〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です

hanakuro

文字の大きさ
上 下
31 / 74
アフターストーリー

アフターストーリー第5話 皇弟バロン

しおりを挟む
「叔父上・・・」

マリオンが眉間に手を当て、悩ましげにしている。そして、そんな彼とは対象的に瞳をキラキラさせたエルメがニコニコと満面の笑みを浮かべていた。

「何故、喜ばんのだ?せっかく祝いに持ってきてやったのだ」

「だからいらないと、申し上げたはずですが・・」

「人の好意を無駄にするでない。触ってみろ。お前も触れば、気が変わる」

マリオンとこんな会話を繰り広げているのは、バロンだ。バロンは皇帝であるダリオンの弟だが、前皇帝の遅くできた子であった為、年齢はダリオンよりマリオンの方が近い。その為、マリオンとの関係は兄弟のようだった。

エルメは結婚式の時に少し話した程度で、彼のことをよく知らなかった。見た目はどちらかと言うと、兄のダリオンより甥のマリオンの方が似ている。マリオンもバロンも前皇帝に似ているのだろう。そして、その口ぶりもそっくりだった。

(好意のごり押し・・ここにも俺様がいた・・この会話に巻き込まれたら、超絶面倒くさそうだわぁ)

そしてエルメは静かに後ずさり、足元の小さな影を抱き上げた。ソファーに腰を落ち着け、その小さな影を優しく撫でる。

(はうぅぅぅ・・ちょ~気持ちいい。最高ぉぉ)

そして、至福の時を堪能しているエルメの耳に「とにかく試してみろ。五日間のお試しだ」とバロンの声が届き、見ると既に彼の姿はなかった。

「全く・・叔父上は、何故こうも強引なのだ」

マリオンが文句を口にしながら、エルメの横に座る。

「強引なのは、お互いさまでしょ?」

「何を言う!?叔父上ほど、私は強引ではない!」

マリオンのセリフに僅かに目を見開き「あっ、一応、強引だって自覚はあるんだ」と茶化すエルメは、膝の上の塊を相変わらず撫でている。

「いい加減、下ろせ」

「えー、気持ちいいよ。マリオンも触ってみなよ」

エルメの誘いをマリオンは「いらん」という一言で断る。その目には、面倒くさそうな感情を隠すことなく見せている。

「大体、聖獣などに全く魅力を感じぬ」

そう!マリオンの言葉の通りいまエルメの膝の上で癒やしを与えているのは、聖獣だ。丸いその茶色い塊は、目を閉じ、耳を倒し、まさにモフモフの毛玉と化している。

「それに癒やし?そんなものは君だけで十分だ。そして気持ちいいのも、君の肌だけで十分だ」

マリオンの甘々な発言に「もう、またそんなこと言って、この子の前だよ」と頬を染める。それにマリオンは「聖獣に言葉など分かるか」と返すと、強引に毛玉を下ろし、慣れた手つきでエルメを膝に乗せた。

「ヤツがいては、こう出来ないではないか」

そう言って、エルメの腰に回す手にグッと力を入れ、赤く染まった頬を愛おしそうに手で包むと、唇を重ねた。それはやがて欲情の赴くまま、深く長くなる。そして、そのままソファーに彼女の身体を横たえようとしたその時、毛玉がエルメの膝の上に軽々とジャンプし、二人の邪魔をした。絶妙なタイミングだ。

「あー、くそっ・・・邪魔だ、どけ」

「ちょっとそんな言い方、ダメだよ」

氷点下の眼差しを聖獣相手に送り「どうせ言葉など分からん」と吐き捨てるマリオンは、エルメの咎めるような視線にハァ~と大げさなため息をつくと、言った。

「だから嫌だと言ったんだ。君との時間を、邪魔されたくないからな・・・よし!明日、返しに行くぞ・・・・あー、いや!今から行くぞ」

マリオンの言葉にエルメは当然抗議の声を上げる。

「えー!嫌だぁ!せっかくバロン様が結婚祝いにって、贈ってくれたのに」

エルメのお願いにも「ダメだ」と一刀両断するマリオン。こうなると何を言っても無駄なことを、エルメは分かっていた。もしこの場で上手く丸め込んでも、結局最後はマリオンの思い通りの結果におさまるのだ。なので、エルメは無駄な抵抗はやめ、ささやかな願いを口にする。

