〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です

hanakuro

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アフターストーリー

アフターストーリー第10話 元悪役は占い結果に頭がいっぱい

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「東の方角に・・赤だ、赤いものが見えます」

「赤ですか?それは物でしょうか?それとも・・」

エルメの言葉を遮り、占い師は人差し指を唇に当てシーっと黙るよう促す。

「おおお・・赤は渦を巻き、つむじ風を起こす」

(つむじ風・・・“嵐を巻き起こす”とかなら、あー、ヤバイなって思うけど、つむじ風って・・・)

「そして勇敢に立ち向かう刃と、水の中に沈む何かが」

(“立ち向かって、水に沈む”か・・とりあえず、何かトラブルがあるのは間違いなさそうね)

・・・・

ここで部屋に沈黙が流れる。そして後ろで幕が開く気配がした。振り返ると、さっきの受付の女性が立っていた。どうやら終わりのようだ。

(えっと・・終わり?何かアドバイス的なものはないの?言うだけ言って終わり?つむじ風に水に沈むんだよ。溺死?溺死フラグなの!?)

「行くぞ」

いつの間にか立ち上がったマリオンが、座ったままのエルメに声をかける。その声にエルメは突き動かされるように立ち上がり、占い師の元を後にした。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「聞いてるのか?」

「えっ?あっ、うん・・何かしら?」

「だから、せっかく出て来たのだから、店を回るかと聞いている」

「本当!?行く!行きます!ついて行きます!」

エルメの反応にマリオンは「ついて行くって・・・・」とセリフを途中で止め、ため息つくが、すぐに苦笑すると「行くぞ」とエルメの手を取り、歩き出した。

心躍る街でのデートの筈だったが、エルメの頭は先程の占い師の言葉でいっぱいだった。

“東” “赤いもの” 
“つむじ風” “刃” 
“水に沈む”

どう考えても、良い結果だったとは思えない。

(赤、赤・・東の地で火事が起こるとか!?それならつむじ風という言葉も納得だわ!)

「帰るか・・」

ここでエルメの思考はマリオンのこの言葉によって、停止する。気付くと、女の子が好きそうな雑貨屋に来ていた。どうやら、さっきの“ついて行きます”の言葉を忠実に再現したらしく、マリオンに付いて行き、店に入り、店内でもただ彼に付いていたようだった。そんなエルメの様子にマリオンが言ったのが、今のセリフだ。

慌てたエルメが「あっ、ごめんなさい」と口にするが、マリオンは「帰るぞ」とぐぃっと手を取り、強引に店を出る。何も言わずに街を歩く彼の背中から不機嫌なオーラが滲んでいる。エルメはどうやら彼のご機嫌を損ねてしまったことに、内心ため息をつく。そして戻ったら、素直に謝ろうと思った。

城に戻ったエルメは着替えを済ませると、マリオンの部屋を訪れる。恐る恐る扉を開けると、彼はシャツのボタンを留めていた。「あっ、ごめんなさい」と思わず口にするエルメに、「何がだ?」と短く問うと近くの筆机に腰を預けた。

「来い」

両手を広げ、エルメを呼ぶマリオンは、背後の窓から差し込む日差しでシルエットに見える。エルメはその影に吸い寄せられるように身体を預けた。目を閉じ、彼の胸に耳を当てれば、規則正しいリズムを刻む鼓動がエルメの心の乱れを正す。エルメは「今日は、ごめんなさい」と謝罪した。

「君が謝るようなことに、心当たりはないがな」

頭上から降ってくる言葉に「怒ってないの?私がボーッとしてたから、帰ってきたんでしょ?」と返す。するとマリオンは、小さく息を吐き、口を開いた。

「どうせ、君のことだ。あの占いの結果で頭がいっぱいだったのだろう?」

「だって、どう解釈しても良い話じゃなかった。私なりに考えたんだけど、あれは東の地で火事が起こるっていう意味じゃないかと思うの。それならつむじ風という言葉も納得だわ!大規模な火災現場では“火災旋風”という渦が起こることも珍しくないって、前世で聞いたことがあるの。それに・・・想像するだけで恐ろしいけど、もし・・もしもよ、巻き込まれた人が自らの身体の火を消す為に水に飛び込んだら、“水に沈む”というのも理解できるわ」

「“勇敢に立ち向かう刃”は、どこへいった?」

「あっ、それは・・・そうよ!火災の広がりを抑えるため、炎の進行方向にある森なら木を、街なら木造の建物を無くすのは、効果的な対策なの。だから木を倒す斧とかそんな意味じゃない?そうよ・・そう考えると、ピッタリしっくりくるわ」

「なかなか面白い見解だな」

マリオンの言葉にエルメは顔を上げ「本当!?」と言う。見上げると、翡翠色の瞳がエルメの瞳に映る。そして、その目が僅かに細くなると「推理ごっこはここまでだ」と言葉が降ってきた。

「でも・・マリオンは、心配じゃないの?」

「私は占い如きを素直に信じていい立場ではないからな」

「でもあの占い良く当たるって」

「最後まで聞け。だが、私は愛する妻の心配する声を無視し、その心の憂いを取り除けない男ではないぞ。私を信じろ。私のことだけ見ていればいい。災いなど、私が跳ね除けてやる」

マリオンの言葉に見上げるエルメの瞳は、揺れる。そして、彼女の口から「分かった」と答えが出る。それにマリオンは安堵の表情を浮かべると、横に置いてある包みを手に取り、差し出した。素直に受け取るエルメに、マリオンは「開けてみろ」と言った。

包みを開けると、中から出てきたのはウサギの置き物だった。陶器で出来たそれは、目に赤い石がはめ込まれている。そしてそれを見たエルメの口から「赤・・」という呟きが出た。

「そうやって赤いものを見るたびに、放心するのか?信じろと、言っただろう。それとも、そんなに私は頼りないか?」

マリオンの言葉に、慌てて首を横に振るエルメ。そして、安心させるように笑顔を浮かべると「ありがとう」と礼を言った。マリオンも穏やかな笑みを浮かべ、頷きを返す。

「これ、さっきのお店で買ったの?」

「ああ、そうだ。君は、本当にただ私に付いていただけなんだな・・・叔父上からの結婚祝いは返してしまったからな。その代わりだ」

兎獣のことをマリオンが気にしていてくれたことに、エルメの胸は熱くなる。そして、いつもの太陽のような笑顔を向け言った。

「ありがとう!大事にするね!」

しかし、その日の夕食で皿に乗ったトマトを見たエルメの口から「赤」という呟きが聞こえたことは、言うまでもなかった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


アフターストーリー折返しです。
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