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アフターストーリー
アフターストーリー第1話 懐かしい思い出
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「あっ・・」
「どうした?」
「机の下にブローチ落としたちゃった」
「何で外したんだ・・・どこだ?」
エルメの言葉にやれやれといった様子で、大きな身体を筆机の下へ潜り込ませるマリオン。そして、その背中を見守るエルメの耳に彼の「これは何だ?」という声が届く。「どうしたの?」と声をかけるエルメに、立ち上がったマリオンが一枚の紙を見せる。めちゃくちゃ見覚えのある紙に、エルメは「あったぁ。どこにいったのかと探してたの」と無邪気に喜んだ。
マリオンの見つけた一枚の紙。それはエルメが前世を思い出した頃、マリオンと交わした賭けの約束を守るよう書き記したものだ。皇太子であるマリオンに約束を反故にされないよう、エルメが書かせたのだ。
「引き出しの裏にご丁寧に貼ってあったぞ」
「あー、そうそう!失なくさないように誰にも見られない所に貼ったんだ」
「それを忘れてたのか?」
「うん」と頷くエルメに呆れるマリオンは「全く・・」と言って、ソファーへ腰を下ろす。
「へへっ・・・でも本当に懐かしい・・」
エルメが見つかった紙を手に懐かしさを噛み締めていると、マリオンが「・・・ん」と腕を広げて、エルメが飛び込んで来るのを待っている。
「来い・・」
その言葉にエルメは幸せあふれる笑顔を浮かべ、その腕に飛び込んだ。逞(たくま)しい腕がエルメの細い身体を受け止める。
「ギュってして」
腕の中でエルメがお願いする。
「してるだろ?」
「違うの。もっとギュってしてほしいの」
マリオンは目を細めると、エルメの要望通りその華奢な身体を壊さぬように、力強く抱きしめた。
「フフッ」
マリオンの腕の中でエルメが笑いを漏らす。
「何が可笑しいんだ?」
「だってこの賭けを受けたときは、マリオンとこんなことするなんて思わなかったもの。本当に離婚して気楽な庶民ライフを目指してたし、このままいけば絶対追放されるんだって思ってたのよ」
「そうだったな・・どれっ・・」
「キャッ」
軽々とエルメの身体を持ち上げたマリオンは、エルメをクルッと回すと、再び膝に乗せて後ろから抱きしめる。
「見せてみろ」
マリオンの要求に「えっ?あっ、これね」を紙を見せる。エルメの紙を持つ手に重なる彼の手は大きく、温かい。そして、二人が見つめるそれには“ガイアール帝国皇太子マリオンが癒やしの乙女に心奪われた暁には、その妻エルメと離婚し、自由の身とする。そして生涯不自由しないだけの金銭を彼女に送る”と書いてあり、マリオンのサインもある。
「よく見たら、この書類は不備だらけだな」
「えっ!?どこが?」
「君への報酬は書いてあっても、私への報酬は一文字もないだろ」
「だってこれは、私への約束をマリオンに反故にされないための保険だから」
「覚えてるか?」
「えっと、ガイアール帝国皇太子マリオンが癒やしの乙女に心奪われなかった暁には、その妻エルメは大人しく彼のものとなる・・ひゃぁ」
エルメが変な声を上げたのは、マリオンが彼女の耳の後ろに不意打ちのキスをしたからだ。「くすぐったい・・」とエルメが顔を後ろへ向けると、顎を押さえられマリオンの翡翠色の瞳が近付く。そしてお互いの唇が近付き触れる時、エルメの口から吐息ではない声が漏れた。
「あっ・・いやぁ、痛っ」
「どうした?」
マリオンの問いにエルメは「首つったの」と涙目で答え、首をさすっている。後ろを振り向いた為、首をひねったようだ。マリオンが「ここか?」とエルメの手に自分の手を滑り込ませる。
