48 / 74
新章
新章第1話 災い
しおりを挟む
「どういうことだ。もう一度言ってみろ!!」
「父上。そう声を荒らげては、彼らが怯えてしまいます」
「医者が病状を説明するのに、何故怯える必要がある。そんな医者に用はない!!」
「父上・・・落ち着いてください。憤ってどうにかなるなら、僕もここまで冷静ではいられませんよ」
「くっ・・・!」
白髪の老人たち数名を前に激昂しているのは、マリオンだ。ここガイアール帝国皇太子であり、超絶俺様キャラの彼は妻であるエルメを溺愛していることで有名だった。
そして、その皇太子をなだめているのは、まだ幼さの残る少年リオルだ。マリオンとエルメの子である。
マリオンの両親である皇帝夫妻が『孫が喋った』と喜んでいた頃から早七年、『母上は僕のものだ!』とマリオンと張り合っていた頃から三年の月日が経っていた。
相変わらず、親子して妻であり、母であるエルメを盲目的に愛し、お互いに彼女の愛情を独り占めしようと躍起になっていた。
そんな騒がしくありながらも、幸せな彼らに突然降って湧いた災い。そのせいでマリオンは憤り、目の前にいる医者たちに詰め寄っていた。
その怒りの原因、それはエルメの心臓が悪いと医者たちが告げたことだ。
「殿下、お望みとあらば、何度でも申し上げましょう。妃殿下の心臓は、弱っております。後の出産に耐えられるかどうか・・・」
医者がはっきりとした声でそう告げると、マリオンはキッと睨みつけ、リオルは静かに目を伏せた。
マリオンが、じゃじゃ馬と認めるほど元気だったエルメの心臓が弱っているなど、にわかに信じがたい。しかも彼女のお腹の中には、新しい命が芽吹いていた。
リオルが生まれてから、なかなか第二子に恵まれなかったマリオンとエルメだったが、リオルが八歳になってすぐ妊娠が判明した。それは今からまだ数ヶ月前のことだ。喜ばしいはずの出来事が、新たな災いをもたらすなど、誰が予想できただろうか。
「何故だ!?なぜ急にそのようなことに!!」
「分かりませぬ。しかし、これは紛れもない事実です」
「原因不明というのか?ふざけるな!!お前たち無能のせいでこうなったのではないか!!もっと早く知っていれば、いくらでも打つ手はあっただろう!!」
そう声を荒げ、机をドンッと叩いたマリオン。全くいつもの彼らしくない。仕える者を無能と呼ぶなど、愚かな主以外の何者でもない。
それだけ彼がエルメを愛しているということなのだが・・・
リオルは冷静さを失っている父親を言葉でなだめることを諦め、つかつかとマリオンに歩み寄ると、ついさっき父親がしたように机を思いっきりドンッと叩いた。
突然の行動に、幼い息子に驚きの眼差しを向けるマリオン。それに「父上、落ち着いてください」と、落ち着いた声でリオルが注意した。この言葉で冷静さを取り戻したマリオンは、ふぅっと小さく息を吐き出す。
「リオル・・・だが、この者たちが言うには、このままではエルメの命が危ないんだぞ・・・お前は平気なのか?」
「父上には僕が平気に見えますか?大体彼らを責めても何も変わりません。それよりも何か手を打ちましょう」
若干まだ八歳の子供に助け舟を出されたた医者たちは、深々と頭を下げた。
「申し訳ありません。しかし、我々も妃殿下の体調管理には最善を尽くしておりました。しかし今回のことは、本当に突然のことでして・・・」
「父上も分かってるんだよ。ただ母上のこととなると、周りが見えなくなるんだ。気にしないでね」
自分の祖父母より遥かに年上の者たちを気遣うリオルの言葉に、医者たちは再び深く頭を下げた。
そして、リオルはそんなやり取りを憮然とした表情で見つめるマリオンに向き直ると、言った。
「父上、お忘れですか?医者がお手上げの病でも、ものともしない人物がこの帝国にはいますよね?」
そうリオルがほのめかすと、マリオンはすぐに一人の人物を思いつく。
それはエルメと同じ転生者であり、むか~しむかしマリオンと共同戦線をはったこともある人物だった。
マリオンは側に控えていた側近アーノルドに鋭い眼差しを向けると、告げる。
「急ぎ癒やしの乙女であるアリス・サルコール嬢を呼べ!」
◆◆◆◆◆
何やら物々しい雰囲気のようですが、帰っきた転生皇太子妃と俺様皇太子。
僭越ながら、半年ぶりにエルメたちの物語を更新し始めました。
細々と書いていたので、こんなに時間が・・・
呼んでない・・・?なんて仰っしゃらずに、最後までお付き合いいただけたら嬉しいです。
