〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です

hanakuro

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本編

第19話 悪役の決意

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(あああああ・・・やってしまったぁぁぁ)

エルメはダリオンに対して、喧嘩を売ってしまったことに頭を抱えていた。頭に血が上っていたとはいえ、皇太子妃として全く相応しい言動ではなかった。

(どうしよう。最果ての地に追放どころか処刑エンドになっちゃうかも・・・いやぁぁぁ、公衆の面前でギロチンだけはいやぁぁぁ・・自分で自分のお墓の穴掘っちゃうとか、どんだけバカなのよ・・・ウウウ・・せめて亡骸は両親の元へ送ってもらおう。それくらいお願いしてもいいよね)

よくよく考えれば、ダリオンの言うとおりマリオンを皇太子に引き止め、アリスに皇太子妃の座を譲れば、ウィンウィンである。マリオンは皇太子のままで、エルメも堂々と離婚し皇族のしがらみから解放される。アリスだけは涙をのんでもらうことになるが、そこはメンタルの強い彼女なら大丈夫だろう。少し前のエルメならそう考え、小躍りしそうな状況なのに、今の彼女は違った。

自分のせいで最悪の事態を引き起こしたことに責任を感じたエルメは、謝罪のためマリオンの元を訪ねようと立ち上がる。その時、扉がノックされ、ちょうどマリオンが訪ねてきた。

扉から姿を見せたマリオンはエルメの姿を見つけると、真っ直ぐに歩み寄り彼女を抱きしめる。そして「すまない」と彼らしくない弱々しい声で謝った。突然の謝罪に「マリオン様」と名を呼びエルメが見上げると、翡翠色の瞳に自分の姿が映る。そして「その言葉は私が言うべきセリフです。私のせいで申し訳ありませんでした」と言った。

「いや、君が謝る必要はない。あの日、君は行き先も知らなかった。全て私の一存だ」

「確かにそうですね。マリオン様はいつも強引なんですよ」

ここでマリオンはフッと笑みをこぼす。エルメが「何が可笑しいんですか?」と尋ねると、彼は「やっといつもの君に戻ったな」と笑った。
その言葉にエルメは自身の変化に気付く。ただそこにいるだけの人形から、本来の自分に戻っていることに・・・

(あの時、陛下が言った彼に対する処分が許せなかった。頭が真っ白になって、気付いたら陛下に暴言を吐いていた。何で?前の私なら、皇太子妃から・・彼から逃げられると大喜びしたはず・・・・・嗚呼、そういうことだ・・・バカね、こうなって初めて気付くなんて・・私は、彼を好きなんだ)

目の前のマリオンというカゴから逃げられなくなったことに消沈していたのに、今は彼の妻で居られなくなってしまうことに、寂しさを感じている。そして、彼と共に生きていく権利が奪われることに怒りを感じている。そんな自分の感情を素直に認めた時、エルメの彼に対する想いは胸いっぱいに広がった。

そして、エルメはすがりつくように目の前にあるマリオンのシャツの胸元をキュッと掴んで、顔を埋めた。そして、そんな子供のようなエルメにマリオンの言葉が降ってきた。

「皇太子は、やめてもいい。未練などない。君と一緒に田舎に引っ込むのも悪くないからな。それに君とは番の契約を結んでるんだ。君は離れられないだろう?」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


エルメは、ひとり自問自答していた。彼の言ったセリフが頭の中をぐるぐると回り、彼女の心を乱す。

『皇太子は、やめてもいい。未練などない』

『それに君とは番の契約を結んでるんだ。君は離れられないだろう?』

(本当にこれでいいの?皇太子として育ってきた彼からその立場を奪っていいの?彼ほど、未来の皇帝として相応しい人はいない。それが分かってるのに、番の契約なんかで縛り付けていいの?)

そして、エルメはその答えを出すために、マリオンの元を訪ねることにした。執務室の前へやって来たエルメは、僅かに開いた扉の隙間からマリオンと宰相の姿を見つけると、二人の会話が耳に届く。

「アリス様は、この国に必要です」

「分かっている。アリス嬢が大切だとな。だからこそ、契約したのだ」

「では、何故迷っておられるのですか?」

「迷う?この私が迷うだと?そんなことはない。とっくに答えは、出ているぞ。彼女をどこにもやるつもりはない。父上も同じ考えだ」

ここでエルメの足は踵を返し、自室へと逃げるように向かった。

(契約・・アリスが大事・・陛下と同じ考え・・嗚呼、そういう事ね。彼は彼女を選んだ。しかも、アリスとも番の契約を結んだ。
彼らしいじゃない。この国を思えば、そう答えを出すと分かっていたでしょ?
誰よりも強くて優しい人。もう私との契約なんかに縛り付けては、ダメだ)

部屋へ戻ったエルメは、乱暴に閉めた扉に背を預けると、瞳から光るものを流す。ポロポロと頬を伝う涙は床を濡らし、やがて静かな部屋に彼女の嗚咽だけが響いた。

どれくらい泣いていたのか・・窓から差し込む光がオレンジに染まる頃、涙を拭ったエルメの瞳に、決意という堅い色が宿っていた。
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