「やっ、くすぐったい」
「こら動くな」
「えー、だってぇ」
「痛いんだろ?大人しくしておけ」
「・・・ごめんね」
「それは何の謝罪だ?私には心当たりがないが」
「だって、キスできなかったから」
そんなエルメの言葉に答えず、マリオンは首をさする。その手は心地いいが、エルメは背中がゾワゾワしてきた。自然と肩に力が入り、背中が反る。そんなエルメの耳元でマリオンの色香漂う囁きが聞こえる。
「どうだ?」
マリオンの声に「・・・多分もう大丈夫。ありがとう」と返したエルメは前を向くと、俯き加減に大人しく膝に座っている。その頬は赤く染まり、表情からは幸せが溢れ出している。部屋に静かな時間が流れ、開いた窓から木々のざわめきが聞こえる。そしてその静寂を破ったのは、マリオンの笑いを堪える声だ。
「クックックッ・・・」
突然の脈略のない笑いにエルメが、後ろを振り向き「何で笑ってるの?」と尋ねる。それにマリオンは振り向く彼女の顔を前へ向け、言った。
「また痛めるぞ。前を向いておけ」
素直に前を向いたエルメは「ねえ、何が可笑しいの?」と、尋ねる。
「私の姫が待ち切れない様子でな・・何でソワソワしてるんだ?」
「・・・マリオン、キスしてくれるかなぁと思って」
「そんなに私の口づけが欲しいのか?」
「うん・・・だって、大好きだもん」
エルメの答えにマリオンは目の前の肩に顔を埋め「あー、君って人は」と呟く。そして膝の上の華奢な身体を優しく持ち上げ、横を向けた。いきなり持ち上げられたエルメは驚くが、その驚きはすぐ緩んだ頬と三日月の瞳に変わる。
エルメがよく見えるようになったマリオンの顔を見上げ、瞳を閉じると、すぐにそのふっくらとした唇に温もりが降ってきた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
エルメが隠していた書類。
本編第3話ラストのエルメのセリフに出てきたヤツです。
「どうした?」
「机の下にブローチ落としたちゃった」
「何で外したんだ・・・どこだ?」
エルメの言葉にやれやれといった様子で、大きな身体を筆机の下へ潜り込ませるマリオン。そして、その背中を見守るエルメの耳に彼の「これは何だ?」という声が届く。「どうしたの?」と声をかけるエルメに、立ち上がったマリオンが一枚の紙を見せる。めちゃくちゃ見覚えのある紙に、エルメは「あったぁ。どこにいったのかと探してたの」と無邪気に喜んだ。
マリオンの見つけた一枚の紙。それはエルメが前世を思い出した頃、マリオンと交わした賭けの約束を守るよう書き記したものだ。皇太子であるマリオンに約束を反故にされないよう、エルメが書かせたのだ。
「引き出しの裏にご丁寧に貼ってあったぞ」
「あー、そうそう!失なくさないように誰にも見られない所に貼ったんだ」
「それを忘れてたのか?」
「うん」と頷くエルメに呆れるマリオンは「全く・・」と言って、ソファーへ腰を下ろす。
「へへっ・・・でも本当に懐かしい・・」
エルメが見つかった紙を手に懐かしさを噛み締めていると、マリオンが「・・・ん」と腕を広げて、エルメが飛び込んで来るのを待っている。
「来い・・」
その言葉にエルメは幸せあふれる笑顔を浮かべ、その腕に飛び込んだ。逞(たくま)しい腕がエルメの細い身体を受け止める。
「ギュってして」
腕の中でエルメがお願いする。
「してるだろ?」
「違うの。もっとギュってしてほしいの」
マリオンは目を細めると、エルメの要望通りその華奢な身体を壊さぬように、力強く抱きしめた。
「フフッ」
マリオンの腕の中でエルメが笑いを漏らす。
「何が可笑しいんだ?」