「父上。そう声を荒らげては、彼らが怯えてしまいます」
「医者が病状を説明するのに、何故怯える必要がある。そんな医者に用はない!!」
「父上・・・落ち着いてください。憤ってどうにかなるなら、僕もここまで冷静ではいられませんよ」
「くっ・・・!」
白髪の老人たち数名を前に激昂しているのは、マリオンだ。ここガイアール帝国皇太子であり、超絶俺様キャラの彼は妻であるエルメを溺愛していることで有名だった。
そして、その皇太子をなだめているのは、まだ幼さの残る少年リオルだ。マリオンとエルメの子である。
マリオンの両親である皇帝夫妻が『孫が喋った』と喜んでいた頃から早七年、『母上は僕のものだ!』とマリオンと張り合っていた頃から三年の月日が経っていた。
相変わらず、親子して妻であり、母であるエルメを盲目的に愛し、お互いに彼女の愛情を独り占めしようと躍起になっていた。
そんな騒がしくありながらも、幸せな彼らに突然降って湧いた災い。そのせいでマリオンは憤り、目の前にいる医者たちに詰め寄っていた。
その怒りの原因、それはエルメの心臓が悪いと医者たちが告げたことだ。
「殿下、お望みとあらば、何度でも申し上げましょう。妃殿下の心臓は、弱っております。後の出産に耐えられるかどうか・・・」
医者がはっきりとした声でそう告げると、マリオンはキッと睨みつけ、リオルは静かに目を伏せた。
マリオンが、じゃじゃ馬と認めるほど元気だったエルメの心臓が弱っているなど、にわかに信じがたい。しかも彼女のお腹の中には、新しい命が芽吹いていた。
リオルが生まれてから、なかなか第二子に恵まれなかったマリオンとエルメだったが、リオルが八歳になってすぐ妊娠が判明した。それは今からまだ数ヶ月前のことだ。喜ばしいはずの出来事が、新たな災いをもたらすなど、誰が予想できただろうか。
「何故だ!?なぜ急にそのようなことに!!」
「分かりませぬ。しかし、これは紛れもない事実です」
「原因不明というのか?ふざけるな!!お前たち無能のせいでこうなったのではないか!!もっと早く知っていれば、いくらでも打つ手はあっただろう!!」
そう声を荒げ、机をドンッと叩いたマリオン。全くいつもの彼らしくない。仕える者を無能と呼ぶなど、愚かな主以外の何者でもない。
それだけ彼がエルメを愛しているということなのだが・・・
リオルは冷静さを失っている父親を言葉でなだめることを諦め、つかつかとマリオンに歩み寄ると、ついさっき父親がしたように机を思いっきりドンッと叩いた。
突然の行動に、幼い息子に驚きの眼差しを向けるマリオン。それに「父上、落ち着いてください」と、落ち着いた声でリオルが注意した。この言葉で冷静さを取り戻したマリオンは、ふぅっと小さく息を吐き出す。
「リオル・・・だが、この者たちが言うには、このままではエルメの命が危ないんだぞ・・・お前は平気なのか?」
「父上には僕が平気に見えますか?大体彼らを責めても何も変わりません。それよりも何か手を打ちましょう」
若干まだ八歳の子供に助け舟を出されたた医者たちは、深々と頭を下げた。
「申し訳ありません。しかし、我々も妃殿下の体調管理には最善を尽くしておりました。しかし今回のことは、本当に突然のことでして・・・」
「父上も分かってるんだよ。ただ母上のこととなると、周りが見えなくなるんだ。気にしないでね」
自分の祖父母より遥かに年上の者たちを気遣うリオルの言葉に、医者たちは再び深く頭を下げた。
そして、リオルはそんなやり取りを憮然とした表情で見つめるマリオンに向き直ると、言った。
「父上、お忘れですか?医者がお手上げの病でも、ものともしない人物がこの帝国にはいますよね?」
そうリオルがほのめかすと、マリオンはすぐに一人の人物を思いつく。
それはエルメと同じ転生者であり、むか~しむかしマリオンと共同戦線をはったこともある人物だった。
マリオンは側に控えていた側近アーノルドに鋭い眼差しを向けると、告げる。
「急ぎ癒やしの乙女であるアリス・サルコール嬢を呼べ!」
◆◆◆◆◆
何やら物々しい雰囲気のようですが、帰っきた転生皇太子妃と俺様皇太子。
僭越ながら、半年ぶりにエルメたちの物語を更新し始めました。
細々と書いていたので、こんなに時間が・・・
呼んでない・・・?なんて仰っしゃらずに、最後までお付き合いいただけたら嬉しいです。
21
お気に入りに追加
2,271
あなたにおすすめの小説

