〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です

hanakuro

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新章

新章第5話 贅沢な悩みを抱える妻の計画

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『君を独占するお腹の子に嫉妬してしまいそうだな。君を早く抱きつくしたい』

(あの様子なら、しばらく避妊を徹底するんじゃないかな。すぐ三人目ができたなんてなったら、暴れ出しそうだもん)

愛する妻との子供を多く望むマリオンだったが、次々に子供を作るような男ではなかった。『お腹に乗らなければ大丈夫だよ』とエルメに誘われても、妊娠中は断固として夜の営みを我慢した。どうやら子作りも彼なりのペースがあるらしい。

しかしリオルを産んでから、なかなか第二子に恵まれなかった時、エルメの身体は疲労困憊こんぱいしていた。特に腰が砕けるかと思った。満身創痍である。

“抱きつくされる”

まさにこの言葉のとおり、リオルが一人で寝られるようになると、マリオンは毎晩そして何度もエルメを求め、最後は彼女が気を失うように寝落ちしてしまうほどだった。

そんなマリオンが、ようやく第二子を授かった時の喜びようといったらなかった。その日からマリオンは身重の妻を労るため、エルメにべったりと張り付き、リオルを身ごもっている時より、溺愛に拍車がかかったのだ。

そして、いま大人気デザイナーにもなったアリスの横にいる可愛らしい女性は、彼女の弟子だ。名前をビアトリスと言う。なんでも突然、アリスの屋敷の門を叩き、『弟子にしてくれ』と頼み込んだそうだ。

オッドアイを持つ不思議な魅力の女性であり、どことなくエルメにも似ている雰囲気のビアトリスが、アリスの信頼を掴むのに、そう時間はかからなかった。今ではアリスの右腕として、行動を共にしている。

「ねえ、ビアはどっちがいいと思う?」

エルメが二枚のデザイン画を掲げ、静かに佇むビアトリスに選択迫ると、彼女は迷うことなく右のデザインを指さした。

それは緑のグラデーションが美しいドレスだった。


◇◇◇◇◇


ドレスの選定を終えたエルメは、ビアトリスを先に帰し、アリスと向き合っていた。

「アリス、私の魂が弱まってるって、そんな設定だった?それにあの万能薬。すっごく美味しかったんだけど」

「エルメ様、すみません。何だか殿下の必死な顔を見てたら、ちょっと盛りたくなっちゃって・・・それにエルメ様に美味しいと褒めてもらって、嬉しいです!あれは心臓を元に戻すのはもちろん身体を元気にする効果と胎児に良い効果もあるんです。新たに開発したレシピですから、美味しいに決まってますよ。今度、来る時に大量に持ってきますね」

「フフフッ、楽しみにしてる。それにその方が盛り上がるなら、いいけど・・病弱な演技できるかな」と言って、実に楽しげな微笑みを浮かべるエルメ。

実はエルメの魂が弱ってるというのは、でまかせだ。そしてアリス言ったとおり、あの万能薬も嘘だ。

ではあの医者の下した診断・・『エルメの心臓が弱まってる。出産に耐えられないかもしれない』というのは、何なのか。医者がそう言うのなら、事実だろう。

しかしその病気すら、エルメとアリスの計画した策だとしたら、どうだろうか。

実はアリス。乙女の力を発揮し、帝国に平穏をもたらした後、自分の目標を失っていた。癒やしの乙女として人々から崇められ、常に人の目がついて回り、帝国から出ることはもちろん、帝国内でも行動が制限された。元々、天真爛漫で行動力のある彼女が、こんな人生に耐えられるはずもない。

癒やしの乙女としての目的を果たし、人生のやりがいを失ったのだ。流行り病のような大事件も起きず、推しのエルメとは、マリオンに邪魔されなかなか会えない。

そんな中、デザイナーになったのもエルメに会うためだったし、自分のデザインしたドレスをエルメの身にまとわせられるならと、必死だった。

そしてデザイナーとしての地位を確立する一方で、乙女の力の研究も進めていた。その研究とは、元々の力が病気を治し癒やすものなら、その逆・・・病気を生むこともできるのではないかと、考えたのだ。

最初は暇つぶしのつもりだったが、秘密裏に研究を重ね、禁断とも言える“病気を生み出す力”を手にした。しかし、癒やしの乙女が癒やすとは正反対の力を使えるようになったことは、当然誰にも話さなかった。エルメから今回の茶番を持ちかけられるまでは・・・ 

エルメの心臓は、もちろんピンピンしているし、出産にも余裕で耐えられる。しかし医者を騙すため、アリスは自ら開発した一時的に心音を弱らせる薬をエルメに渡し、万能薬はそれを戻す薬だ。

そして肝心のエルメがアリスをこんな茶番に巻き込んだ理由・・・それは転生前のエルメ姫ではなく、転生後の暴れ馬エルメを好みだと言った、はるか昔のマリオンのセリフ。この言葉がずっと気になっていた。

もし転生者の魂、二十歳の大学生が消えたら、マリオンの愛情はどうなるのか。もしそうなった時、マリオンがどう行動すれば、自分の心が満たされるのか。エルメ自身も正解は分からなかったが、変わらず愛情を注いでくれるのか、夫を試したくなった。

アリスからは「贅沢な悩みですねぇ」と一蹴されたが、エルメのもう一つの目的を話すと、アリスは俄然やる気になったのだ。

マリオンに知られたら、確実に軽い罰どころでは済まないが、普段からエルメを独占しようとする皇太子にギャフンとさせられるならと、アリスは協力することにした。

当然、リオルも仲間だ。我が子を騙すことはさすがに母としてできなかったエルメは、正直に計画を打ち明けた。するとリオルはアリス同様、ノリノリで協力を申し出たのだ。

リオルもまた、日頃から母親を独占しようとする父親に、小さな嫉妬心を募らせていたようだ。計画を知っていたからこそ、医者からエルメの心臓が弱まってると告げられても、冷静でいられたのだ。素の彼なら、マリオンと同じように動揺し、大変な騒ぎになっていただろう。

「それじゃあ、予定どおりってことでいい?」

エルメが確認すると、アリスは鼻息荒く「もちろんです!エルメ様!」と大きく頷いた。そして二人の声が揃う。

「「決戦は次の舞踏会!」」
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