〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です

hanakuro

文字の大きさ
上 下
10 / 74
本編

第10話 宿題の答え

しおりを挟む
翌朝、ベッドで目覚めたエルメは、隣にマリオンの姿がない事に気付く。そして、テラスに朝日を浴びる彼の姿があるのを見つけると、ショールを羽織ったエルメの足は自然とテラスへ向いた。

朝の澄んだ空気は身体の隅々まで巡り、心を洗い流すようだった。

「起きたか・・」

エルメに気付いたマリオンが振り向き、彼女はそれに挨拶を返す。

「おはようございます。早いですね」

「ああ・・・昨夜の君の“おはよう”と寝顔が頭から離れなくてな」

彼の言葉で寝ぼけた自分が仕出かした醜態を思い出したエルメは、意図せず頬を染める。そして、彼女の口から出るのは相変わらずの強がりだ。

「また朝から冗談を・・そんな過ぎた事、綺麗サッパリ忘れました。ていうか人の汚点をほじくり返すとかやっちゃ駄目です。あれは私の中でも、ナンバーワン黒歴史ですからね」

エルメの返しにマリオンは笑いを漏らすと「クックッ・・それでこそ君だな・・・」と言った。そう口にしながら彼は瞳を揺らしたのだが、それを一瞬で消すとエルメに尋ねる。

「昨日の答えは出たか?」

「・・答え?答えは・・・・王国に帰ること・・でしょうか」

「数日前に嫁いできたと思ったら、もうホームシックか!?だから言っただろう。私から離れる願いは論外だと」

「違います。ほんの数日でいいんです。両親の顔を見てくるだけ、故郷の景色を見て来るだけです。ちゃんとここへ戻ってきます」

本当はホームシックなんてかわいいものじゃなかった。一人で過ごしていると、“疫病をこの国に振り撒いたのは自分だ”という自責の念にかられ居たたまれない・・・現実から目を背けたいというズルい感情が、彼女にそう答えを出させたのだ。

マリオンはまるでその答えの真意の推し量ろうとしているかのように、エルメに翡翠色の瞳を向けている。エルメの出した答えは彼の望むものではなかったが、いつになく真剣な彼女の様子にマリオンはフッと自嘲気味に笑うと、エルメの頭を軽くポンとした。

「それを早く言え・・」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


マリオンは、疫病対策で忙しく動き回っていた。しかし、いくら医者や魔道士を派遣しても、病の広がりを抑えることは叶わなかった。皇城には、ここでもあそこでも疫病が発生したという知らせが連日届いていた。

エルメは疫病対策が上手くいっていないことに、胸を痛めていた。自分が小説を書いていた時は、ただのストーリーの一部であり、癒やしの乙女を登場させるただのトリガーだった。そしてただの文字だったそのトリガーも、人々を苦しめる国難として自分の目の前に現実として突きつけられると、エルメは自責の念に襲われた。

(やっぱり乙女がいないとダメなんだ。マリオン様たちがどんなに頑張っても、この状況を打開できるのはアリスだけ・・お願いだからアリス、早く出てきて)


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


翌日もマリオンたちは、対策に追われていた。エルメは、ひとり自室で市井に下った後の事を想像している。

(実際、お金は遊んで暮らせるだけくれるって言うし、ぶっちゃけ働かなくてもいいかなぁ。でも、それじゃあ退屈よね。王国に戻っても、出戻り王女なんて肩身狭いし、どこかの街でお店開く?田舎で農家ライフってのも悪くないかもね。なんと言っても、しがらみがないのが一番だし・・前に野菜育てた経験もあるし、余裕でしょ。育てた野菜を使った料理で、おしゃれなカフェとか開くのも悪くないかな・・・・あー、これは駄目ね。私、壊滅的に料理出来ない・・・前に作った目玉焼き・・炭にしちゃったし・・・)

彼女のいう“野菜を育てていた”というのは、前世で小さなベランダでプランター栽培のトマトやナスを育てていた程度だった。畑仕事とは訳が違う。だが、お金には困らない予定のエルメは、日中の暇つぶし、道楽程度に畑仕事を考えていた。農家が聞いたら、イチから説教されそうである。

しかし、これも彼女なりの現実逃避だった。楽しいことを考え、今にも逃げ出したくなる負の感情を忘れるための・・・

そして、そんなエルメに思いもよらない誘いが舞い込む。昼食をとっていると、突然姿を見せたマリオンに「ちょっと来い」と手を引かれ、馬車に乗せられたのだ。強引なやり方に既視感を覚えるエルメ。

「突然、今日はなんですか」

相変わらず彼女の抗議を聞き流し、エルメに行き先も告げずに馬車に乗り込むマリオン。打てど響かずの皇太子に、エルメはわざとブスッと不機嫌な表情を浮かべ、向かいに座っている。