転生令嬢の涙 〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜
矢口愛留
恋愛
【タイトル変えました】
公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。
この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。
小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。
だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。
どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。
それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――?
*異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。
*「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

【完結】人生で一番幸せになる日 ~『災い』だと虐げられた少女は、嫁ぎ先で冷血公爵様から溺愛されて強くなる~
八重
恋愛
【全32話+番外編】
「過去を、後ろを見るのはやめます。今を、そして私を大切に思ってくださっている皆さんのことを思いたい!」
伯爵家の長女シャルロッテ・ヴェーデルは、「生まれると災いをもたらす」と一族で信じられている『金色の目』を持つ少女。生まれたその日から、屋敷には入れてもらえず、父、母、妹にも虐げられて、一人ボロボロの「離れ」で暮らす。
ある日、シャルロッテに『冷血公爵』として知られるエルヴィン・アイヒベルク公爵から、なぜか婚約の申し込みがくる。家族は「災い」であるシャルロッテを追い出すのにちょうどいい口実ができたと、彼女を18歳の誕生日に嫁がせた。
しかし、『冷血公爵』とは裏腹なエルヴィンの優しく愛情深い素顔と婚約の理由を知り、シャルロッテは彼に恩返しするため努力していく。
そして、一族の中で信じられている『金色の目』の話には、実は続きがあって……。
マナーも愛も知らないシャルロッテが「夫のために役に立ちたい!」と努力を重ねて、幸せを掴むお話。
※引き下げにより、書籍版1、2巻の内容を一部改稿して投稿しております


強すぎる力を隠し苦悩していた令嬢に転生したので、その力を使ってやり返します
天宮有
恋愛
私は魔法が使える世界に転生して、伯爵令嬢のシンディ・リーイスになっていた。
その際にシンディの記憶が全て入ってきて、彼女が苦悩していたことを知る。
シンディは強すぎる魔力を持っていて、危険過ぎるからとその力を隠して生きてきた。
その結果、婚約者のオリドスに婚約破棄を言い渡されて、友人のヨハンに迷惑がかかると考えたようだ。
それなら――この強すぎる力で、全て解決すればいいだけだ。
私は今まで酷い扱いをシンディにしてきた元婚約者オリドスにやり返し、ヨハンを守ろうと決意していた。

無事にバッドエンドは回避できたので、これからは自由に楽しく生きていきます。
木山楽斗
恋愛
悪役令嬢ラナトゥーリ・ウェルリグルに転生した私は、無事にゲームのエンディングである魔法学校の卒業式の日を迎えていた。
本来であれば、ラナトゥーリはこの時点で断罪されており、良くて国外追放になっているのだが、私は大人しく生活を送ったおかげでそれを回避することができていた。
しかしながら、思い返してみると私の今までの人生というものは、それ程面白いものではなかったように感じられる。
特に友達も作らず勉強ばかりしてきたこの人生は、悪いとは言えないが少々彩りに欠けているような気がしたのだ。
せっかく掴んだ二度目の人生を、このまま終わらせていいはずはない。
そう思った私は、これからの人生を楽しいものにすることを決意した。
幸いにも、私はそれ程貴族としてのしがらみに縛られている訳でもない。多少のわがままも許してもらえるはずだ。
こうして私は、改めてゲームの世界で新たな人生を送る決意をするのだった。
※一部キャラクターの名前を変更しました。(リウェルド→リベルト)

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~
胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。
時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。
王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。
処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。
これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる