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本編
第11話 悪役の胸の内は皇太子に筒抜け
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一刻ほど馬車に揺られエルメがやって来たのは、湖だった。畔をぐるっと回り馬車が停まると、マリオンは「降りるぞ」と声をかけ、エルメの手を取り馬車を降りた。目の前には、湖越しに青く染まった土地が広がり、その奥には遠くの山々が連なる景色が広がっている。
「似てないか?」
「えっと・・何がでしょう?」
「この景色だ」
マリオンの言葉にエルメは、素晴らしい景色を見ながら頭を働かせる。
(彼がそう聞くってことは、王国の景色よね。こんなに綺麗な所あったかなぁ)
エルメのピンときてない様子にマリオンは、呆れた表情を浮かべ小さなため息をつくと「分からんのか・・・グレース湖だ」と言った。
「グレース湖?・・・・・ああっ・・」
どうやらエルメの脳裏にそのグレース湖の景色が浮かんだようだ。
グレース湖とは、カラマノ王国で有名な観光地だ。湖畔に一面ネモフィラの花が咲き乱れる光景は圧巻だった。そこで採掘される青い石は“ネモフィラブルー”と呼ばれ、それほど高価ではないこともあり、お土産として人気だった。
そしてエルメの瞳の色に似ており、彼女の両親は“エルメの為に神様が贈ってくれた贈り物だね”と言っていた。
「王国では有名なんだろう?ひと目見て分からんとは、全く・・・」
「確かに有名ですが、私は幼い頃に二度ほど行っただけですよ。それで“すぐ思い出せ”は、はっきり言って無理です」
「まあ、いい・・そういう事にしておいてやろう」
(その言い方!くっそぉ・・私がバカみたいじゃない。いちいち腹立つわね)
エルメが内心憤慨していると、マリオンは、景色に目を向けたまま口を開く。
「君の願いは叶えてやれん。結婚早々、例え数日でも妻を祖国に返しては、悪い噂を呼ぶし、それに今は疫病のこともある」
「でも私が言った“帰りたい”とは、こういう意味では・・」
「分かってるぞ。逃げたいのだろう?気付いてないと思ったか?時として、君は感情を表に出しすぎる。それでは、私の妃として務まらんぞ」
マリオンの言葉にエルメは「だから離婚するつもりだって・・・」と、視線を横に向ける。すると、いつの間にかエルメに向けられていたマリオンの瞳と視線が絡まった。そして、エルメと顔を合わせたマリオンは、真っ直ぐに見つめ返すと、言葉を続けた。その声はいつもの有無を言わせぬものより、優しさを含んでいる。
「まあ聞け。務まらんが、それ以上に君は鋼の心臓の持ち主だ」
「鋼って、女性に対してそれ一ミリも褒めてないですからね」
「だろうな。だが私にとっては褒め言葉だ。私に怯むことなく反論し、時に手を出す」
今の言葉に心当たりのないエルメが「手は出してません!」と反論すると、マリオンは少し驚いた表情を見せる。
「忘れたのか?テラスで私の頬をひっぱたいたこと」
その指摘に首を傾げていたエルメが「あっ?あー・・ははははっ・・・・」と思い出した様子を見せ、居心地悪そうに乾いた笑いを浮かべる。
「クックッ・・・まあ、あんなのは私には虫が止まったぐらいのことだったがな」
「それって、褒めてるのか貶してるのかどちらですか」
「だから褒めてるんだ・・・君なら私がこれから皇帝として進む道が間違った時に強引に正すだろう。それは私の横に並び立つ者として、必要な資質だ。進む道が間違いと知りながら、黙って付いてくる女は無用だからな」
「だから私とマリオン様は、離婚するって言ってますよね?貴方と一緒に生きていくのは、癒やしの乙女なんです」
エルメの反論に、マリオンは変わらず揺るぎない自信をみなぎらせ断言する。
「私は、君との賭けに勝つつもりだからな。負けるとは、欠片も思ってないぞ。まあいい・・直に分かることだ」
「そうですね。そう・・もうすぐ分かります・・・」とエルメは同意する。
そして、もうすぐ訪れる小説では最初のターニングポイントである“ヒロイン登場”に胸を高鳴らせた。
はたして、マリオンとアリスは相思相愛になるのか。それとも、マリオンの思惑通りに話が進むのか。小説とは違うマリオンの性格に吹っ掛けられた勝負、そしてアリスが登場するであろう時期の相違に不安を抱えながら、エルメはその時を迎えるのだ。