「マリオン様は、疫病対策で忙しいのでは?」

「君が気にすることではない。父上に許可も取ってある」

それから、二人の間には目的地に到着するまで、ガラガラと車輪の音が流れるだけだった。

しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

転生令嬢の涙 〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜

矢口愛留
恋愛
【タイトル変えました】 公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。 この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。 小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。 だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。 どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。 それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――? *異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。 *「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい

矢口愛留
恋愛
【全11話】 学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。 しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。 クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。 スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。 ※一話あたり短めです。 ※ベリーズカフェにも投稿しております。

【完結】人生で一番幸せになる日 ~『災い』だと虐げられた少女は、嫁ぎ先で冷血公爵様から溺愛されて強くなる~

八重
恋愛
【全32話+番外編】 「過去を、後ろを見るのはやめます。今を、そして私を大切に思ってくださっている皆さんのことを思いたい!」  伯爵家の長女シャルロッテ・ヴェーデルは、「生まれると災いをもたらす」と一族で信じられている『金色の目』を持つ少女。生まれたその日から、屋敷には入れてもらえず、父、母、妹にも虐げられて、一人ボロボロの「離れ」で暮らす。  ある日、シャルロッテに『冷血公爵』として知られるエルヴィン・アイヒベルク公爵から、なぜか婚約の申し込みがくる。家族は「災い」であるシャルロッテを追い出すのにちょうどいい口実ができたと、彼女を18歳の誕生日に嫁がせた。  しかし、『冷血公爵』とは裏腹なエルヴィンの優しく愛情深い素顔と婚約の理由を知り、シャルロッテは彼に恩返しするため努力していく。  そして、一族の中で信じられている『金色の目』の話には、実は続きがあって……。  マナーも愛も知らないシャルロッテが「夫のために役に立ちたい!」と努力を重ねて、幸せを掴むお話。 ※引き下げにより、書籍版1、2巻の内容を一部改稿して投稿しております

悪役令嬢に仕立て上げられたので領地に引きこもります(長編版)

下菊みこと
恋愛
ギフトを駆使して領地経営! 小説家になろう様でも投稿しています。

強すぎる力を隠し苦悩していた令嬢に転生したので、その力を使ってやり返します

天宮有
恋愛
 私は魔法が使える世界に転生して、伯爵令嬢のシンディ・リーイスになっていた。  その際にシンディの記憶が全て入ってきて、彼女が苦悩していたことを知る。  シンディは強すぎる魔力を持っていて、危険過ぎるからとその力を隠して生きてきた。  その結果、婚約者のオリドスに婚約破棄を言い渡されて、友人のヨハンに迷惑がかかると考えたようだ。  それなら――この強すぎる力で、全て解決すればいいだけだ。  私は今まで酷い扱いをシンディにしてきた元婚約者オリドスにやり返し、ヨハンを守ろうと決意していた。

無事にバッドエンドは回避できたので、これからは自由に楽しく生きていきます。

木山楽斗
恋愛
悪役令嬢ラナトゥーリ・ウェルリグルに転生した私は、無事にゲームのエンディングである魔法学校の卒業式の日を迎えていた。 本来であれば、ラナトゥーリはこの時点で断罪されており、良くて国外追放になっているのだが、私は大人しく生活を送ったおかげでそれを回避することができていた。 しかしながら、思い返してみると私の今までの人生というものは、それ程面白いものではなかったように感じられる。 特に友達も作らず勉強ばかりしてきたこの人生は、悪いとは言えないが少々彩りに欠けているような気がしたのだ。 せっかく掴んだ二度目の人生を、このまま終わらせていいはずはない。 そう思った私は、これからの人生を楽しいものにすることを決意した。 幸いにも、私はそれ程貴族としてのしがらみに縛られている訳でもない。多少のわがままも許してもらえるはずだ。 こうして私は、改めてゲームの世界で新たな人生を送る決意をするのだった。 ※一部キャラクターの名前を変更しました。(リウェルド→リベルト)

家族に裏切られて辺境で幸せを掴む?

しゃーりん
恋愛
婚約者を妹に取られる。 そんな小説みたいなことが本当に起こった。 婚約者が姉から妹に代わるだけ?しかし私はそれを許さず、慰謝料を請求した。 婚約破棄と共に跡継ぎでもなくなったから。 仕事だけをさせようと思っていた父に失望し、伯父のいる辺境に行くことにする。 これからは辺境で仕事に生きよう。そう決めて王都を旅立った。 辺境で新たな出会いがあり、付き合い始めたけど?というお話です。

処理中です...