリオンが反論する。

「それは困るな。アリス嬢を信用してないわけではないが、大事な妻の一大事だ。私の目で確かめなければ、気が済まないことは分かってくれるだろう?」

(あ~、やっぱり・・・マリオンなら絶対に見届けさせろって、言うと思った。だ・け・ど、そこは私もお見通し!何年夫婦やってると思ってるの)

エルメはこちらの計画どおりに動くマリオンに、内心ほくそ笑んでいた。そしてアリスに助け舟を出す。

「マリオン、ありがとう。マリオンがいてくれたら、すっごく安心する。でも貴方の殺気で失敗したら、どうするの?ほら、見て。アリスの手が震えてるじゃない」

そう言ってアリスの手を取ると、本当にわずかに震えている。すがるような眼差しをエルメに向けるアリスは、もはや女優だ。

(アリス、打ち合わせ通りとはいえ、演技が上手くなったわねぇ)

「だから、リオルに見守ってもらうことにするわ。息子にならマリオンも任せられるでしょ?」

「母上・・父上も安心してお任せください!」

そう言われてしまえば、マリオンとしても返す言葉がない。苦虫を噛み潰したような表情で、「仕方ないな。君がそう言うなら」と呟く。

「さぁ、そうと決まれば早く始めましょう!時間はないんだから」

エルメの言葉にマリオンは渋々ながら、扉から姿を消した。扉が閉まる瞬間、チラッと後ろを振り返った彼の顔がエルメの心をチクッと刺す。

(ごめんなさい。でも私も散々、貴方の手のひらの上で転がされてきたんだから、これくらいかわいいもんでしょ)

マリオンの姿が消えたことを確認してから、エルメはアリスに声をかけた。

「じゃあ、始めるけど準備はいい?」

「はい、もちろんです!」


◇◇◇◇◇


エルメは椅子に深く腰掛けて目を閉じていた。まるで瞑想しているようなその姿に、二人の視線が集まる。

マリオンの目がないのだから、こんな無意味な茶番はいらないのだが、抜け目のない彼のことだ。幼いリオルから色々聞き出すに決まってる。その時、ボロが出ないよう実際に儀式をやるのだ。

(リオルは、賢い子だけどまだ八歳。あの百戦錬磨のマリオンの誘導に引っかかる可能性を排除しないとね)

数分後、スッと目を開いたエルメは「心が落ち着いたわ。アリスお願い」と静かに口を開いた。

この言葉に横で控えていたアリスが、エルメの頭の先に手をかざす。すると、彼女の手から優しい光が溢れ出し、エルメを包み込んだ。正真正銘の癒やしの乙女の力である。その光景は、とても神秘的で美しいものだった。

「・・・では、邪魔な魂を引っこ抜きます」

アリスはそう告げると、光の中から手を引く。それは出されまいとあらがう何かを懸命に引っ張り出そうとしているように見えた。

唇をキュッと固く結び、グググッと手を引き、最後には勢いよく引き抜いた。そして空を切った腕は、テーブルの上のネズミに辿り着く。

カゴから出されたネズミをアリスの手が包むと、今度はネズミが光に包まれた。しばらくすると、ネズミの中に吸い込まれるようにして消えた光の残滓がキラキラと輝く。

エルメはその輝きを見つめながら「これで魂が戻ったかしら?」と言うと、アリスは「これで終了です」と告げた。

「アリス、お疲れ様」

「すごいよ!アリスそれっぽ~い!」

初めて目の前で乙女の力を目にしたリオルは、控えめに興奮していた。その興奮の中、ヒソヒソ声なのは幼いながらもさすが分かっていた。マリオンが聞き耳を立てているかもしれないのだ。声を潜めて正解だ。

「リオル様、お褒めのお言葉ありがたく受け取りますね」

アリスは頬を緩め、瞳をキラキラさせて見つめてくる少年を微笑ましく見ていた。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

転生令嬢の涙 〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜

矢口愛留
恋愛
【タイトル変えました】 公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。 この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。 小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。 だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。 どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。 それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――? *異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。 *「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。

強すぎる力を隠し苦悩していた令嬢に転生したので、その力を使ってやり返します

天宮有
恋愛
 私は魔法が使える世界に転生して、伯爵令嬢のシンディ・リーイスになっていた。  その際にシンディの記憶が全て入ってきて、彼女が苦悩していたことを知る。  シンディは強すぎる魔力を持っていて、危険過ぎるからとその力を隠して生きてきた。  その結果、婚約者のオリドスに婚約破棄を言い渡されて、友人のヨハンに迷惑がかかると考えたようだ。  それなら――この強すぎる力で、全て解決すればいいだけだ。  私は今まで酷い扱いをシンディにしてきた元婚約者オリドスにやり返し、ヨハンを守ろうと決意していた。

悪役令嬢に転生した私が、なぜか暴君侯爵に溺愛されてるんですけど

夏目みや
恋愛
「ど、どうして私がラリエットになっているのよ!!」  これが小説の中だと気づいたのは、婚約者選びのパーティでのこと。  相手はゼロニス・ロンバルディ。侯爵家の跡継ぎで、暴君と噂されている。    婚約者が決まるまで、候補者たちはロンバルディの屋敷で過ごさせばならない。  ここから出るのは候補者を辞退するか、ゼロニスから「出ていけ」と命じられるかの二択。  しかも、私の立ち位置は──悪役令嬢のラリエット・メイデス。しかもちょい役で、はっきり言うとモブの当て馬。このままいけば、物語の途中であっさりと退場する。  なぜならゼロニスは、ここで運命の出会いを果たすのだから――  断罪されたくないとメイドに変装して働いていると、なぜかゼロニスの紅茶係に。 「好きだと言っている。俺以上の男などいないだろう」  なぜかグイグイとくるゼロニス。    ちょっ、あなた、ヒロインはどうしたの!?

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします

柚木ゆず
恋愛
 ※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。  我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。  けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。 「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」  そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?

白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。 「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」 精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。 それでも生きるしかないリリアは決心する。 誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう! それなのに―…… 「麗しき私の乙女よ」 すっごい美形…。えっ精霊王!? どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!? 森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。

処理中です...