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アフターストーリー
アフターストーリー第16話 アリスの見せたかったもの
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エルメとマリオンがアリスに連れて来られたのは、あの襲われた場所から目と鼻の先だった。
「どうですか?エルメ様」
「アリス、すごいわ。よく見つけたわね」
そう感嘆の声を上げるエルメの目の前には、壮大な景色が広がっている。アリスがエルメに見せたかったもの。それは見渡す限りの平原の奥に、堂々とした輪郭を空にうつす山だった。その輪郭は忘れたくても忘れることのできない山、富士山にそっくりだ。
「そっくりですよね?私も最初見たと時は、感動して涙が止まりませんでしたよ」
「ええ、本当にね。元日本人としては、このフォルムはグッとくるわね。富士山は日本の心よ!」
「エルメ様に喜んで貰えて良かったです。私もドーブルに向かう途中で見つけて以来、いつかエルメ様にお見せしたいと思っていたんですよ。でも、なかなか皇都にいるエルメ様にお見せする機会がなくて・・・ でも、今回この別荘にいらっしゃると聞いて、飛んできたんです!」
「そうなのね。ありがとう。アリスがいてくれて、本当に良かった」
二人が感動を胸にいい感じの会話を繰り広げる横でマリオンは、「山で感動するとか、分からんな」と呟いた。それを耳ざとく聞いたアリスが反論する。
「もう!元日本人でない方は、黙っててください!だからエルメ様と二人っきりで見たかったのにっ!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
別荘に無事に戻ったエルメは、疲れた身体で湯浴みと着替えを済ませると、ぐったりとベッドに横になっていた。
あの後、アリスは「訪問の目的も達成したので、帰りますね」と風のように町長の元へ帰っていった。皇都の屋敷でなく、気の合う町長の所へ戻るところがアリスらしいとエルメは笑顔で見送った。
結局、あの占いも火事ではないかと警戒していたのは、エルメだけだった。マリオンは東の地域に度々出没しては、悪事を働いていた赤目の女を想定しており、警戒をしていた。
最近になって、“賊が癒やしの乙女を狙っている”という情報を得たため、アリスが滞在しているドーブルに近いこの別荘への滞在を休暇と称して決めたのだ。不測の事態が起こった時に、すぐ対応できるようにと・・
しかし、アリスがエルメを連れ出したことは、想定外だったようで、二人の姿がないことに気付いたマリオンは、珍しく取り乱していたらしい。
今回もマリオンから何も聞かされていなかったエルメは、またマリオンの手の中で踊らされていたのだ。
占いの“水の中”というのだけは、最後まで分からずじまいだったが、それでも無事に切り抜けたことに、エルメは胸を撫で下ろした。
その時、ノックの音と共にマリオンが入ってきた。ベッドの上のエルメを見つけると、彼は目を細める。そしてその横に腰を下ろすと、エルメの手を握り、真剣な表情で話し出した。
「今回は無事だったが、何故彼女だけ逃した?君も一緒に逃げる選択肢はなかったのか?君は帝国の皇太子妃だぞ。その立場を忘れてもらっては困る」
「私なりに考えて出した結論なの。アリス様と二人なら何とかなったかも知れないけど、男の子がいたから、みんなで逃げるという選択肢は消したのよ。それに多少の身の守り方は、小さい頃から叩き込まれていたからね。なんなら、試してみる?」
笑って話すエルメにマリオンは、小さく息を吐くと、エルメの隣に身体を横たえた。お互いに横を向き、見つめ合う瞳には穏やかな笑みを浮かべる顔が映る。
「助けに来てくれて、ありがとう」
