40 / 74
アフターストーリー
アフターストーリー第14話 じゃじゃ馬再び
しおりを挟む
「誰!?」
立ち上がったエルメの瞳に映るのは、こざっぱりとしたシャツにパンツ姿の男のような格好の女だった。長い髪を後ろで雑にまとめ、深く被った帽子から見える瞳は、赤く不気味に光っている。
(赤い目・・こっちか災いは!)
「どっちが癒やしの乙女?」
エルメの質問には当然答えず、女は楽しくて仕方ない様子で質問する。
(狙いは、アリスか・・・相手は一人。それに女なら、何とかなるかも!?)
エルメは覚悟を決めると、悠然とした貫禄を纏い、女に告げた。
「私が癒やしの乙女です。この子と私の友人は、逃してください。そうしてくれるなら、大人しく付いていきます」
エルメの言葉を聞いたアリスが「エッ・・」と口を開くが、エルメはそんな彼女を抱きしめ、言葉を止める。
「いい?この子を連れて逃げなさい・・反論はなし!私は、子供の頃から多少の武術は叩き込まれてるから、大丈夫よ。だからアリスは、マリオン様にこの事を伝えて。アリスのこと、信じてるから・・出来るわね?」
アリスは当然躊躇するが「・・・分かりました。私、全力で走ります!」と覚悟を決めた声色で頷いた。「よし!いい子。それじゃあ、そんないい子のアリスには、これをあげる」と言い、アリスの手に握らせたのは、一本のナイフだった。「えっ!?エルメ様!?どこからこんなものを!?」と軽くパニクるアリスの頬にそっと触れる。
「何、ゴチャゴチャやってる!!」
「友人との別れの時間もくれないのですか?そんなに急かさなくても・・じゃあね、アリス」
エルメは抱きしめる温もりを離すと、アリスへ微笑みを向けた。そして、アリスに背を向け、女へ向かって歩き出す。その背中を見送るアリスは、エルメから託された任務を全うすべく少年の手を固く握りしめると、走り出した。
徐々に遠くなる足音にエルメはホッと安堵すると、女に質問を投げかける。
「どこへ連れて行くのですか?雇い主は誰なの?」
「行けば分かるわよ」
「貴女ひとりなのですか?大胆な作戦決行の割には、少ないわね」
「私は、一匹狼なのよ。使えないヤツと組んでも、足を引っ張られるだけだからね。一人でも私は強いわよ。今まで、しくじった仕事はないからね」
「へえ、そうなの・・それじゃあ、今日は初めての失敗記念日になるわねっ!!!」
エルメは、言い切ると同時にナイフで女に斬りかかった。ナイフに多少の手応えがあったエルメが女を見ると、シャツの袖が切れている。
(失敗か・・この距離で避けきるなんて、強いって言葉は嘘じゃないみたいね)
「あー、もう何て事してくれるのよ。まさかナイフを隠し持ってるとはねぇ。このシャツ、限定デザインでお気に入りだったのよ。癒やしの乙女ってのは、じゃじゃ馬だったの!?」
不敵な笑みを浮かべる女のセリフに、エルメの胸にマリオンの姿が浮かぶ。
(じゃじゃ馬・・ マリオンにも最初そう言われたわね)
浮かんだ懐かしい思い出にエルメは、フッと笑いを漏らす。そんなエルメの余裕な様子に、女は「何が可笑しい!?自分の状況分かってるの!?」と強がる言葉の裏に焦りを見せた。
「あら、心配してくれるの?十分すぎるくらいに、理解してるわ。貴女が狙ってるのは、癒しの乙女でしょう?生憎、その目的は果たせそうにないわよ。だって、私は癒やしの乙女じゃないもの。だから今日は貴女の失敗記念日になるって、教えてあげたじゃない」
「はっ!?癒やしの乙女じゃない?だって、さっき・・・」
「もう、貴女が素直で助かったわ。本当の癒やしの乙女は、逃げたあの子よ。あー、追いかけても無駄よ。今頃、私の夫が見つけてるだろうからね。貴女も逃げたほうがいいわよ。私の夫を怒らせると、もうそれはそれは怖いから」
「アンタ!一体誰なのよ!!??」
女の発狂にも近い叫び声が辺りに響く。そして、エルメは堂々とした雰囲気を一瞬で纏うと、告げた。
「私?私は、ここガイアール帝国皇太子妃よ!」
風で長い髪をたなびかせ、ナイフを片手に立つエルメの姿は、陽の光を浴びて美しさを増していた。
