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本編
第9話 俺様皇太子の意外な一面2
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彼の優しさに後押しされたエルメは、おずおずと顔を上げると、照れくさそうに言った。
「なんか・・マリオン様が優しすぎて気持ち悪い。いつものマリオン様じゃないです」
向けられた彼女のセリフにマリオンは眉間を押さえると「あのなぁ・・」と悩ましげに呟く。そして「私をなん・・」という彼の文句にエルメは質問を被せた。
「あの、ぬいぐるみは??」
「ぬいぐるみ?あー、あっちだ」
マリオンが指差す先には、棚にぬいぐるみが鎮座している。エルメのホッとした表情を見たマリオンが言う。
「安心しろ。あんな牽制なくても、手を出さん」
「何度もキスしておいて、そんな言葉信じられると思いますか?」
「病上がりに手を出すほど、クズではない。信用しろ」
「クズって・・そこまで言ってません。でもごめんなさい。ありがとうございます」
エルメが前世を思い出してから、初めて二人の間に流れるいい雰囲気に素直な言葉が二人の口から紡がれる。今のエルメの心には、マリオンの言葉もストンと落ちてくる。心地よい雰囲気に、マリオンの表情もどこか柔和に見えた。
「素直だな・・・これが君の本当の姿か?」
囁くように言ったマリオンの問いは、ドアをノックする音にかき消されエルメの耳には届かなかった。どうやら、エルメの食事が運ばれてきたようだ。マリオンはエルメの側から立ち上がると、彼女を見下ろしながらいつもの堂々とした声で言った。
「私に話があるのだろう?聞いてやるから、とにかく腹を満たせ。また腹を鳴らされては堪らんからな」
いつもの憎まれ口に戻ったマリオンに、エルメの胸がチクリと痛むが、それに気付かないフリをした彼女もまたいつもの調子で返した。
「もう私が食いしん坊みたいに言わないでください。こっちは、昼食も食べてないんですからね!」
エルメの返しにマリオンはフッと笑いをこぼすと「・・すっかり元に戻ったようだな。食事が終わったら呼べ」と言葉を残して、隣室へと姿を消した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
食事を終えたエルメとマリオンはソファーで向かい合っている。エルメは真剣な眼差しで、自分が気を失った理由を話していた。
エルメによると、各地で発生した疫病は瞬く間に帝国全土に広がり、人々を苦しめる。マリオンたちは出来得る限りの策を弄するが、病の広がりを抑えることができずにいた。しかし、そんな国のピンチに突如として現れたのが、癒やしの乙女アリスだった。癒やしの乙女と言われているだけあって、アリスは自分の持つ癒やしの力を使い、疫病の広がりを抑え、さらに病に苦しむ多くの者たちを救っていく。そして再び平和が訪れた帝国では、アリスは神として崇拝されるようになる。まるで聖女のような見目に、魅力的な癒やしの力は、人々を虜にした。そしてそれはマリオンも例外ではなかった。
「なるほどな。だが今の説明には、君が倒れるほどの理由はないようだが・・寧ろ、話通りに進んでいるんだ。喜ぶところだろ?」
エルメの話を聞いていたマリオンが問うと、彼女は大きく頷き言葉を続ける。
「話は、まだ終わってません。おっしゃる通り、これは小説通りの流れです。ただ、早すぎるのです」
「早すぎる?・・・ああ、なるほどそういうことか」
「はい、気付いたようですね。小説で疫病が流行りだすのが、およそ十ヶ月後。そして乙女の出現は一年後です。なのに、現実はもう病が流行りだしました。これだと乙女が姿を見せるのは、おそらく二ヶ月後です。あまりにも早いので、驚いてしまいました」
「確かに君の言うとおり、早すぎるな。誤差では済まされんぞ」
「その通りです」
そして、ここでマリオンの顔に笑みが浮かぶ。何が彼を喜ばせているのか不思議なエルメは、その表情をジッと見つめる。
「だが、私としてはこの問題がとっとと片付くのだから、歓迎すべき誤差だがな。君も私との決着をつけて、早く市井に下りたいのだろう?」
「ええ・・そうですね・・」
「なんだ、浮かない顔して。私の側を離れ難くなったか?」
「違います。何か想定外の事態が起こりそうで怖いのです。私は、マリオン様のように能天気ではないので」
「能天気とは。私を何だと思ってるんだ」
「キス魔・・です。何ですか?また罰でも与えますか」
彼女の可愛げのない嫌味に言い返してくるかと身構えたエルメだったが、マリオンは口を開きかけて、一度その口を閉じた。そして、もう一度開いた口から出てきたセリフは、彼らしくない言葉だった。
「・・いや、やめておこう。それに、ここで心配しても何の解決にもならん。それより夜ももう遅い。休むぞ」
こうしてエルメとマリオンは、ぬいぐるみという障害物なしで再びベッドに入った。しかし、背を向けたお互いの間はしっかりぬいぐるみ分のスペースが開いていた。
「なんか・・マリオン様が優しすぎて気持ち悪い。いつものマリオン様じゃないです」
向けられた彼女のセリフにマリオンは眉間を押さえると「あのなぁ・・」と悩ましげに呟く。そして「私をなん・・」という彼の文句にエルメは質問を被せた。
「あの、ぬいぐるみは??」
「ぬいぐるみ?あー、あっちだ」
マリオンが指差す先には、棚にぬいぐるみが鎮座している。エルメのホッとした表情を見たマリオンが言う。
「安心しろ。あんな牽制なくても、手を出さん」
「何度もキスしておいて、そんな言葉信じられると思いますか?」
「病上がりに手を出すほど、クズではない。信用しろ」
「クズって・・そこまで言ってません。でもごめんなさい。ありがとうございます」
エルメが前世を思い出してから、初めて二人の間に流れるいい雰囲気に素直な言葉が二人の口から紡がれる。今のエルメの心には、マリオンの言葉もストンと落ちてくる。心地よい雰囲気に、マリオンの表情もどこか柔和に見えた。
「素直だな・・・これが君の本当の姿か?」
囁くように言ったマリオンの問いは、ドアをノックする音にかき消されエルメの耳には届かなかった。どうやら、エルメの食事が運ばれてきたようだ。マリオンはエルメの側から立ち上がると、彼女を見下ろしながらいつもの堂々とした声で言った。
「私に話があるのだろう?聞いてやるから、とにかく腹を満たせ。また腹を鳴らされては堪らんからな」
いつもの憎まれ口に戻ったマリオンに、エルメの胸がチクリと痛むが、それに気付かないフリをした彼女もまたいつもの調子で返した。
「もう私が食いしん坊みたいに言わないでください。こっちは、昼食も食べてないんですからね!」
エルメの返しにマリオンはフッと笑いをこぼすと「・・すっかり元に戻ったようだな。食事が終わったら呼べ」と言葉を残して、隣室へと姿を消した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
食事を終えたエルメとマリオンはソファーで向かい合っている。エルメは真剣な眼差しで、自分が気を失った理由を話していた。
エルメによると、各地で発生した疫病は瞬く間に帝国全土に広がり、人々を苦しめる。マリオンたちは出来得る限りの策を弄するが、病の広がりを抑えることができずにいた。しかし、そんな国のピンチに突如として現れたのが、癒やしの乙女アリスだった。癒やしの乙女と言われているだけあって、アリスは自分の持つ癒やしの力を使い、疫病の広がりを抑え、さらに病に苦しむ多くの者たちを救っていく。そして再び平和が訪れた帝国では、アリスは神として崇拝されるようになる。まるで聖女のような見目に、魅力的な癒やしの力は、人々を虜にした。そしてそれはマリオンも例外ではなかった。
「なるほどな。だが今の説明には、君が倒れるほどの理由はないようだが・・寧ろ、話通りに進んでいるんだ。喜ぶところだろ?」
エルメの話を聞いていたマリオンが問うと、彼女は大きく頷き言葉を続ける。
「話は、まだ終わってません。おっしゃる通り、これは小説通りの流れです。ただ、早すぎるのです」
「早すぎる?・・・ああ、なるほどそういうことか」
「はい、気付いたようですね。小説で疫病が流行りだすのが、およそ十ヶ月後。そして乙女の出現は一年後です。なのに、現実はもう病が流行りだしました。これだと乙女が姿を見せるのは、おそらく二ヶ月後です。あまりにも早いので、驚いてしまいました」
「確かに君の言うとおり、早すぎるな。誤差では済まされんぞ」
「その通りです」
そして、ここでマリオンの顔に笑みが浮かぶ。何が彼を喜ばせているのか不思議なエルメは、その表情をジッと見つめる。
「だが、私としてはこの問題がとっとと片付くのだから、歓迎すべき誤差だがな。君も私との決着をつけて、早く市井に下りたいのだろう?」
「ええ・・そうですね・・」
「なんだ、浮かない顔して。私の側を離れ難くなったか?」
「違います。何か想定外の事態が起こりそうで怖いのです。私は、マリオン様のように能天気ではないので」
「能天気とは。私を何だと思ってるんだ」
「キス魔・・です。何ですか?また罰でも与えますか」
彼女の可愛げのない嫌味に言い返してくるかと身構えたエルメだったが、マリオンは口を開きかけて、一度その口を閉じた。そして、もう一度開いた口から出てきたセリフは、彼らしくない言葉だった。
「・・いや、やめておこう。それに、ここで心配しても何の解決にもならん。それより夜ももう遅い。休むぞ」
こうしてエルメとマリオンは、ぬいぐるみという障害物なしで再びベッドに入った。しかし、背を向けたお互いの間はしっかりぬいぐるみ分のスペースが開いていた。
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