「もう礼は言うな。終わった事だ」
マリオンの言葉に「ううん。ちゃんと“ありがとう”って言ってなかったから」と身体を起こすエルメの腕をマリオンは捕らえると、そのまま仕舞い込む。
「無事に取り戻せて、安心したぞ。君の姿がないと気付いた時の私は、落ち着いてなどいられなかったからな」
「フフッ、それ聞いたわ。みんな驚いてたよ」
「仕方がないだろう。私はもう君なしでは、生きていけないと気付いてしまったんだからな」
「それは私も・・」
はにかんだ笑顔を浮かべたエルメは、そう言った唇で彼の唇に軽く触れた。マリオンの愛おしくてたまらないといった表情は、エルメの心に火を付ける。
「いっぱい触れてくれる・・?」
エルメの口から出てきたセリフに一瞬驚きを見せたマリオンは「疲れてるだろう?やめておけ」と彼女を気遣う。それにエルメは「お願い。いまマリオンに触れてほしいの。それにすごく心配させちゃったでしょ?早く貴方を安心させたいの」と潤んだ眼差しを向けた。
「あー、くそっ。私の努力を一瞬で壊すとはな・・」
マリオンはそう呟きを吐くと、指で目の前のふっくらとした唇に触れる。そしてそのまま華奢な身体を壊さぬよう覆い被さると、とろけるような瞳を向ける彼女の耳元で囁いた。
「今日の君は一段とかわいいな。壊れても知らんぞ」
その甘ったるい声にエルメは、ハッとした表情を浮かべた。いい感じのムードに流され、いつもなら絶対に口にしない積極的なセリフを言ったことに気付いたからだ。
「いま私何を言った?ウソ、やだ、恥ずかしい・・」
顔を真っ赤にし、慌ててふためく彼女をマリオンは優しく見下ろす。
「今更、取り消せんぞ」
その言葉通り、時既に遅し。マリオンの愛欲を煽りに煽った結果、彼女の唇から首筋に何度も何度もキスは落とされ、乱暴に剥ぎ取られたドレスは床に投げ捨てるように落とされた。そして顕になった白い肌をマリオンは見下ろし、告げた。
「覚悟しろよ」
エルメは恥ずかしさで、手で顔を覆った。しかし、それもすぐに力強い腕に捕らえられたことは、言うまでもなかった。
「どうですか?エルメ様」
「アリス、すごいわ。よく見つけたわね」
そう感嘆の声を上げるエルメの目の前には、壮大な景色が広がっている。アリスがエルメに見せたかったもの。それは見渡す限りの平原の奥に、堂々とした輪郭を空にうつす山だった。その輪郭は忘れたくても忘れることのできない山、富士山にそっくりだ。
「そっくりですよね?私も最初見たと時は、感動して涙が止まりませんでしたよ」
「ええ、本当にね。元日本人としては、このフォルムはグッとくるわね。富士山は日本の心よ!」
「エルメ様に喜んで貰えて良かったです。私もドーブルに向かう途中で見つけて以来、いつかエルメ様にお見せしたいと思っていたんですよ。でも、なかなか皇都にいるエルメ様にお見せする機会がなくて・・・ でも、今回この別荘にいらっしゃると聞いて、飛んできたんです!」
「そうなのね。ありがとう。アリスがいてくれて、本当に良かった」
二人が感動を胸にいい感じの会話を繰り広げる横でマリオンは、「山で感動するとか、分からんな」と呟いた。それを耳ざとく聞いたアリスが反論する。
「もう!元日本人でない方は、黙っててください!だからエルメ様と二人っきりで見たかったのにっ!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
別荘に無事に戻ったエルメは、疲れた身体で湯浴みと着替えを済ませると、ぐったりとベッドに横になっていた。
あの後、アリスは「訪問の目的も達成したので、帰りますね」と風のように町長の元へ帰っていった。皇都の屋敷でなく、気の合う町長の所へ戻るところがアリスらしいとエルメは笑顔で見送った。
結局、あの占いも火事ではないかと警戒していたのは、エルメだけだった。マリオンは東の地域に度々出没しては、悪事を働いていた赤目の女を想定しており、警戒をしていた。
最近になって、“賊が癒やしの乙女を狙っている”という情報を得たため、アリスが滞在しているドーブルに近いこの別荘への滞在を休暇と称して決めたのだ。不測の事態が起こった時に、すぐ対応できるようにと・・
しかし、アリスがエルメを連れ出したことは、想定外だったようで、二人の姿がないことに気付いたマリオンは、珍しく取り乱していたらしい。
今回もマリオンから何も聞かされていなかったエルメは、またマリオンの手の中で踊らされていたのだ。
占いの“水の中”というのだけは、最後まで分からずじまいだったが、それでも無事に切り抜けたことに、エルメは胸を撫で下ろした。
その時、ノックの音と共にマリオンが入ってきた。ベッドの上のエルメを見つけると、彼は目を細める。そしてその横に腰を下ろすと、エルメの手を握り、真剣な表情で話し出した。
「今回は無事だったが、何故彼女だけ逃した?君も一緒に逃げる選択肢はなかったのか?君は帝国の皇太子妃だぞ。その立場を忘れてもらっては困る」
「私なりに考えて出した結論なの。アリス様と二人なら何とかなったかも知れないけど、男の子がいたから、みんなで逃げるという選択肢は消したのよ。それに多少の身の守り方は、小さい頃から叩き込まれていたからね。なんなら、試してみる?」
笑って話すエルメにマリオンは、小さく息を吐くと、エルメの隣に身体を横たえた。お互いに横を向き、見つめ合う瞳には穏やかな笑みを浮かべる顔が映る。
「助けに来てくれて、ありがとう」
「もう礼は言うな。終わった事だ」
マリオンの言葉に「ううん。ちゃんと“ありがとう”って言ってなかったから」と身体を起こすエルメの腕をマリオンは捕らえると、そのまま仕舞い込む。
「無事に取り戻せて、安心したぞ。君の姿がないと気付いた時の私は、落ち着いてなどいられなかったからな」
「フフッ、それ聞いたわ。みんな驚いてたよ」
「仕方がないだろう。私はもう君なしでは、生きていけないと気付いてしまったんだからな」
「それは私も・・」
はにかんだ笑顔を浮かべたエルメは、そう言った唇で彼の唇に軽く触れた。マリオンの愛おしくてたまらないといった表情は、エルメの心に火を付ける。
「いっぱい触れてくれる・・?」
エルメの口から出てきたセリフに一瞬驚きを見せたマリオンは「疲れてるだろう?やめておけ」と彼女を気遣う。それにエルメは「お願い。いまマリオンに触れてほしいの。それにすごく心配させちゃったでしょ?早く貴方を安心させたいの」と潤んだ眼差しを向けた。
「あー、くそっ。私の努力を一瞬で壊すとはな・・」
マリオンはそう呟きを吐くと、指で目の前のふっくらとした唇に触れる。そしてそのまま華奢な身体を壊さぬよう覆い被さると、とろけるような瞳を向ける彼女の耳元で囁いた。
「今日の君は一段とかわいいな。壊れても知らんぞ」
その甘ったるい声にエルメは、ハッとした表情を浮かべた。いい感じのムードに流され、いつもなら絶対に口にしない積極的なセリフを言ったことに気付いたからだ。
「いま私何を言った?ウソ、やだ、恥ずかしい・・」
顔を真っ赤にし、慌ててふためく彼女をマリオンは優しく見下ろす。
「今更、取り消せんぞ」
その言葉通り、時既に遅し。マリオンの愛欲を煽りに煽った結果、彼女の唇から首筋に何度も何度もキスは落とされ、乱暴に剥ぎ取られたドレスは床に投げ捨てるように落とされた。そして顕になった白い肌をマリオンは見下ろし、告げた。
「覚悟しろよ」
エルメは恥ずかしさで、手で顔を覆った。しかし、それもすぐに力強い腕に捕らえられたことは、言うまでもなかった。
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