〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です

hanakuro

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本編

最終話 悪役は俺様皇太子の腕の中

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「何か落ち着くな・・・」

夜明け前のまだ薄暗い部屋に呟く声が聞こえる。声の主はエルメだ。ベッドの中で天井を見上げている彼女の横には、マリオンの姿が・・・

「そんなに私の側が落ち着くようになったのか」

突然、聞こえたセリフに横に視線を向けると、マリオンの目を細めた柔和な顔があった。エルメが「起きてたの?」と言うと、返事のかわりに軽い触れるだけのキスが返ってきた。

「落ち着くってのは、この家よ。庶民だった前世の記憶があるから、きっとこういう小ぢんまりした家に安心するのね」

「そう言えば、伝えてなかったな。この家は君のものだ」

「えっ?城に戻らなくていいの?」

「違う、よく聞け。そうではない。たまにここで息抜きする程度は、許そうと言ってるのだ。エルメのことだ。皇太子妃としての城の生活は、窮屈だろう?それに未来の皇妃として、市井の暮らしを知るのは悪くないし、また夜逃げされても、たまらんからな」

「あー、それは悪いことをしたなと反省してる・・・あれ、でも何でマリオンは昨日ここに居たの?私が抜け出した時は、ベッドで眠ってたよね。それにアーノルド様も・・・」

「夫といるベッドの中で他の男の名を出すな」

「えー、でも気になっちゃって」

「君がこっそり起き上がったのに、気付かないと思ってるのか?どこまでお目出度いんだ。皇族というのは、少しの気配も物音も気付くよう訓練されてるんだ。護衛も信頼しているが、最後に頼れるのは自分だからな」

「なるほど。でもアーノルド様はよく、私の行く先で待ち構えていたわね」

マリオンは「またアイツの名を口にするか」という言葉とは裏腹な手つきでエルメの長い髪を撫でる。そして、言葉を続けた。

「君が逃げることは予想していたからな。毎晩、あの場所で逃げ出す君を待つよう指示を出していた。ちなみに君が考えつきそうな人目につかない逃走ルートは、すぐ分かったぞ」

「そうなんだ」とエルメはそう言うと、目の前の夫には敵わないと改めて思い知った。今までのエルメの画策は潰され、全てマリオンの手の中で泳がされていたのだから・・・

その時、マリオンがフッと笑みをこぼす。エルメが「なに?」と聞くと、マリオンは「いや・・あの夜のことを思い出した」と言った。

「あの夜?」

「ああ、君から強烈な不意打ちをもらった夜だ」

「・・あっ!もうあれは忘れて!」

「忘れろなど無理な相談だな。女に反撃されたのも初めてだったが、それより君が私に言い放ったセリフは傑作だった」

「私、何て言ったの!?あの時は前世を思い出したばかりで、混乱してたし、必死だったから覚えてないのよ」

楽しそうな笑いをこらえ「なんだ、そうなのか」と返すマリオンは、そのセリフを思い出していた。


『・・・誰が諦めるって!?いい男は女に無理強いするもんじゃないわ!とにかく心を落ち着ける時間をちょうだい!以上っ!』


そして、マリオンはエルメの首筋にキスを落とし、髪を撫でる指は肩から下へと滑るように移動する。それにエルメの身体は、ピクッと素直な反応を見せる。彼女の白い肌は、マリオンの愛欲を掻き立てるのに十分だった。

「また無理強いとか言わないよな?」

「それは・・フリ?言ってほしいの?」

「言うのは構わんが、その後は覚悟しておけ」

そう忠告したマリオンは、エルメの身体を再び腕に閉じ込めた。
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