「だってこの賭けを受けたときは、マリオンとこんなことするなんて思わなかったもの。本当に離婚して気楽な庶民ライフを目指してたし、このままいけば絶対追放されるんだって思ってたのよ」
「そうだったな・・どれっ・・」
「キャッ」
軽々とエルメの身体を持ち上げたマリオンは、エルメをクルッと回すと、再び膝に乗せて後ろから抱きしめる。
「見せてみろ」
マリオンの要求に「えっ?あっ、これね」を紙を見せる。エルメの紙を持つ手に重なる彼の手は大きく、温かい。そして、二人が見つめるそれには“ガイアール帝国皇太子マリオンが癒やしの乙女に心奪われた暁には、その妻エルメと離婚し、自由の身とする。そして生涯不自由しないだけの金銭を彼女に送る”と書いてあり、マリオンのサインもある。
「よく見たら、この書類は不備だらけだな」
「えっ!?どこが?」
「君への報酬は書いてあっても、私への報酬は一文字もないだろ」
「だってこれは、私への約束をマリオンに反故にされないための保険だから」
「覚えてるか?」
「えっと、ガイアール帝国皇太子マリオンが癒やしの乙女に心奪われなかった暁には、その妻エルメは大人しく彼のものとなる・・ひゃぁ」
エルメが変な声を上げたのは、マリオンが彼女の耳の後ろに不意打ちのキスをしたからだ。「くすぐったい・・」とエルメが顔を後ろへ向けると、顎を押さえられマリオンの翡翠色の瞳が近付く。そしてお互いの唇が近付き触れる時、エルメの口から吐息ではない声が漏れた。
「あっ・・いやぁ、痛っ」
「どうした?」
マリオンの問いにエルメは「首つったの」と涙目で答え、首をさすっている。後ろを振り向いた為、首をひねったようだ。マリオンが「ここか?」とエルメの手に自分の手を滑り込ませる。
「やっ、くすぐったい」
「こら動くな」
「えー、だってぇ」
「痛いんだろ?大人しくしておけ」
「・・・ごめんね」
「それは何の謝罪だ?私には心当たりがないが」
「だって、キスできなかったから」
そんなエルメの言葉に答えず、マリオンは首をさする。その手は心地いいが、エルメは背中がゾワゾワしてきた。自然と肩に力が入り、背中が反る。そんなエルメの耳元でマリオンの色香漂う囁きが聞こえる。
「どうだ?」
マリオンの声に「・・・多分もう大丈夫。ありがとう」と返したエルメは前を向くと、俯き加減に大人しく膝に座っている。その頬は赤く染まり、表情からは幸せが溢れ出している。部屋に静かな時間が流れ、開いた窓から木々のざわめきが聞こえる。そしてその静寂を破ったのは、マリオンの笑いを堪える声だ。
「クックックッ・・・」
突然の脈略のない笑いにエルメが、後ろを振り向き「何で笑ってるの?」と尋ねる。それにマリオンは振り向く彼女の顔を前へ向け、言った。
「また痛めるぞ。前を向いておけ」
素直に前を向いたエルメは「ねえ、何が可笑しいの?」と、尋ねる。
「私の姫が待ち切れない様子でな・・何でソワソワしてるんだ?」
「・・・マリオン、キスしてくれるかなぁと思って」
「そんなに私の口づけが欲しいのか?」
「うん・・・だって、大好きだもん」
エルメの答えにマリオンは目の前の肩に顔を埋め「あー、君って人は」と呟く。そして膝の上の華奢な身体を優しく持ち上げ、横を向けた。いきなり持ち上げられたエルメは驚くが、その驚きはすぐ緩んだ頬と三日月の瞳に変わる。
エルメがよく見えるようになったマリオンの顔を見上げ、瞳を閉じると、すぐにそのふっくらとした唇に温もりが降ってきた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
エルメが隠していた書類。
本編第3話ラストのエルメのセリフに出てきたヤツです。
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