「それじゃあ、今日一日だけ、この子と一緒に居させて?返すのは明日!」

それに何か言おうと口を開いたマリオンだったが、閉じると小さく息を吐き、言った。

「分かった。明日まで待ってやる」

「本当!?ありがとう!!もう・・だからマリオンのこと大好きっ!!」

エルメは太陽のような笑顔を向け感謝の言葉を口にすると、膝の上の毛玉に視線を落とし「良かったね。一日だけど、一緒に居られるね。毛玉ちゃん」と優しく語りかけた。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

転生令嬢の涙 〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜

矢口愛留
恋愛
【タイトル変えました】 公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。 この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。 小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。 だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。 どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。 それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――? *異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。 *「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

【完結】人生で一番幸せになる日 ~『災い』だと虐げられた少女は、嫁ぎ先で冷血公爵様から溺愛されて強くなる~

八重
恋愛
【全32話+番外編】 「過去を、後ろを見るのはやめます。今を、そして私を大切に思ってくださっている皆さんのことを思いたい!」  伯爵家の長女シャルロッテ・ヴェーデルは、「生まれると災いをもたらす」と一族で信じられている『金色の目』を持つ少女。生まれたその日から、屋敷には入れてもらえず、父、母、妹にも虐げられて、一人ボロボロの「離れ」で暮らす。  ある日、シャルロッテに『冷血公爵』として知られるエルヴィン・アイヒベルク公爵から、なぜか婚約の申し込みがくる。家族は「災い」であるシャルロッテを追い出すのにちょうどいい口実ができたと、彼女を18歳の誕生日に嫁がせた。  しかし、『冷血公爵』とは裏腹なエルヴィンの優しく愛情深い素顔と婚約の理由を知り、シャルロッテは彼に恩返しするため努力していく。  そして、一族の中で信じられている『金色の目』の話には、実は続きがあって……。  マナーも愛も知らないシャルロッテが「夫のために役に立ちたい!」と努力を重ねて、幸せを掴むお話。 ※引き下げにより、書籍版1、2巻の内容を一部改稿して投稿しております

悪役令嬢に仕立て上げられたので領地に引きこもります(長編版)

下菊みこと
恋愛
ギフトを駆使して領地経営! 小説家になろう様でも投稿しています。

強すぎる力を隠し苦悩していた令嬢に転生したので、その力を使ってやり返します

天宮有
恋愛
 私は魔法が使える世界に転生して、伯爵令嬢のシンディ・リーイスになっていた。  その際にシンディの記憶が全て入ってきて、彼女が苦悩していたことを知る。  シンディは強すぎる魔力を持っていて、危険過ぎるからとその力を隠して生きてきた。  その結果、婚約者のオリドスに婚約破棄を言い渡されて、友人のヨハンに迷惑がかかると考えたようだ。  それなら――この強すぎる力で、全て解決すればいいだけだ。  私は今まで酷い扱いをシンディにしてきた元婚約者オリドスにやり返し、ヨハンを守ろうと決意していた。

無事にバッドエンドは回避できたので、これからは自由に楽しく生きていきます。

木山楽斗
恋愛
悪役令嬢ラナトゥーリ・ウェルリグルに転生した私は、無事にゲームのエンディングである魔法学校の卒業式の日を迎えていた。 本来であれば、ラナトゥーリはこの時点で断罪されており、良くて国外追放になっているのだが、私は大人しく生活を送ったおかげでそれを回避することができていた。 しかしながら、思い返してみると私の今までの人生というものは、それ程面白いものではなかったように感じられる。 特に友達も作らず勉強ばかりしてきたこの人生は、悪いとは言えないが少々彩りに欠けているような気がしたのだ。 せっかく掴んだ二度目の人生を、このまま終わらせていいはずはない。 そう思った私は、これからの人生を楽しいものにすることを決意した。 幸いにも、私はそれ程貴族としてのしがらみに縛られている訳でもない。多少のわがままも許してもらえるはずだ。 こうして私は、改めてゲームの世界で新たな人生を送る決意をするのだった。 ※一部キャラクターの名前を変更しました。(リウェルド→リベルト)

家族に裏切られて辺境で幸せを掴む?

しゃーりん
恋愛
婚約者を妹に取られる。 そんな小説みたいなことが本当に起こった。 婚約者が姉から妹に代わるだけ?しかし私はそれを許さず、慰謝料を請求した。 婚約破棄と共に跡継ぎでもなくなったから。 仕事だけをさせようと思っていた父に失望し、伯父のいる辺境に行くことにする。 これからは辺境で仕事に生きよう。そう決めて王都を旅立った。 辺境で新たな出会いがあり、付き合い始めたけど?というお話です。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

処理中です...