立ち上がったエルメの瞳に映るのは、こざっぱりとしたシャツにパンツ姿の男のような格好の女だった。長い髪を後ろで雑にまとめ、深く被った帽子から見える瞳は、赤く不気味に光っている。
(赤い目・・こっちか災いは!)
「どっちが癒やしの乙女?」
エルメの質問には当然答えず、女は楽しくて仕方ない様子で質問する。
(狙いは、アリスか・・・相手は一人。それに女なら、何とかなるかも!?)
エルメは覚悟を決めると、悠然とした貫禄を纏い、女に告げた。
「私が癒やしの乙女です。この子と私の友人は、逃してください。そうしてくれるなら、大人しく付いていきます」
エルメの言葉を聞いたアリスが「エッ・・」と口を開くが、エルメはそんな彼女を抱きしめ、言葉を止める。
「いい?この子を連れて逃げなさい・・反論はなし!私は、子供の頃から多少の武術は叩き込まれてるから、大丈夫よ。だからアリスは、マリオン様にこの事を伝えて。アリスのこと、信じてるから・・出来るわね?」
アリスは当然躊躇するが「・・・分かりました。私、全力で走ります!」と覚悟を決めた声色で頷いた。「よし!いい子。それじゃあ、そんないい子のアリスには、これをあげる」と言い、アリスの手に握らせたのは、一本のナイフだった。「えっ!?エルメ様!?どこからこんなものを!?」と軽くパニクるアリスの頬にそっと触れる。
「何、ゴチャゴチャやってる!!」
「友人との別れの時間もくれないのですか?そんなに急かさなくても・・じゃあね、アリス」
エルメは抱きしめる温もりを離すと、アリスへ微笑みを向けた。そして、アリスに背を向け、女へ向かって歩き出す。その背中を見送るアリスは、エルメから託された任務を全うすべく少年の手を固く握りしめると、走り出した。
徐々に遠くなる足音にエルメはホッと安堵すると、女に質問を投げかける。
「どこへ連れて行くのですか?雇い主は誰なの?」
「行けば分かるわよ」
「貴女ひとりなのですか?大胆な作戦決行の割には、少ないわね」
「私は、一匹狼なのよ。使えないヤツと組んでも、足を引っ張られるだけだからね。一人でも私は強いわよ。今まで、しくじった仕事はないからね」
「へえ、そうなの・・それじゃあ、今日は初めての失敗記念日になるわねっ!!!」
エルメは、言い切ると同時にナイフで女に斬りかかった。ナイフに多少の手応えがあったエルメが女を見ると、シャツの袖が切れている。
(失敗か・・この距離で避けきるなんて、強いって言葉は嘘じゃないみたいね)
「あー、もう何て事してくれるのよ。まさかナイフを隠し持ってるとはねぇ。このシャツ、限定デザインでお気に入りだったのよ。癒やしの乙女ってのは、じゃじゃ馬だったの!?」
不敵な笑みを浮かべる女のセリフに、エルメの胸にマリオンの姿が浮かぶ。
(じゃじゃ馬・・ マリオンにも最初そう言われたわね)
浮かんだ懐かしい思い出にエルメは、フッと笑いを漏らす。そんなエルメの余裕な様子に、女は「何が可笑しい!?自分の状況分かってるの!?」と強がる言葉の裏に焦りを見せた。
「あら、心配してくれるの?十分すぎるくらいに、理解してるわ。貴女が狙ってるのは、癒しの乙女でしょう?生憎、その目的は果たせそうにないわよ。だって、私は癒やしの乙女じゃないもの。だから今日は貴女の失敗記念日になるって、教えてあげたじゃない」
「はっ!?癒やしの乙女じゃない?だって、さっき・・・」
「もう、貴女が素直で助かったわ。本当の癒やしの乙女は、逃げたあの子よ。あー、追いかけても無駄よ。今頃、私の夫が見つけてるだろうからね。貴女も逃げたほうがいいわよ。私の夫を怒らせると、もうそれはそれは怖いから」
「アンタ!一体誰なのよ!!??」
女の発狂にも近い叫び声が辺りに響く。そして、エルメは堂々とした雰囲気を一瞬で纏うと、告げた。
「私?私は、ここガイアール帝国皇太子妃よ!」
風で長い髪をたなびかせ、ナイフを片手に立つエルメの姿は、陽の光を浴びて美しさを増していた。
32
お気に入りに追加
2,271
あなたにおすすめの小説