「でも、ありがとうございます。とてもキレイです」
最後にエルメは、ここへ連れてきてくれた彼なりの心遣いに感謝の意を表した。
「似てないか?」
「えっと・・何がでしょう?」
「この景色だ」
マリオンの言葉にエルメは、素晴らしい景色を見ながら頭を働かせる。
(彼がそう聞くってことは、王国の景色よね。こんなに綺麗な所あったかなぁ)
エルメのピンときてない様子にマリオンは、呆れた表情を浮かべ小さなため息をつくと「分からんのか・・・グレース湖だ」と言った。
「グレース湖?・・・・・ああっ・・」
どうやらエルメの脳裏にそのグレース湖の景色が浮かんだようだ。
グレース湖とは、カラマノ王国で有名な観光地だ。湖畔に一面ネモフィラの花が咲き乱れる光景は圧巻だった。そこで採掘される青い石は“ネモフィラブルー”と呼ばれ、それほど高価ではないこともあり、お土産として人気だった。
そしてエルメの瞳の色に似ており、彼女の両親は“エルメの為に神様が贈ってくれた贈り物だね”と言っていた。
「王国では有名なんだろう?ひと目見て分からんとは、全く・・・」
「確かに有名ですが、私は幼い頃に二度ほど行っただけですよ。それで“すぐ思い出せ”は、はっきり言って無理です」
「まあ、いい・・そういう事にしておいてやろう」
(その言い方!くっそぉ・・私がバカみたいじゃない。いちいち腹立つわね)
エルメが内心憤慨していると、マリオンは、景色に目を向けたまま口を開く。
「君の願いは叶えてやれん。結婚早々、例え数日でも妻を祖国に返しては、悪い噂を呼ぶし、それに今は疫病のこともある」
「でも私が言った“帰りたい”とは、こういう意味では・・」
「分かってるぞ。逃げたいのだろう?気付いてないと思ったか?時として、君は感情を表に出しすぎる。それでは、私の妃として務まらんぞ」
マリオンの言葉にエルメは「だから離婚するつもりだって・・・」と、視線を横に向ける。すると、いつの間にかエルメに向けられていたマリオンの瞳と視線が絡まった。そして、エルメと顔を合わせたマリオンは、真っ直ぐに見つめ返すと、言葉を続けた。その声はいつもの有無を言わせぬものより、優しさを含んでいる。
「まあ聞け。務まらんが、それ以上に君は鋼の心臓の持ち主だ」
「鋼って、女性に対してそれ一ミリも褒めてないですからね」
「だろうな。だが私にとっては褒め言葉だ。私に怯むことなく反論し、時に手を出す」
今の言葉に心当たりのないエルメが「手は出してません!」と反論すると、マリオンは少し驚いた表情を見せる。
「忘れたのか?テラスで私の頬をひっぱたいたこと」
その指摘に首を傾げていたエルメが「あっ?あー・・ははははっ・・・・」と思い出した様子を見せ、居心地悪そうに乾いた笑いを浮かべる。
「クックッ・・・まあ、あんなのは私には虫が止まったぐらいのことだったがな」
「それって、褒めてるのか貶してるのかどちらですか」
「だから褒めてるんだ・・・君なら私がこれから皇帝として進む道が間違った時に強引に正すだろう。それは私の横に並び立つ者として、必要な資質だ。進む道が間違いと知りながら、黙って付いてくる女は無用だからな」
「だから私とマリオン様は、離婚するって言ってますよね?貴方と一緒に生きていくのは、癒やしの乙女なんです」
エルメの反論に、マリオンは変わらず揺るぎない自信をみなぎらせ断言する。
「私は、君との賭けに勝つつもりだからな。負けるとは、欠片も思ってないぞ。まあいい・・直に分かることだ」
「そうですね。そう・・もうすぐ分かります・・・」とエルメは同意する。
そして、もうすぐ訪れる小説では最初のターニングポイントである“ヒロイン登場”に胸を高鳴らせた。
はたして、マリオンとアリスは相思相愛になるのか。それとも、マリオンの思惑通りに話が進むのか。小説とは違うマリオンの性格に吹っ掛けられた勝負、そしてアリスが登場するであろう時期の相違に不安を抱えながら、エルメはその時を迎えるのだ。
「でも、ありがとうございます。とてもキレイです」
最後にエルメは、ここへ連れてきてくれた彼なりの心遣いに感謝の意を表した。
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