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アフターストーリー
アフターストーリー第9話 お忍びデート
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「ほら、どお?やっぱり何を付けても似合う!」
「私は、こんなもの付けんぞ」
「えー!せっかく用意したんだから・・」
お忍び風コーディネートで身を固めた二人は、いまエルメの手にしたファッションアイテムを付けるかどうかで揉めている。
マリオンは迷惑そうに「エルメ・・私で遊んでるだろう?」と言って、エルメの手を取ると、その手に付け髭が握られていた。エルメがマリオンの端正な顔に付けようとしているものだ。
「違うわ。皇太子だって街でバレたら、女の子の視線集めちゃうでしょ?それが嫌だから、マリオンの変装に全面協力してるのよ」
エルメの可愛らしい嫉妬にマリオンは目を細めるが、それとこれとは別問題だ。
「そんな物を付けても変わらんぞ。とにかく却下だ。どうしても付けろと言うなら、外出は取りやめる」
マリオンの宣言に「えー!」と不満を漏らすエルメだったが、「分かった・・今日は諦める」と言うと、如何にも渋々といった雰囲気を撒き散らしながら、髭を引き出しにしまう。そんな彼女に「エルメ・・“今日は”ではない。言っとくが、あんな物一生付けんからな」と釘を刺すのをマリオンは忘れなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
エルメは、マリオンと占い師のもとへ向かっていた。人々が行き交う活気ある街をマリオンの腕にがっちりホールドされて歩く彼女は、上機嫌だ。
「離れるんじゃないぞ」
「はーい。フフッ・・」
「何が可笑しいんだ?」
「みんなの前でこんなに堂々と腕を組めるなんて、最高だなぁと思ったの。城ではこんな風に歩けないでしょう?」
「君、忘れてないか?護衛たちの存在。あれも君の言う“みんな”ではないのか?」
「忘れてないわ。でも今の彼らは、ただの街の人。モブよ。モブ。だから、いいの」
二人の周囲には、護衛がちゃんといた。皆、庶民の出で立ちをし、街に溶け込んでいる。これも『くれぐれも私たちの邪魔はしないでね!』というエルメの圧に対する配慮だった。
「それにしても、バレないものね。絶対にあの髭が必要だと思ったのに・・」
エルメは気付いていないが、二人は隠しきれない皇族オーラを周囲に放っていた。生まれ持った雰囲気は、どうしようもない。案の定、並んで歩く二人は周囲の目をひいた。中には皇太子夫妻だと気付く者もいたが、皆笑顔で見守った。新婚カップルの邪魔をするなんて、無粋な真似をする者はいない。
「だから言っただろう。それにあんな物付けていたら、逆効果だ」
「せっかく手に入れたのに、残念」
この時のエルメは、あのアイテムがこのままお蔵入りすると思っていたが、意外にもアレがいずれ皇帝ダリオンのお気に入りになるのだが、それはまた別のお話である。
そうして、二人が辿り着いたのは、噂の占い師がいるテントだ。外には長い行列ができており、一目でここが目的地だと分かった。「あんなに待っているのか」と長い列を見たマリオンは絶句する。それにエルメは、「本当に当たるから、何時間待ってでも見てほしいのよ。それに色んな国をまわっているから、次はいつ来るから分からないでしょう?」と教えた。
そして、エルメは予約した旨を入り口に立つ受付の女性に告げると、中へ案内された。中は広く、手前と奥は幕で仕切られていた。そのまま女性が開いた幕の中へと足を進めると、正面に中年の女性が座っていた。
(めっちゃベタ。この衣装・・“占い師です”って、看板背負ってるようなもんじゃない)
これは女性を見たエルメの感想だ。漆黒の長い髪に同じく漆黒の瞳を持つ彼女は、紫のローブを着ている。
占い師は机を挟んだ椅子へ腰掛けるよう促し、エルメたちは言われるまま座る。目の前の机には、キラキラと光を放つガラスのツボがあり、中にいくつもの乳白色の石が入っている。そしてその石には、赤や青など様々な色で文字が書かれている。見たことのない文字は、石ひとつに一文字だ。きっとそれぞれ意味を持つのだろう。
(水晶玉とかタロットじゃないんだ。そこはベタじゃなかった・・)
エルメがそんなことを考えていると、占い師は「さて・・私の占いは、あなた達が見てほしいものを見るのではありません。私に見えたもの正直にお伝えするものです」と口を開いた。
「ですので、将来の伴侶を知りたい、子供は何人できるか知りたい、いつ自分は最期を迎えるのか知りたいなどのご希望は受けられません。宜しいですね?」
占い師の言葉にマリオンは静かに頷き、エルメは「はい」と答えた。そして、占い師はニコリと微笑むと、机に置かれたガラスのツボを目の前に移動した。
「それでは、始めます」
占い師は始まりの言葉を自ら口にすると、ツボの中の石を取り出す。そして、両手いっぱいの石を空中に投げた。
「!!!」
占い師の突然の行動に声こそ上げないものの、驚くエルメ。そして、重力に逆らうはずもない宙に舞った石は音をたて机の上に落ちた。
「出ました」
(えっ!?もう終わり?何かそれっぽい呪文みたいなやつとかないの?)
落ちた石をさらっと見た占い師はそう言い、マリオンを一瞥すると、次にエルメをジーッと見つめる。そしてその視線を外さぬまま、言葉を続けた。
「私は、こんなもの付けんぞ」
「えー!せっかく用意したんだから・・」
お忍び風コーディネートで身を固めた二人は、いまエルメの手にしたファッションアイテムを付けるかどうかで揉めている。
マリオンは迷惑そうに「エルメ・・私で遊んでるだろう?」と言って、エルメの手を取ると、その手に付け髭が握られていた。エルメがマリオンの端正な顔に付けようとしているものだ。
「違うわ。皇太子だって街でバレたら、女の子の視線集めちゃうでしょ?それが嫌だから、マリオンの変装に全面協力してるのよ」
エルメの可愛らしい嫉妬にマリオンは目を細めるが、それとこれとは別問題だ。
「そんな物を付けても変わらんぞ。とにかく却下だ。どうしても付けろと言うなら、外出は取りやめる」
マリオンの宣言に「えー!」と不満を漏らすエルメだったが、「分かった・・今日は諦める」と言うと、如何にも渋々といった雰囲気を撒き散らしながら、髭を引き出しにしまう。そんな彼女に「エルメ・・“今日は”ではない。言っとくが、あんな物一生付けんからな」と釘を刺すのをマリオンは忘れなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
エルメは、マリオンと占い師のもとへ向かっていた。人々が行き交う活気ある街をマリオンの腕にがっちりホールドされて歩く彼女は、上機嫌だ。
「離れるんじゃないぞ」
「はーい。フフッ・・」
「何が可笑しいんだ?」
「みんなの前でこんなに堂々と腕を組めるなんて、最高だなぁと思ったの。城ではこんな風に歩けないでしょう?」
「君、忘れてないか?護衛たちの存在。あれも君の言う“みんな”ではないのか?」
「忘れてないわ。でも今の彼らは、ただの街の人。モブよ。モブ。だから、いいの」
二人の周囲には、護衛がちゃんといた。皆、庶民の出で立ちをし、街に溶け込んでいる。これも『くれぐれも私たちの邪魔はしないでね!』というエルメの圧に対する配慮だった。
「それにしても、バレないものね。絶対にあの髭が必要だと思ったのに・・」
エルメは気付いていないが、二人は隠しきれない皇族オーラを周囲に放っていた。生まれ持った雰囲気は、どうしようもない。案の定、並んで歩く二人は周囲の目をひいた。中には皇太子夫妻だと気付く者もいたが、皆笑顔で見守った。新婚カップルの邪魔をするなんて、無粋な真似をする者はいない。
「だから言っただろう。それにあんな物付けていたら、逆効果だ」
「せっかく手に入れたのに、残念」
この時のエルメは、あのアイテムがこのままお蔵入りすると思っていたが、意外にもアレがいずれ皇帝ダリオンのお気に入りになるのだが、それはまた別のお話である。
そうして、二人が辿り着いたのは、噂の占い師がいるテントだ。外には長い行列ができており、一目でここが目的地だと分かった。「あんなに待っているのか」と長い列を見たマリオンは絶句する。それにエルメは、「本当に当たるから、何時間待ってでも見てほしいのよ。それに色んな国をまわっているから、次はいつ来るから分からないでしょう?」と教えた。
そして、エルメは予約した旨を入り口に立つ受付の女性に告げると、中へ案内された。中は広く、手前と奥は幕で仕切られていた。そのまま女性が開いた幕の中へと足を進めると、正面に中年の女性が座っていた。
(めっちゃベタ。この衣装・・“占い師です”って、看板背負ってるようなもんじゃない)
これは女性を見たエルメの感想だ。漆黒の長い髪に同じく漆黒の瞳を持つ彼女は、紫のローブを着ている。
占い師は机を挟んだ椅子へ腰掛けるよう促し、エルメたちは言われるまま座る。目の前の机には、キラキラと光を放つガラスのツボがあり、中にいくつもの乳白色の石が入っている。そしてその石には、赤や青など様々な色で文字が書かれている。見たことのない文字は、石ひとつに一文字だ。きっとそれぞれ意味を持つのだろう。
(水晶玉とかタロットじゃないんだ。そこはベタじゃなかった・・)
エルメがそんなことを考えていると、占い師は「さて・・私の占いは、あなた達が見てほしいものを見るのではありません。私に見えたもの正直にお伝えするものです」と口を開いた。
「ですので、将来の伴侶を知りたい、子供は何人できるか知りたい、いつ自分は最期を迎えるのか知りたいなどのご希望は受けられません。宜しいですね?」
占い師の言葉にマリオンは静かに頷き、エルメは「はい」と答えた。そして、占い師はニコリと微笑むと、机に置かれたガラスのツボを目の前に移動した。
「それでは、始めます」
占い師は始まりの言葉を自ら口にすると、ツボの中の石を取り出す。そして、両手いっぱいの石を空中に投げた。
「!!!」
占い師の突然の行動に声こそ上げないものの、驚くエルメ。そして、重力に逆らうはずもない宙に舞った石は音をたて机の上に落ちた。
「出ました」
(えっ!?もう終わり?何かそれっぽい呪文みたいなやつとかないの?)
落ちた石をさらっと見た占い師はそう言い、マリオンを一瞥すると、次にエルメをジーッと見つめる。そしてその視線を外さぬまま、言葉を続けた。
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