転生令嬢の涙 〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜
矢口愛留
恋愛
【タイトル変えました】
公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。
この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。
小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。
だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。
どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。
それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――?
*異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。
*「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

【完結】人生で一番幸せになる日 ~『災い』だと虐げられた少女は、嫁ぎ先で冷血公爵様から溺愛されて強くなる~
八重
恋愛
【全32話+番外編】
「過去を、後ろを見るのはやめます。今を、そして私を大切に思ってくださっている皆さんのことを思いたい!」
伯爵家の長女シャルロッテ・ヴェーデルは、「生まれると災いをもたらす」と一族で信じられている『金色の目』を持つ少女。生まれたその日から、屋敷には入れてもらえず、父、母、妹にも虐げられて、一人ボロボロの「離れ」で暮らす。
ある日、シャルロッテに『冷血公爵』として知られるエルヴィン・アイヒベルク公爵から、なぜか婚約の申し込みがくる。家族は「災い」であるシャルロッテを追い出すのにちょうどいい口実ができたと、彼女を18歳の誕生日に嫁がせた。
しかし、『冷血公爵』とは裏腹なエルヴィンの優しく愛情深い素顔と婚約の理由を知り、シャルロッテは彼に恩返しするため努力していく。
そして、一族の中で信じられている『金色の目』の話には、実は続きがあって……。
マナーも愛も知らないシャルロッテが「夫のために役に立ちたい!」と努力を重ねて、幸せを掴むお話。
※引き下げにより、書籍版1、2巻の内容を一部改稿して投稿しております


強すぎる力を隠し苦悩していた令嬢に転生したので、その力を使ってやり返します
天宮有
恋愛
私は魔法が使える世界に転生して、伯爵令嬢のシンディ・リーイスになっていた。
その際にシンディの記憶が全て入ってきて、彼女が苦悩していたことを知る。
シンディは強すぎる魔力を持っていて、危険過ぎるからとその力を隠して生きてきた。
その結果、婚約者のオリドスに婚約破棄を言い渡されて、友人のヨハンに迷惑がかかると考えたようだ。
それなら――この強すぎる力で、全て解決すればいいだけだ。
私は今まで酷い扱いをシンディにしてきた元婚約者オリドスにやり返し、ヨハンを守ろうと決意していた。

無事にバッドエンドは回避できたので、これからは自由に楽しく生きていきます。
木山楽斗
恋愛
悪役令嬢ラナトゥーリ・ウェルリグルに転生した私は、無事にゲームのエンディングである魔法学校の卒業式の日を迎えていた。
本来であれば、ラナトゥーリはこの時点で断罪されており、良くて国外追放になっているのだが、私は大人しく生活を送ったおかげでそれを回避することができていた。
しかしながら、思い返してみると私の今までの人生というものは、それ程面白いものではなかったように感じられる。
特に友達も作らず勉強ばかりしてきたこの人生は、悪いとは言えないが少々彩りに欠けているような気がしたのだ。
せっかく掴んだ二度目の人生を、このまま終わらせていいはずはない。
そう思った私は、これからの人生を楽しいものにすることを決意した。
幸いにも、私はそれ程貴族としてのしがらみに縛られている訳でもない。多少のわがままも許してもらえるはずだ。
こうして私は、改めてゲームの世界で新たな人生を送る決意をするのだった。
※一部キャラクターの名前を変更しました。(リウェルド→リベルト)

家族に裏切られて辺境で幸せを掴む?
しゃーりん
恋愛
婚約者を妹に取られる。
そんな小説みたいなことが本当に起こった。
婚約者が姉から妹に代わるだけ?しかし私はそれを許さず、慰謝料を請求した。
婚約破棄と共に跡継ぎでもなくなったから。
仕事だけをさせようと思っていた父に失望し、伯父のいる辺境に行くことにする。
これからは辺境で仕事に生きよう。そう決めて王都を旅立った。
辺境で新たな出会いがあり、付き合い始めたけど?というお話です。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる